17 / 74
第一章 転生したら剣聖の家系だった
15.嘘は後から剥げる
グエンラルの街に戻ると、イマジンの身柄はコトが引き取ることになった。王城に連れて行き、奴隷売買について調査してくれるという。またロームたちの生活も保障してくれるというので、レオは安心してエドとともに冒険者ギルドに向かった。
「今日の報告はレオくん、キミにお願いするよ」
「え? 俺がですか? ギルドマスターも一緒だったのに」
「僕はこれから仕事があるので、代わりにアエナさんに報告をお願いするよ」
「……わかりました」
「それよりレオくんは知っているかな?」
「何がですか?」
「コト・レドル様は、【鑑定スキル】を持っているそうだよ」
「……そうですか」
レオがやっぱり、と思っていると、エドは含みのある笑みを浮かべる。
だが、たとえコト・レドルが【鑑定スキル】を持っていたとしても、怖くはなかった。
なぜならレオには【隠蔽スキル】があるからだ。相手の能力を把握することができる【鑑定スキル】は最強だが、【隠蔽スキル】で能力を隠してしまえば、ある程度は誤魔化すこともできるだろう。
だからレオは余裕の笑みさえ浮かべて、エドに告げる。
「俺の剣士としての能力もコト・レドル様にはバレているということですね」
「……そうだね」
「落ちこぼれなので、さぞ呆れたでしょうね」
「でもなぜ、コト様はレオくんに魔法使いかと尋ねたんだろう」
「さあ、なぜでしょう。魔力量が多かったのでしょうか」
よくそんな会話を覚えていたものだと思いながらも、レオは焦りはしなかった。魔力が高い剣士は、世の中にいくらでもいるのだから。たとえコトの【鑑定スキル】がレオの【隠蔽スキル】を上回ったとしても、レオの前世まで知ることはできないだろう。
コトの言葉の真意について考えていると、エドが唐突に話題を変えた。
「それより、レオくんは裁縫はできる?」
「裁縫、ですか? そうですね。今は家族の元を離れているので、繕いものは自分でしないといけませんね」
「貴族でありながら、自分の力で解決しようとする精神は素晴らしいね」
「今は一人なので、誰かに頼ることもできませんから」
むしろ、誰にも手伝ってもらわなくて済むことが心地良かった。侯爵家ともなれば、メイドの数も多いわけだが、着替えから風呂まで世話をされることが、いまだに耐えられなかった。
独り立ちに向けて、なんでも一人でこなす練習をさせられたが、その間もメイドたちの視線が痛かった。
心配してくれるのは有り難いが、世話を焼きたい気持ちは全く理解できなかった。それがメイドの仕事だと言われても、おかしい。仕事が休めるなら、嬉しいことではないのだろうか。
だが、そんなことを思うことこそ、仕事に誇りを持つメイドを侮辱することになるかもしれない。
などと考えすぎる傾向のあるレオなので、気を遣う必要のない今が、何よりホッとするのは間違いなかった。
「頼ることができないという割に楽しそうだね。一人は気楽?」
「はい、楽しいです。寂しいと思う時もありますが、やっぱり一人は落ち着きます……」
「貴族の子息とは思えないね。そういえば、僕の友人も同じようなことを言っていたよ。広い屋敷に住みながら、ほとんど召使いを雇わなかったんだよ。本人は、暗殺とか面倒だからと言っていたけれど、人を信用しないにもほどがあるね」
「……でも、下働きの人だって人間ですから、仕入れた食材に毒が入っていても、気づかないことがあるんじゃないですか?」
「だから信用のおける人を紹介するって言ったんだよ。僕の部下は皆優秀だからね。それに、友人には【毒耐性】だってあったんだよ。たとえ毒を盛られても死ぬわけがないんだ」
「……」
エドがカザザの話をしていることはわかった。だが、カザザが毒にやられたかもしれないと言ったら、どう思うのだろうか。もしかしたら笑われるかもしれないが、だからといって、レオが言えるはずもなかった。
「それで、レオくんは宿暮らしをしているの?」
「はい。『満月』という宿で」
「ああ、あの宿はいいね。安くて清潔だ。友人もよく泊まっていたんだよ。食事も悪くないし」
「そうですね。食堂も併設されているので、安いし助かっています」
「大貴族の子息とは思えない経済観念だね」
「家からの援助はないもので」
「剣聖の道は厳しいね。でも今回の報酬で少しは楽になるだろう」
「今回の報酬? 見学しかしていませんが」
「ギガントゴブリンが地上に出ることを防いでくれたから、国から報奨金が出ると思うよ。あと、奴隷商人を捕まえてくれた件もね」
「ギガントゴブリンも、奴隷商人も、処理したのはコト・レドル様でしょう? 俺は何もしていません」
「いやいや、レオくんのお手柄だよ。ギガントゴブリンを弱らせたのは、レオくんの作戦のおかげだ。それにロームの後見人の契約書を偽物だと見抜いたのはレオくんだろう?」
「後見人の書類はただの予想ですよ。俺には印影が本物かどうかなんてわかりませんから」
「キミは、謙虚なのか、ひねくれているのか」
「俺は事実を言っただけです。それと、冒険者登録はこれで可能になるんでしょうか? それともまだ見学が必要ですか」
「ああ、それはもう大丈夫」
会話している間に、二人は冒険者ギルドに到着する。
受付を見れば、アエナとガーネットが、何か込み入った話をしているようだった。
「アエナさん、どうかした?」
「あ、エド様」
エドが受付カウンターに入るなり、アエナの兎耳がピンと立つ。待っていたと言わんばかりだ。
「実は、ガーネットさんにランクの昇級を伝えていたのですが、ガーネットさんが納得してくれなくて……」
「例の人食いトロールの件でSSランクに昇級って話だね」
エドの言葉を聞いて、レオが気まずい顔になる。『ノース一行』が実は人食いトロールで、しかもレオが倒した話だった。
最低ランクから始めたいので、手柄をガーネットに押し付けたわけだが、それがまさか昇級に関わってくるとは思いもよらず。ガーネットが笑顔でレオを睨んでいる。さすがのガーネットも承服できない様子だった。
「どうしてガーネットさんはSSランクに昇級したくないんですか?」
「そういうのは、まごうことなき実力で到達したいからよ」
レオの問いに、ガーネットは刺々しく返す。いつも明るく優しいガーネットだが、怒ることもあるようだ。
「そうだ! だったら、オッティさんのランクを上げたらいいじゃない? トロールを倒したのは、ほとんどオッティさんの魔法なんだから!」
ガーネットが良い提案とばかりに顔を輝かせると、受付嬢のアエナは「なるほど」と書類に何かを書き込んだ。
「オッティさんはほとんど見物していただけと言っていましたが……共闘されたのなら、話は変わってきますね」
「そうそう! 一緒に頑張って戦ったの! オッティさんの白い炎と、私の剣が合わさって、バビューンとトロールの首を飛ばしたんだからっ」
ガーネットがまくし立てるように言うと、アエナがまた書類に書き込む。だがレオは焦ったようにガーネットを見る。きっとガーネットは忘れているのだろう、白い炎が誰にでも出せるわけではないことを。
レオは涼しい顔で笑いながらも、内心は緊張していた。オッティが加勢していないことがバレたら、レオが嘘をついたこともバレる。人食いトロールを倒しただけで、まさかこんなややこしい状況になるとは思わなかった。
「えっと、オッティさんの炎は白くなかったと思いますよ。ガーネットさんの見間違いじゃないですか?」
「え、あの時の炎は白くなかった? おかしいな、確かに白かったと思うんだけど」
「いえ、炎は赤かったです。ガーネットさん……必死に戦っていたから、記憶があやふやなんじゃないんですか?」
「そんなことないよ! 確かにレオくんの炎は白か——」
言いかけて、口を押さえるガーネット。自分の失言に気づいて、レオを恐る恐る見つめる。レオは少し泣きそうになりながら、周囲を見回した。
「オッティさん! どこかにオッティさんいませんか⁉︎」
ガーネットが天然だと知ったからには、オッティを頼るしかなかった。オッティなら、うまくこの場を繋いでくれるだろう。そう思っていたが、ギルドマスターを誤魔化せるはずもなかった。
「レオくんの白い炎? なるほど、トロールはレオくんとガーネットさんで倒したと」
「いえ、違います! 俺は見ていただけなんです!」
「なら、オッティくんにも確認してみよう」
ちょうどその時、入り口から『オッティ一行』がやってくる。エドがにっこり笑って手招きすると、オッティは困惑気味にカウンターまでやってくる。
「なんだ? ギルドマスター、何か用か?」
「オッティくん、キミはガーネットさんと一緒にトロールを倒したと言ったね? その時、どうやって倒したんだい?」
「ああ、トロールは土属性の半魔物だからな。俺だったら弱点の——水属性の魔法を使うな」
「そうだよね。ありがとう、オッティくん」
エドは笑ったままレオを見下ろす。だが、低い声音で刺すように告げた。
「おかしいね。話が一致しないなんて。何が本当なのかな?」
「俺は嘘をついていません」
「まだそんなことを……ガーネットさん、もし今回の話が嘘だとしたら、冒険者資格の剥奪もやむをえません。けど、今素直に本当のことを言ってくれるのなら、不問にしよう」
「お、脅しですか⁉︎」
レオがエドを睨むと、エドは相変わらず感情の見えない笑みを浮かべる。
「脅し? 違うよ。事実を報告するのは当然の義務でしょう? 勘違いしちゃいけない、僕は正しい情報が知りたいだけなんだ。——で、ガーネットさん、オッティくん、どうなんだい? 本当にトロールはいたのかな? そしてトロールはキミたちが退治したの?」
「え、そ、それはっ」
ガーネットがレオの顔をちらちらと見る中、オッティがため息を吐いて頭をかく。
「トロールを倒したのはそいつ一人だよ」
オッティに指を差されて、レオが顔面蒼白になったのは言うまでもない。
「それで、どうしてあんな嘘をついたの? 剣聖が知ったら、何を思うことやら」
「……ぐっ」
ギルドマスターの執務室に通されたレオは、革張りのソファに座らされ、尋問を受けていた。
ちなみにトロールを倒したのがレオだとバレたことで、オッティとガーネットの昇級はなくなったのだが、かといって冒険者登録を剥奪されることもなく、等級は現状維持ということになった。
「詳しい話を教えてくれるね? いったい、何があったんだい?」
「……『ノース一行』は、人間を食ったことで、人語を解するだけでなく、人間になることができるようでした。ノースたちは、これまでの討伐見学者を食ったんだと思います。それで今度は俺を殺そうとしたから、反撃しただけで……」
「だったら、そのまま報告すれば良かっただろう? 何が問題なの?」
「……父様は魔法使いが嫌いなんです。立派な剣士にならなければ、家を追い出すと言われて……」
「なるほど、魔法で倒したことが問題なんだね。確かに、キミが魔法で倒したとなると、冒険者登録の情報も変わってくるしね」
「あの、お願いです! 今回のトロールの件、なかったことにしていただきたいんですが」
「そうしたいのはやまやまだけど、情報を改ざんするわけにはいかないからね。今回の件は、魔法使いがトロールを倒したと記録することになるよ。キミの魔法使いとしてのランクは、少なくともBランクということになるかな。それだけの相手だからね」
「……」
「で、具体的にどうやって倒したの?」
「え?」
「白い炎というのは、本当?」
「……それは」
「どうして嘘を吐こうとするの? 剣聖が魔法使いを嫌っているという事情はわかるけど、白い炎を隠す理由がわからないよ。珍しい魔法が使えるなら、いいじゃないか」
「……そうなんですが」
「もしかして、白い炎を使えるのは、カザザさんだけとか?」
「いや、そうではないと思いますが……って、え?」
レオは一瞬、頭が真っ白になる。
(今、エドはなんて言った? 白い炎を使えるのがカザザだけ? それはどういう意図で言っているんだ? 俺のことをカザザだとわかって言ってる?)
レオが滝のような汗をかく中、エドは深くため息を吐く。どちらかといえば、ため息を吐きたいのはレオの方だったが、そんなこと言えるはずもなかった。
「今日の報告はレオくん、キミにお願いするよ」
「え? 俺がですか? ギルドマスターも一緒だったのに」
「僕はこれから仕事があるので、代わりにアエナさんに報告をお願いするよ」
「……わかりました」
「それよりレオくんは知っているかな?」
「何がですか?」
「コト・レドル様は、【鑑定スキル】を持っているそうだよ」
「……そうですか」
レオがやっぱり、と思っていると、エドは含みのある笑みを浮かべる。
だが、たとえコト・レドルが【鑑定スキル】を持っていたとしても、怖くはなかった。
なぜならレオには【隠蔽スキル】があるからだ。相手の能力を把握することができる【鑑定スキル】は最強だが、【隠蔽スキル】で能力を隠してしまえば、ある程度は誤魔化すこともできるだろう。
だからレオは余裕の笑みさえ浮かべて、エドに告げる。
「俺の剣士としての能力もコト・レドル様にはバレているということですね」
「……そうだね」
「落ちこぼれなので、さぞ呆れたでしょうね」
「でもなぜ、コト様はレオくんに魔法使いかと尋ねたんだろう」
「さあ、なぜでしょう。魔力量が多かったのでしょうか」
よくそんな会話を覚えていたものだと思いながらも、レオは焦りはしなかった。魔力が高い剣士は、世の中にいくらでもいるのだから。たとえコトの【鑑定スキル】がレオの【隠蔽スキル】を上回ったとしても、レオの前世まで知ることはできないだろう。
コトの言葉の真意について考えていると、エドが唐突に話題を変えた。
「それより、レオくんは裁縫はできる?」
「裁縫、ですか? そうですね。今は家族の元を離れているので、繕いものは自分でしないといけませんね」
「貴族でありながら、自分の力で解決しようとする精神は素晴らしいね」
「今は一人なので、誰かに頼ることもできませんから」
むしろ、誰にも手伝ってもらわなくて済むことが心地良かった。侯爵家ともなれば、メイドの数も多いわけだが、着替えから風呂まで世話をされることが、いまだに耐えられなかった。
独り立ちに向けて、なんでも一人でこなす練習をさせられたが、その間もメイドたちの視線が痛かった。
心配してくれるのは有り難いが、世話を焼きたい気持ちは全く理解できなかった。それがメイドの仕事だと言われても、おかしい。仕事が休めるなら、嬉しいことではないのだろうか。
だが、そんなことを思うことこそ、仕事に誇りを持つメイドを侮辱することになるかもしれない。
などと考えすぎる傾向のあるレオなので、気を遣う必要のない今が、何よりホッとするのは間違いなかった。
「頼ることができないという割に楽しそうだね。一人は気楽?」
「はい、楽しいです。寂しいと思う時もありますが、やっぱり一人は落ち着きます……」
「貴族の子息とは思えないね。そういえば、僕の友人も同じようなことを言っていたよ。広い屋敷に住みながら、ほとんど召使いを雇わなかったんだよ。本人は、暗殺とか面倒だからと言っていたけれど、人を信用しないにもほどがあるね」
「……でも、下働きの人だって人間ですから、仕入れた食材に毒が入っていても、気づかないことがあるんじゃないですか?」
「だから信用のおける人を紹介するって言ったんだよ。僕の部下は皆優秀だからね。それに、友人には【毒耐性】だってあったんだよ。たとえ毒を盛られても死ぬわけがないんだ」
「……」
エドがカザザの話をしていることはわかった。だが、カザザが毒にやられたかもしれないと言ったら、どう思うのだろうか。もしかしたら笑われるかもしれないが、だからといって、レオが言えるはずもなかった。
「それで、レオくんは宿暮らしをしているの?」
「はい。『満月』という宿で」
「ああ、あの宿はいいね。安くて清潔だ。友人もよく泊まっていたんだよ。食事も悪くないし」
「そうですね。食堂も併設されているので、安いし助かっています」
「大貴族の子息とは思えない経済観念だね」
「家からの援助はないもので」
「剣聖の道は厳しいね。でも今回の報酬で少しは楽になるだろう」
「今回の報酬? 見学しかしていませんが」
「ギガントゴブリンが地上に出ることを防いでくれたから、国から報奨金が出ると思うよ。あと、奴隷商人を捕まえてくれた件もね」
「ギガントゴブリンも、奴隷商人も、処理したのはコト・レドル様でしょう? 俺は何もしていません」
「いやいや、レオくんのお手柄だよ。ギガントゴブリンを弱らせたのは、レオくんの作戦のおかげだ。それにロームの後見人の契約書を偽物だと見抜いたのはレオくんだろう?」
「後見人の書類はただの予想ですよ。俺には印影が本物かどうかなんてわかりませんから」
「キミは、謙虚なのか、ひねくれているのか」
「俺は事実を言っただけです。それと、冒険者登録はこれで可能になるんでしょうか? それともまだ見学が必要ですか」
「ああ、それはもう大丈夫」
会話している間に、二人は冒険者ギルドに到着する。
受付を見れば、アエナとガーネットが、何か込み入った話をしているようだった。
「アエナさん、どうかした?」
「あ、エド様」
エドが受付カウンターに入るなり、アエナの兎耳がピンと立つ。待っていたと言わんばかりだ。
「実は、ガーネットさんにランクの昇級を伝えていたのですが、ガーネットさんが納得してくれなくて……」
「例の人食いトロールの件でSSランクに昇級って話だね」
エドの言葉を聞いて、レオが気まずい顔になる。『ノース一行』が実は人食いトロールで、しかもレオが倒した話だった。
最低ランクから始めたいので、手柄をガーネットに押し付けたわけだが、それがまさか昇級に関わってくるとは思いもよらず。ガーネットが笑顔でレオを睨んでいる。さすがのガーネットも承服できない様子だった。
「どうしてガーネットさんはSSランクに昇級したくないんですか?」
「そういうのは、まごうことなき実力で到達したいからよ」
レオの問いに、ガーネットは刺々しく返す。いつも明るく優しいガーネットだが、怒ることもあるようだ。
「そうだ! だったら、オッティさんのランクを上げたらいいじゃない? トロールを倒したのは、ほとんどオッティさんの魔法なんだから!」
ガーネットが良い提案とばかりに顔を輝かせると、受付嬢のアエナは「なるほど」と書類に何かを書き込んだ。
「オッティさんはほとんど見物していただけと言っていましたが……共闘されたのなら、話は変わってきますね」
「そうそう! 一緒に頑張って戦ったの! オッティさんの白い炎と、私の剣が合わさって、バビューンとトロールの首を飛ばしたんだからっ」
ガーネットがまくし立てるように言うと、アエナがまた書類に書き込む。だがレオは焦ったようにガーネットを見る。きっとガーネットは忘れているのだろう、白い炎が誰にでも出せるわけではないことを。
レオは涼しい顔で笑いながらも、内心は緊張していた。オッティが加勢していないことがバレたら、レオが嘘をついたこともバレる。人食いトロールを倒しただけで、まさかこんなややこしい状況になるとは思わなかった。
「えっと、オッティさんの炎は白くなかったと思いますよ。ガーネットさんの見間違いじゃないですか?」
「え、あの時の炎は白くなかった? おかしいな、確かに白かったと思うんだけど」
「いえ、炎は赤かったです。ガーネットさん……必死に戦っていたから、記憶があやふやなんじゃないんですか?」
「そんなことないよ! 確かにレオくんの炎は白か——」
言いかけて、口を押さえるガーネット。自分の失言に気づいて、レオを恐る恐る見つめる。レオは少し泣きそうになりながら、周囲を見回した。
「オッティさん! どこかにオッティさんいませんか⁉︎」
ガーネットが天然だと知ったからには、オッティを頼るしかなかった。オッティなら、うまくこの場を繋いでくれるだろう。そう思っていたが、ギルドマスターを誤魔化せるはずもなかった。
「レオくんの白い炎? なるほど、トロールはレオくんとガーネットさんで倒したと」
「いえ、違います! 俺は見ていただけなんです!」
「なら、オッティくんにも確認してみよう」
ちょうどその時、入り口から『オッティ一行』がやってくる。エドがにっこり笑って手招きすると、オッティは困惑気味にカウンターまでやってくる。
「なんだ? ギルドマスター、何か用か?」
「オッティくん、キミはガーネットさんと一緒にトロールを倒したと言ったね? その時、どうやって倒したんだい?」
「ああ、トロールは土属性の半魔物だからな。俺だったら弱点の——水属性の魔法を使うな」
「そうだよね。ありがとう、オッティくん」
エドは笑ったままレオを見下ろす。だが、低い声音で刺すように告げた。
「おかしいね。話が一致しないなんて。何が本当なのかな?」
「俺は嘘をついていません」
「まだそんなことを……ガーネットさん、もし今回の話が嘘だとしたら、冒険者資格の剥奪もやむをえません。けど、今素直に本当のことを言ってくれるのなら、不問にしよう」
「お、脅しですか⁉︎」
レオがエドを睨むと、エドは相変わらず感情の見えない笑みを浮かべる。
「脅し? 違うよ。事実を報告するのは当然の義務でしょう? 勘違いしちゃいけない、僕は正しい情報が知りたいだけなんだ。——で、ガーネットさん、オッティくん、どうなんだい? 本当にトロールはいたのかな? そしてトロールはキミたちが退治したの?」
「え、そ、それはっ」
ガーネットがレオの顔をちらちらと見る中、オッティがため息を吐いて頭をかく。
「トロールを倒したのはそいつ一人だよ」
オッティに指を差されて、レオが顔面蒼白になったのは言うまでもない。
「それで、どうしてあんな嘘をついたの? 剣聖が知ったら、何を思うことやら」
「……ぐっ」
ギルドマスターの執務室に通されたレオは、革張りのソファに座らされ、尋問を受けていた。
ちなみにトロールを倒したのがレオだとバレたことで、オッティとガーネットの昇級はなくなったのだが、かといって冒険者登録を剥奪されることもなく、等級は現状維持ということになった。
「詳しい話を教えてくれるね? いったい、何があったんだい?」
「……『ノース一行』は、人間を食ったことで、人語を解するだけでなく、人間になることができるようでした。ノースたちは、これまでの討伐見学者を食ったんだと思います。それで今度は俺を殺そうとしたから、反撃しただけで……」
「だったら、そのまま報告すれば良かっただろう? 何が問題なの?」
「……父様は魔法使いが嫌いなんです。立派な剣士にならなければ、家を追い出すと言われて……」
「なるほど、魔法で倒したことが問題なんだね。確かに、キミが魔法で倒したとなると、冒険者登録の情報も変わってくるしね」
「あの、お願いです! 今回のトロールの件、なかったことにしていただきたいんですが」
「そうしたいのはやまやまだけど、情報を改ざんするわけにはいかないからね。今回の件は、魔法使いがトロールを倒したと記録することになるよ。キミの魔法使いとしてのランクは、少なくともBランクということになるかな。それだけの相手だからね」
「……」
「で、具体的にどうやって倒したの?」
「え?」
「白い炎というのは、本当?」
「……それは」
「どうして嘘を吐こうとするの? 剣聖が魔法使いを嫌っているという事情はわかるけど、白い炎を隠す理由がわからないよ。珍しい魔法が使えるなら、いいじゃないか」
「……そうなんですが」
「もしかして、白い炎を使えるのは、カザザさんだけとか?」
「いや、そうではないと思いますが……って、え?」
レオは一瞬、頭が真っ白になる。
(今、エドはなんて言った? 白い炎を使えるのがカザザだけ? それはどういう意図で言っているんだ? 俺のことをカザザだとわかって言ってる?)
レオが滝のような汗をかく中、エドは深くため息を吐く。どちらかといえば、ため息を吐きたいのはレオの方だったが、そんなこと言えるはずもなかった。
あなたにおすすめの小説
畑の隣にダンジョンが生えたので、農家兼ダンチューバーになることにした件について〜隠れ最強の元エリート、今日も野菜を育てながら配信中〜
グリゴリ
ファンタジー
木嶋蒼、35歳。表向きは田舎で農業を始めて1年目の、どこにでもいる素朴な農家だ。しかし実態は、内閣直轄の超エリート組織・ダンジョン対策庁において「特総(特別総括官)」という非公開の最高職を務める、日本最高峰の実力者である。その事実を知る者は内閣総理大臣を含む極少数のみ。家族でさえ、蒼が対策庁を早々に退庁したと信じて疑わない。
SSSランクのテイムスキルと攻撃スキル、SSランクの支援スキルと農業スキルを18歳時に鑑定され、誰もが「化け物」と称えたその実力を、蒼は今日も畑仕事に注ぎ込んでいる。農作物の品質は驚異的に高く、毎日の収穫が静かな喜びだ。少し抜けているところはあるが、それもご愛嬌——と思っていた矢先、農業開始から1年が経ったある朝、異変が起きた。
祖父母の旧宅に隣接する納屋の床に、漆黒に金の縁取りをしたゲートリングが突如出現したのだ。通常の探索者には認識すらできないそれは、蒼だけが見えるシークレットプライベートダンジョン——後に「蒼天の根」と呼ばれることになる、全100階層の特異空間だった。
恐る恐る潜ったダンジョンの第1層で、蒼は虹色に輝くベビースライム「ソル」と出会い、即座に従魔として契約。さらに探索を進める中でベビードラゴンの「ルナ」、神狼種のベビーシルバーウルフ「クロ」を仲間に加えていく。そしてダンジョン初潜入の最中、蒼の体内に「究極進化システム」が覚醒する。ダンジョン内の素材をエボリューションポイント・ショップポイント・現金へと変換し、自身や従魔、親しい者を際限なく強化・進化させるこのシステムは、ガチャ機能・ショップ機能・タスク機能まで備えた、あまりにもチートじみた代物だった。
蒼は決める。「せっかくだから配信もしよう」と。農家兼ダンチューバーという前代未聞のスタイルで探索者ライセンスを取得し、「農家のダンジョン攻略配信」を開始した彼の動画はじわじわと注目を集め始める。
そんな中、隣のダンジョンの取材にやってきたのが、C級探索者ライセンスを持つ美人記者兼ダンチューバー・藤宮詩織だった。国際探索者協会の超エリート一家に生まれながら自らの道を切り開いてきた彼女は、蒼の「農家なのになぜかとても強い」という矛盾に鋭い鑑定眼を向ける。
隠れ最強の農家配信者と、本質を見抜く美人記者。チート級の従魔たちが賑やかに囲む日常の中で、二人の距離は少しずつ縮まっていく。ダンジョン攻略・農業・配信・ガチャ・そして予期せぬ大事件——波乱と笑いと感動が交錯する、最強農家の新米配信者ライフが、今幕を開ける。
虐げられた前王の子に転生しましたが、マイペースに規格外でいきます!
竜鳴躍
ファンタジー
気が付いたら転生していました。
でも王族なのに、離宮に閉じ込められたまま。学校も行けず、家庭教師もつけてもらえず、世話もされず。社交にも出られず。
何故なら、今の王様は急逝した先代の陛下……僕の父の弟だから。
王様夫婦には王子様がいて、その子が次期王太子として学校も行って、社交もしている。
僕は邪魔なんだよね。分かってる。
先代の王の子を大切に育てたけど、体が弱い出来損ないだからそのまま自分の子が跡を継ぎますってしたいんだよね。
そんなに頑張らなくても僕、王位なんていらないのに~。
だって、いつも誰かに見られていて、自分の好きなことできないんでしょ。
僕は僕の好きなことをやって生きていきたい。
従兄弟の王太子襲名の式典の日に、殺されちゃうことになったから、国を出ることにした僕。
だけど、みんな知らなかったんだ。
僕がいなくなったら困るってこと…。
帰ってきてくれって言われても、今更無理です。
2026.03.30 内容紹介一部修正
ダンジョンのある生活《スマホ片手にレベルアップ》
盾乃あに
ファンタジー
進藤タクマは25歳、彼女にフラれて同棲中の家を追い出され、新しい部屋を借りたがそこにはキッチンに見知らぬ扉が付いていた。床下収納だと思って開けたらそこは始まりのダンジョンだった。
ダンジョンを攻略する自衛隊、タクマは部屋を譲り新しい部屋に引っ越すが、そこにもダンジョンが……
始まりのダンジョンを攻略することになったタクマ。
さぁ、ダンジョン攻略のはじまりだ。
無職が最強の万能職でした!?〜俺のスローライフはどこ行った!?〜
あーもんど
ファンタジー
不幸体質持ちの若林音羽はある日の帰り道、自他共に認める陽キャのクラスメイト 朝日翔陽の異世界召喚に巻き込まれた。目を開ければ、そこは歩道ではなく建物の中。それもかなり豪華な内装をした空間だ。音羽がこの場で真っ先に抱いた感想は『テンプレだな』と言う、この一言だけ。異世界ファンタジーものの小説を読み漁っていた音羽にとって、異世界召喚先が煌びやかな王宮内────もっと言うと謁見の間であることはテンプレの一つだった。
その後、王様の命令ですぐにステータスを確認した音羽と朝日。勇者はもちろん朝日だ。何故なら、あの魔法陣は朝日を呼ぶために作られたものだから。言うならば音羽はおまけだ。音羽は朝日が勇者であることに大して驚きもせず、自分のステータスを確認する。『もしかしたら、想像を絶するようなステータスが現れるかもしれない』と淡い期待を胸に抱きながら····。そんな音羽の淡い期待を打ち砕くのにそう時間は掛からなかった。表示されたステータスに示された職業はまさかの“無職”。これでは勇者のサポーター要員にもなれない。装備品やら王家の家紋が入ったブローチやらを渡されて見事王城から厄介払いされた音羽は絶望に打ちひしがれていた。だって、無職ではチートスキルでもない限り異世界生活を謳歌することは出来ないのだから····。無職は『何も出来ない』『何にもなれない』雑魚職業だと決めつけていた音羽だったが、あることをきっかけに無職が最強の万能職だと判明して!?
チートスキルと最強の万能職を用いて、音羽は今日も今日とて異世界無双!
※カクヨム、小説家になろう様でも掲載中
転生少年は、魔道具で貧乏領地を発展させたい~アイボウと『ジョウカ魔法』で恩返し
gari@七柚カリン
ファンタジー
男(30歳)は、仕事中に命を落とし異世界へ転生する。
捨て子となった男は男爵親子に拾われ、養子として迎えられることになった。
前世で可愛がっていた甥のような兄と、命を救ってくれた父のため、幼い弟は立ち上がる。
魔道具で、僕が領地を発展させる!
これは、家族と領地のために頑張る男(児)の物語。
ダンジョンで迷惑配信者をやっていた俺。うっかりアイドル配信者を襲ってたドラゴンをぶっ飛ばした結果、良い人バレして鬼バズる
果 一@【弓使い】2巻刊行決定!!
ファンタジー
矢上一樹は、ダンジョンでマナー違反行為を繰り返す迷惑系配信者だ。
他人の獲物を奪う、弱いモンスターをいたぶる、下品な言葉遣い。やりたい放題やって人気を得ていた彼だったが――ある日、うっかり配信を切り忘れて律儀な一面がバレてしまう。
焦った一樹はキャラを取り繕うも、時すでに遅し。一樹の素は大々的に拡散され話題沸騰していて――さらには、助けた美少女が人気アイドル配信者だったことで、全国レベルでバズってしまい!?
これは、炎上系配信者が最強でただのいいヤツだった的な、わりとよくある物語。
※本作はカクヨムでも連載しています。そちらでのタイトルは「ダンジョンで迷惑配信者をやっていた俺。うっかりアイドル配信者を助けた結果、良い人バレして鬼バズってしまう~もう元のキャラには戻れないかもしれない〜」となります。
転生貴族は現代日本の知識で領地経営して発展させる
初
ファンタジー
大陸の西に存在するディーレンス王国の貴族、クローディス家では当主が亡くなり、長男、次男、三男でその領地を分配した。
しかしこの物語の主人公クルス・クローディスに分配されたのはディーレンス王国の属国、その北に位置する土地で、領内には人間族以外の異種族もいた上、北からは別の異種族からの侵攻を受けている絶望的な土地だった。
そこで主人公クルスは前世の現代日本の知識を使って絶望的な領地を発展させる。
目指すのは大陸一発展した領地。
果たしてクルスは実現できるのか?
これはそんなクルスを描いた物語である。
英雄の孫は今日も最強
まーびん
ファンタジー
前世では社会人だったが、死んで異世界に転生し、貧乏貴族ターセル男爵家の3男となった主人公ロイ。
前世のギスギスした家庭と違い、家族の皆から愛され、ロイはすくすくと3歳まで育った。
中でも、毎日一緒に遊んでくれるじいじは爺馬鹿全開で、ロイもそんなじいじが大好き。
元将軍で「英雄」と呼ばれる最強のじいじの血を引いたロイは、じいじ達に見守られながら、今日も楽しく最強な日々を過ごす。