その乾いた青春は

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意味がわかると愛しい話

意味がわかると愛しい話〈上〉

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 決定的な瞬間ほど、時間は遅く感じるという。

 踏切がしまるその瞬間。僕は何者かに背中をどつかれた。

 ふわりふわりと時間は進む。
 そして、僕の背負っていたリュックが掴まれ、僕は踏切の外へ投げ出される。

 しかし、僕をほおり投げた香奈は、僕の彼女は。

 カンカンカンカン。踏切がうるさく喚く。

 そして、その時確かに。

 カンカンカンカン、カンカンカンカンカンカン。

 彼女は笑っていた。

 「うあぁああああ!」

 僕は暗闇の中、自分のベッドから飛び起きた。

 「・・・はぁ・・っは・・っ夢?」

 僕は汗ばんだ頭をぐしゃっとかきあげる。
 時計をみるとAM6:00と表示されている。

 「また、この悪夢か」

 香奈がこの世を去って、今日で一年になる。





 僕は八坂 鷹斗、板西高校2年。そのため、今日も学校へ行く。香奈がいなくなってから、登校ルートの風景をじっくり見る機会が増えてしまった。

 待ち合わせのあの場所はただの時計塔にかわり、彼女と通ったこの道もそこらへんにあるような道になってしまい、全てが何かを失ったような物足りなさを放っているように思える。

 しかし、今日に限っては少し違った。
 
 一人の少女が誰かを待っているように道の壁に寄りかかっていた。
 僕は彼女を知っている。

 「沙羅さん?」

 「・・・待っていましたよ、鷹斗さん」

 西条 沙羅さん。香奈の友達で、僕は数回顔を合わせたことがある程度だけど、なんとなくおとなしそうな印象がある少女である。

 「待っていたって?」

 「はい」

 「えっと、何か用かな?」

 「はい・・・えっと・・その」

 彼女は少しうつむき、考えるような仕草をしてそれをつぶやいた。

 「香奈が笑っていた意味を、知りたいですか?」

 「!?・・・なんで知って」

 「聞いたんです事故があった時に、その場にいた人に」

 「そう・・・なのか・・・」

 あの事故現場には、僕と数人の板西高校の生徒がいた。彼女が笑ったのをその人達が見ていても不思議はない。

 「それで、意味ってなに?どういうこと?」

 「それは・・・そういえば遅刻してしまいますね。この話は放課後に」

 彼女はくるりと体を回し、学校の方へと歩き出す。
 そしてちらとこちらを見て言った。

 「それでは放課後に、ミステリー研究会の部室で」
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