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2章 応報
14. クラウスの怒り
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「駄目だったか……」
クラウスは再びその日の朝目を覚ました。
魔王は倒せなかったし、ティアナをみつけることも出来なかった。
考えを変えた方がいいかもしれない。
もしかして、ティアナは何か嫌なことがあってどこかに逃げてしまったのかも――。
「きゃあぁぁぁ!」
突然、隣の部屋からユーリアの悲鳴が聞こえた。
同じ日々を繰り返しだして初めてのことだ。
一応、様子を見に行くと、いつもからは考えられないような乱れた姿でユーリアが怯えていた。
「なんで、どうして、死にたくない、痛いのはいや……」
ぶつぶつとうわ言のように繰り返している。
どうやらユーリアにも前回の記憶があるらしいが、クラウスはさして彼女に興味が無かった。
「私はティアナを探しにいくから、そこに籠もるなり帰るなり好きにしろ」
そう言い捨てると、ユーリアが絶望の眼差しを向けてきたが、構わず部屋を出る。
クラウスはティアナの生家へ向かうつもりだった。
ティアナが逃げ込むならば、おそらくそこしかない。
彼女が暮らしていたと言っていた森を探せば、そのうち見つけることができるだろう。
どうやら時間は無限にあるようだから。
そして、探し始めてほどなくティアナの生家と、そしてティアナ自身をみつけることが出来た。
遠目から久しぶりに見る彼女は、何故か血色良く、幸福そうに見えた。
かすかな違和感を覚えながらも、ティアナ、と声をかけようとして、クラウスは声を飲み込んだ。
見知らぬ男が、ティアナの側にいる。
何を話しているのかはわからない。
ただ、その男――よく見ればエルフだ――の眼差しからはあきらかに愛しさが滲み出ていて、男がティアナを憎からず思っていることがわかる。
対するティアナも、完全に心を許したような、ほぐれた表情で男と会話していた。
そんな顔は、知らない。
クラウスは怒りが込み上げてくるのを感じた。
自分を捨てて、男といるティアナが許せなかった。
知らない表情を他人に見せるティアナが許せなかった。
自分だけのものではないティアナが許せなかった。
「ティアナ!」
気付けばクラウスは大声で叫んでいた。
はっとした表情でティアナがクラウスを見て、瞬間、その表情が怯えに歪む。
なんで、自分を見てそんな顔をするのだ。
その男には、あんなに心許した顔をしていた癖に――。
必死に平静を装いながらティアナに大股で歩み寄る。
「何をしているんだ、ティアナ。帰ろう」
「ティアナをどこに連れて行くつもりかな?」
ティアナの細腕を掴もうとしたが、しかし男がティアナを守るように立ち塞がってそれ以上近寄れない。
「……なんなんだお前は! ティアナは私のものだ。いいからそこをどけ!」
怒りを抑えきれなくなったクラウスが大声で叫ぶ。
しかし男は全く表情を崩さず、ただ指を鳴らした。
「……っ!?」
瞬間、腹に鋭い痛みが走る。
木の根のようなものが、クラウスの腹を貫いていた。
急速に意識が薄れるのを感じながら、クラウスは遠くに響くエルフの声を聞いた。
「そんなんじゃ、ティアナは渡せないな。なんでこうなったのか、少しは考えてみたら?」
◆◆◆
「なんなんだあの男は!」
目覚めるや否やクラウスは叫んだ。
一体、何故ティアナはあんな男と共にいるんだ。
(……もしかして、拗ねているのか? 私が最近構ってやらなかったから……)
斜め上の方向に思考を巡らせたクラウスは再びティアナの家に行き、彼女を連れ帰ろうとしたがやはりあのエルフに殺されてしまった。
どうやったらティアナを自分の元へ戻せるのかわからなかったが、何もせずとも時間は過ぎ、月が満ちればまた魔物に殺される。
数度死を繰り返し、クラウスはようやく行動を起こすことにした。
(ティアナのことは一旦、後回しだ。まずは魔王を倒して、それからゆっくり考えよう)
クラウスは、己の実力不足を自覚出来ていなかった。
前回は運が悪かった。
何度か挑めば、ティアナがいなくても魔王は倒せるだろうと、本気でそう思っていた。
また、ユーリアは部屋に籠もって出てこなくなってしまったので、クラウスは一人で挑まねばならなかった。
まず、最初は魔王城にたどり着けずに死んだ。
たどり着けても、魔王の居室に行く道中で敵に倒され死んだ。
そして、その後なんど挑んでも魔王の元まで辿りつくことはできなかった。
(なんで、こんな……。クソッ)
ようやく自分の実力がティアナに遥かに劣ることを自覚し、クラウスは歯噛みした。
しかし、一番辛いのは負けて、死ぬことそのものではない。
(……一人で戦い続けるのが、こんなに苦しいとは……)
ティアナが居てくれれば。もしくは、最悪ユーリアでもいい。
共に戦ってくれなくてもいい。せめて誰かにこの思いを、辛さを聞いてほしい。
そう思い――ふと、気づいた。
ティアナと共に旅してきたが、彼女と肩を並べて戦ったことはあっただろうか。
彼女の思いを聞いたことがあっただろうか。
――今からでも、遅くはないのかもしれない。
(どのみち一人では魔王に勝てない。ティアナと、話をしに行こう……)
そうしてクラウスは、一人また、ティアナの居る森へと足を向けた。
クラウスは再びその日の朝目を覚ました。
魔王は倒せなかったし、ティアナをみつけることも出来なかった。
考えを変えた方がいいかもしれない。
もしかして、ティアナは何か嫌なことがあってどこかに逃げてしまったのかも――。
「きゃあぁぁぁ!」
突然、隣の部屋からユーリアの悲鳴が聞こえた。
同じ日々を繰り返しだして初めてのことだ。
一応、様子を見に行くと、いつもからは考えられないような乱れた姿でユーリアが怯えていた。
「なんで、どうして、死にたくない、痛いのはいや……」
ぶつぶつとうわ言のように繰り返している。
どうやらユーリアにも前回の記憶があるらしいが、クラウスはさして彼女に興味が無かった。
「私はティアナを探しにいくから、そこに籠もるなり帰るなり好きにしろ」
そう言い捨てると、ユーリアが絶望の眼差しを向けてきたが、構わず部屋を出る。
クラウスはティアナの生家へ向かうつもりだった。
ティアナが逃げ込むならば、おそらくそこしかない。
彼女が暮らしていたと言っていた森を探せば、そのうち見つけることができるだろう。
どうやら時間は無限にあるようだから。
そして、探し始めてほどなくティアナの生家と、そしてティアナ自身をみつけることが出来た。
遠目から久しぶりに見る彼女は、何故か血色良く、幸福そうに見えた。
かすかな違和感を覚えながらも、ティアナ、と声をかけようとして、クラウスは声を飲み込んだ。
見知らぬ男が、ティアナの側にいる。
何を話しているのかはわからない。
ただ、その男――よく見ればエルフだ――の眼差しからはあきらかに愛しさが滲み出ていて、男がティアナを憎からず思っていることがわかる。
対するティアナも、完全に心を許したような、ほぐれた表情で男と会話していた。
そんな顔は、知らない。
クラウスは怒りが込み上げてくるのを感じた。
自分を捨てて、男といるティアナが許せなかった。
知らない表情を他人に見せるティアナが許せなかった。
自分だけのものではないティアナが許せなかった。
「ティアナ!」
気付けばクラウスは大声で叫んでいた。
はっとした表情でティアナがクラウスを見て、瞬間、その表情が怯えに歪む。
なんで、自分を見てそんな顔をするのだ。
その男には、あんなに心許した顔をしていた癖に――。
必死に平静を装いながらティアナに大股で歩み寄る。
「何をしているんだ、ティアナ。帰ろう」
「ティアナをどこに連れて行くつもりかな?」
ティアナの細腕を掴もうとしたが、しかし男がティアナを守るように立ち塞がってそれ以上近寄れない。
「……なんなんだお前は! ティアナは私のものだ。いいからそこをどけ!」
怒りを抑えきれなくなったクラウスが大声で叫ぶ。
しかし男は全く表情を崩さず、ただ指を鳴らした。
「……っ!?」
瞬間、腹に鋭い痛みが走る。
木の根のようなものが、クラウスの腹を貫いていた。
急速に意識が薄れるのを感じながら、クラウスは遠くに響くエルフの声を聞いた。
「そんなんじゃ、ティアナは渡せないな。なんでこうなったのか、少しは考えてみたら?」
◆◆◆
「なんなんだあの男は!」
目覚めるや否やクラウスは叫んだ。
一体、何故ティアナはあんな男と共にいるんだ。
(……もしかして、拗ねているのか? 私が最近構ってやらなかったから……)
斜め上の方向に思考を巡らせたクラウスは再びティアナの家に行き、彼女を連れ帰ろうとしたがやはりあのエルフに殺されてしまった。
どうやったらティアナを自分の元へ戻せるのかわからなかったが、何もせずとも時間は過ぎ、月が満ちればまた魔物に殺される。
数度死を繰り返し、クラウスはようやく行動を起こすことにした。
(ティアナのことは一旦、後回しだ。まずは魔王を倒して、それからゆっくり考えよう)
クラウスは、己の実力不足を自覚出来ていなかった。
前回は運が悪かった。
何度か挑めば、ティアナがいなくても魔王は倒せるだろうと、本気でそう思っていた。
また、ユーリアは部屋に籠もって出てこなくなってしまったので、クラウスは一人で挑まねばならなかった。
まず、最初は魔王城にたどり着けずに死んだ。
たどり着けても、魔王の居室に行く道中で敵に倒され死んだ。
そして、その後なんど挑んでも魔王の元まで辿りつくことはできなかった。
(なんで、こんな……。クソッ)
ようやく自分の実力がティアナに遥かに劣ることを自覚し、クラウスは歯噛みした。
しかし、一番辛いのは負けて、死ぬことそのものではない。
(……一人で戦い続けるのが、こんなに苦しいとは……)
ティアナが居てくれれば。もしくは、最悪ユーリアでもいい。
共に戦ってくれなくてもいい。せめて誰かにこの思いを、辛さを聞いてほしい。
そう思い――ふと、気づいた。
ティアナと共に旅してきたが、彼女と肩を並べて戦ったことはあっただろうか。
彼女の思いを聞いたことがあっただろうか。
――今からでも、遅くはないのかもしれない。
(どのみち一人では魔王に勝てない。ティアナと、話をしに行こう……)
そうしてクラウスは、一人また、ティアナの居る森へと足を向けた。
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