才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0085話

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 イオが口にした、流星魔法を使ってもいいという言葉。
 正直なところ、ソフィアは何故急にイオがそのようなことを言い出したのか分からなかった。
 もちろん、現在の自分たちの状況を考えれば、流星魔法を自由に使えるというのが助かるのは間違いない。
 こうして敵味方をはっきりと分けているのも、究極的には流星魔法の力を背景にしてのものだというのは間違いのない事実なのだから。
 そうである以上、今この状況でイオがそういう風に言ってくれたのは嬉しいし、助かる。
 それは事実だったが、それでもやはりイオの突然の行動を疑問に思うなというのは無理だった。

「イオが全面的に協力してくれるのは助かるわ。けど……いいの? 私たちにそこまで協力して」
「はい。今回の件は、元々俺が原因というのも大きいですし、何よりも今の俺は黎明の覇者の客人です。だとすれば、この状況をどうにかするためには積極的に協力した方がいいですし」

 そう告げるイオだったが、戦いの中ですでに流星魔法を使っている以上、今の時点でもしっかりと協力はしていた。
 そんな中でこうして改めて協力をすると口にしたのは……ソフィアが暗殺されそうになったから、というのが大きい。
 実際には暗殺者でも何でもなく、傭兵の一人が可能なら暗殺をしたいといったように思っての行動だったのだが、それでもイオに今まで以上の決意を固めさせるには十分な出来事だった。

「そう。助けてくれるのなら、私としては助かるわ。けど……そうすると、そう簡単に黎明の覇者から離れられなくなるわよ?」
「覚悟の上です。それに、今までにも何度か流星魔法を使っている以上、そんなに違いはないですし」

 ゴブリンの軍勢に対しての攻撃はともかく、ベヒモスや脅しとしてメテオを使ってしまっている。
 そうである以上、今のこの状況で改めてイオが魔法を使うといったところで、他の者たち……具体的には他の勢力の者たちにしてみれば、そんなのは今更だと言ってきてもおかしくはない。

「なら、ありがたく助けて貰うわ」

 ソフィアにしてみれば、ある意味でイオの判断は黎明の覇者にとっての利益となる。
 それは分かっているし、そういう意味ではイオのこの言葉は願ってもないものだったのだが……それでも、こんな流れで黎明の覇者に取り込むような真似をしてもいいのか? と思う。
 そう思ったからこそ、念を押すように改めて口を開く。

「けど……そうね。助けて貰うけど、今すぐに黎明の覇者に所属するといったように認識はしなくてもいいわ。今はまだ客人という立場でいてちょうだい」
「え? ……いいんですか?」

 イオはソフィアの口から出たその言葉に驚きを覚える。
 今の状況を思えば、それこそこれ幸いと自分を黎明の覇者に所属させようとしても、おかしくはない。
 それが分かっていたからこそ、イオはまさかソフィアの口からまだ客人でいてもいいという言葉は予想外だった。

「ええ。もう言うまでもないと思うけど、私はイオが欲しいわ」

 ドクン、と。
 その言葉を聞いた瞬間、イオの心臓が高鳴る。
 もちろん、ソフィアが自分を欲しいと言ったのは男としてではなく、流星魔法を使える傭兵としてだというのは、イオも理解している。
 しかし、それが分かった上でもソフィアのような美女に……それこそイオが日本で生きていたときにTVで見た、映画俳優たちをも上回る美貌を持つソフィアにそのように言われて、勘違いしそうになるなというのが無理だった。
 それでも、今はそんなことを考えているような余裕ではないと考え直し、首を横に振って意識をはっきりとさせる。
 こんな状況の中で、今は色ボケをしている場合ではないと。
 ……なお。黎明の覇者の中にはそんなイオの様子を見て、お前の気持ちは分かると納得している者がそれなりにいたのはご愛敬。
 黎明の覇者に所属している者であっても、やはり色々と思うところがある者はいるのだろう。

「イオ? どうしたの?」
「いえ、何でもありません。……分かりました。ソフィアさんの言葉に甘えさせて貰います。今は黎明の覇者の客人として、俺が出来る限りのことはさせて貰います」
「ええ、お願いね。……さて、この話はこれで終わり。イオが本格的に協力してくれるようになったとなると、今のこの状況では私たちにとって有利になることになるわ。もう少しでこの戦いも終わるはずよ。そうである以上、頑張りましょう」

 話を変えるように口に出されたソフィアの言葉に、多くの者が頷く。
 今のソフィアとイオのやり取りに若干思うところがあるような者もいたのだが、今はそれよりも前にこの状況をどうにかする……自分たちの勝利で終わらせるのが最優先だった。
 思うところがあっても、ここで死んでしまっては何の意味もないのだから。
 そうして全員が再び次の行動の準備を始める。
 そんな中、イオは周囲の者たちが自分に向ける視線がいつの間にか少し違ったものになっているのを感じる。
 別にイオは他の者たちに嫌われている訳ではない。
 ……いや、正確にはドラインのようにイオを嫌っている者は相応に存在したが。
 しかし、それでも友好的な視線も多かったのは事実。
 そんな中で、今こうして自分に向けられている視線はそんな友好的な視線よりもさらに親しげなような……そんな視線。
 何故急にそんな視線が? と若干疑問に思ったイオだったが、考えてみればそう難しい話ではない。
 イオは自分の力を発揮して黎明の覇者の力になると、そう宣言したのが大きい。
 実際には、ソフィアが暗殺者に狙われたのが大きな理由だったのだが。
 どんな理由であれ――実際、何故イオがそんなことを言ったのかというのを悟っている者はそれなりにいる――イオがそこまで言ったのが、傭兵たちにしてみれば嬉しかったのだろう。
 しかし、実際にそれを口に出すような者はおらず、イオはどこか慣れない視線に困った様子を見せるだけだ。

「ソフィアさん、向こうを見て下さい!」

 と、不意に傭兵の一人が叫ぶ。
 その声に、ソフィアだけではなく他の者たちもそちらに……男の示した方に視線を向ける。
 するとそこには、ソフィアたちのいる方に向かって来る集団の姿があった。
 それが一体どのような集団なのか、最初は少しだけ警戒したものの、その警戒はすぐに解ける。
 何しろ、その集団の先頭にいたのはパトリックだったのだから。
 それはつまり、パトリックが率いているのは傭兵団の白き眼球であることを意味していた。
 意味していたのだが……そこに、不自然な点もある。

「何だか、さっき見たときと比べると随分と数が多くなっているわね? 一体どうなっているのかしら?」

 そう、ソフィアが口にしたように、パトリックが率いている者の数は明らかに最初に姿を現したときと比べると、多くなっていたのだ。

「考えられるとすれば、パトリックの知り合いという勢力が合流したとかでしょうか」

 ソフィアの側でその様子を見ていた傭兵の一人が、大勢を引き連れてやって来るパトリックを見てそう告げる。
 それでも自分たちに戦いを挑むといったように考えていないのは、パトリックたちから殺気や敵意、闘気といったものを感じないからだろう。
 腕利きの傭兵であれば、自分の中にある殺気の類を隠すといったような真似も出来るだろう。
 だが、一人や二人といった人数の腕利きが行動しているのならともかく、五十人近い人数に膨れ上がったパトリックたちが、全員殺気や敵意、闘気といったものを隠し通せるとは到底思えない。
 だとすれば、やはりこれは別にパトリックたちが黎明の覇者に敵対するのではないと思える。
 もちろん、パトリックを始めとした大多数の者たちがそうであっても、その中に殺気の類を隠せる傭兵……いや、暗殺者の類が混ざっている可能性は否定出来ない。
 いざというときのために、警戒をしている者はやはりそれなりにいる。
 ……先程のソフィアを狙った相手がいたのが、こうして警戒を厳しくするようになった理由だろう。

「取りあえず、話を聞いてみましょう。向こうがどう反応するのかは、直接話を聞いてみないと分からないでしょうし。……それでこちらに攻撃をしてくるのなら、それはそれで構わないけど」

 ソフィアはそう言い、近くの馬に乗ってパトリックたちの方に向かう。
 当然ながら、その手にはソフィアの象徴たる氷の魔槍を持ってだ。
 もしこの状況でパトリックが何かをしても、自分なら何とでも出来る。
 そういう自信があってのことだろう。
 実際にソフィアは先程自分の命を狙ってきた暗殺者を相手にしても、問題なく対処出来ている。
 そういう意味では、本当に何の問題もないのだが……それはそれとして、黎明の覇者に所属する傭兵としてはそんなソフィアを放っておく訳にもいかない。
 もし万が一ソフィアに何かあった場合、それは洒落にならないダメージを黎明の覇者に与えるのだから。

「おい、俺が行く! 他にも何人かついてこい!」

 ギュンターがそう言い、その言葉に従って他にも何人かがあとを追う。
 なお、当然ながらイオがそのメンバーに入るようなことはない。
 流星魔法という強力な……それこそ一発で戦局を逆転させるような、戦略兵器的な力を持つイオだが、それはあくまでもイオの流星魔法であって、生身の戦いとなれば少し喧嘩慣れしてるといった程度しかない。
 ……ゴブリンとの命懸けの鬼ごっこか、それなりの利益となることにイオは少し驚いていたが。

「なぁ、レックス。これってどういうことだと思う? あのパトリックって人は、何であんなに戦力を増やてきたんだ?」
「うーん、考えられる可能性としては、以前ここに来たときは戦力を全員連れていなかったとかでしょうか」
「いや、けど……自分たちが生き残るための交渉だろ? そんなときに、わざわざ自分の戦力を少なく見せるか?」
「ですよね。でも、もしかしたら受け入れて貰えると、そういう確信があったのかもしれません。黎明の覇者の名前は多くの者に知られていますから」

 傭兵に詳しいレックスの言葉だけに、その意見はイオにも納得出来るものだった。
 ともあ、これからどうなるのか……しっかりと交渉を見届けるつもりで、イオはソフィアに視線を向けるのだった。
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