60 / 80
第三章
60.聖女の選択
しおりを挟む「……結局、アコリーヌを助けるために魔王を討伐するつもりだったのに、アコリーヌに助けられてしまったね」
魔王を討伐した帰り道、すっかり明るくなった森の中でグクイエ王子がため息混じりに言った。
「これで、アコリーヌはまた閉じ込められてしまうのでしょうか?」
ゴリランも、不安そうな顔をする。二人とも、魔王を眠らせた喜びよりも私の今後について心配しているようだった。
けど、強大な力を内包していることを自覚した私は、これ以上王様に振り回されるつもりはなかった。
だって、私は魔王をも倒す聖なる女の子なんだよ? なのに、ただの人間である王様を怖がってどうするのよ。だから私は、二人を安心させるように告げる。
「大丈夫。私が国王陛下を説得してみせるわ」
「……君が?」
グクイエ王子が目を丸くする中、ゴリランも驚いた顔をしていた。
けど、無敵の力を自覚したせいか、今の私は王様にも負けない気がしていた。
そして私たちが帰還すると、案の定、王様は私を王城に閉じ込めるつもりだった。
「アコリーヌよ、今後も我が城で暮らすが良い」
謁見の間で突きつけられたのは、絶望的な未来だった。
私は頭を上げてハッキリと告げる。
「いいえ。私はゴリランの神殿に身を置かせてもらうことにします」
初めて王様に楯突いたことで、周囲にいた衛兵たちが槍を構えた。この国では王様が一番偉いということだけど、そんなの私にはどうでもよかった。
「国王陛下、私は魔王を眠らせたに過ぎません。今後また魔王が復活することもあるかもしれませんし……ですから、私は新しい聖女を育てようと思います」
「ほう? 新しい聖女だと?」
王様は今にも飛び出しそうな衛兵たちを手で合図して下がらせた。そして私の言葉に耳を傾ける。
「そうです。もしかしたら、私が死んだ後に魔王が復活するかもしれません。それに私が長生きできるとは限りませんし……ですから、新しい聖女を育てるために、私は神殿を拠点とし、旅に出ようと思います」
「なるほど。そなたは後世の民のことまで考えるというのか。これは恐れ入った——だが、もし私が承諾しなかったら、どうするつもりなのだ?」
「そうですね。でしたら、力づくでわかっていただこうかと。魔王を倒した私ですから、王様を倒すくらいワケないですし」
その言葉に、周囲の衛兵たちが再び槍を構えた。けど、私はそんなもの怖くなかった。それよりも、一生部屋に閉じ込められるのは嫌だし、今のうちに牽制しておくべきだと思った。
そして私が周囲の衛兵をさりげなく睨みつけてやると、衛兵たちは震え上がる。なんだか滑稽だったけど、王様だけは笑っていた。
「……なんとも恐ろしい娘だ。承知した。好きにするといい」
「ありがとうございます、陛下」
こうして私の交渉は上手くいったわけだけど、謁見の間を出ると————グクイエ王子が不満げな顔で待ち構えていた。
「ゴリランのところに行くって本当?」
グクイエ王子の責めるような言葉に、私は目を逸らす。
魔王の前ではグクイエ王子の気持ちを受け入れた私だけど、その後も私たちは変わらなかった。
ゴリランの気持ちを知ってしまった手前、お互いにそれ以上踏み込むことができなかった。
だから、今の関係を壊したくない私は、なんでもない風を装って告げる。
「ええ。ゴリランの神殿をもらいました」
「王城にはもう戻ってこないの?」
「いいえ。ときどき、グクイエ王子の顔を見にきます」
「ときどき?」
「毎日は無理かもしれません。これから大仕事が待っているので」
「本当に、聖女探しの旅に出るの?」
「はい」
「ゴリランと一緒に?」
「そうですね。ゴリランが来てくれるなら心強いですけど」
「だったら、僕も行くよ」
「え? 何を言ってるんですか。あなたは一国の王子でしょう?」
「国を継ぐのは、王太子の役目だから、第二王子の僕が旅をしても問題ないよ」
「でも、危険もいっぱいありますよ」
「魔王以上の危険があると思う? 僕にだって見聞を広める権利はあると思うんだ」
「……止めても無駄のようですね」
「わかってくれる?」
そう言ってグクイエ王子はまだ幼さが残る顔で笑顔を見せた。
それから私は、私と同じ力を持つ女の子を探すべく旅に出た。
噂や伝説を頼りに国じゅうを渡り歩いたけど、私のような力を持つ少女に出会うことはなかった。
ちなみに私たちが訪れたどんな村や町も——私が聖女だと言っても信じてくれなかったので、国王の使者として新しい聖女を探すしかなかった。
40
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
異世界もふもふ死にかけライフ☆異世界転移して毛玉な呪いにかけられたら、凶相騎士団長様に拾われました。
和島逆
恋愛
社会人一年目、休日の山登り中に事故に遭った私は、気づけばひとり見知らぬ森の中にいた。そしてなぜか、姿がもふもふな小動物に変わっていて……?
しかも早速モンスターっぽい何かに襲われて死にかけてるし!
危ういところを助けてくれたのは、大剣をたずさえた無愛想な大男。
彼の緋色の瞳は、どうやらこの世界では凶相と言われるらしい。でもでも、地位は高い騎士団長様。
頼む騎士様、どうか私を保護してください!
あれ、でもこの人なんか怖くない?
心臓がバクバクして止まらないし、なんなら息も苦しいし……?
どうやら私は恐怖耐性のなさすぎる聖獣に変身してしまったらしい。いや恐怖だけで死ぬってどんだけよ!
人間に戻るためには騎士団長の助けを借りるしかない。でも騎士団長の側にいると死にかける!
……うん、詰んだ。
★「小説家になろう」先行投稿中です★
【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。
そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。
毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。
もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。
気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。
果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは?
意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。
とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。
『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』
透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。
「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」
そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが!
突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!?
気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態!
けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で――
「なんて可憐な子なんだ……!」
……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!?
これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!?
ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました
あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。
どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる