アンチ悪役令嬢の私がなぜか異世界転生して変人王子に溺愛される話

悠木全(#zen)

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第三章

60.聖女の選択

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「……結局、アコリーヌを助けるために魔王を討伐するつもりだったのに、アコリーヌに助けられてしまったね」

 魔王を討伐した帰り道、すっかり明るくなった森の中でグクイエ王子がため息混じりに言った。

「これで、アコリーヌはまた閉じ込められてしまうのでしょうか?」

 ゴリランも、不安そうな顔をする。二人とも、魔王を眠らせた喜びよりも私の今後について心配しているようだった。

 けど、強大な力を内包していることを自覚した私は、これ以上王様に振り回されるつもりはなかった。

 だって、私は魔王をも倒す聖なる女の子なんだよ? なのに、ただの人間である王様を怖がってどうするのよ。だから私は、二人を安心させるように告げる。

「大丈夫。私が国王陛下を説得してみせるわ」

「……君が?」

 グクイエ王子が目を丸くする中、ゴリランも驚いた顔をしていた。

 けど、無敵の力を自覚したせいか、今の私は王様にも負けない気がしていた。

 そして私たちが帰還すると、案の定、王様は私を王城に閉じ込めるつもりだった。

「アコリーヌよ、今後も我が城で暮らすが良い」

 謁見えっけんの間で突きつけられたのは、絶望的な未来だった。

 私は頭を上げてハッキリと告げる。

「いいえ。私はゴリランの神殿に身を置かせてもらうことにします」

 初めて王様に楯突いたことで、周囲にいた衛兵たちが槍を構えた。この国では王様が一番偉いということだけど、そんなの私にはどうでもよかった。

「国王陛下、私は魔王を眠らせたに過ぎません。今後また魔王が復活することもあるかもしれませんし……ですから、私は新しい聖女を育てようと思います」

「ほう? 新しい聖女だと?」

 王様は今にも飛び出しそうな衛兵たちを手で合図して下がらせた。そして私の言葉に耳を傾ける。

「そうです。もしかしたら、私が死んだ後に魔王が復活するかもしれません。それに私が長生きできるとは限りませんし……ですから、新しい聖女を育てるために、私は神殿を拠点とし、旅に出ようと思います」

「なるほど。そなたは後世の民のことまで考えるというのか。これは恐れ入った——だが、もし私が承諾しなかったら、どうするつもりなのだ?」

「そうですね。でしたら、力づくでわかっていただこうかと。魔王を倒した私ですから、王様を倒すくらいワケないですし」

 その言葉に、周囲の衛兵たちが再び槍を構えた。けど、私はそんなもの怖くなかった。それよりも、一生部屋に閉じ込められるのは嫌だし、今のうちに牽制しておくべきだと思った。

 そして私が周囲の衛兵をさりげなく睨みつけてやると、衛兵たちは震え上がる。なんだか滑稽だったけど、王様だけは笑っていた。

「……なんとも恐ろしい娘だ。承知した。好きにするといい」

「ありがとうございます、陛下」

 こうして私のは上手くいったわけだけど、謁見の間を出ると————グクイエ王子が不満げな顔で待ち構えていた。

「ゴリランのところに行くって本当?」

 グクイエ王子の責めるような言葉に、私は目を逸らす。

 魔王の前ではグクイエ王子の気持ちを受け入れた私だけど、その後も私たちは変わらなかった。

 ゴリランの気持ちを知ってしまった手前、お互いにそれ以上踏み込むことができなかった。

 だから、今の関係を壊したくない私は、なんでもない風を装って告げる。

「ええ。ゴリランの神殿をもらいました」

「王城にはもう戻ってこないの?」

「いいえ。ときどき、グクイエ王子の顔を見にきます」

「ときどき?」

「毎日は無理かもしれません。これから大仕事が待っているので」

「本当に、聖女探しの旅に出るの?」

「はい」

「ゴリランと一緒に?」

「そうですね。ゴリランが来てくれるなら心強いですけど」

「だったら、僕も行くよ」

「え? 何を言ってるんですか。あなたは一国の王子でしょう?」

「国を継ぐのは、王太子の役目だから、第二王子の僕が旅をしても問題ないよ」

「でも、危険もいっぱいありますよ」

「魔王以上の危険があると思う? 僕にだって見聞を広める権利はあると思うんだ」

「……止めても無駄のようですね」

「わかってくれる?」

 そう言ってグクイエ王子はまだ幼さが残る顔で笑顔を見せた。

 それから私は、私と同じ力を持つ女の子を探すべく旅に出た。

 噂や伝説を頼りに国じゅうを渡り歩いたけど、私のような力を持つ少女に出会うことはなかった。

 ちなみに私たちが訪れたどんな村や町も——私が聖女だと言っても信じてくれなかったので、国王の使者として新しい聖女を探すしかなかった。
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