その乾いた青春は

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飛び降りた天使

飛び降りた天使part4

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 あれから僕たちは毎日のように鉢合わせた。

 今日こそは!と思い柵を越えるといつも決まって錆びたドアが開き。

 「あーーー!ずるい!!!」

 などという声が上がる。

 そんな日が2日、3日、一週間、1ヶ月と続いてしまい、もはや因縁と呼べるんじゃないのかなと笑ってしまう。

 「またあなたね!」

 「また君か!」

 そんなやり取りを少し楽しくも思えてしまっていたような、そんなへんな想像もするようになっていた。

 いろいろな話もした。彼女の名前は佐山 りり。歳は18で、性別は見ての通り女だ。

 一度しか見ることはないと思っていた廃ビルを何度も見るようになってしまっていた。

 しかし

 ある日、廃ビルの屋上のドアを開けると、珍しく彼女が先に着いていて、柵に寄りかかり座っていた。

 「ど、どうした?」

 彼女は僕の声を聞き、ビクッとすると泣きそうな顔でこっちを見た。

 「あのね幸一。お父様がね、私には失望したんだって。もういらないんだって。でもお母様は跡継ぎにするってうるさくて、私はどっちも嫌なのに。もう、家に帰りたくない」

 「そ、そうか」

 僕は少しだけ不安になった。彼女には今までよりも大きな死ぬ理由ができてしまった。

 「・・・飛ぶのか」

 僕は恐る恐る訊いてみた。

 彼女はゆっくりとそれを口に出す。

 「・・・飛べないの」

 「え?」

 「飛べないの!どうしても。どうして?私、なんで飛べないの?ねぇ、教えてよ幸一」

 「お、落ち着けよりり」

 わからない、僕にもわからなかった。この1ヶ月でりりが変わってしまったのか?それとも死ぬ理由が悪い?それとも今更怖くなったのか?

 「今、今飛ばないといけないのに!私は、私・・・は・・・」

 りりは泣きながら僕の腕を精一杯つかんでいた。

 「りり・・・」

 僕はその時、覚悟を決めた。

 今じゃ珍しい廃ビルの屋上でやることは一つである。

 「りり・・・飛びたいの?」

 「飛びたい・・・飛ばないと・・・苦しいよ・・・」

 そう

 「じゃあ」

 一緒に飛ぼう。
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