ティアナはそれでも世界を救いたかった

玉菜きゃべつ

文字の大きさ
14 / 19
2章 応報

14. クラウスの怒り

しおりを挟む
「駄目だったか……」


 クラウスは再びその日の朝目を覚ました。
 魔王は倒せなかったし、ティアナをみつけることも出来なかった。
 考えを変えた方がいいかもしれない。
 
 もしかして、ティアナは何か嫌なことがあってどこかに逃げてしまったのかも――。
 
「きゃあぁぁぁ!」

 突然、隣の部屋からユーリアの悲鳴が聞こえた。
 同じ日々を繰り返しだして初めてのことだ。
 
 一応、様子を見に行くと、いつもからは考えられないような乱れた姿でユーリアが怯えていた。
 
「なんで、どうして、死にたくない、痛いのはいや……」

 ぶつぶつとうわ言のように繰り返している。
 どうやらユーリアにも前回の記憶があるらしいが、クラウスはさして彼女に興味が無かった。
 
「私はティアナを探しにいくから、そこに籠もるなり帰るなり好きにしろ」

 そう言い捨てると、ユーリアが絶望の眼差しを向けてきたが、構わず部屋を出る。
 クラウスはティアナの生家へ向かうつもりだった。
 ティアナが逃げ込むならば、おそらくそこしかない。
 彼女が暮らしていたと言っていた森を探せば、そのうち見つけることができるだろう。
 どうやら時間は無限にあるようだから。
 
 
 そして、探し始めてほどなくティアナの生家と、そしてティアナ自身をみつけることが出来た。
 遠目から久しぶりに見る彼女は、何故か血色良く、幸福そうに見えた。
 かすかな違和感を覚えながらも、ティアナ、と声をかけようとして、クラウスは声を飲み込んだ。
 
 見知らぬ男が、ティアナの側にいる。
 
 何を話しているのかはわからない。
 ただ、その男――よく見ればエルフだ――の眼差しからはあきらかに愛しさが滲み出ていて、男がティアナを憎からず思っていることがわかる。
 対するティアナも、完全に心を許したような、ほぐれた表情で男と会話していた。
 
 そんな顔は、知らない。
 
 クラウスは怒りが込み上げてくるのを感じた。
 
 自分を捨てて、男といるティアナが許せなかった。
 知らない表情を他人に見せるティアナが許せなかった。
 自分だけのものではないティアナが許せなかった。
 
「ティアナ!」
 
 気付けばクラウスは大声で叫んでいた。
 
 はっとした表情でティアナがクラウスを見て、瞬間、その表情が怯えに歪む。
 
 なんで、自分を見てそんな顔をするのだ。
 その男には、あんなに心許した顔をしていた癖に――。
 必死に平静を装いながらティアナに大股で歩み寄る。
 
「何をしているんだ、ティアナ。帰ろう」
「ティアナをどこに連れて行くつもりかな?」

 ティアナの細腕を掴もうとしたが、しかし男がティアナを守るように立ち塞がってそれ以上近寄れない。

「……なんなんだお前は! ティアナは私のものだ。いいからそこをどけ!」

 怒りを抑えきれなくなったクラウスが大声で叫ぶ。
 しかし男は全く表情を崩さず、ただ指を鳴らした。
 
「……っ!?」

 瞬間、腹に鋭い痛みが走る。
 木の根のようなものが、クラウスの腹を貫いていた。
 急速に意識が薄れるのを感じながら、クラウスは遠くに響くエルフの声を聞いた。
 
「そんなんじゃ、ティアナは渡せないな。なんでこうなったのか、少しは考えてみたら?」
 
 
 
 ◆◆◆
 
 
 
「なんなんだあの男は!」

 目覚めるや否やクラウスは叫んだ。
 一体、何故ティアナはあんな男と共にいるんだ。
 
(……もしかして、拗ねているのか? 私が最近構ってやらなかったから……)

 斜め上の方向に思考を巡らせたクラウスは再びティアナの家に行き、彼女を連れ帰ろうとしたがやはりあのエルフに殺されてしまった。
 どうやったらティアナを自分の元へ戻せるのかわからなかったが、何もせずとも時間は過ぎ、月が満ちればまた魔物に殺される。
 数度死を繰り返し、クラウスはようやく行動を起こすことにした。
 
(ティアナのことは一旦、後回しだ。まずは魔王を倒して、それからゆっくり考えよう)

 クラウスは、己の実力不足を自覚出来ていなかった。
 前回は運が悪かった。
 何度か挑めば、ティアナがいなくても魔王は倒せるだろうと、本気でそう思っていた。
 
 また、ユーリアは部屋に籠もって出てこなくなってしまったので、クラウスは一人で挑まねばならなかった。

 まず、最初は魔王城にたどり着けずに死んだ。
 たどり着けても、魔王の居室に行く道中で敵に倒され死んだ。
 そして、その後なんど挑んでも魔王の元まで辿りつくことはできなかった。
 
(なんで、こんな……。クソッ)
 
 ようやく自分の実力がティアナに遥かに劣ることを自覚し、クラウスは歯噛みした。
 しかし、一番辛いのは負けて、死ぬことそのものではない。
 
(……一人で戦い続けるのが、こんなに苦しいとは……)

 ティアナが居てくれれば。もしくは、最悪ユーリアでもいい。
 共に戦ってくれなくてもいい。せめて誰かにこの思いを、辛さを聞いてほしい。
 そう思い――ふと、気づいた。
 
 ティアナと共に旅してきたが、彼女と肩を並べて戦ったことはあっただろうか。
 彼女の思いを聞いたことがあっただろうか。
 
 ――今からでも、遅くはないのかもしれない。

(どのみち一人では魔王に勝てない。ティアナと、話をしに行こう……)
 
 そうしてクラウスは、一人また、ティアナの居る森へと足を向けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

老け顔ですが?何かあります?

宵森みなと
恋愛
可愛くなりたくて、似合わないフリフリの服も着てみた。 でも、鏡に映った自分を見て、そっと諦めた。 ――私はきっと、“普通”じゃいられない。 5歳で10歳に見られ、結婚話は破談続き。 周囲からの心ない言葉に傷つきながらも、少女サラサは“自分の見た目に合う年齢で学園に入学する”という前代未聞の決意をする。 努力と覚悟の末、飛び級で入学したサラサが出会ったのは、年上の優しいクラスメートたちと、ちょっと不器用で真っ直ぐな“初めての気持ち”。 年齢差も、噂も、偏見も――ぜんぶ乗り越えて、この恋はきっと、本物になる。 これは、“老け顔”と笑われた少女が、ほんとうの恋と自分自身を見つけるまでの物語。

隠された第四皇女

山田ランチ
恋愛
 ギルベアト帝国。  帝国では忌み嫌われる魔女達が集う娼館で働くウィノラは、魔女の中でも稀有な癒やしの力を持っていた。ある時、皇宮から内密に呼び出しがかかり、赴いた先に居たのは三度目の出産で今にも命尽きそうな第二側妃のリナだった。しかし癒やしの力を使って助けたリナからは何故か拒絶されてしまう。逃げるように皇宮を出る途中、ライナーという貴族男性に助けてもらう。それから3年後、とある命令を受けてウィノラは再び皇宮に赴く事になる。  皇帝の命令で魔女を捕らえる動きが活発になっていく中、エミル王国との戦争が勃発。そしてウィノラが娼館に隠された秘密が明らかとなっていく。 ヒュー娼館の人々 ウィノラ(娼館で育った第四皇女) アデリータ(女将、ウィノラの育ての親) マイノ(アデリータの弟で護衛長) ディアンヌ、ロラ(娼婦) デルマ、イリーゼ(高級娼婦) 皇宮の人々 ライナー・フックス(公爵家嫡男) バラード・クラウゼ(伯爵、ライナーの友人、デルマの恋人) ルシャード・ツーファール(ギルベアト皇帝) ガリオン・ツーファール(第一皇子、アイテル軍団の第一師団団長) リーヴィス・ツーファール(第三皇子、騎士団所属) オーティス・ツーファール(第四皇子、幻の皇女の弟) エデル・ツーファール(第五皇子、幻の皇女の弟) セリア・エミル(第二皇女、現エミル王国王妃) ローデリカ・ツーファール(第三皇女、ガリオンの妹、死亡) 幻の皇女(第四皇女、死産?) アナイス・ツーファール(第五皇女、ライナーの婚約者候補) ロタリオ(ライナーの従者) ウィリアム(伯爵家三男、アイテル軍団の第一師団副団長) レナード・ハーン(子爵令息) リナ(第二側妃、幻の皇女の母。魔女) ローザ(リナの侍女、魔女) ※フェッチ   力ある魔女の力が具現化したもの。その形は様々で魔女の性格や能力によって変化する。生き物のように視えていても力が形を成したもの。魔女が死亡、もしくは能力を失った時点で消滅する。  ある程度の力がある者達にしかフェッチは視えず、それ以外では気配や感覚でのみ感じる者もいる。

望まない相手と一緒にいたくありませんので

毬禾
恋愛
どのような理由を付けられようとも私の心は変わらない。 一緒にいようが私の気持ちを変えることはできない。 私が一緒にいたいのはあなたではないのだから。

プロローグで主人公が死んでしまう話【アンソロジー】

おてんば松尾
恋愛
プロローグで主人公が死んでしまう話を実は大量生産しています。ただ、ショートショートでいくつもりですので、消化不良のところがあるみたいです。どうしようか迷ったのですが、こっそりこちらでアンソロジーにしようかな。。。と。1話1万字で前後で終わらせます。物語によってはざまぁがない物もあります。 1話「プロローグで死んでしまうリゼの話」 寒さに震えながらリゼは機関車に乗り込んだ。 疲労と空腹で、早く座席に座りたいと願った。 静かな揺れを感じながら、リゼはゆっくりと目を閉じた。 2話「プロローグで死んでしまうカトレアの話」 死ぬ気で城を出たカトレア、途中馬車に轢かれて死んでしまう?

毒姫の婚約騒動

SHIN
恋愛
卒業式を迎え、立食パーティーの懇談会が良い意味でも悪い意味でもどことなくざわめいていた。 「卒業パーティーには一人で行ってくれ。」 「分かりました。」 そう婚約者から言われて一人で来ましたが、あら、その婚約者は何処に? あらあら、えっと私に用ですか? 所で、お名前は? 毒姫と呼ばれる普通?の少女と常に手袋を着けている潔癖症?の男のお話し。

姉の引き立て役の私は

ぴぴみ
恋愛
 アリアには完璧な姉がいる。姉は美人で頭も良くてみんなに好かれてる。 「どうしたら、お姉様のようになれるの?」 「ならなくていいのよ。あなたは、そのままでいいの」  姉は優しい。でもあるとき気づいて─

6回目のさようなら

音爽(ネソウ)
恋愛
恋人ごっこのその先は……

【完結】無罪なのに断罪されたモブ令嬢ですが、神に物申したら上手くいった話

もわゆぬ
恋愛
この世は可笑しい。 本当にしたかも分からない罪で”悪役”が作り上げられ断罪される。 そんな世界にむしゃくしゃしながらも、何も出来ないで居たサラ。 しかし、平凡な自分も婚約者から突然婚約破棄をされる。 隣国へと逃亡したが、よく分からないこんな世界に怒りが収まらず神に一言物申してやろうと教会へと向かうのだった… 【短編です、物語7話+‪α‬で終わります】

処理中です...