才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0043話

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「これは……凄いですね」

 ローザが持ってきたローブを見て、イオの口から出たのは感嘆だった。
 実際、そのローブは審美眼という点で決して優れている訳でもないイオが見ても、間違いないく一流の品であると問答無用で理解出来てしまうだけの迫力がある。
 色は茶色で普通のローブとそう変わらないのだが、そでも明らかに普通ではないと理解出来てしまう。
 そんなイオの様子を見てローザは微笑む。

「喜んで貰えて何よりね。それより、時間もないことだしそのローブを着てみてちょうだい。どこか合わないような場所があったら、急いで直す必要があるし」

 ローザに促されたイオは、大人しくローブを着る。
 ローブといえばフードがあるのが普通だと、日本にいたときに読んでいた漫画で思っていたのだが、用意されたローブにフードの類はついていない。
 上級の……かなり高価なローブである以上、それにも相応の理由があってのものなのだろうと考えつつ、イオはローブの着心地をたしかめる。

「何も問題ないですね。普通に着れます」
「そう。なら表に行きなさい。餓狼の牙を討伐するための準備はもう始まっているわよ。イオにとっては見知らぬ相手でしょう? なら、今のうちに顔を合わせておいた方がいいわ」
「分かりました。そうしますね。……実際、知り合いはレックスしかいませんし」
「ああ、そう言えばあの子も行くのね」

 イオの言葉でそのことを思い出したのか、ローザは納得した様子を浮かべる。
 同時に少しだけ安堵した様子を見せたのは、最低でもイオの知り合いが一人はいると理解したからだろう。
 イオの立場は、正直なところ微妙だ。
 流星魔法の件は隠してるので、ゴブリンの軍勢の壊滅した場所でイオに会った者以外……あるいはローザのように特別に事情を聞かれている者以外は、イオは強力なマジックアイテムを使ってゴブリンの軍勢を倒した人物と思われている。
 それだけに、傭兵の中にはイオを運だけで黎明の覇者の客人になった人物と思っている者もいた。
 そのような人物がソフィアに興味を持たれているのが面白くないと思う者も当然いる。
 そもそもの話、イオの力を知っている者……実際に地中にめり込んでいる隕石を見た者の中にも、ソフィアがイオに興味を持っているのを面白くないと思っている者はいるのだ。
 そんな中でイオの力を知らない者にしてみれば、それこそ一体どのように思うのかは考えるまでもないだろう。

(先が思いやられるな)

 そんな風に考えながら、イオはローザに挨拶をしてから、部屋を出るのだった。





 英雄の宴亭から出たイオは、少し離れた場所で出発の準備をしている数台の馬車を見ると、それが自分の同行するべき相手なのだと判断して近付いていく。
 何人もの傭兵たちが、馬車に色々な荷物を積み込んでいた。
 イオは周囲の様子を見て、誰に話しかけるべきなのかを考える。

(俺がこの一団と餓狼の牙の討伐に向かうのは、ローザさんとかから話を聞いてるはずだ。それでも部外者の俺が一緒に行動するんだから、挨拶はしておいた方がいいよな)

 一応黎明の覇者の客人ということになっているイオだったが、それでも傭兵全体でということになれば部外者という認識を持つ者の方が多いだろう。
 だからこそ、きちんと自分が一緒に行動すると話しておく必要があると考え、改めて馬車に荷物を積み込んでいる傭兵たちを見る。
 そんな中でイオが気になったのは、一人の男。
 年齢はイオよりも若干上……二十歳くらいか。
 その男が荷物の積み込みについて指示をしており、他の傭兵たちもそんな男の指示に従って準備をしている。
 そのような男である以上、恐らくは今回の一件の指揮をしている人物であるとイオが考えてもおかしくはない。
 男が細かく指示を出しているのを見ていたイオだったが、その指示が一段落したところで男に向かって近付いていく。
 当然のように男はイオの存在に気が付き、指示を求めてきた相手の話を聞こうと顔を上げたところでイオを見て、戸惑った様子を見せた。
 見覚えのない人物に、一体この男は誰だ? と思うのは当然だろう。
 あるいは英雄の宴亭の中でイオを見ていればその正体も分かったのかもしれないが、残念ながら男がイオを見るのはこれが初めてだ。
 だからといってこのような場所にいる以上は無関係とは思えず、イオの正体悟らせるにはそれだけで十分だった。

「すいません、これは餓狼の牙の討伐に行く人たちで間違いないですよね?」
「ああ、そうだ。お前が俺たちと一緒に行動するイオか?」
「はい。傭兵という訳でもないですし、戦闘に関してはほとんど経験がないので、完全に見てるだけになると思いますけど、よろしくお願いしますね」
「話は聞いている。あんたが黎明の覇者の客人だといういうのも知ってるし、上にいる連中から気に入られてるのも知ってる。正直、自分で戦った訳でもなくて、マジックアイテムを使っただけで何でそこまで気に入られてるのかは分からないが……」

 そこで一旦言葉を止めた男は、改めてイオを見る。
 その目にあるのは、強い疑問の色だ。
 口にも出したが、何故そこまでイオが黎明の覇者の上層部に気に入られているのかが全く理解出来ないのだろう。
 それでもイオにとって救いだったのは、男がイオを見る目には疑問はあれど敵対的な感情がないように思えたことか。
 本当に敵対的な感情を持っていないのか、それともイオが黎明の覇者の上層部に気に入られているからそれを表に出さないようにしているだけなのかは分からないが。

「戦闘の経験がないのなら、いざ戦闘になったときに恐怖や混乱から敵に突っ込んだり、妙に騒いだりしてこっちの足を引っ張るような真似はしないでくれ。……それとも、杖を持ってるってことは魔法でも使えるのか?」
「現在練習中ですね」

 そう言いながらも、イオは魔法を……流星魔法以外の魔法を習得するのは悪い選択肢ではないと思えた。
 今の自分は被害規模が大きく、使えばどうしても目立つ流星魔法しか使えないものの、それ以外の魔法を使えるようになれば色々と便利なのは間違いない。
 流星魔法を使えるということは、どのくらいかは分からないが自分に魔力があるのは間違いないのだから、他の魔法も使えるようにはなるはずだった。。

(そうなると、問題なのはどういう魔法を習得するかだな。というか、具体的に魔法というのはどうやって習得するのかが問題だけど。黎明の覇者には魔法使いもいるって話だったし、その人から聞いてみてもいいかもしれないな)

 魔法について考えていたイオだったが、すぐに目の前の人物の会話に戻る。
 目の前の人物が、何故か呆れた様子で自分を見ているのに気が付いたからだ。

「えっと、どうしました?」
「いや、結局のところお前は魔法使い見習いなんだよな? その割に……杖はともかく、ローブはかなり上物を着てると思ってな」
「ああ、これですか、黎明の覇者で使ってない奴を売って貰ったんです。俺は今まで戦いとかはあまり経験がなかったので、防具の類も特になかったですし。それに今日これから急いで盗賊団の討伐に行くということで、店で買う時間もなかったので」
「そうか」

 イオの説明を聞いた男は、微妙な表情を浮かべる。
 実際、イオには実感がないし、自分の着ているローブがどのくらいの防御力を持っているのかは全く知らなかったが、上級のローブということもあってその辺の鎧よりもよっぽど高い防御力を持つ。
 ……それこそ、イオと話している男のレザーアーマーと比べても防御力は上だろう。
 男もそれが分かっていたので、イオの言葉に微妙な表情を浮かべたのだ。

「そう言えば、まだ自己紹介をしていなかったな。俺はルダイナだ。よろしく頼む」
「あ。はい。イオです。よろしくお願いします」

 ルダイナはローブの件についてはひとまず忘れ、イオに自己紹介する。
 イオの存在には微妙に納得出来ていないし、魔法使い見習いといった程度の実力しかないのに自分のレザーアーマーよりも防御力の高いローブを着ていたりと、正直なところ色々と思うところはある。
 しかし、上から直々にイオの面倒を見るように頼まれた以上、ここでイオとの間に問題を起こそうとは思わなかった。
 あるいはイオが反抗的であった場合はルダイナもイオに対する態度を変えたかもしれないが、双方にとって幸いなことにイオは反抗的といった訳ではない。
 最終的には、若干気になるところがない訳でもないが、それでも嫌うような相手ではないという結論に落ち着く。

「ブルルルル」

 ルダイナと話していたイオは、不意に聞こえてきた声……鳴き声の方に視線を向ける。
 そこにあったのは馬車に繋がれた馬の姿。

「そう言えば、馬なんですね」
「……は? いきなり何を言ってるんだ?」

 イオの口から出た言葉の意味が分からないと、ルダイナは不思議そうな表情を浮かべる。
 そんなルダイナに、イオはソフィアの馬車を牽いていた虎のモンスターについて話す。

「ソフィアさんが乗ってた馬車は、虎のモンスターが牽いてたので」

 馬車なのに虎のモンスターが牽くのなら、それは虎車とでも呼ぶのでは? と思ったが、イオがソフィアから聞いた限りでは普通に馬車と呼ばれていた。

「あのなぁ、馬車を牽くモンスターなんてかなり高価で希少なんだぞ? 大金を出して買うか、あるいはテイマーと呼ばれる連中にモンスターをテイム、いわゆるモンスターを従えるしかない。、黎明の覇者の精鋭の人たちならともかく、俺たちにそんなモンスターを用意出来ると思ってるのか?」

 ルダイナのその言葉に、イオもなるほどと納得する。
 この部隊は黎明の覇者の中でも見習いたちなのだから、そのような希少なモンスターを用意するような余裕はないのだろうと。
 あるいは見習いの中にもテイマーがいれば、そのようなモンスターを用意出来たのかもしれないが。
 ルダイナと話した限り、そのような存在はいないということらしい。

「そうなんですか。黎明の覇者なら、そういうモンスターも簡単に用意出来るのかな、と思ったので」
「……外から見ている奴なら、そんな風に思うのかもしれないな」

 呆れたように言うルダイナだった。
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