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40.毒気を抜かれる
しおりを挟む今日はテスト日ということもあって。
須藤リアンさんと入れ替わりで転入してきたお兄さんを気にする余裕もなく。
私——結菜は、チャイムが鳴ると同時に机に突っ伏した。
「テスト終わった! ボロボロだったけど……」
学園祭以来、大迫くんや須藤さんのことで頭がいっぱいで勉強なんてあまり出来なかったけど、さすがに赤点は免れただろう。
真紀先輩じゃないけど——日頃からコツコツと勉強をしておいて良かったと、この時ほど思ったことはなかった。
そんな感じで、テストの疲労感ハンパない中、
「結菜」
ふと呼ばれて顔を上げると、大迫くんと視線がぶつかった。
その満面の笑みに、くすぐったい気持ちになった私は、なんとなく視線を逸らす。
最近、大迫くんの雰囲気が少しだけ大人びて見えるのは、気のせいだろうか?
「……えっと、大迫くんは……これから部活だっけ?」
「うん。真紀先輩からメッセージが来てるはずだよ」
「ほんとだ! 気づかなかった」
気づくと、スマホには真紀先輩のメッセージが溜まっていた。先輩は返事をするまで何度でも聞いてくるタイプなので、慌ててメッセージを返す私だけど。
そこへ、明美が不満そうな顔をしてやってくる。
「結菜は今日も部活なの?」
「ごめん、明美」
「たまには一緒に寄り道しようよ」
「そうしたいのはやまやまだけど……もうすぐ老人ホームで慰問交流会があるから、そういうわけにもいかないんだよね」
「もう、真面目なんだから。それに慰問交流会って……ジジババと遊んで何が楽しいの?」
「明美、そういう言い方はよくないよ」
「だって……奇術部に入ってから、ほとんど一緒にいないじゃん」
「うん、そうだね。なら、明日にしようよ。明日の土曜日は奇術部がお休みだし」
「……え、奇術部って土曜日もあるの?」
「だから明日は休みだって」
「そうじゃなくて、普段は土曜日も活動してるの?」
「たまにだけど」
「あんた……学生生活をもっと盛り上げたいとか思わないわけ?」
「奇術部はいつも盛り上がってるよ」
「そういうのじゃなくて、もっと恋とか彼氏とかデートとか……」
「どれも恋愛ワードだね」
「だって、高校生になってもう半年以上経ってるんだよ?」
「……そうだけど」
「それなのに結菜には彼氏の一人もいないんだよ? ていうか、奇術部にあれだけイケメンが集まってるのに、何もないなんて勿体ない」
「何もないって何が?」
明美の言葉に、目を瞬かせる大迫くん。
明美はそんな大迫くんの肩をがっしりと掴んで告げる。
「……大迫くん、せめて自分の気持ちを自覚できるようになりなよ」
「え?」
大迫くんが目を丸くする中、今度は転入生の男の子がやってくる。
「ねぇ、なんの話をしてるの?」
「須藤さんのお兄さん」
堂々とやってきた悪い魔法使いに、私が動揺していると、須藤兄は人懐っこい笑みを浮かべた。
「拓未だよ。今朝先生が紹介したよね。リアンも須藤だし、名前で呼んでほしいな」
その言葉に、私は躊躇うもの、須藤兄の言い分に納得しないまでもなく。
「……じゃあ、拓未くん」
仕方なく私がその名前を口にすると、拓未くんはまるで今までのことが嘘みたいに、嬉しそうな顔をする。
「拓未でいいよ。そのかわり結菜ちゃんって呼んでもいい?」
「えっと……それはかまわないけど……」
「この間は魔法で攻撃してきた君が、どうして結菜に近づこうとするの?」
険しい顔で威嚇する大迫くんに、私は思わず「ごもっともです」と呟いてしまった。
けど、拓未くんは気にする風もなく、笑顔を崩すことはなかった。
「だって、大魔法使いがこんな風に手元に女の子を置いてるなんて珍しいから、興味がわいたんだ」
「大魔法使い?」
拓未くんの言葉に、首を傾げる明美。
そうだよね。明美は何も知らないんだよね……。
「あ、えっと。大迫くんのあだ名なんだ。奇術部の」
「実力はアレなのに、名前だけは大層だね」
「そ、そうかもね……はは」
……なんで私がこの人のことまで誤魔化さなきゃいけないんだろう。
クラスメイトの注目を浴びていることに気づいた私は、大迫くんの制服の裾を引いて小さく告げる。
「ねぇ、大迫くん。早く奇術部に行こうよ。先輩たちが待ってるよ」
すると、そばで聞いていた拓未くんがニコニコしながら割り込んでくる。
「……それ、俺も見学してもいいかな?」
「はあ?」
私が瞠目していると、大迫くんが敵意むきだしで拓未くんを睨みつける。
「ダメだよ。君はだめ」
「どうして? 今日は何もしないよ?」
「君みたいな存在は、結菜に悪影響だから」
「あー、なるほど。結菜ちゃんを俺に取られたくないんだね」
クスクスと笑う拓未くんは、何を考えているのかわからなかったけど、最初と全然雰囲気が違っていて、なんとなく毒気を抜かれてしまう。
けど、大迫くんはあからさまに不機嫌な様子で、いつになく怒った顔をしていた。
そんな中、拓未くんと大迫くんのやりとりを見ていた明美が嬉しそうに二人を比べる。
「え? なに? もしかして大迫くんにライバル登場?」
「ちょっと、明美。変なこと言わないで」
「いいじゃん、これで結菜と大迫くんが進展するなら」
「だから、明美がいくら期待しても、何もないから!」
「わかった。期待してるから、奇術部でこのあと何かあったら教えてね」
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