才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0136話

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 ダーロットが見せたマジックバッグは、約束通り二つ。
 だが、その二つは同じマジックバッグであっても大きく違っていた。
 片方は見ただけでかなりの高級品と理解出来るような代物だったのに対し、もう片方はかなり小さく、地味な外見。
 前者は冒険者が使うような形のマジックバッグだったが、後者は少し小さめでベルトにつけてつかうような形式のマジックバッグ。

「随分と二つの間に差がありますね」

 作られた笑みを浮かべたまま、ソフィアはダーロットに向かって告げる。
 笑みを浮かべてはいるが、その目には強い光が宿っていた。
 もしその視線を向けられたのがその辺の相手なら、それこそソフィアの視線に怯んで何も言えなくなっていただろう。
 しかし、ダーロットはそんなソフィアの視線を向けられても特に気にした様子がない。

「それは当然だろう? そちらが求めて来たマジックバッグは二つ。そのうちの一つは私が入手したお気に入りと指定はあったが、もう一つの方は特にどういうマジックバッグがいいのかといった指定はなかったはずだ。なら、こちらがマジックバッグを用意すれば問題はないと思うが?」

 その言葉は正論だ。
 これでダーロットが持ってるどちらかが、マジックバッグではなくただの鞄であれば、ソフィアも約束を破ったなといったように突っ込むことが出来ただろう。
 だが、ダーロットが持ってきたマジックバッグは双方共に本物だ。
 そうである以上、ソフィアも不満を口にするような真似は出来ない。
 しかし、不満を口に出来ないからといって不満を抱いていないかと言われれば、その答えは否だ。
 ソフィアが再び何かを言おうとするものの……実際にそれが声となるよりも前に、イオはソフィアに視線で問題はないと示す。
 これはこの場の雰囲気が悪くなったり、あるいは和平交渉がこの場で台無しになるのを嫌がった……といったわけではない。
 単純に、イオの目から見てダーロットが持ってきたマジックバッグ……自分が貰う予定の物はそんなに悪くないと思ったのだ。
 ダーロットが苦労して入手した方に比べると、確かにかなり使い込まれているのが分かる。
 しかし、だからといってマジックバッグに破れや補修の痕といったようなものはない。
 極端に大きくなく、ベルトに付けて使うようなタイプだといのも、イオにとっては好印象だった。
 流星魔法こそ使えるものの、それ以外の魔法は土と水の魔法をかろうじて……本当にかろうじて使える程度でしかない。
 一応護衛のレックスがいるが、レックスは防御の才能を見出されたとはいえ、それでもまだきちんと傭兵として訓練をするようになったばかりだ。
 そういう訳で、魔法使いらしくローブで隠せるようなマジックバッグというのは、イオにとってはありがたい。
 そもそも騎士団でもそのような理由で使われていたのかもしれないとすら、イオは思う。
 イオの考えの全てを理解した訳ではないのだろうが、それでもイオの様子を見ればマジックバッグに不満を持っている訳ではないと判断したのか、ソフィアはダーロットに対して不満を言うのを止める。
 そんなソフィアの様子に、ダーロットは一瞬だけ面白くなさそうな表情を浮かべる。
 自分がいくら言い寄っても全く相手にしないソフィアが、横にいるイオの視線一つで態度を変えたのが理由だろう。
 だが、そうした態度はあくまでも一瞬だけだ。
 ダーロットは女好きとして有名だったが、同時に領主として有能な人物としても知られている。
 ……もしこれでダーロットが自分の気分のままに行動するような者であれば、それこそ今の状況を全く理解せず、イオに不満をぶつけていただろう。
 もしそうなれば、和平交渉がなくなっていたのは間違いない。
 その辺りを自重出来るのは、ダーロットの長所の一つだろう。
 それを表に出さないからといって、イオに対してダーロットがどのように思っているのかは別の話だが。

「ダーロット様。グルタス伯爵との一件、黎明の覇者がこちらに協力してくれるとのことです」

 ダーロットが何を考えているのかを理解したのか、サーゼスはそう告げる。
 部下であるからこそ、主君の性格をよく理解していたのだろう。
 それ以外にも、純粋に黎明の覇者が自分たちの戦力として戦いに参加するというのは、早いうちに教えておきたかったというのもあるのかもしれないが。

「なるほど。黎明の覇者がこちらの戦力となるのなら心強い。期待しているよ」

 ダーロットはサーゼスの言葉に笑みを浮かべてそう告げる。
 これはソフィアを……そして黎明の覇者を戦力的に信頼しているというのが大きい。
 女としてソフィアを欲しているのは間違いないが、十分に戦力としても黎明の覇者には期待しているのだ。
 幸いなことにという表現が相応しいのかどうかはともかく、女としてのソフィアはダーロットが言い寄ってもその気になる様子はない。
 しかし黎明の覇者は、報酬さえきちんと支払えばダーロットの戦力として働いてくれてるのだ。
 もっとも、それはダーロットが雇わない場合は、グルタス伯爵に雇われて自分たちと戦うといったようなことになってもおかしくはないのだが。

「ええ。そちらについては期待していて下さい」

 ソフィアも、この件についてはダーロットに確約する。
 女好きで自分やローザに言い寄ってくるのは面白くないものの、依頼人という意味では悪い相手ではないのがダーロットだ。
 もしこれで依頼人としても駄目な相手……支払う報酬を少なくしたり、あるいは当初の契約にない仕事をするように強要してきたりといった真似をするのなら、ドレミナで活動はせず……それこそグルタス伯爵に雇われるという選択肢を選んでいた可能性もあった。
 もっとも、グルタス伯爵は傭兵の雇い主としてあまり評判のよくない相手なのだが。

「ただし、報酬の問題からグルタス伯爵との戦いにおいては、可能な限り捕虜は取らない方向で戦闘を進めます。問題ありませんね?」
「何?」

 ソフィアの口から出たのは、ダーロットにとっても予想外だったのだろう。
 サーゼスたちの方を見て、ダーロットが説明を求める。
 サーゼスはそんなダーロットに対し、若干の申し訳のなさを感じながらも口を開く。

「ソフィア殿の言う通り、報酬の面で折り合いがつきませんでした。捕虜にした場合に向こうが要求してきた報酬は、生憎と現在のドレミナにとっては厳しい金額でしたので」
「……ゴブリンの一件があったとはいえ、まだそこまで苦しい訳ではないと思うが?」

 ドレミナを含めたダーロットの領地は、それなりに広い。
 その領地からの税収は相応の額になる筈だった。

「そうかもしれませんが、役人たちからは出来るだけ節制するように言われております。これについては、私も同意見です。何しろゴブリンの軍勢にベヒモスと、普通では考えられないような出来事がおきたのですから」

 そう言ったサーゼスは、一瞬だけイオに視線を向ける。
 その視線が意味するのは、流星魔法を使うイオもまた普通では考えられないことだと、そう言いたいのだろう。

「なるほど。その意見は貴重だ。今すぐとはいかないが、あとで色々と検討してみよう。それで余裕があるのなら、捕虜を重視して欲しい。どうかな?」

 ダーロットにしてみれば、グルタス伯爵は決して好ましい相手ではない。
 自分の領地にちょっかいを出され、さらには部下を裏切らせるといった真似をしたのだ。
 それこそ感情だけで考えた場合、殺しても構わないとすら思う。
 だが……それはあくまでも感情の問題だ。
 理性で考えると、もしグルタス伯爵を殺してしまった場合、その後継者との問題が非常に面倒なのは間違いない。
 そのようにならないようにするためには、やはり殺すのではなく捕虜にして相手の面目を潰し、身代金として可能な限りの金額を奪うといった真似をするのが最善だった。
 もちろん、捕虜にされてしまったグルタス伯爵はダーロットを恨むだろう。
 だが、そこで力の差をしっかりと教え込めば問題はないはずだったし、それを行えるだけの自信は十分にある。
 だからこそ、今のこの状況においては可能な限り相手を殺すのではなく、捕虜にしたいのだ。

「報酬のほうで問題がなければ、こちらとしては構いません」

 ソフィアの言葉に、ダーロットは安堵したように息を吐く。
 そうして自分が持っていた二つのマジックバッグをテーブルの上に置いた。

「これが約束のマジックバッグだ」

 そのマジックバッグに触れるソフィア。
 それぞれを手に持ち、魔力を流して本物かどうかを確認する。
 ダーロットのことなので、このような状況でマジックバッグだと称して偽物を持ってくるといったことはまずないと思うが、それでも万が一を考えると本物かどうか確認してみる必要があった。
 幸いなことに、マジックバッグは双方共に本物だった。
 それを確認すると、ソフィアは笑みを浮かべて口を開く。

「本物と確認しました。では、この二つのマジックバッグは私たちが貰っていきますね」
「そうしてくれ」

 ソフィアが持つマジックバッグに少しだけ残念そうな表情を浮かべるダーロット。
 自分が必死になって入手したそのマジックアイテムは、それだけにまだ未練があるのだろう。
 自分のミスでソフィアたちを攻撃した以上、このくらいは渡さないといけないというのは分かっている。
 分かっているものの、それでもやはり手に入れてからまだ数ヶ月しか経っていないそのマジックバッグを渡すのは、非常に勿体ないと思うのは事実だった。
 それでも黎明の覇者を敵に回すのと自分の欲望のどちらを優先させるかというのは、考えるまでもなく明らかだ。
 これでダーロットが無能であれば、マジックバッグを渡さないという選択をした可能性もある。
 しかし、幸か不幸かダーロットは相応に有能で現在の自分の状況をよく分かっていた。
 だからこそ、今はこうして入手するに苦労したマジックバッグを渡すという選択をする。

「では、ありがたく貰っておきますね」

 ダーロットの考えを理解しているのかいないのか、ソフィアはあっさりとマジックバッグを手にするのだった。
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