才能は流星魔法

神無月 紅

文字の大きさ
153 / 178
グルタス伯爵との戦い

0153話

しおりを挟む
「見えてきましたよ、イオさん」

 馬車の中で他の傭兵と話していたイオは、レックスのそんな声に視線を向ける。
 声を発したのは、レックス。
 そんなレックスが見ているのは、遠くに存在するドレミナだった。

「お、ようやくドレミナか。この先のことを考えると、ドレミナで少しゆっくりしたいんだけどな」

 イオと話していた傭兵が遠くに見えたドレミナを眺めつつ、そう呟く。
 ドレミナに向かうときはソフィアと一緒に馬車に乗っていたイオだったが、当然ながらそれは特別だ。
 黎明の覇者として行動するとなれば、イオやレックスがソフィアと一緒に馬車に乗るといったことはまずない。
 ……それが客人という扱いのイオであっても、ソフィアと一緒の馬車に乗れないというのは変わらなかった。
 イオにしてみれば、正直なところ……心からの本音を口にすれば、残念ではある。
 残念ではあるのだが、それでも黎明の覇者という傭兵団の状況を思えば納得が出来ることではあった。

「あれ? でも……向こうではもう戦力を出してませんか?」

 イオと話していたのとは別の傭兵が、そう呟く。
 え? と疑問を思い、改めてドレミナに視線を向けるが……まだかなり遠くにその姿が見えるだけで、イオにはそこまで細かく判別することは出来なかった。
 ただ、イオと話していた傭兵はそんな言葉に頷く。

「お前がそう言うのなら、多分間違いないだろ。けど……戦力をもう出してるってことは、もうグルタス伯爵だったかが、侵攻を開始したのか?」
「うげ、そうなるとドレミナで休んだりは出来ないってことじゃないか? 出来れば少しゆっくりしたかったんだけどな。酒場のセシリーちゃんに会いたかったし」
「おいおい、セシリーちゃんは俺が狙ってるんだぜ? 妙なちょっかいはかけないで欲しいな」

 イオと一緒の馬車に乗っていた傭兵たちが言い争うのを眺める。
 黎明の覇者の傭兵たちと一緒に行動していなかったので、イオはそのセシリーちゃんというのがどういう相手なのかまでは分からない。
 ただ、傭兵たちからこれだけ人気があるのなら、恐らく相応に魅力的な女なのだろうとは予想出来る。

(とはいえ、黎明の覇者の人たちって女を見る目はかなり厳しそうなんだけどな)

 何しろ、黎明の覇者を率いているソフィアは絶世のという表現が相応しい美女だ。
 また、ローザもソフィアには負けるものの、十分に美人と呼ぶに相応しい。
 それ以外に黎明の覇者に所属している女の傭兵も、間違いなく平均以上の顔立ちが多い。
 そのような者たちを見慣れている黎明の覇者の男たちにとって、ちょっと美人、ちょっと可愛いといった程度の相手では美人でも可愛くもない、平均的な顔立ちといったように思えてもおかしくはない。
 そういう意味では、黎明の覇者に所属している者たちは決して幸運というだけではないのだろう。
 もっとも、そういう意味では黎明の覇者に所属している者同士で恋人同士になるといった者もそれなりにいるのだが。
 中には黎明の覇者に所属する傭兵同士でくっついて子供が生まれ、その子供を黎明の覇者で育てるといったこともしている者がいる。
 アットホームな傭兵団と評しても、それは間違いではないのだろう。

「えっと、じゃあこのままドレミナに到着したら、すぐに出発するんですか? 物資の補給とかはどうするんです?」

 セシリーという人物の奪い合いをしている……実際にはじゃれているという表現の方がいいのだろうが、そんなやり取りをしている二人にイオが尋ねる。

「ん? ああ、そうだな。こういうときは補給物資とかは向こうで用意してくれたりするんだけどな。今回の場合は……ローザの姐御がドレミナを脱出するとき、結構補給物資とかを集めていたし。そう考えると、正直なところ具体的にどうなるのかは分からないな」

 ローザは元々ソフィアが隕石を見てドレミナを飛び出してた一件から、何があってもいいように補給物資の類を確保しておいた。
 それが今ここで役に立っている。
 イオもそれは分かったが、だからといってドレミナから本来貰える補給物資を貰わなくてもいいのか? と思ってしまう。
 しかし他の傭兵たちはそんな様子について全く気にしていなかったので、今はそれを気にせずにおく。
 もしイオがそれについて聞いても、傭兵たちは貰えるなら貰いたいが、そこまでして欲しいものではないと言うだろう。
 傭兵たちの今までのけいけんじょう、こういうときに渡される補給物資……特に食料の類は、決して美味くはない。
 それこそ場合によっては腐っている食べ物が平気で混ざっていたりするのだ。
 もちろん、全てがそのような食料を渡す訳ではなく、普通に店で売られている食料を渡すような相手もいるが。
 ただ、割合としてはそこまで多くない。

「食事が美味ければ、その軍の士気も上がると思うんですけど」
「へぇ、よく分かってるな」

 傭兵の一人が感心したように言うが、イオは反応に困る。
 これもまた、漫画からの知識なのだから。
 あるいは歴史の授業の教師が余談として言っていた内容か。
 そうである以上、その知識を褒められてもイオとしては素直に喜べない。
 あくまでもこれは知識として知ってるだけで、言ってみれば実感のこもっていない、薄っぺらい知識なのだから。
 ただ、そのような薄っぺらい知識でも知ってるか知らないかでは大きな違いとなる。
 今回のように傭兵たちがイオの知識に多少なりとも関心したように。

「あ、ドレミナから騎兵が来ましたよ。多分伝令でしょうね」

 レックス言う通り、ドレミナから騎兵が黎明の覇者の馬車の群れに向かってやって来るのが見えた。
 これが敵地なら、騎兵が敵であるという可能性もあるだろう。
 もちろん、その場合は黎明の覇者を相手に一人でやって来るのだから、向こうはそれだけ自分の技量に自信を持っているのだろうが。
 それでも黎明の覇者を相手に一人で攻撃してくるというのは、自殺行為でしかないとイオには思えるのだが。
 今はそんなことは心配しなくてもいい。
 この場合、問題なのはあの騎兵が一体どのよな目的で黎明の覇者に接触してきたのかということだろう。

「一体何のために来たんでしょうね? やっぱりドレミナに入らないで、そのまま出発するようにとか、そういうことを言いに来たとかですか?」
「ドレミナの前に騎士や兵士たちが待機しているんだから、そういう可能性は十分にあるだろうな。馬車を譲ったんだから、そのくらいはどうにかしろとか、そんな風に言いそうな気がする」

 傭兵の一人が口にしたように、黎明の覇者はドレミナからベヒモスの護衛にやってきた兵士たちが乗ってきた馬車は、すでに黎明の覇者に組み込まれている。
 そのおかげで、馬車に乗っている傭兵たちは空間的な余裕があり、多少はゆったりと出来ていた。
 もっとも、新たに加わった馬車の多くには他の馬車から荷物を運び入れるといったような真似をしている。
 マジックバッグをある程度持っているとはいえ、それでも黎明の覇者が所持する荷物の数は結構な量となってしまうのだ。

「馬車は高価ですしね。馬も……俺はあまり判断出来ないんですが、いい馬なんですよね?」

 イオは馬を見ても、それがいい馬かどうかというのはあまり判断出来ない。
 堂々としていたり、他の馬よりも大きかったりといったくらいのことで判断するしかない。
 しかし、傭兵たちにしてみれば馬によって生死にかかわってくることも珍しくはない。
 もし馬車で移動しているとき、盗賊や黎明の覇者に恨みを持っている傭兵の襲撃を受けたとき、馬が怖がって動けなくなったらどうなるか。
 逃げることも出来ず、その場で馬を守りながら戦うしかない。
 そうなれば、相手によっては苦戦するし、場合によっては殺されてもおかしくはないだろう。
 だからこそ、馬の見分けというのは傭兵にとって必須……とまではいかずとも、欲しい技能だった。

「ああ。新しい馬車の馬は最高級ってほどじゃないが、それでも相応の価値がある。売れば結構な財産になるぞ」

 馬というのは種類にもよるが、相応の値段がする。
 黎明の覇者で使っているような馬ともなれば、それこそ一頭で一財産くらいではあった。
 ましてや、黎明の覇者の幹部が乗る馬ともなれば……一財産といった程度ではすまないだけの高額となる。

「俺たち傭兵が戦っている中で、敵の馬を奪うことがある。もし無傷で馬を奪うことが出来れば、その馬を売った値段でかなりの収入になるんだ」
「あ、馬にはそういうのも……」

 傭兵の一人の言葉に、イオは納得の表情を浮かべる。
 一頭の馬が高額なら、当然ながらその馬を奪うことが出来て売れば、一財産といった額になってもおかしくはないのだ。
 もちろん、そうなると自分たちの馬が敵対している相手に奪われないようにする必要があるということでもあるのだが。

「そうなると、中には戦場で戦わないで相手の馬だけを狙うとかいう人もいるかもしれませんね」
「っ!?」

 何気なく呟かれたイオの言葉に、何故かレックスが鋭く反応する。
 一体何故レックスが? と疑問に思ったイオだったが、すぐに思い直す。
 レックスが黎明の覇者に所属する前に入っていた黒き蛇という傭兵団は、色々と後ろ暗いところのある者たちだったと。
 それこそ傭兵として戦争に参加しているのに、実は敵と戦わないで敵の馬を奪って少しでも楽に稼ごうといった風に考えてもおかしくはないだろうと。

(けど、馬は基本的に馬車や騎兵として使われている訳で……そういう馬を、一体どうやって奪うんだろうな?)

 普通に考えれば、それこそ馬に乗っている兵士や騎士を倒してだったり、馬車と繋がっている部分を破壊するなり、御者を殺すなり御者台から叩き落とすなりしてだろう。
 しかし、そのような真似をすれば馬にも被害が及ぶ可能性が高い。
 そうならないようにするには、それこそ非常に高い技術が必要となるだろう。

「とにかく、ドレミナ側としては俺たちには相応の厚遇をした。そうである以上、相応の仕事はして欲しいといったところなんだろうな」

 傭兵に言葉に、イオは納得して頷くのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

宿敵の家の当主を妻に貰いました~妻は可憐で儚くて優しくて賢くて可愛くて最高です~

紗沙
恋愛
剣の名家にして、国の南側を支配する大貴族フォルス家。 そこの三男として生まれたノヴァは一族のみが扱える秘技が全く使えない、出来損ないというレッテルを貼られ、辛い子供時代を過ごした。 大人になったノヴァは小さな領地を与えられるものの、仕事も家族からの期待も、周りからの期待も0に等しい。 しかし、そんなノヴァに舞い込んだ一件の縁談話。相手は国の北側を支配する大貴族。 フォルス家とは長年の確執があり、今は栄華を極めているアークゲート家だった。 しかも縁談の相手は、まさかのアークゲート家当主・シアで・・・。 「あのときからずっと……お慕いしています」 かくして、何も持たないフォルス家の三男坊は性格良し、容姿良し、というか全てが良しの妻を迎え入れることになる。 ノヴァの運命を変える、全てを与えてこようとする妻を。 「人はアークゲート家の当主を恐ろしいとか、血も涙もないとか、冷酷とか散々に言うけど、 シアは可愛いし、優しいし、賢いし、完璧だよ」 あまり深く考えないノヴァと、彼にしか自分の素を見せないシア、二人の結婚生活が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

銀眼の左遷王ケントの素人領地開拓&未踏遺跡攻略~だけど、領民はゼロで土地は死んでるし、遺跡は結界で入れない~

雪野湯
ファンタジー
王立錬金研究所の研究員であった元貴族ケントは政治家に転向するも、政争に敗れ左遷された。 左遷先は領民のいない呪われた大地を抱く廃城。 この瓦礫に埋もれた城に、世界で唯一無二の不思議な銀眼を持つ男は夢も希望も埋めて、その謎と共に朽ち果てるつもりでいた。 しかし、運命のいたずらか、彼のもとに素晴らしき仲間が集う。 彼らの力を借り、様々な種族と交流し、呪われた大地の原因である未踏遺跡の攻略を目指す。 その過程で遺跡に眠っていた世界の秘密を知った。 遺跡の力は世界を滅亡へと導くが、彼は銀眼と仲間たちの力を借りて立ち向かう。 様々な苦難を乗り越え、左遷王と揶揄された若き青年は世界に新たな道を示し、本物の王となる。

異世界へ行って帰って来た

バルサック
ファンタジー
ダンジョンの出現した日本で、じいさんの形見となった指輪で異世界へ行ってしまった。 そして帰って来た。2つの世界を往来できる力で様々な体験をする神須勇だった。

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

母を訪ねて十万里

サクラ近衛将監
ファンタジー
 エルフ族の母と人族の父の第二子であるハーフとして生まれたマルコは、三歳の折に誘拐され、数奇な運命を辿りつつ遠く離れた異大陸にまで流れてきたが、6歳の折に自分が転生者であることと六つもの前世を思い出し、同時にその経験・知識・技量を全て引き継ぐことになる。  この物語は、故郷を遠く離れた主人公が故郷に帰還するために辿った道のりの冒険譚です。  概ね週一(木曜日22時予定)で投稿予定です。

美女エルフの異世界道具屋で宝石職人してます

網野ホウ
ファンタジー
小説家になろうで先行投稿してます。 異世界から飛ばされてきた美しいエルフのセレナ=ミッフィール。彼女がその先で出会った人物は、石の力を見分けることが出来る宝石職人。 宝石職人でありながら法具店の店主の役職に就いている彼の力を借りて、一緒に故郷へ帰還できた彼女は彼と一緒に自分の店を思いつく。 セレナや冒険者である客達に振り回されながらも、その力を大いに発揮して宝石職人として活躍していく物語。

処理中です...