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インストールしてはいけない
「ごめん、待った? 亜純」
「ううん。大丈夫だよ。弥生ちゃんが遅いなんて、珍しいね」
待ち合わせをしていた二人は、高校の同級生だった。
何日も前から約束していた映画鑑賞。映画館は、すでに混在していて、席は埋まっていた。そんな中、弥生と同じワンピースを着ている女性を何人か見かけて、亜純は不思議に思う。きっと流行っているブランドなのだろう。そう、結論づけた亜純は、ふと尋ねた。
「弥生ちゃん、今日のワンピース綺麗だね。どこで買ったの?」
開演までまだ十五分あることもあり、館内は比較的明るいが、場所が場所なので、弥生は小声で答える。
「ああ、これは〝優旬〟っていうサイトで買ったんだ」
「……え、もしかして、優れた旬って書いて〝優旬〟?」
「そうだよ」
「……」
気軽に聞いたわけだが、亜純はやや青ざめる。なぜなら〝優旬〟はセキュリティが甘いサイトで、カード情報も裏で売買されているという噂があったからだ。サイトの広告などでは綺麗な商品を紹介しているので、セキュリティを気にしない人間は購入するらしいが、亜純はどちらかといえばセキュリティを気にする人間だった。
そして弥生に何か異変はないか聞こうとした時。映画が始まり、それ以上のことを聞くことはできなかった。
「今日の映画、面白かったね、弥生ちゃん」
「さすが、あの監督だよね。最期の銃撃シーンはショックだったけど」
二人は映画館を出ると、そろそろランチということもあって、近くのカフェに入った。すると、カフェの至るところで弥生と同じようなワンピースを着る人を見かけた。同一ブランドなのか、それとも偽物なのか、判断しかねた亜純は、思い切って聞いてみる。
「あの、弥生ちゃん。その服って……〝優旬〟で買ったんだよね?」
「そうだよ。〝優旬〟のプライベートブランドの服なんだ」
「プライベートブランドがあるの? でも、〝優旬〟ってセキュリティとか……気にならない?」
「ああ、その問題? 大丈夫だよ、現金振り込みにすれば、問題ないし」
「なるほど。現金振り込みなら安心だね」
「そうだ! 紹介したらお互いに三千ポイント入るから、亜純もアプリ入れない?」
「そうなの? じゃあ、私も試してみよっかな」
その時の亜純は、これが悲劇の始まりになるとは思ってもみなかった。
その夜、自宅に帰った亜純は、さっそく紹介コードを入力して〝優旬〟のお買い物アプリをインストールするが……。
「あ、この服カワイイ。こっちもいいな。三千ポイントで何を買おうかな?」
などと脳天気に商品を見ていた最中、突然、スマホがセキュリティの警告を始めた。亜純のスマートフォンにはセキュリティソフトが入っているので、問題があれば警告が出る仕組みだった。
だが、赤く点滅するスマートフォンを止めることはできず、そのまま呆然と見守っていると——そのうち、何事もなかったかのように、画面が復旧した。
「なんだ、セキュリティソフトの誤作動? 驚かさないでよ」
亜純は胸を撫で下ろすが、それからが問題だった。
「あれ? 何……変なメールが来た。『あなたのスマホを乗っ取りました。写真などを拡散されたくなければ、〝優旬〟を広めてください』? 何言ってるの? このメールはどこから来たの? え、〝優旬〟の管理者? どういうこと」
それが、地獄の始まりだった。
まるで警告するかのように再びメールが送られてくる。そこには、亜純のフォルダにある写真の一枚が貼られていた。
「私のスマホ……乗っ取られたの? どうしよう……」
それから亜純は、町中に〝優旬〟の商品が溢れている理由を知ることになる。〝優旬〟のアプリには、ノルマがあり、それを守らなければ個人情報を拡散されるというシステムになっていたのだった。
(※この物語はフィクションです)
「ううん。大丈夫だよ。弥生ちゃんが遅いなんて、珍しいね」
待ち合わせをしていた二人は、高校の同級生だった。
何日も前から約束していた映画鑑賞。映画館は、すでに混在していて、席は埋まっていた。そんな中、弥生と同じワンピースを着ている女性を何人か見かけて、亜純は不思議に思う。きっと流行っているブランドなのだろう。そう、結論づけた亜純は、ふと尋ねた。
「弥生ちゃん、今日のワンピース綺麗だね。どこで買ったの?」
開演までまだ十五分あることもあり、館内は比較的明るいが、場所が場所なので、弥生は小声で答える。
「ああ、これは〝優旬〟っていうサイトで買ったんだ」
「……え、もしかして、優れた旬って書いて〝優旬〟?」
「そうだよ」
「……」
気軽に聞いたわけだが、亜純はやや青ざめる。なぜなら〝優旬〟はセキュリティが甘いサイトで、カード情報も裏で売買されているという噂があったからだ。サイトの広告などでは綺麗な商品を紹介しているので、セキュリティを気にしない人間は購入するらしいが、亜純はどちらかといえばセキュリティを気にする人間だった。
そして弥生に何か異変はないか聞こうとした時。映画が始まり、それ以上のことを聞くことはできなかった。
「今日の映画、面白かったね、弥生ちゃん」
「さすが、あの監督だよね。最期の銃撃シーンはショックだったけど」
二人は映画館を出ると、そろそろランチということもあって、近くのカフェに入った。すると、カフェの至るところで弥生と同じようなワンピースを着る人を見かけた。同一ブランドなのか、それとも偽物なのか、判断しかねた亜純は、思い切って聞いてみる。
「あの、弥生ちゃん。その服って……〝優旬〟で買ったんだよね?」
「そうだよ。〝優旬〟のプライベートブランドの服なんだ」
「プライベートブランドがあるの? でも、〝優旬〟ってセキュリティとか……気にならない?」
「ああ、その問題? 大丈夫だよ、現金振り込みにすれば、問題ないし」
「なるほど。現金振り込みなら安心だね」
「そうだ! 紹介したらお互いに三千ポイント入るから、亜純もアプリ入れない?」
「そうなの? じゃあ、私も試してみよっかな」
その時の亜純は、これが悲劇の始まりになるとは思ってもみなかった。
その夜、自宅に帰った亜純は、さっそく紹介コードを入力して〝優旬〟のお買い物アプリをインストールするが……。
「あ、この服カワイイ。こっちもいいな。三千ポイントで何を買おうかな?」
などと脳天気に商品を見ていた最中、突然、スマホがセキュリティの警告を始めた。亜純のスマートフォンにはセキュリティソフトが入っているので、問題があれば警告が出る仕組みだった。
だが、赤く点滅するスマートフォンを止めることはできず、そのまま呆然と見守っていると——そのうち、何事もなかったかのように、画面が復旧した。
「なんだ、セキュリティソフトの誤作動? 驚かさないでよ」
亜純は胸を撫で下ろすが、それからが問題だった。
「あれ? 何……変なメールが来た。『あなたのスマホを乗っ取りました。写真などを拡散されたくなければ、〝優旬〟を広めてください』? 何言ってるの? このメールはどこから来たの? え、〝優旬〟の管理者? どういうこと」
それが、地獄の始まりだった。
まるで警告するかのように再びメールが送られてくる。そこには、亜純のフォルダにある写真の一枚が貼られていた。
「私のスマホ……乗っ取られたの? どうしよう……」
それから亜純は、町中に〝優旬〟の商品が溢れている理由を知ることになる。〝優旬〟のアプリには、ノルマがあり、それを守らなければ個人情報を拡散されるというシステムになっていたのだった。
(※この物語はフィクションです)
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