アンチ悪役令嬢の私がなぜか異世界転生して変人王子に溺愛される話

悠木全(#zen)

文字の大きさ
36 / 80
第二章

36.どこかあの人に似ている魔王

しおりを挟む

  ***



 それから数日後。冬が厳しいキウイ王国は豪雪に見舞われた。そんな中、エキゾチックな虹色の衣を纏った私たちは、魔王を歓待すべく王城に上がった。

 見れば、王座は異様に華美なさまで、中心に座る魔王も美しい姿をしていた。

 二本のツノが生えている魔王は、ちょっとだけジンテール殿下に似ていて、思わず二度見しそうになったけど——なんとか堪えて、笑顔を貼り付けた顔で酌をした。

 踊り娘に扮した聖女たちが、艶やかに舞いを繰り広げる中、魔王は退屈そうな顔をしていた。

 ちなみに魔法陣はすぐ近くの部屋に張ってあるという。

 複数の聖女たちが力を合わせて魔法陣を作っているそうだ。

 魔王をなんとか酔わせてそこまで連れて行くのが私たちの仕事だけど、上手くいくのかな?

「ほほう。この国には美しい女が揃っているのだな」

「あら魔王様、お上手ですこと」

 すぐ傍で酌をするメラニンに、魔王が触れようとするもの、メラニンは笑いながらかわしていた。

 聖女とは思えない宴会スキルである。私も会社の宴会で上司に触られそうになったけど、露骨に嫌な顔をすることしか出来なかったんだよね。

 それでお叱りを受けるなんて、時代錯誤も甚だしい会社だったけど。

 そんな痛い過去を思い出しながら酌をしていると、今度は魔王が私の顔を覗き込んだ。

 顔は布で半分隠してあるけど、何かおかしなところがあっただろうか?

「こっちの娘もなかなかだな。どうだ、今夜の夜伽はお前が——」 
 
「よ、よとぎっ!?」

 すぐ近くで、ぎょっとした声が響いた。どうやらグクイエ王子も話を聞いていたらしい。

 グクイエ王子もエキゾチックな衣装に身を包んでいたけど、そのガタイの良さは隠しきれないでいた。

 そしてそんなグクイエ王子の存在に気づいた魔王が、目を細めて私の後ろを見た。

「なんだ、お前は本当に女か? 良い体格をしているな」

「彼女は剣舞を担当していますわ」 

 メラニンがすかさずフォローを入れながら酌をしていた。すると魔王は豪快に笑って告げる。

「なるほど。剣の使い手なのか。どうりで他の人間とは違う空気を持っているな。まるであの男のようだ」

「空気ですか?」
  
 私が何気なく訊ねると、魔王は微笑ましそうに酒を口にする。

「はるか昔、この私を追い詰めた男がいてな。とても良い腕をしていたんだ。お前たちが生まれるずっと前の話だ」

「なんだか幸せそうですね」 

 思わず私がそう口にすると、メラニンの顔に緊張が走る。なんとなく魔王の雰囲気が優しくて油断してしまった。

 魔王は面白いものでも見るような目で、私を見る。そんなところが、やっぱりジンテール殿下によく似ていた。

「ああ、幸せだったんだ。あの頃は、毎日のように私を倒すと言ってやってきた王子との戦いが……何より……も……」

 ふいに、魔王が会話の途中で眠ってしまった。私が目を丸くしていると、メラニンが耳元で告げる。

「薬が効いてきたようですね」

「酔わせるんじゃなかったの?」

「こっちの方が早いでしょう?」

「まあ、そうだけど」

「早く魔法陣のところに連れて行きましょう。グクイエ殿下、お願いします」

 メラニンに頼まれて、グクイエ王子は居眠りする魔王の腕を肩に絡めた。

 そしてグクイエ王子が魔王を引きずるようにして近くの部屋に移動する中、途中で何人もの兵士や臣下に出くわしたけど、みんな見て見ぬふりをしていた。

 みんな、魔王に操られているわけではないんだね。

 すんなりと道が開いて、近くの部屋へと移動した私たちは、魔王を連れて魔法陣を踏むけど——。

「なるほど、こういうことか」

 魔法陣の中心に座らせるなり、魔王が目を開いた。

 聖女たちに緊張が走る中、メラニンは声高に告げる。

「これであなたはもう最後ですわね」

 けど、魔王は追い詰められているはずなのに、そんな顔はしてなくて——高らかに笑った。

 王城に魔王の笑い声が響き渡る中、聖女たちが怯えたように顔を青くする。

 私にはよくわからないけど、魔王の声は人を服従させることができるらしい。

 だから、聖女たちは慌てて呪文を唱え始めた。魔法陣に閉じ込めるためだ。

 そしてグクイエ王子は腰に下げていた勇者の剣を抜くと、魔王の頭上に掲げた。

しおりを挟む
感想 101

あなたにおすすめの小説

子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました

もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!

異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。

和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……? しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし! 危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。 彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。 頼む騎士様、どうか私を保護してください! あれ、でもこの人なんか怖くない? 心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……? どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ! 人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける! ……うん、詰んだ。 ★「小説家になろう」先行投稿中です★

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

異世界に落ちて、溺愛されました。

恋愛
満月の月明かりの中、自宅への帰り道に、穴に落ちた私。 落ちた先は異世界。そこで、私を番と話す人に溺愛されました。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

処理中です...