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第4話 酔っ払い(叶芽)
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「……ねぇ、聞いてる? 冬真」
「うん、聞いてるよ」
小洒落たバーから安い居酒屋チェーン店に移動した叶芽と冬真は、小さなテーブルで向かい合って座ると、ひたすら呑んでいた。といっても、主に呑んでいたのは、叶芽のほうなのだが。
しかも五杯目のビールジョッキを飲み干した叶芽は、今まで我慢していた反動か、溜まりに溜まった愚痴をこれでもかと爆発させた。
「……それでさ、あの教授は成績上位の生徒にはいい顔してるけど、俺みたいな普通の生徒の相手なんてしないからさ……だから俺が代返頼んだところで気にすることもないと思ってたんだよ。けど、普通の生徒っていうか、俺には厳しくてさ。代返一回につきレポート十枚書けとか言いだして……他にも同じことしている奴らはいるってのに、なぜか俺だけ課題増やしてくんの。だから俺はあの教授の単位あきらめて他の講義だけで頑張ろうと思ってたところに……変な話を……聞いて……」
「大丈夫か、叶芽? 眠いなら帰るか?」
頭を揺らす叶芽を見て、冬真は心配そうな顔をする。だが一度出来上がった叶芽は、歯止めがきかなかった。
「うんにゃ、だいじょうぶ!」
嬉しそうにビールを飲み干す叶芽に対して、冬真は軽くため息を吐く。言っても聞かなそうな雰囲気に諦めたのだろう。すっかり見守る姿勢になっていた。
そしてその後も叶芽は一人で盛り上がり、次から次へと愚痴を吐いた。
ほとんどの人間が途中で逃げ出すところだが、冬真は真面目に聞いて、頷いていた。そんな風に真摯な対応をしてくれるものだから、叶芽も必死になってしまう。
時々、そのまっすぐな冬真の視線が熱いと叶芽は思う。おそらく、叶芽の話に同情してくれているのだろう。叶芽の愚痴を真正面から受け止めてくれる人は初めてで、叶芽は調子に乗るばかりだった。
そうして愚痴という愚痴を話すうち、ふと冬真が口を開く。
「その単位はあきらめて正解だと思うよ」
「……え?」
話半分で『そうだな』くらいの言葉しかくれない友人たちとは違い、至ってまともな切り返しに、叶芽は思わず言葉を途切らせた。
不意打ちのように言葉を返されたことで、叶芽は少しだけ目が冷めるような思いをする。
冬真はさらに告げる。
「あの教授はあまり良い噂を聞かないから……とくに女の子が、セクハラされそうになったって怒ってたんだ」
「……そうなの? やっぱりそうなんだ」
担当教授のセクハラ話には、叶芽も身に覚えがあった。だが自分が被害者だと告げるのも恥ずかしいので、言うべきか悩んでいると、何かを察した冬真が、声を低くして尋ねた。
「叶芽も何かされたのか?」
その怒りに燃えた冬真の目に、少しだけビクついた叶芽だが。
酒が入っていることもあり、素直に頷いていた。
「何か……されたってほどでもないけど。教授の前でレポート書いてる間、距離感がおかしかったんだ。なんていうか、息がかかるくらい近くて」
叶芽は教授に手を重ねられたことを思い出して、身震いしながらビールジョッキを煽った。
だがさらにオーダーを追加しようとしたところで、冬真に止められる。
「叶芽、そろそろ止めたほうがいいよ」
「え……もっと飲みたいのに」
叶芽が不服そうな顔をして、口を尖らせていると、冬真は少し考えて提案する。
「じゃあ……家飲みにする? い、家なら、途中で眠っても構わないし」
「冬真の家に行きたい」
「え? 俺の家?」
「だって、冬真の部屋のほうが近いだろ?」
叶芽がもっともらしいことを言えば、冬馬が表情を消した。図々しかったかと、反省していると、冬真がゆっくりと口を開く。
「……いいよ。うちにくる?」
冬真も少し酔っているのだろう。自分の部屋にあまり他人を入れたがらない冬真が、珍しく頷くのを見て、叶芽は気分がさらに上がって笑顔になる。
これで少し冬真に近づけたような気がしていた。
繁華街からそう遠くないデザイナーズマンションに冬真は住んでいた。周囲にコンビニも駅もある最高の立地だ。三部屋ある冬真の自宅は、焦げ茶色で統一された、シンプルながらも洒落た造りをしていた。
広い玄関を抜けて、リビングに案内された叶芽は、部屋を見るなり感嘆の声をもらした。
「おお、綺麗な部屋だね。リビングだけでも俺んちの三倍くらいあるんじゃない?」
「三倍は言い過ぎ。伯父さんが経営してるマンションに安く住まわせてもらってるんだ」
「いいな……俺もここに住みたい」
叶芽が木製のテーブルセットに座ると、冬真は水のグラスを差し出した。だが叶芽はコンビニで買ったビールの缶を開ける。プシュッと泡が出た瞬間、こぼさないように舐めながら呑む叶芽に、冬真はなぜか目を逸らしながら息を吐く。
「じゃあ、来ればいいよ。空いてる部屋もあるから、叶芽が暮らせないことはないよ」
「本当に? 俺本気にするよ?」
「叶芽こそ、明日になったら全部忘れてるんじゃない?」
「ははは、そんなことないよ……それより、もっと呑もうよ」
「酒は呑めないんじゃなかったのか?」
今更ながら指摘する冬真に、叶芽は不敵に笑って見せる。
「呑めないこともないこともないこともないよ!」
「その様子だと、あと一缶くらいにしたほうがいいかも」
「ええー、もっと呑みたいのに」
「明日泣くことになるよ」
「このくらい……大丈夫だし。それで、さっきの続きだけど……」
叶芽はソファの中心を陣取ると、やはり愚痴ばかり言っていた。
愚痴を話している間、叶芽はこれ以上もなく活き活きしていたが、冬真は相変わらず真剣な顔をして聞いていた。
普段クールぶっている反動なのか、酒が入れば入るほどネガティブが強くなる叶芽だが、今回はそれほど暗い雰囲気でもなかった。
「俺みたいな普通の人間の将来なんて、大したことないだろうし……冬真はいいよな。ルックスは完璧だし、頭もいいし……こんな部屋に住んでるわけだし! 持ってないものなんてないんじゃない?」
叶芽が据わった目で向かいの冬真を見つめると、テーブルを挟んで座る冬真は視線を逸らす。その頬は、うっすら赤く染まっている。
「お、俺は完璧なんかじゃないよ。持ってないものがたくさんある……」
「嘘だぁ……冬真が心底うらやましいよ。顔がいいのに、中身も男前って……そんなのアリ?」
叶芽はテーブルに手をついて、冬真の顔を間近でのぞきこむ。
テーブルが大きく揺れて、空き缶が落ちる中、すぐ傍から固唾を呑む音が聞こえた。
「……やっぱり部屋に連れてくるんじゃなかったかも」
苦し気に顔を伏せる冬真に、叶芽は歯を見せて笑う。
「今更後悔しても遅いよ。今日は朝まで寝かせないからな!」
と言いつつ、叶芽は冬真の肩に頭をすとんと落として寝息を立てる。
テーブルに落ちそうになった叶芽を受け止めると、一瞬目を覚ました叶芽が、冬真の胸にしがみついた。
「叶芽……寝るならベッドで寝なよ」
「えへへ……冬真あったかい」
まるで猫のように甘える叶芽に、冬真は喉を鳴らした。
「叶芽、ダメだよ。ベッドかソファに移動して」
震える声が聞こえた。
だが酔っ払いの叶芽は心地よい眠りに流されてウトウトしている。冬真はかすれた声で懇願するように告げる。
「早く移動して……じゃないとキス、するよ」
「……」
冬真の冗談に何か返そうとするもの、一度落ちてしまった瞼をあげるのは難しかった。意識を少しずつ手放そうとする中、唇に何か熱いものを感じる。
それが冬真の唇だと知ったのは少し先の話だった。
久しぶりに呑んだ翌日、叶芽は知らないベッドで目を覚ました。だがすぐに冬真のマンションだと気づいて、叶芽は冬真の姿を探した。昨日着たままの姿で廊下に出ると、ジュワッとフライパンが焼ける音がする。
冬真はリビングのキッチンに立っているようだった。
「あ、冬真……う、気持ち悪」
リビングに入るなり、口を手で押さえる叶芽を見て、冬真はコンロの火を消した。
青いエプロンをつけた冬真。
何を着ても似合うと思いながらも、叶芽は言葉を口にすることができなかった。
そして叶芽がソファに座ると、冬真がやってくる。
「呑みすぎだよ」
「俺、そんなに呑んだ?」
「酒に弱いとか言って、よく呑んでたよ」
呑めないというのが嘘だったにも拘らず、冬真は気分を害した風もなく、朝ごはんの代わりにスムージーを用意してくれた。
何が入っているのかはわからないもの、健康に良さそうな緑色のスムージーを差し出す冬真を、叶芽は苦笑して見上げる。
「ありがとう」
「次はもうちょっと抑えたほうがいいよ」
「全く覚えてないんだけどね」
***
それからというもの、叶芽は週に一度のペースで冬真と飲むようになった。嘘がバレたことで、開き直ったというのもあるが。どうやら冬真の前ではそれほどひどい状態にはならないらしい。一緒に呑んでも、文句ひとつ言わない冬真に甘えるようになっていた。冬真いわく、呑んでも何ごともなく眠ってしまうそうで。安心して冬真の世話になるようになっていた。
酔っ払っている間のことはほとんど覚えていない叶芽だが、冬真が言うことなら間違いない——そう素直に信じて、呑みを重ねた。
冬真といるのが単純に心地良かったのもあった。
酒癖の悪さで去る友達が多い中、冬真だけが受け入れてくれたことが嬉しかった。
「今日はどこで飲む?」
「じゃあ、冬真の部屋で」
「叶芽は俺の部屋が好きだね」
「なんか安心するんだよ」
さっそくリビングのコの字ソファで缶ビールを開ける叶芽に、冬真はごくりと喉を鳴らす。
単純に冬真と呑めることを喜ぶ叶芽だったが。
この時の叶芽は、冬真の目的が別のところにあることを知るはずもなかった。
「うん、聞いてるよ」
小洒落たバーから安い居酒屋チェーン店に移動した叶芽と冬真は、小さなテーブルで向かい合って座ると、ひたすら呑んでいた。といっても、主に呑んでいたのは、叶芽のほうなのだが。
しかも五杯目のビールジョッキを飲み干した叶芽は、今まで我慢していた反動か、溜まりに溜まった愚痴をこれでもかと爆発させた。
「……それでさ、あの教授は成績上位の生徒にはいい顔してるけど、俺みたいな普通の生徒の相手なんてしないからさ……だから俺が代返頼んだところで気にすることもないと思ってたんだよ。けど、普通の生徒っていうか、俺には厳しくてさ。代返一回につきレポート十枚書けとか言いだして……他にも同じことしている奴らはいるってのに、なぜか俺だけ課題増やしてくんの。だから俺はあの教授の単位あきらめて他の講義だけで頑張ろうと思ってたところに……変な話を……聞いて……」
「大丈夫か、叶芽? 眠いなら帰るか?」
頭を揺らす叶芽を見て、冬真は心配そうな顔をする。だが一度出来上がった叶芽は、歯止めがきかなかった。
「うんにゃ、だいじょうぶ!」
嬉しそうにビールを飲み干す叶芽に対して、冬真は軽くため息を吐く。言っても聞かなそうな雰囲気に諦めたのだろう。すっかり見守る姿勢になっていた。
そしてその後も叶芽は一人で盛り上がり、次から次へと愚痴を吐いた。
ほとんどの人間が途中で逃げ出すところだが、冬真は真面目に聞いて、頷いていた。そんな風に真摯な対応をしてくれるものだから、叶芽も必死になってしまう。
時々、そのまっすぐな冬真の視線が熱いと叶芽は思う。おそらく、叶芽の話に同情してくれているのだろう。叶芽の愚痴を真正面から受け止めてくれる人は初めてで、叶芽は調子に乗るばかりだった。
そうして愚痴という愚痴を話すうち、ふと冬真が口を開く。
「その単位はあきらめて正解だと思うよ」
「……え?」
話半分で『そうだな』くらいの言葉しかくれない友人たちとは違い、至ってまともな切り返しに、叶芽は思わず言葉を途切らせた。
不意打ちのように言葉を返されたことで、叶芽は少しだけ目が冷めるような思いをする。
冬真はさらに告げる。
「あの教授はあまり良い噂を聞かないから……とくに女の子が、セクハラされそうになったって怒ってたんだ」
「……そうなの? やっぱりそうなんだ」
担当教授のセクハラ話には、叶芽も身に覚えがあった。だが自分が被害者だと告げるのも恥ずかしいので、言うべきか悩んでいると、何かを察した冬真が、声を低くして尋ねた。
「叶芽も何かされたのか?」
その怒りに燃えた冬真の目に、少しだけビクついた叶芽だが。
酒が入っていることもあり、素直に頷いていた。
「何か……されたってほどでもないけど。教授の前でレポート書いてる間、距離感がおかしかったんだ。なんていうか、息がかかるくらい近くて」
叶芽は教授に手を重ねられたことを思い出して、身震いしながらビールジョッキを煽った。
だがさらにオーダーを追加しようとしたところで、冬真に止められる。
「叶芽、そろそろ止めたほうがいいよ」
「え……もっと飲みたいのに」
叶芽が不服そうな顔をして、口を尖らせていると、冬真は少し考えて提案する。
「じゃあ……家飲みにする? い、家なら、途中で眠っても構わないし」
「冬真の家に行きたい」
「え? 俺の家?」
「だって、冬真の部屋のほうが近いだろ?」
叶芽がもっともらしいことを言えば、冬馬が表情を消した。図々しかったかと、反省していると、冬真がゆっくりと口を開く。
「……いいよ。うちにくる?」
冬真も少し酔っているのだろう。自分の部屋にあまり他人を入れたがらない冬真が、珍しく頷くのを見て、叶芽は気分がさらに上がって笑顔になる。
これで少し冬真に近づけたような気がしていた。
繁華街からそう遠くないデザイナーズマンションに冬真は住んでいた。周囲にコンビニも駅もある最高の立地だ。三部屋ある冬真の自宅は、焦げ茶色で統一された、シンプルながらも洒落た造りをしていた。
広い玄関を抜けて、リビングに案内された叶芽は、部屋を見るなり感嘆の声をもらした。
「おお、綺麗な部屋だね。リビングだけでも俺んちの三倍くらいあるんじゃない?」
「三倍は言い過ぎ。伯父さんが経営してるマンションに安く住まわせてもらってるんだ」
「いいな……俺もここに住みたい」
叶芽が木製のテーブルセットに座ると、冬真は水のグラスを差し出した。だが叶芽はコンビニで買ったビールの缶を開ける。プシュッと泡が出た瞬間、こぼさないように舐めながら呑む叶芽に、冬真はなぜか目を逸らしながら息を吐く。
「じゃあ、来ればいいよ。空いてる部屋もあるから、叶芽が暮らせないことはないよ」
「本当に? 俺本気にするよ?」
「叶芽こそ、明日になったら全部忘れてるんじゃない?」
「ははは、そんなことないよ……それより、もっと呑もうよ」
「酒は呑めないんじゃなかったのか?」
今更ながら指摘する冬真に、叶芽は不敵に笑って見せる。
「呑めないこともないこともないこともないよ!」
「その様子だと、あと一缶くらいにしたほうがいいかも」
「ええー、もっと呑みたいのに」
「明日泣くことになるよ」
「このくらい……大丈夫だし。それで、さっきの続きだけど……」
叶芽はソファの中心を陣取ると、やはり愚痴ばかり言っていた。
愚痴を話している間、叶芽はこれ以上もなく活き活きしていたが、冬真は相変わらず真剣な顔をして聞いていた。
普段クールぶっている反動なのか、酒が入れば入るほどネガティブが強くなる叶芽だが、今回はそれほど暗い雰囲気でもなかった。
「俺みたいな普通の人間の将来なんて、大したことないだろうし……冬真はいいよな。ルックスは完璧だし、頭もいいし……こんな部屋に住んでるわけだし! 持ってないものなんてないんじゃない?」
叶芽が据わった目で向かいの冬真を見つめると、テーブルを挟んで座る冬真は視線を逸らす。その頬は、うっすら赤く染まっている。
「お、俺は完璧なんかじゃないよ。持ってないものがたくさんある……」
「嘘だぁ……冬真が心底うらやましいよ。顔がいいのに、中身も男前って……そんなのアリ?」
叶芽はテーブルに手をついて、冬真の顔を間近でのぞきこむ。
テーブルが大きく揺れて、空き缶が落ちる中、すぐ傍から固唾を呑む音が聞こえた。
「……やっぱり部屋に連れてくるんじゃなかったかも」
苦し気に顔を伏せる冬真に、叶芽は歯を見せて笑う。
「今更後悔しても遅いよ。今日は朝まで寝かせないからな!」
と言いつつ、叶芽は冬真の肩に頭をすとんと落として寝息を立てる。
テーブルに落ちそうになった叶芽を受け止めると、一瞬目を覚ました叶芽が、冬真の胸にしがみついた。
「叶芽……寝るならベッドで寝なよ」
「えへへ……冬真あったかい」
まるで猫のように甘える叶芽に、冬真は喉を鳴らした。
「叶芽、ダメだよ。ベッドかソファに移動して」
震える声が聞こえた。
だが酔っ払いの叶芽は心地よい眠りに流されてウトウトしている。冬真はかすれた声で懇願するように告げる。
「早く移動して……じゃないとキス、するよ」
「……」
冬真の冗談に何か返そうとするもの、一度落ちてしまった瞼をあげるのは難しかった。意識を少しずつ手放そうとする中、唇に何か熱いものを感じる。
それが冬真の唇だと知ったのは少し先の話だった。
久しぶりに呑んだ翌日、叶芽は知らないベッドで目を覚ました。だがすぐに冬真のマンションだと気づいて、叶芽は冬真の姿を探した。昨日着たままの姿で廊下に出ると、ジュワッとフライパンが焼ける音がする。
冬真はリビングのキッチンに立っているようだった。
「あ、冬真……う、気持ち悪」
リビングに入るなり、口を手で押さえる叶芽を見て、冬真はコンロの火を消した。
青いエプロンをつけた冬真。
何を着ても似合うと思いながらも、叶芽は言葉を口にすることができなかった。
そして叶芽がソファに座ると、冬真がやってくる。
「呑みすぎだよ」
「俺、そんなに呑んだ?」
「酒に弱いとか言って、よく呑んでたよ」
呑めないというのが嘘だったにも拘らず、冬真は気分を害した風もなく、朝ごはんの代わりにスムージーを用意してくれた。
何が入っているのかはわからないもの、健康に良さそうな緑色のスムージーを差し出す冬真を、叶芽は苦笑して見上げる。
「ありがとう」
「次はもうちょっと抑えたほうがいいよ」
「全く覚えてないんだけどね」
***
それからというもの、叶芽は週に一度のペースで冬真と飲むようになった。嘘がバレたことで、開き直ったというのもあるが。どうやら冬真の前ではそれほどひどい状態にはならないらしい。一緒に呑んでも、文句ひとつ言わない冬真に甘えるようになっていた。冬真いわく、呑んでも何ごともなく眠ってしまうそうで。安心して冬真の世話になるようになっていた。
酔っ払っている間のことはほとんど覚えていない叶芽だが、冬真が言うことなら間違いない——そう素直に信じて、呑みを重ねた。
冬真といるのが単純に心地良かったのもあった。
酒癖の悪さで去る友達が多い中、冬真だけが受け入れてくれたことが嬉しかった。
「今日はどこで飲む?」
「じゃあ、冬真の部屋で」
「叶芽は俺の部屋が好きだね」
「なんか安心するんだよ」
さっそくリビングのコの字ソファで缶ビールを開ける叶芽に、冬真はごくりと喉を鳴らす。
単純に冬真と呑めることを喜ぶ叶芽だったが。
この時の叶芽は、冬真の目的が別のところにあることを知るはずもなかった。
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