才能は流星魔法

神無月 紅

文字の大きさ
86 / 178
異世界へ

0086話

 パトリックは、複雑な表情を浮かべて近付いて来るソフィアを待っていた。
 当然だろう。現在の自分の状況は、当初予想していたものとは大きく変わっている。
 それこそ、自分でも一体何故このようなことになったのかと、疑問に思うほどなのだから。
 だが、それもこれも全ては自分の行動の結果であると考えれば、それは受け入れない訳にはいかない。

(出来れば、上手い具合に話が進んでくれるといいんが……どうだろうな)

 そんな不安を抱くパトリックの前に、馬に乗ったソフィア……それ以外にもギュンターを含めて数人の傭兵たちが姿を現す。

「少し前に会ったときと比べると、随分と人数が増えてるようだけど? 一体何がどうなってこうなったのかしら? まさか、あの状況で実は戦力を全て連れてきていなかった……といった訳ではないでしょうし」
「もちろんそんな訳じゃない。その……だな」

 何と説明するべきか迷うパトリック。
 もちろん、ここに来るまでにどう説明すればいいのかというのは考えてきた。
 考えてきたのだが、それでも結局最善の選択は分からなかったのだ。
 そんな風に戸惑っている様子を見て、ソフィアが笑みを浮かべて口を開く。

「私たちの敵になった。そういう風に考えた方がいいのかしら?」
「いや、そんなつもりはない!」

 少しだけからかう様子で尋ねるソフィアに対し、即座に否定するパトリック。
 もしここで本気で自分たちが敵になった場合、それこそいつ隕石を落とされるのか、分かったものではない。
 そんなことにならないようにするためには、自分たちは黎明の覇者と敵対するつもりは一切ないと、そう示しておく必要があった。

「そう? なら、増えた人数についてしっかりとい説明してちょうだいね」

 ソフィアも、当然ながら本気でパトリックが自分たちと敵対したとは思っていない。
 そもそも本気で敵対するつもりなら、わざわざこうして多数を引き連れてやってくる必要はないのだから。
 それこそどこかに戦力を伏せておき、自分たちの不意を突いて攻撃してくるといった真似をすれば十分だった。
 もちろん、そんな事態になってもソフィアには対処する自信があったが。
 そのような真似をせず、こうして増えた戦力を引き連れて堂々と姿を現したのだ。
 それを見れば、パトリックが自分に敵対するつもりではないというのは想像出来た。
 それでも敢えて今のようなことを口にしたのは、からかい以外にも念のためだったり、あるいは牽制という目的があったりする。

「その、だな。あんたに言われたように、他の勢力を撤退させるなり、潰すなりする予定だったんだが……」

 そこで一旦言葉を切ったパトリックがギュンターに視線を向けたのは、ここにいる者の中には戦場の中でギュンターが攻撃しようとしていた相手を半ば譲って貰うといった形になった対象もここに存在する為だ。

「中には撤退するんじゃなくて、俺に従うという形を選択した奴もいるんだよ」
「ふーん。思ったよりも人望があるのね」

 パトリックの説明を聞いても、ソフィアには特に驚いた様子はない。
 パトリックの率いている戦力が増えたということは、当然ながらその理由がある。
 その理由として一番考えられるのは、当然だが他の勢力を自分の勢力に組み入れることで、そういう意味ではこの状況はソフィアにとって予想出来たのだ。
 元々が白き眼球の副団長という立場で、団長との折り合いが悪いにもかかわらず、結構な数の傭兵がパトリックと行動を共にしているのだ。
 人望という点では、間違いなく優れているのだろうことは間違いない。
 そういう意味では、ソフィアの目から見てもパトリックは有能な人物に思える。
 とはいえ……降伏してきた相手を断るという選択が出来ない以上、非情にはなりきれないのだが。
 あるいはそれが、人望があっても白き眼球の団長にはなれず、副団長になっている理由なのかもしれないが。

「呆れているのは分かる。けど、元々俺の知り合いだった連中だ。そんな者たちが俺に従うと言ってきている以上、それを断る訳にもいかないだろ。俺にも付き合いはあるんだ」
「そうかもしれないわね」

 そう言いながらも、ソフィアは今の言葉でパトリックの評価を少し下げる。
 付き合いがあるからこそ受け入れた相手がいるということは、それは打算だ。
 そのような相手は、当然ながら心の底から信じるといった真似は出来ない。
 その中にはパトリックを利用してソフィアの側までやってきて、戦いの混乱に紛れて暗殺を狙う……といったような者がいないとも限らないのだ。
 だからこそ、今の状況を思えば完全に信じるような真似は出来ない。

「まぁ、いいわ。受け入れてあげる。けど、パトリックが連れて来た人たちなんだから、その人たちの面倒は貴方がみなさい。もしそういう人たちが何か問題を起こした場合……分かってるわね?」

 笑みを浮かべてそう尋ねるソフィアだったが、その言葉に有無を言わせぬ圧倒的なまでの迫力があった。
 もしパトリックの下についた者が何らかの問題を起こしたとき、自分が一体どうなるのか。
 そんな不安をパトリックに抱かせるには十分な……凄絶なという表現が相応しい笑み。

「わ、分かった。何も問題は起こさせないようにする」

 ソフィアの持つ笑みの迫力に押され、パトリックが出来るのはそうして頷くだけだ。
 そんなパトリックの様子を一瞥すると、ソフィアは再び笑みを浮かべる。
 ただし、今度は数秒前と違って迫力のない、普通の……多くの者が見惚れる笑み。
 とはいえ、数秒前までの圧倒的な迫力を持つ笑みを見ていたパトリックが、いくら魅力的な笑みを浮かべたからといって、ソフィアに目を奪われるようなことはなかったが。

「さて、じゃあ話は決まったし……そうね。パトリックたちは向こうに陣地を築いてちょうだい。もちろん、本格的なものじゃなくて、敵が攻めて来たときに一時的に防げるような陣地でいいわ」

 ソフィアの言葉に、パトリックは取りあえず見逃された……あるいは許されたと、安堵する。
 もちろん、パトリックもこのような状況ではソフィアが責めるとは思っていなかった。
 しかし、今の黎明の覇者の状況を思えば、もしかしたら許容されないかもしれないと思う一面があったのも事実。
 そうである以上、やはり今回の一件はそれなりに不安を抱いての言葉だったのも間違いない。

「分かった。すぐに陣地の準備をする。……それで、黎明の覇者につく者たちはどのくらいの人数になりそうなのか、聞いてもいいか?」

 言うまでもなく、現在こうしてパトリックがここにいるのは、他にも自分たちと同じように黎明の覇者に降伏した者たちかがここに集まってくると聞かされたからだ。
 自分たち以外に一体どれだけの戦力が合流してくるのか、気にするなという方が無理だろう。
 しかし、ソフィアはそんなパトリックの言葉に首を横に振る。

「どうかしら。一応私たちに味方をするといった勢力にはここに集まるように言ったけど、それが絶対という訳でもないし。中には私たちに降伏したあとですぐに逃げ出した……といったような勢力があってもおかしくはないわ。ただ、それでもそれなりには集まると思うわよ」

 その言葉には、強い説得力がある。
 この状況でそのようなことを口にしても、普通ならそう簡単に信じるような真似は出来ない。
 しかし、今のこの状況においてはこれ以上ない程の説得力を持っていた。
 流星魔法の使い手を有し、ランクA傭兵団の黎明の覇者……しかもその多くは精鋭。
 そのような相手だけに、迂闊に敵対しようと思うような者は状況を見定めることが出来ない者か、あるいは本当に自分の力でどうにか出来ると思っている者か。
 パトリックが見た限りでは、後者のような本物……それこそ正面から黎明の覇者と戦って勝利出来るような者はどこにいないように思えた。
 もちろん、パトリックもこの近辺に集まってきている全ての人員を把握出来ている訳ではない。
 今この状況において、そのような勢力との遭遇があった場合、それこそ自分たちが現在よりも有利な状況になれるような選択が出来ただろう。
 そのようなことが出来なかった今の状況を思えば、黎明の覇者と正面から戦って勝てる勢力がいるとは思えなかった。
 ……そもそも、それだけ有望な傭兵団……いや、冒険者や騎士団といった存在がいれば、拠点としていたドレミナでその情報が広がらないはずもない。
 そしてパトリックは、そんな噂をドレミナで聞いたことはなかった。
 であれば、ここで黎明の覇者を相手に正面から戦える存在はいるはずがないと判断するのはおかしなはなしではない。
 そうして納得すると話は終わり、パトリックは自分たちに割り当てられた陣地に向かう。

「なぁ、パトリック。一応聞いておくけど……本当に大丈夫なんだよな? お前の言葉だから信じたけど、下手をしたら俺たちも巻き添えで最悪の事態になりかねないぞ?」

 自分たちの陣地を作るべく移動していると、パトリックの側にやって来た男がそう告げる。
 男にしてみれば、パトリックと戦うよりは一緒に行動した方が自分の利益になるからと、パトリックの指揮下に入ったのだ。
 しかし、それはあくまでも自分の利益になるからこそだ。
 もし利益にならないのなら、このままここで黎明の覇者と共に敵と戦うといった真似をするつもりはない。

「この戦いに勝てば利益になるだろ。それに……もし敵と認識されれば、隕石を落とされる可能性があるんだぞ? それを考えれば黎明の覇者に味方するだけでその心配はなくなるんだから、どっちがいいのかは考えるまでもないだろ」

 そう言われると、男も反論は出来ない。
 普通に攻撃をしてくるだけなら、対処のしようはある。
 もちろん、黎明の覇者を相手に対抗して勝てるかどうかというのは、また別の問題だったが。
 しかし隕石を落とされるとなると、対抗のしようがない。
 それこそ、ただその場から逃げ出すか……あるいは自分たちに命中しないように祈るくらいしかすることはないのだ。
 それを避けられるだけで大きな利益だと言われると、男も納得するしか出来なかった。
感想 3

あなたにおすすめの小説

残念ながら主人公はゲスでした。~異世界転移したら空気を操る魔法を得て世界最強に。好き放題に無双する俺を誰も止められない!~

日和崎よしな
ファンタジー
―あらすじ― 異世界に転移したゲス・エストは精霊と契約して空気操作の魔法を獲得する。 強力な魔法を得たが、彼の真の強さは的確な洞察力や魔法の応用力といった優れた頭脳にあった。 ゲス・エストは最強の存在を目指し、しがらみのない異世界で容赦なく暴れまくる! ―作品について― 完結しました。 全302話(プロローグ、エピローグ含む),約100万字。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

ダンジョンに捨てられた私 奇跡的に不老不死になれたので村を捨てます

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
私の名前はファム 前世は日本人、とても幸せな最期を迎えてこの世界に転生した 記憶を持っていた私はいいように使われて5歳を迎えた 村の代表だった私を拾ったおじさんはダンジョンが枯渇していることに気が付く ダンジョンには栄養、マナが必要。人もそのマナを持っていた そう、おじさんは私を栄養としてダンジョンに捨てた 私は捨てられたので村をすてる

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

神々に見捨てられし者、自力で最強へ

九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。 「天職なし。最高じゃないか」 しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。 天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。