アンチ悪役令嬢の私がなぜか異世界転生して変人王子に溺愛される話

悠木全(#zen)

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第三章

48.アコリーヌ

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 ***



 私が生まれたのは、本当に小さな集落だった。お父さんと、お母さん、そして弟のいる私の家は、貧しくて明日食べる物にも困っていた。

「アコリ、これを食べなさい」

「わあ! 今日はごちそうだね。どうしたの?」

 冬の寒さがドアの隙間から漏れるボロ家のテーブルで、私はお母さんが出してくれた木の器を前にごくりと喉を鳴らした。

 お肉の入ったスープを見るのも初めてかもしれない。

 私は木のスプーンで勢いよく暖かいスープをかきこんだ。

 甘くてしょっぱい味がした。身も心も温かくなった私は、眠い目をこすりながらお母さんにおかわりをおねだりする。

「ごめんなさいね。ごちそうはそれだけなの。でも大丈夫よ、あなたは明日から毎日こんなごちそうが食べられるから——イイ子にしていればね」

「明日から?」

 七つになったばかりの私は、母の言った意味を理解するだけの知力も経験も持ち合わせてはいなかった。

 そして幸せな気持ちのまま眠りについた翌日、私は孤児院に連れていかれた。


 
 アコリーヌという名を与えられ、孤児院で新しい生活をすることになった私は、最初泣いてばかりだった。

 けど、そんな私も二度と家に戻ることができないとわかると、もう泣くこともなくなった。

 それに孤児院にはあったかい寝床も、美味しいご飯もあるから、それ以上泣く理由もなかった。

 お母さんと離れる事よりも、衣食住がきちんと保障される方が楽だったのだ。

 それだけ過酷な生活をしてきた。だから、自分だけ幸せになるのは、ちょっと気が引けたけど、それでもいつか私が大人になって働けるようになったら、お母さんやお父さんの力になれるということを教えてもらった。

 孤児院では男の子は勉強や武術を、女の子は裁縫や料理を学んだ。

 頑張れば、王宮に仕えることもできると言われて、私は毎日手を血だらけにしながら刺繍を勉強した。

 孤児院には一生いられるわけじゃないけど、十四歳までは生活を保障してくれると言っていた。

 だから私も安心して暮らしていたけど、一つだけ問題があった。

「うわ、こいつまた汚い刺繍をしてやがる。血まみれの刺繍なんか見えやしねぇ」

「うるさいわね。あんたこそ、勉強もろくに出来ないくせに文句ばっかり言ってんじゃないわよ」

 同じ年の中でも小さな私は、いじめっ子の標的になった。と言っても、私も十歳になる頃には負けたりしなかったけど。

 とくにゴリランという美少女みたいな外見の男子が、私によく喧嘩をふっかけてきた。

 ただ、一度ボコボコにしたら、ゴリランは泣いてしまって、孤児院のママにこっぴどく叱られたから、それ以来、腕力にものを言わせるのはやめたのよね。

 そして向こうも喧嘩で勝てないことを知ってからは、遠巻きに悪口を言ってくる程度になっていた。

 これはもう、いじめというより、ただの構ってちゃんだと思うんだけど……孤児院のママはいつも仲良くしなさいと言った。

 悪口を言う人と仲良くしなきゃいけないなんて、子供社会も大変よね。でもだからといって、それほど悪い暮らしだとは思っていなかった。

 ドブネズミみたいな生活を送っていた過去に比べれば、可愛いものだわ。だからお父さんやお母さんにも、早く楽をさせてあげたいと思った。

 そんなある日のことだった。

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