才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0119話

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 両手に花のイオだったが、その両手を強引に引っ張られるといったような真似をされれば、やはり痛い。
 もしイオが魔法使いではなく戦士であったら、女たちにそれぞれ手を引っ張られても、そこまで痛いとは思わなかっただろうが。

「ちょっと待って下さい。痛い……痛いですから!」
『あ』

 イオの口からそんな声が上がると、イオを取り合っていた女たちは同時に自分が何をしていたのかを理解し、慌てて手を離す。
 ようやく手が離されて痛みがなくなったことに安堵しながら、イオは地面に落ちた杖を拾う。

「あら、その杖……」

 片方の女……イオが話していたところに割り込んで来た女だった。
 イオの持っている杖をじっと見る。
 イオとしては、別にその杖にそこまで興味を持たなくてもいいのでは? と思う。
 その杖はゴブリンの軍勢から入手した杖なのだから。
 それもメテオを使って倒したので、どのようなゴブリンが持っていたのかも分からない。
 ゴブリンメイジが持っていたのか、あるいはその上位種が持っていたのか。
 その辺も分からない杖である以上、じっと見られても困る。

「えっと……その杖がどうかしました?」
「この杖を使って、隕石を降らせたのかしら?」
「そうですね。あー……いや、正確にはちょっと違います」

 真剣な視線を向けてくる相手だけに、咄嗟に頷いてしまうイオ。
 しかし、すぐに今の言葉は間違っていたと首を横に振る。

「どっちなの!?」
「その杖で流星魔法を使うことが出来るのは間違いないですが、以前流星魔法を使った杖は今のところ全部砕けてます」
「なるほど。こんな杖で隕石を落とすような魔法を使えるとは思ってなかったけど……杖の寿命と引き換えにして、魔法を使っていた訳ね。けど、そんな使い方をしたら杖がいくらあっても足りないでしょう? 杖は結構な値段がするし」
「取りあえず、しばらくは杖に困らない程度の量は確保しています」

 ゴブリンの軍勢から入手した杖は、何だかんだとまだ結構な数がある。
 もっとも、キダインからの勧めによって次にどこか大きな街に行ったら、しっかりとした杖を購入しようと考えてはいたのだが。
 ゴブリンの軍勢から入手した杖は、使い捨て――ミニメテオでは壊れないが――としては問題ないものの、一度の魔法で壊れてしまうというのはイオにとっても面白いものではない。
 いざというとき、実は杖が壊れていて流星魔法が使えない……などということになったら、それはイオにとって洒落にならないのだから。

「そうなの? また、随分と妙な真似をしてるね」

 そう尋ねる女は、イオがこの杖を手に入れた経緯を知らないのだろう。
 ドレミナにいればゴブリンの軍勢の件も知っていたかもしれないが、山を越えてやって来たのでは、その情報も知らないらしい。
 とはいえ、多くの街や村からドレミナに避難した者がいたし、ドレミナ以外に頼れる場所がある者はそちらに行った。
 その中には山を越えた者もいるはずで、その辺の情報を知っていてもおかしくはないとイオには思えたのだが。

(ゴブリンの軍勢だったから、隕石とかベヒモスとかと違って興味を惹かなかったとか?)

 隕石やベヒモスと違い、ゴブリンというのはそこら中に存在する相手だ。
 もっとも、ゴブリンキングに率いられた軍勢ともなれば、それはそう簡単に見ることが出来るものでもないのだが。
 その辺についても何も知らないのか、あるいは知っていてもゴブリンキングよりも珍しい隕石やベヒモスの方に興味を抱いているのか。
 その辺は、生憎とイオには分からない。

「色々とあったんですよ」
「……ちなみに、今のやり取りで理解出来たかもしれないけど、私は隕石以外にも杖の研究をしているわ。隕石の中には、魔法の効果を増幅するような金属が含まれている場合があるのよ。もしそういう隕石を私にくれたら、そういう能力を持った杖を用意してもいいんだけど、どう?」
「それは……いりません」

 女の言葉に少し考えたイオの口から出た言葉は、拒否だった。

「え?」

 まさか断られるとは思っていなかったのだろう。女の口からはそんな声が漏れる。
 だが、すぐに我に返ると納得出来ないといった様子で口を開く。

「イオも魔法使いなんでしょう? なら、私の作る杖の効果は理解出来るでしょう。なのに、何で断るの?」
「何でって言われても……じゃあ、逆に聞きますけど。俺が使う流星魔法で天から降ってくる隕石の威力は今のままで十分だと思いませんか? むしろ、今よりも魔法の威力が上がったら周辺の被害とかが酷いことになると思うんですけど」
「それは……」

 イオの口から出たのは、女を納得させるのに十分な説得力を持っていた。
 ベヒモスという高ランクモンスターを一撃で倒すだけの威力が、今の流星魔法にはあるのだ。
 その流星魔法の威力を上げるのは、寧ろ危険なだけだろう。

(土魔法と水魔法の効果を上げるというのなら。意味はあるのかもしれないけど)

 イオは流星魔法の他にも土魔法と水魔法を使える。
 正確にはキダインから教えて貰って、初歩的な魔法を使えるという程度でしかないのだが。
 そんなイオの能力を考えれば、女が言うように魔法の威力が増えるという杖も魅力的ではあるだろう。
 だが……イオにしてみれば、杖の力に頼って自分が魔法を使いこなせないのでは意味がない。
 どうせなら土魔法も水魔法も杖の力なしでしっかりと使いこなせるようになりたいと、そう思っていた。

「じゃ、じゃあ、魔法を発動する際に少しだけ魔力の消費を減らせる杖もあるわよ。流星魔法はあれだけ派手な魔法だもの。魔力の消費も激しいでしょう?」
「そうでもないですよ」

 あっさりとそう告げるイオに、女は……いや、女だけではなく周囲で二人のやり取りを見守って射た者たちも驚きの表情を浮かべる。
 あれだけ派手で、威力も高い流星魔法だ。
 消費する魔力は当然ながら大きいだろうと、そう思っていたのだろう。
 しかし、それは違う。
 イオの魔力は多い方ではあるが、それでも決して他に類を見ないほど莫大な魔力を持っているといった訳ではない。
 それでも気軽にイオが流星魔法を使えるのは、単純にそれだけイオの流星魔法の才能が飛び抜けているからだろう。
 魔力は少なくても、流星魔法の才能という点で特化しているのだ。
 だからこそ流星魔法を使う際に必要となる魔力はそこまで多くはない。
 そんなイオにとって、魔力の消耗を少なくするという効果を持つ杖は……魔法の威力が上がるという効果を持つ杖よりは魅力的だが、それでもどうしても欲しいといった訳ではなかった。
 もしキダインを含めたこの世界の魔法使いたちがこの件を知れば、馬鹿な真似はしないで大人しく杖を貰っておけといったように言っただろうが。

「はいはい、話は終わりでいいわね。じゃあ、次は私! 私はマジックアイテムの研究をしてるのよ。彗星も、研究をする以外にマジックアイテムの素材として使いたいとも思っているわ」
「マジックアイテムの研究、ですか?」
「ええ。俗に言う魔剣の類ね」

 魔剣を研究しているというのは、イオにとって少しだけ意外だった。
 先程の話からすると、魔剣……正確には鍛冶師を決して好んでいるように思えない者が多かったからだ。
 しかし、魔剣を打つとなれば当然ながら鍛冶師が必要となる。
 あるいは自分でそちらもやっているのかとも思ったが、イオの目から見て話しかけてきた女は決して鍛冶をやるようには見えない。
 あるいは、外見は細身の女でも実は鍛冶を行うことが出来るだけの力を持っている……といった可能性もあったが。
 とはいえ、魔剣というのはイオにとって興味深い言葉なのは間違いない。
 普通の長剣ですら、イオは使いこなすのは難しいだろう。
 そこに魔剣とくれば、よけいにイオはそれを使いこなすのは難しいはずだった。
 だが……それでも、日本にいたときにはファンタジー漫画を好んで読んでいたイオにしてみれば、魔剣というのはかなり興味深い代物なのは間違いない。
 それを使いこなせるかどうかは別として、自分でも所持していたと思ってしまうくらいには。
 イオの表情から、女はこれはいけると思ったのだろう。
 笑みを浮かべて口を開く。

「どう? もし隕石を私に譲渡してくれるのなら、魔剣の一本や二本は渡してもいいと思うけど」
「ちょっと待ってちょうだい」

 イオと女の会話にそう割り込んで来たのは、ローザ。
 これもいい機会だからということで、ローザはイオの交渉については口を出すような真似はしていなかった。
 しかし、今回のこの交渉には明らかにおかしい場所があり、商人との交渉を一度中断して話に割り込んだのだ。

「ローザさん?」
「イオ、彼女の言葉はそれなりに有益なように思うけど、魔剣というのは基本的に非常に高価なのよ。いくら隕石を貰えるからとしても、それであっさりと渡す……といったことには戸惑うくらいに」
「あら、魔剣についてそれなりに詳しいみたいね。けど、研究している私が言うのもなんだけど、魔剣というのは色々とあるわ。安い魔剣も普通にあるのよ」
「……それは魔剣の効果として、ほとんど期待出来ないような効果なのでは?」

 そう言い、ローザはイオに魔剣について簡単に説明する。
 魔剣というのはマジックアイテムの一種ではあるが、女が言ったように効果は色々とある。
 それこそ、中に僅かに……本当に僅かに斬れ味が上がるといった程度の効果であっても、魔力を使って効果を発揮するのだから、分類上は魔剣となるのだ。
 もちろん、そのような魔剣は効果に比例するように値段も安くなるが。

「威力そのものはそれなりに強いですよ。ただ、私が作る魔剣は数回使えば魔剣が砕ける、使い捨ての魔剣ですが」
「使い捨ての魔剣……?」
「ええ。使い捨てだから、他の魔剣とは違って安く作ることが出来るの」
「安くても、数回使っただけで壊れるのなら、最終的には普通の魔剣よりも高くなるのでは?」
「どうかしら。その辺はそれぞれの判断によると思うけど……」

 どこか誤魔化すように言うその言葉に、ローザは疑惑の視線を向けるのだった。
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