ぎゃっぷ!びーすと!!

石ノ森椿

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借金と獣街(ビーストスラム)

発端

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時代は2×××年、春。
平成の次の和暦から間もなく各国では突如獣人が出没し、人間を喰らい犯し子を宿らせる恐ろしい世になり果てていた。
獣人の影響で和暦が消されて数年が経っていた。
そして、一番の獣人生息率のニチボンでは人間とわずかな獣人との間で“人獣法”なるものが制定され、人間と獣人の世界を分断することで、国の安寧を図っていた。



「ただいま~。」
「おかえり~。」
「おかえりなさい、悠智ゆうち。ご飯は?」
「食べてきたー。」

私、葛城悠智は高校3年。比較的ごく普通の女子高生。
高校は、街の真ん中から3番目のドーナツ型の高校街の中の一つ、普通校に通っている。
獣人の影響を受けないようにと内側から小、中、高と学校が核のように作られている。

私が生まれた時にはこの形で街が作られていたわけだけど、うちは一番獣人のいる街に近い村から通っているから、登校するだけでも実に面倒臭い。

「あれ?父さん、帰り早くない?」
「あ、あぁ。」
「…もしかして…またやめてきたとか?」

父は…少しだけ飽きっぽいのかな、大概3ヶ月もしないで仕事を辞めてくる。
いい歳なんだしそろそろ定職について欲しいと思うけど。

「こら、バカ言ってないの。あんただってまだ就職決まってないんだから人のこと言えないのよ。」
「…はいはい、着替えてくる!」

「あ、こら!」

正直…私は就職したくてする訳じゃない。
でも、進学したらただでさえ貧乏な家がより貧乏になるし、途中で退学する方が嫌だからね。

私は自分の部屋に入って鏡の前に座った。
「はぁ…。」

行きたい大学はあった。頭も追いついてた。
だから、だからこそ…就職組にならないといけないのが、喪失感というか…すごく虚しい。

私はそのままベッドに飛び込んで眠りについた。

…………………………………………

次の日、私は母さんの金切り声を聞かないで8時頃にのんびりと起きた。
カレンダーを見ると木曜日…あれ?これ遅刻だ…。
「ッやっば!!」

私は部屋を飛び出た。
すると私の目の前に広がったのは…家具ひとつない…白い部屋だった。

部屋の所々にホコリが溜まって家具のあったところだけ壁紙は真っ白で…昨日のうちに持ち出したのが何となくわかった。

これって…まさか…。


ピンポーン!
「ッ?!」
ビクッた…

ピンポーンピンポンピンポンピンポンピンポンピンポン!!!!!!!!!!!!!

「ッ、い、今開けます!!」
私は凄まじい勢いのベルの音にそう叫んで扉を開けた。

「…?」
「おや、ここの娘さんかな?…お父さんとお母さんはご在宅かな?」
私の目の前にはアニマル柄のスーツに身を包んだ男性がぞろぞろと部屋を覗き込んでいた。
その瞬間にうちの状況を悟った。

「いないんです…あの、良かったら上がってください。どうせ何も無いので。」
「お……?」
私の反応に驚いたのか、一番前にいた男は私の後ろを怪訝そうについてきた。
そして、部屋がきれいさっぱりしているのを見て大きく舌打ちをした。

「なんだ、ねぇちゃんは一人置いてけぼりか?」
「はい、起きたらこうなってましたから。」
「……そりゃ、災難ってもんだな。」
「あの……、両親はなぜあなた方から逃げてるんでしょうか?」

なんとなく、理由に見当はついていた。うちの貧乏具合と言い、父の飽き症と言い、母のギャンブル狂いと言い……こういう人と関係はあっただろうなと見て見ぬふりをしていたつけ何だと思う。……けど一応確認も込めて尋ねることにした。

「借金だよ。父ちゃんが600万で母ちゃんが860万だ。」
「」
うん、やっぱりね。
母の方が多く使ってた。

私は、ため息しか出せずに項垂れた。

「今日、頭揃えて返せるってもんだから来てみたら……。」
「なんか、すみません。」
「全く、“人獣法”にかけるわけにもいかねぇしな。」

人獣法。
それは、人間と獣人の間で取り決められた法律の総称で、墜人ケガレビトの処分を獣人に一任するというんの。大概は獣人に残虐に殺されたり冒されたりで基本的に二度と人間として戻ってこれないといわれている。

「両親は見つかったら人獣法にかけられるんですか?」
「あぁ、かけるも何も……あいつらはもう審議が終了してるからな。墜人なんだよ。」
「……は!?」

「それが結婚したもんだから……戸籍上ってことになるんだが……悪いが了承してくれるよな。」
直後に、私の両脇に男が付き身動きを封じられ、黒い袋をかけられた。
両腕を解こうにも、方からしっかり拘束されて手首は縄なのか固いもので縛られてしまった。

「ちょっと待って!!そんなのおかしい!私はまだ学生なのよ!!」
「安心しろよ、あいつらはとっくに昨日いっぱいでお前を自主退学させてたよ。」

私は、愕然とした。
昨日まで何事もなく私の帰りを迎えておいて、こんなに簡単にしかも計画的に私を……捨てたなんて。
そのまま車に乗せられた私は、アクセルを蒸かす音に耳を傾けながらこれから起こるであろうことを想像してただ震えた。
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