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異世界へ
0004話
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「くそ……不味い……鹿の肉ってこんなに不味いのかよ」
ゴブリンから逃げ切った――ある意味で見逃してもらった――井尾は、鹿のモンスターの肉を食べながら不満を漏らしていた。
とはいえ、それは当然だろう。
鹿のモンスターがいつ死んだのかは分からないが、ゴブリンが死体を攻撃してきた様子を見る限り、死んだばかりといった訳ではない。
だというのに、血抜きの類もせず……ましてや、井尾の奪ってきた部位は右後ろ足でしっかりと肉がついているものの、それに火を通した訳でもない。
錆びた短剣で皮を剥ぎ、血抜きもしていない肉を生で直接食べているのだから、それが美味いはずもない。
「生肉を刺身で食べているのとかはTVで見るけど、これって明らかに違うよな。……不味い」
TVで見る肉の刺身、もしくは表面を炙っただけの叩き、あるいは和牛の寿司といった諸々は、井尾の目から見てもかなり美味そうに思えた。
しかし、自分が食べている鹿の生肉はとてもではないがそんな美味さはない。
「これ、寄生虫とかそういうのって大丈夫なんだよな?」
そんな心配もあったが、今はとにかく肉を食べて空腹を満たす必要がある。
幸いなことに、川はすぐ側に流れているので水に困るといったようなことはない。
「とはいえ……さすがに腹一杯になってきたな」
鹿のモンスターの右足は、もも肉ということもあってか数キロ程度の重量はある。
それだけの肉を……それも焼いたりせずに生肉で食えというのは、井尾にとっては明らかに無理だった。
「干し肉にでも出来ればいいんだけど、網とかがないと干そうとしても動物とかモンスターに奪われるしな。そうなると、持ち歩くしかないのか」
そう言い、ある程度生肉を食べ終わったところでその場をあとにする。
山である以上、まずは高い場所まで登ってどちらの方面に向かえばいいのかを確認する必要があった。
そう判断して歩き続けていた井尾だったが、当然ながら鹿の足を持ったまま移動するとなれば周囲に血の臭いが周囲に漂い……
「ギャビャアア!」
「うおっ!」
その血の臭いに誘われたゴブリンが姿を現し、唐突に襲いかかってくる。
井尾にしてみれば突然のことではあったが、それでも先程からゴブリンと戦っていたおかげか、悲鳴を上げながらも即座に逃げ出すことに成功する。
鹿のモンスターの肉と錆びた短剣をそれぞれ持ち、ゴブリンから逃げる。
しかし、先程とは違って今度はゴブリンの興味を惹くような何かは周囲にない。
井尾の持っている肉こそが、ゴブリンの注意を最大級に惹いていた。
だからこそゴブリンは延々と井尾を追ってきて……それでも途中で他のゴブリンに遭遇するようなことがなかったのは、不幸中の幸いといったところか。
そうして逃げ続け、二十分ほどが経過する頃には井尾の足はかなり遅くなっていた。
それでも何とかゴブリンを撒くことが出来た井尾は、ゴブリンに見つからないように休憩しようと木に登る。
体力を消耗し、足がガクガクと震えている状況。さらには肉と錆びた短剣を持ったままだ。
自分でも少し意地汚いと思わないでもなかったが、この不味い肉であっても今の井尾にとっては唯一の食べ物なのだ。
そうである以上、それを捨てるといった真似が出来るはずもない。
この肉は本当に偶然に入手出来た、井尾の命綱なのだから。
……もっとも、その肉のせいでゴブリンに襲われたりしているのも事実だったが。
ともあれ、息も絶え絶えではあったものの、井尾は木に登ることに成功する。
木の葉も多数生えているので、地上からはそう簡単に見つかることはないだろうと判断し、井尾は残っている肉に齧りつく。
やはり不味い肉ではあったが、今のサバイバル状態で空腹というのは最大の敵だ。
(追ってきたゴブリンは一匹だけだったし、よく考えてみれば倒してもよかったんだよな。石とかは地面に落ちてるし、それを拾って投擲すれば……この短剣を使っても……いや、それはちょっと止めておいた方がいいか)
鹿のモンスターの肉は、直接齧りついたりといったような真似をしているが、硬い場所があった場合は短剣で切る必要がある。
ゴブリンの血で汚れた短剣を使って肉を切りたいとは、到底思えない。
一体何でこんなことに……とそう思いながら空を見ていると、走り続けた疲れが出たのだろう。井尾はそのまま眠りにつくのだった。
「うおおおおおおおおっ!」
激しい衝撃と共に、井尾が叫ぶ。
同時に身体全体に走る鈍い痛み。
それでもすぐにどうなっているのかと周囲を見ると、そこに広がっているのは山。
時間としては、夕方くらいか。
身体の痛みに耐えながら、一体何があったのか思い出そうとする井尾。
そして身体の痛みが治まってきたところで、ようやく自分が何をしていたのかを理解する。
木の上で休んでいるうちに、疲れから眠ってしまったのだろう。
井尾は別にそこまで寝相が悪い訳ではない。
たとえば、ベッドで眠っていてもそこから落ちるといったことは経験したことがない。
だが、それでも寝返りの類は普通に行われる。
木の上で同じように寝返りしようとして、今のような状況になったのだろう。
「痛っ……まぁ、死ななかっただけいいか」
井尾が眠っていた木はそれなりの高さだった。
そこから落ちたのに骨折の一つもしていないのだから、運がよかったのは間違いない。
あるいはこれも水晶が何らかの強化をしてくれたおかげか? と考えつつ、地面に落ちた肉に手を伸ばし……次の瞬間、肉の近くに突然何かが刺さる。
「うおっ!」
反射的に肉から手を放して距離を取ると、肉の近くの地面に突き刺さっていたのは火矢。
鏃が燃えているという意味の火矢という訳ではなく、文字通り火で出来た矢だ。
「魔法!?」
そうして火の矢が飛んできたと思しき方を見ると、そこには二匹のゴブリンの姿があった。
ただし、その二匹は揃って普通のゴブリンではない。
一匹目は、普通のゴブリンと比べても明らかに大きい。
普通のゴブリンが井尾の腰くらいまでの大きさしかないのに対し、そのゴブリンは井尾の肩くらいまでの大きさはあり、その手には盾と棍棒を持つ。
明らかに普通のゴブリンの上位種といった感じの個体。
そして戦士と思しきゴブリンの後ろにいるのは、大きさそのものは普通のゴブリンと変わらないものの、手には杖を持っていた。
それを見れば、一体今の火の矢を放ったのが誰なのかというのは考えるまでもなく明らかだった。
「欲しい」
そんなゴブリンを見た瞬間、井尾は半ば反射的に呟く。
本来なら、ゴブリンファイターとゴブリンメイジ――ともに井尾がつけた仮名だが――という、ゴブリンの上位種と思しき相手だ。
普通のゴブリンを相手に逃げ回っていた井尾が、正面から戦って勝てるとは思えない。
井尾もそれを理解していたものの、それでも……ゴブリンメイジを見た瞬間に、その杖を欲しいと思ってしまった。
何しろ、杖だ。
つまり、井尾が流星魔法を使えるようになるということを意味していた。
今の井尾がもつ武器は、それこそゴブリンから奪った錆びた短剣が一本だけ。
……あるいは、鹿のモンスターの肉もそれなりに重量があるので、棍棒代わりに使おうと思えば使えなくもないが。
それだけに、今の井尾にとって流星魔法を使うための魔法発動体である杖は何が何でも欲しかった。
そのような状況であっても、何の策もなく井尾が敵に向かって突っ込むといったような真似はしない。
まだ多少の時間ではあるが、それでもこの山の中で生きて、ゴブリンと戦ったり逃げたりした経験のおかげだろう。
(どうする? あのファイターは重武装だけに動きは鈍いはずだ。そうなると、棍棒の一撃を回避して、それからメイジに向かうか?)
魔法というのは、基本的に詠唱が必須だ。
魔法の構成を組み替えたり、詠唱を工夫したりといったような真似をして詠唱時間を縮めるといった真似は出来る――それでも相当な知識や時間が必要となる――が、それでも詠唱を完全に省略するといった真似は不可能に近い。
それはつまり、メイジが再び詠唱を始めた場合、何とか詠唱を中断させるか、詠唱が完了する前に攻撃をする必要がある。
「やるしかないか。別に倒さなくてもいいんだ」
そう、井尾が欲しいのはあくまでもメイジが持っている杖であって、二匹の上位種を殺すことではない。
そう判断すると、肉と短剣を手にして立ち上がる。
「うおおおおおおおおっ!」
メイジが杖を手に意識を集中したのを見た瞬間、井尾は叫びながら一気に走り出す。
当然ながら、この場から逃げ出すのではなく二匹のゴブリンに向かってだ。
井尾の様子から、ファイターがメイジを守るべく間に出る。
井尾はそんなファイターとの距離を詰めると、肉を投げつけた。
「ギィッ!?」
ファイターにしても、まさか肉を投げつけられるとは思わなかったのだろう。
完全に意表を突かれた形となり、それでも反射的に棍棒を振るって肉を叩き落とし……そんなファイターの横を、井尾はあっさりと通りすぎた。
井尾は肉を投げた瞬間、そのまま足を止めることなく走り続けていたのだ。
肉は惜しかったが、結局のところ生肉である以上はあまり日持ちもしない。
また、肉の臭いに釣られて虫や動物、モンスターが寄ってくる。
そして何より、杖を奪うのに両手が塞がっていてはどうしようもなかった。
そういう意味では、投げるのは短剣でもよかったのだろう。
だが、短剣は錆びているとはいえ、まだ色々と使い道はある。
そうなると、使い捨てに出来るのは当然のように肉だけとなる。
……あるいは、短剣の鞘でもあればまた違った方法があったかもしれないが。
とにかく井尾はファイターの横をすり抜け、メイジとの間合いを詰める。
メイジにしてみれば、まさか自分の前衛を務めているファイターがあっさりと抜かれるとは思っていなかったらしく、近付いて来る井尾を見て動揺し、呪文の詠唱を失敗し……井尾は、そんなメイジの手から強引に杖を奪う。
ゴブリン……それも後衛のメイジだけあってその力は弱く、あっさりと井尾に杖を奪われたメイジは、その勢いで地面に転んでいたが、井尾はそれを無視してその場から走り去るのだった。
ゴブリンから逃げ切った――ある意味で見逃してもらった――井尾は、鹿のモンスターの肉を食べながら不満を漏らしていた。
とはいえ、それは当然だろう。
鹿のモンスターがいつ死んだのかは分からないが、ゴブリンが死体を攻撃してきた様子を見る限り、死んだばかりといった訳ではない。
だというのに、血抜きの類もせず……ましてや、井尾の奪ってきた部位は右後ろ足でしっかりと肉がついているものの、それに火を通した訳でもない。
錆びた短剣で皮を剥ぎ、血抜きもしていない肉を生で直接食べているのだから、それが美味いはずもない。
「生肉を刺身で食べているのとかはTVで見るけど、これって明らかに違うよな。……不味い」
TVで見る肉の刺身、もしくは表面を炙っただけの叩き、あるいは和牛の寿司といった諸々は、井尾の目から見てもかなり美味そうに思えた。
しかし、自分が食べている鹿の生肉はとてもではないがそんな美味さはない。
「これ、寄生虫とかそういうのって大丈夫なんだよな?」
そんな心配もあったが、今はとにかく肉を食べて空腹を満たす必要がある。
幸いなことに、川はすぐ側に流れているので水に困るといったようなことはない。
「とはいえ……さすがに腹一杯になってきたな」
鹿のモンスターの右足は、もも肉ということもあってか数キロ程度の重量はある。
それだけの肉を……それも焼いたりせずに生肉で食えというのは、井尾にとっては明らかに無理だった。
「干し肉にでも出来ればいいんだけど、網とかがないと干そうとしても動物とかモンスターに奪われるしな。そうなると、持ち歩くしかないのか」
そう言い、ある程度生肉を食べ終わったところでその場をあとにする。
山である以上、まずは高い場所まで登ってどちらの方面に向かえばいいのかを確認する必要があった。
そう判断して歩き続けていた井尾だったが、当然ながら鹿の足を持ったまま移動するとなれば周囲に血の臭いが周囲に漂い……
「ギャビャアア!」
「うおっ!」
その血の臭いに誘われたゴブリンが姿を現し、唐突に襲いかかってくる。
井尾にしてみれば突然のことではあったが、それでも先程からゴブリンと戦っていたおかげか、悲鳴を上げながらも即座に逃げ出すことに成功する。
鹿のモンスターの肉と錆びた短剣をそれぞれ持ち、ゴブリンから逃げる。
しかし、先程とは違って今度はゴブリンの興味を惹くような何かは周囲にない。
井尾の持っている肉こそが、ゴブリンの注意を最大級に惹いていた。
だからこそゴブリンは延々と井尾を追ってきて……それでも途中で他のゴブリンに遭遇するようなことがなかったのは、不幸中の幸いといったところか。
そうして逃げ続け、二十分ほどが経過する頃には井尾の足はかなり遅くなっていた。
それでも何とかゴブリンを撒くことが出来た井尾は、ゴブリンに見つからないように休憩しようと木に登る。
体力を消耗し、足がガクガクと震えている状況。さらには肉と錆びた短剣を持ったままだ。
自分でも少し意地汚いと思わないでもなかったが、この不味い肉であっても今の井尾にとっては唯一の食べ物なのだ。
そうである以上、それを捨てるといった真似が出来るはずもない。
この肉は本当に偶然に入手出来た、井尾の命綱なのだから。
……もっとも、その肉のせいでゴブリンに襲われたりしているのも事実だったが。
ともあれ、息も絶え絶えではあったものの、井尾は木に登ることに成功する。
木の葉も多数生えているので、地上からはそう簡単に見つかることはないだろうと判断し、井尾は残っている肉に齧りつく。
やはり不味い肉ではあったが、今のサバイバル状態で空腹というのは最大の敵だ。
(追ってきたゴブリンは一匹だけだったし、よく考えてみれば倒してもよかったんだよな。石とかは地面に落ちてるし、それを拾って投擲すれば……この短剣を使っても……いや、それはちょっと止めておいた方がいいか)
鹿のモンスターの肉は、直接齧りついたりといったような真似をしているが、硬い場所があった場合は短剣で切る必要がある。
ゴブリンの血で汚れた短剣を使って肉を切りたいとは、到底思えない。
一体何でこんなことに……とそう思いながら空を見ていると、走り続けた疲れが出たのだろう。井尾はそのまま眠りにつくのだった。
「うおおおおおおおおっ!」
激しい衝撃と共に、井尾が叫ぶ。
同時に身体全体に走る鈍い痛み。
それでもすぐにどうなっているのかと周囲を見ると、そこに広がっているのは山。
時間としては、夕方くらいか。
身体の痛みに耐えながら、一体何があったのか思い出そうとする井尾。
そして身体の痛みが治まってきたところで、ようやく自分が何をしていたのかを理解する。
木の上で休んでいるうちに、疲れから眠ってしまったのだろう。
井尾は別にそこまで寝相が悪い訳ではない。
たとえば、ベッドで眠っていてもそこから落ちるといったことは経験したことがない。
だが、それでも寝返りの類は普通に行われる。
木の上で同じように寝返りしようとして、今のような状況になったのだろう。
「痛っ……まぁ、死ななかっただけいいか」
井尾が眠っていた木はそれなりの高さだった。
そこから落ちたのに骨折の一つもしていないのだから、運がよかったのは間違いない。
あるいはこれも水晶が何らかの強化をしてくれたおかげか? と考えつつ、地面に落ちた肉に手を伸ばし……次の瞬間、肉の近くに突然何かが刺さる。
「うおっ!」
反射的に肉から手を放して距離を取ると、肉の近くの地面に突き刺さっていたのは火矢。
鏃が燃えているという意味の火矢という訳ではなく、文字通り火で出来た矢だ。
「魔法!?」
そうして火の矢が飛んできたと思しき方を見ると、そこには二匹のゴブリンの姿があった。
ただし、その二匹は揃って普通のゴブリンではない。
一匹目は、普通のゴブリンと比べても明らかに大きい。
普通のゴブリンが井尾の腰くらいまでの大きさしかないのに対し、そのゴブリンは井尾の肩くらいまでの大きさはあり、その手には盾と棍棒を持つ。
明らかに普通のゴブリンの上位種といった感じの個体。
そして戦士と思しきゴブリンの後ろにいるのは、大きさそのものは普通のゴブリンと変わらないものの、手には杖を持っていた。
それを見れば、一体今の火の矢を放ったのが誰なのかというのは考えるまでもなく明らかだった。
「欲しい」
そんなゴブリンを見た瞬間、井尾は半ば反射的に呟く。
本来なら、ゴブリンファイターとゴブリンメイジ――ともに井尾がつけた仮名だが――という、ゴブリンの上位種と思しき相手だ。
普通のゴブリンを相手に逃げ回っていた井尾が、正面から戦って勝てるとは思えない。
井尾もそれを理解していたものの、それでも……ゴブリンメイジを見た瞬間に、その杖を欲しいと思ってしまった。
何しろ、杖だ。
つまり、井尾が流星魔法を使えるようになるということを意味していた。
今の井尾がもつ武器は、それこそゴブリンから奪った錆びた短剣が一本だけ。
……あるいは、鹿のモンスターの肉もそれなりに重量があるので、棍棒代わりに使おうと思えば使えなくもないが。
それだけに、今の井尾にとって流星魔法を使うための魔法発動体である杖は何が何でも欲しかった。
そのような状況であっても、何の策もなく井尾が敵に向かって突っ込むといったような真似はしない。
まだ多少の時間ではあるが、それでもこの山の中で生きて、ゴブリンと戦ったり逃げたりした経験のおかげだろう。
(どうする? あのファイターは重武装だけに動きは鈍いはずだ。そうなると、棍棒の一撃を回避して、それからメイジに向かうか?)
魔法というのは、基本的に詠唱が必須だ。
魔法の構成を組み替えたり、詠唱を工夫したりといったような真似をして詠唱時間を縮めるといった真似は出来る――それでも相当な知識や時間が必要となる――が、それでも詠唱を完全に省略するといった真似は不可能に近い。
それはつまり、メイジが再び詠唱を始めた場合、何とか詠唱を中断させるか、詠唱が完了する前に攻撃をする必要がある。
「やるしかないか。別に倒さなくてもいいんだ」
そう、井尾が欲しいのはあくまでもメイジが持っている杖であって、二匹の上位種を殺すことではない。
そう判断すると、肉と短剣を手にして立ち上がる。
「うおおおおおおおおっ!」
メイジが杖を手に意識を集中したのを見た瞬間、井尾は叫びながら一気に走り出す。
当然ながら、この場から逃げ出すのではなく二匹のゴブリンに向かってだ。
井尾の様子から、ファイターがメイジを守るべく間に出る。
井尾はそんなファイターとの距離を詰めると、肉を投げつけた。
「ギィッ!?」
ファイターにしても、まさか肉を投げつけられるとは思わなかったのだろう。
完全に意表を突かれた形となり、それでも反射的に棍棒を振るって肉を叩き落とし……そんなファイターの横を、井尾はあっさりと通りすぎた。
井尾は肉を投げた瞬間、そのまま足を止めることなく走り続けていたのだ。
肉は惜しかったが、結局のところ生肉である以上はあまり日持ちもしない。
また、肉の臭いに釣られて虫や動物、モンスターが寄ってくる。
そして何より、杖を奪うのに両手が塞がっていてはどうしようもなかった。
そういう意味では、投げるのは短剣でもよかったのだろう。
だが、短剣は錆びているとはいえ、まだ色々と使い道はある。
そうなると、使い捨てに出来るのは当然のように肉だけとなる。
……あるいは、短剣の鞘でもあればまた違った方法があったかもしれないが。
とにかく井尾はファイターの横をすり抜け、メイジとの間合いを詰める。
メイジにしてみれば、まさか自分の前衛を務めているファイターがあっさりと抜かれるとは思っていなかったらしく、近付いて来る井尾を見て動揺し、呪文の詠唱を失敗し……井尾は、そんなメイジの手から強引に杖を奪う。
ゴブリン……それも後衛のメイジだけあってその力は弱く、あっさりと井尾に杖を奪われたメイジは、その勢いで地面に転んでいたが、井尾はそれを無視してその場から走り去るのだった。
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