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第二章
36.どこかあの人に似ている魔王
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それから数日後。冬が厳しいキウイ王国は豪雪に見舞われた。そんな中、エキゾチックな虹色の衣を纏った私たちは、魔王を歓待すべく王城に上がった。
見れば、王座は異様に華美なさまで、中心に座る魔王も美しい姿をしていた。
二本のツノが生えている魔王は、ちょっとだけジンテール殿下に似ていて、思わず二度見しそうになったけど——なんとか堪えて、笑顔を貼り付けた顔で酌をした。
踊り娘に扮した聖女たちが、艶やかに舞いを繰り広げる中、魔王は退屈そうな顔をしていた。
ちなみに魔法陣はすぐ近くの部屋に張ってあるという。
複数の聖女たちが力を合わせて魔法陣を作っているそうだ。
魔王をなんとか酔わせてそこまで連れて行くのが私たちの仕事だけど、上手くいくのかな?
「ほほう。この国には美しい女が揃っているのだな」
「あら魔王様、お上手ですこと」
すぐ傍で酌をするメラニンに、魔王が触れようとするもの、メラニンは笑いながら躱していた。
聖女とは思えない宴会スキルである。私も会社の宴会で上司に触られそうになったけど、露骨に嫌な顔をすることしか出来なかったんだよね。
それでお叱りを受けるなんて、時代錯誤も甚だしい会社だったけど。
そんな痛い過去を思い出しながら酌をしていると、今度は魔王が私の顔を覗き込んだ。
顔は布で半分隠してあるけど、何かおかしなところがあっただろうか?
「こっちの娘もなかなかだな。どうだ、今夜の夜伽はお前が——」
「よ、よとぎっ!?」
すぐ近くで、ぎょっとした声が響いた。どうやらグクイエ王子も話を聞いていたらしい。
グクイエ王子もエキゾチックな衣装に身を包んでいたけど、そのガタイの良さは隠しきれないでいた。
そしてそんなグクイエ王子の存在に気づいた魔王が、目を細めて私の後ろを見た。
「なんだ、お前は本当に女か? 良い体格をしているな」
「彼女は剣舞を担当していますわ」
メラニンがすかさずフォローを入れながら酌をしていた。すると魔王は豪快に笑って告げる。
「なるほど。剣の使い手なのか。どうりで他の人間とは違う空気を持っているな。まるであの男のようだ」
「空気ですか?」
私が何気なく訊ねると、魔王は微笑ましそうに酒を口にする。
「はるか昔、この私を追い詰めた男がいてな。とても良い腕をしていたんだ。お前たちが生まれるずっと前の話だ」
「なんだか幸せそうですね」
思わず私がそう口にすると、メラニンの顔に緊張が走る。なんとなく魔王の雰囲気が優しくて油断してしまった。
魔王は面白いものでも見るような目で、私を見る。そんなところが、やっぱりジンテール殿下によく似ていた。
「ああ、幸せだったんだ。あの頃は、毎日のように私を倒すと言ってやってきた王子との戦いが……何より……も……」
ふいに、魔王が会話の途中で眠ってしまった。私が目を丸くしていると、メラニンが耳元で告げる。
「薬が効いてきたようですね」
「酔わせるんじゃなかったの?」
「こっちの方が早いでしょう?」
「まあ、そうだけど」
「早く魔法陣のところに連れて行きましょう。グクイエ殿下、お願いします」
メラニンに頼まれて、グクイエ王子は居眠りする魔王の腕を肩に絡めた。
そしてグクイエ王子が魔王を引きずるようにして近くの部屋に移動する中、途中で何人もの兵士や臣下に出くわしたけど、みんな見て見ぬふりをしていた。
みんな、魔王に操られているわけではないんだね。
すんなりと道が開いて、近くの部屋へと移動した私たちは、魔王を連れて魔法陣を踏むけど——。
「なるほど、こういうことか」
魔法陣の中心に座らせるなり、魔王が目を開いた。
聖女たちに緊張が走る中、メラニンは声高に告げる。
「これであなたはもう最後ですわね」
けど、魔王は追い詰められているはずなのに、そんな顔はしてなくて——高らかに笑った。
王城に魔王の笑い声が響き渡る中、聖女たちが怯えたように顔を青くする。
私にはよくわからないけど、魔王の声は人を服従させることができるらしい。
だから、聖女たちは慌てて呪文を唱え始めた。魔法陣に閉じ込めるためだ。
そしてグクイエ王子は腰に下げていた勇者の剣を抜くと、魔王の頭上に掲げた。
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