先王に仕えていた大魔法使い、転生したら剣士としては最弱ですが、剣聖を目指します!

悠木全(#zen)

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第一章 転生したら剣聖の家系だった

15.嘘は後から剥げる

 グエンラルの街に戻ると、イマジンの身柄はコトが引き取ることになった。王城に連れて行き、奴隷売買について調査してくれるという。またロームたちの生活も保障してくれるというので、レオは安心してエドとともに冒険者ギルドに向かった。

「今日の報告はレオくん、キミにお願いするよ」

「え? 俺がですか? ギルドマスターも一緒だったのに」

「僕はこれから仕事があるので、代わりにアエナさんに報告をお願いするよ」

「……わかりました」

「それよりレオくんは知っているかな?」

「何がですか?」

「コト・レドル様は、【鑑定スキル】を持っているそうだよ」

「……そうですか」

 レオがやっぱり、と思っていると、エドは含みのある笑みを浮かべる。
 だが、たとえコト・レドルが【鑑定スキル】を持っていたとしても、怖くはなかった。
 なぜならレオには【隠蔽いんぺいスキル】があるからだ。相手の能力を把握することができる【鑑定スキル】は最強だが、【隠蔽スキル】で能力を隠してしまえば、ある程度は誤魔化すこともできるだろう。
 だからレオは余裕の笑みさえ浮かべて、エドに告げる。

「俺の剣士としての能力もコト・レドル様にはバレているということですね」

「……そうだね」

「落ちこぼれなので、さぞ呆れたでしょうね」

「でもなぜ、コト様はレオくんに魔法使いかと尋ねたんだろう」

「さあ、なぜでしょう。魔力量が多かったのでしょうか」

 よくそんな会話を覚えていたものだと思いながらも、レオは焦りはしなかった。魔力が高い剣士は、世の中にいくらでもいるのだから。たとえコトの【鑑定スキル】がレオの【隠蔽スキル】を上回ったとしても、レオの前世まで知ることはできないだろう。
 コトの言葉の真意について考えていると、エドが唐突に話題を変えた。

「それより、レオくんは裁縫はできる?」

「裁縫、ですか? そうですね。今は家族の元を離れているので、繕いものは自分でしないといけませんね」

「貴族でありながら、自分の力で解決しようとする精神は素晴らしいね」

「今は一人なので、誰かに頼ることもできませんから」

 むしろ、誰にも手伝ってもらわなくて済むことが心地良かった。侯爵家ともなれば、メイドの数も多いわけだが、着替えから風呂まで世話をされることが、いまだに耐えられなかった。
 独り立ちに向けて、なんでも一人でこなす練習をさせられたが、その間もメイドたちの視線が痛かった。

 心配してくれるのは有り難いが、世話を焼きたい気持ちは全く理解できなかった。それがメイドの仕事だと言われても、おかしい。仕事が休めるなら、嬉しいことではないのだろうか。
 だが、そんなことを思うことこそ、仕事に誇りを持つメイドを侮辱することになるかもしれない。
 などと考えすぎる傾向のあるレオなので、気を遣う必要のない今が、何よりホッとするのは間違いなかった。

「頼ることができないという割に楽しそうだね。一人は気楽?」

「はい、楽しいです。寂しいと思う時もありますが、やっぱり一人は落ち着きます……」

「貴族の子息とは思えないね。そういえば、僕の友人も同じようなことを言っていたよ。広い屋敷に住みながら、ほとんど召使いを雇わなかったんだよ。本人は、暗殺とか面倒だからと言っていたけれど、人を信用しないにもほどがあるね」

「……でも、下働きの人だって人間ですから、仕入れた食材に毒が入っていても、気づかないことがあるんじゃないですか?」

「だから信用のおける人を紹介するって言ったんだよ。僕の部下は皆優秀だからね。それに、友人には【毒耐性】だってあったんだよ。たとえ毒を盛られても死ぬわけがないんだ」

「……」

 エドがカザザの話をしていることはわかった。だが、カザザが毒にやられたかもしれないと言ったら、どう思うのだろうか。もしかしたら笑われるかもしれないが、だからといって、レオが言えるはずもなかった。

「それで、レオくんは宿暮らしをしているの?」

「はい。『満月フルムーン』という宿で」

「ああ、あの宿はいいね。安くて清潔だ。友人もよく泊まっていたんだよ。食事も悪くないし」

「そうですね。食堂も併設されているので、安いし助かっています」

「大貴族の子息とは思えない経済観念だね」

「家からの援助はないもので」

「剣聖の道は厳しいね。でも今回の報酬で少しは楽になるだろう」

「今回の報酬? 見学しかしていませんが」

「ギガントゴブリンが地上に出ることを防いでくれたから、国から報奨金が出ると思うよ。あと、奴隷商人を捕まえてくれた件もね」

「ギガントゴブリンも、奴隷商人も、処理したのはコト・レドル様でしょう? 俺は何もしていません」

「いやいや、レオくんのお手柄だよ。ギガントゴブリンを弱らせたのは、レオくんの作戦のおかげだ。それにロームの後見人の契約書を偽物だと見抜いたのはレオくんだろう?」

「後見人の書類はただの予想ですよ。俺には印影が本物かどうかなんてわかりませんから」

「キミは、謙虚なのか、ひねくれているのか」

「俺は事実を言っただけです。それと、冒険者登録はこれで可能になるんでしょうか? それともまだ見学が必要ですか」

「ああ、それはもう大丈夫」

 会話している間に、二人は冒険者ギルドに到着する。
 受付を見れば、アエナとガーネットが、何か込み入った話をしているようだった。

「アエナさん、どうかした?」

「あ、エド様」

 エドが受付カウンターに入るなり、アエナの兎耳がピンと立つ。待っていたと言わんばかりだ。

「実は、ガーネットさんにランクの昇級を伝えていたのですが、ガーネットさんが納得してくれなくて……」

「例の人食いトロールの件でSSランクに昇級って話だね」

 エドの言葉を聞いて、レオが気まずい顔になる。『ノース一行』が実は人食いトロールで、しかもレオが倒した話だった。
 最低ランクから始めたいので、手柄をガーネットに押し付けたわけだが、それがまさか昇級に関わってくるとは思いもよらず。ガーネットが笑顔でレオを睨んでいる。さすがのガーネットも承服できない様子だった。

「どうしてガーネットさんはSSランクに昇級したくないんですか?」

「そういうのは、まごうことなき実力で到達したいからよ」

 レオの問いに、ガーネットは刺々しく返す。いつも明るく優しいガーネットだが、怒ることもあるようだ。

「そうだ! だったら、オッティさんのランクを上げたらいいじゃない? トロールを倒したのは、ほとんどオッティさんの魔法なんだから!」

 ガーネットが良い提案とばかりに顔を輝かせると、受付嬢のアエナは「なるほど」と書類に何かを書き込んだ。

「オッティさんはほとんど見物していただけと言っていましたが……共闘されたのなら、話は変わってきますね」

「そうそう! 一緒に頑張って戦ったの! オッティさんの白い炎と、私の剣が合わさって、バビューンとトロールの首を飛ばしたんだからっ」

 ガーネットがまくし立てるように言うと、アエナがまた書類に書き込む。だがレオは焦ったようにガーネットを見る。きっとガーネットは忘れているのだろう、白い炎が誰にでも出せるわけではないことを。
 レオは涼しい顔で笑いながらも、内心は緊張していた。オッティが加勢していないことがバレたら、レオが嘘をついたこともバレる。人食いトロールを倒しただけで、まさかこんなややこしい状況になるとは思わなかった。

「えっと、オッティさんの炎は白くなかったと思いますよ。ガーネットさんの見間違いじゃないですか?」

「え、あの時の炎は白くなかった? おかしいな、確かに白かったと思うんだけど」

「いえ、炎は赤かったです。ガーネットさん……必死に戦っていたから、記憶があやふやなんじゃないんですか?」

「そんなことないよ! 確かにレオくんの炎は白か——」

 言いかけて、口を押さえるガーネット。自分の失言に気づいて、レオを恐る恐る見つめる。レオは少し泣きそうになりながら、周囲を見回した。

「オッティさん! どこかにオッティさんいませんか⁉︎」

 ガーネットが天然だと知ったからには、オッティを頼るしかなかった。オッティなら、うまくこの場を繋いでくれるだろう。そう思っていたが、ギルドマスターを誤魔化せるはずもなかった。

「レオくんの白い炎? なるほど、トロールはレオくんとガーネットさんで倒したと」

「いえ、違います! 俺は見ていただけなんです!」

「なら、オッティくんにも確認してみよう」

 ちょうどその時、入り口から『オッティ一行』がやってくる。エドがにっこり笑って手招きすると、オッティは困惑気味にカウンターまでやってくる。

「なんだ? ギルドマスター、何か用か?」

「オッティくん、キミはガーネットさんと一緒にトロールを倒したと言ったね? その時、どうやって倒したんだい?」

「ああ、トロールは土属性の半魔物だからな。俺だったら弱点の——水属性の魔法を使うな」

「そうだよね。ありがとう、オッティくん」
 
 エドは笑ったままレオを見下ろす。だが、低い声音で刺すように告げた。

「おかしいね。話が一致しないなんて。何が本当なのかな?」

「俺は嘘をついていません」

「まだそんなことを……ガーネットさん、もし今回の話が嘘だとしたら、冒険者資格の剥奪もやむをえません。けど、今素直に本当のことを言ってくれるのなら、不問にしよう」

「お、脅しですか⁉︎」

 レオがエドを睨むと、エドは相変わらず感情の見えない笑みを浮かべる。

「脅し? 違うよ。事実を報告するのは当然の義務でしょう? 勘違いしちゃいけない、僕は正しい情報が知りたいだけなんだ。——で、ガーネットさん、オッティくん、どうなんだい? 本当にトロールはいたのかな? そしてトロールはキミたちが退治したの?」

「え、そ、それはっ」

 ガーネットがレオの顔をちらちらと見る中、オッティがため息を吐いて頭をかく。

「トロールを倒したのはそいつ一人だよ」

 オッティに指を差されて、レオが顔面蒼白になったのは言うまでもない。



「それで、どうしてあんな嘘をついたの? 剣聖が知ったら、何を思うことやら」

「……ぐっ」
 
 ギルドマスターの執務室に通されたレオは、革張りのソファに座らされ、尋問を受けていた。
 ちなみにトロールを倒したのがレオだとバレたことで、オッティとガーネットの昇級はなくなったのだが、かといって冒険者登録を剥奪されることもなく、等級は現状維持ということになった。

「詳しい話を教えてくれるね? いったい、何があったんだい?」

「……『ノース一行』は、人間を食ったことで、人語を解するだけでなく、人間になることができるようでした。ノースたちは、これまでの討伐見学者を食ったんだと思います。それで今度は俺を殺そうとしたから、反撃しただけで……」

「だったら、そのまま報告すれば良かっただろう? 何が問題なの?」

「……父様は魔法使いが嫌いなんです。立派な剣士にならなければ、家を追い出すと言われて……」

「なるほど、魔法で倒したことが問題なんだね。確かに、キミが魔法で倒したとなると、冒険者登録の情報も変わってくるしね」

「あの、お願いです! 今回のトロールの件、なかったことにしていただきたいんですが」

「そうしたいのはやまやまだけど、情報を改ざんするわけにはいかないからね。今回の件は、魔法使いがトロールを倒したと記録することになるよ。キミの魔法使いとしてのランクは、少なくともBランクということになるかな。それだけの相手だからね」

「……」

「で、具体的にどうやって倒したの?」

「え?」

「白い炎というのは、本当?」

「……それは」

「どうして嘘を吐こうとするの? 剣聖が魔法使いを嫌っているという事情はわかるけど、白い炎を隠す理由がわからないよ。珍しい魔法が使えるなら、いいじゃないか」

「……そうなんですが」

「もしかして、白い炎を使えるのは、カザザさんだけとか?」

「いや、そうではないと思いますが……って、え?」

 レオは一瞬、頭が真っ白になる。
 
(今、エドはなんて言った? 白い炎を使えるのがカザザだけ? それはどういう意図で言っているんだ? 俺のことをカザザだとわかって言ってる?)

 レオが滝のような汗をかく中、エドは深くため息を吐く。どちらかといえば、ため息を吐きたいのはレオの方だったが、そんなこと言えるはずもなかった。
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