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2章 亡命者は魔王の娘!?

10話 住む場所どーこ?

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 結論から言うと、透明化していた魔物の正体はポイズンフロッグだった。

 そして、主任の言う通り、付近の森にはポイズンフロッグは住み着いてはおらず、何処かから持ってこられた可能性が高いという。

 モネはシャープの解毒魔術によって一命を取り留め、15時から勤務を再開させた。

 ポイズンフロッグ以降、魔物や侵入者は現れず、今日の勤務は終わりを迎えた。

「お疲れ~ヒスイきゅ~ん!・・・あれ?その娘は?」

「この娘が主任の言ってた重要な仕事の娘。亡命してきた魔王族のリリックです」

「こんにちは!初めまして!・・・で良いのかな?挨拶は?」

「うん、完璧」

 リリックはリオに来る前に日本語をマスターしてきたらしく、手間が1つ省けて嬉しい。

 ただ、代わりに別の手間魔術の扱い方が増えたが、それは少しずつ教えよう。

「よっす!夜勤組!今日もよろしく~」

「頑張って下さーい」

「お疲れ様デース!」

「おつかれっす」

 事務室を出て、家に帰ろうとする3人。それを、主任が一声で止めた。

「ちょっと待ってちょっと待って!少し話があるんだ。聞いてはくれないかい?」

「絶対に面倒だから嫌なんですけど・・・」

「まあまあ!モネ!そう言わずに座っておくれよー。すぐに終わるからさ」

 モネは基本的に仕事には真面目なタイプだ。しかし、時間外労働などになると途端に機嫌が悪くなり、露骨にやる気が無くなる。

「今後の仕事に関わる事なんだよ~。引き受けてくれれば、お給料も─────」

「それを早く言ってください。さあ、早く」

 時は金なり。彼女は非常にせっかちなのだ。

「まず!我々は国家から頼まれた重大任務・リリックちゃんお迎え作戦を見事に成功した!」

「爆発しましたし、1人は毒にかかりましたけどね」

「おかげでBLTサンド全部吐き出したし、口の中ザラザラするしで最悪なんだから思い出させないで」

「しかぁし!彼女が勤務中に言っていた通り!今回の亡命は非常に急な要請だったこともあってホテルの予約が全く取れてない!!」

「あ、アタシ帰ります」

「まだ本題を言ってない!」

「聞かなくてもわかります。つまりは彼女を家に泊めろって事ですよね?」

「ザッツライト」

 まあ、そうなるだろう。命を狙われている以上、事務室にずっと居てもらうわけにはいかない。かと言って、自由に行動させるわけにもいかない。

 だとしたら、ある程度自由を与えることができる門番の家にお泊り制が1番良いのだろうが、その方法は門番達の大事な休みの時間が奪われてしまうという意味でもある。

「じゃあ、無理です。アタシただでさえ疲れが溜まりやすいタイプの人間なので」

 寝息がうるさいとかいう理由で深夜に壁を破壊するヤツが疲れが溜まりやすいタイプとは。分かりやすい嘘だな・・・。

「モネはわたしの事・・・嫌い?」

 そんなモネにリリックが直接、涙目の精神攻撃。

「べ、別にそう言うわけじゃないわよ!ア、アタシはただ公私を分けたいだけ!アンタを嫌ってるわけじゃないから!」

 魔族を快く思っていないと語っていたモネであるが、リリックという個人に対しては情が移ってしまい、強く突っぱねる事ができない様子。

「ていうか、シャープはどうなのよ?アンタの部屋、アタシ達の中で1番広いじゃない」

「僕の部屋もちょっと勘弁っ!ドッペルゲンガーの時に半壊したの覚えてるんでしょ?あれで、メチャクチャ管理人さんに怒られちゃってさ。次、やったら立ち退きって言われちゃって・・・」

「わたし、何も壊さないよ・・・?」

「・・・ッッ!ごめん!魔力調整できないって聞いたら怖くって・・・」

 まあ、あんな魔力を部屋でぶっ放したら、部屋どころかそのフロアも破壊しかねない。シャープは可哀想なので、やめておいた方が良いだろう。

 となると、消去法で残ったのは。

「俺か~~~」

「翡翠だね~。どうかな?」

「う~~ん・・・」

 リリックの方を見ると、上目遣いかつキラキラとした宝石のような瞳でこちらを見つめてきていた。

 断ったら罪悪感が湧くような目でこちらを見るのはやめてくれ・・・。

「はぁ、分かりました。俺がリリックを引き受けます」

「やったぁ!それじゃあ、よろしく!!」

 泊まるところが決まって安心したのか、リリックは元の笑顔を取り戻した。

 こちらに駆け寄ってきて、無邪気にも抱きついてくるリリックの頭を、髪を梳くように撫でると、気持ちよさそうに唸った。

 そんな無邪気なリリックを見ていると、まあ良いかなと思てしまうのは、兄貴のサガなのだろうか・・・。

「ていうか、主任の家は?行った事ないけど、それなりに広いでしょう?」

「え?オレ?それは・・・倫理的にまずいでしょ」

 主任は30歳に対して、リリックは外見年齢は15歳くらい。確かに倫理的に危ないし、帰り途中に職務質問を受けかねないので、俺が受け持って正解だっただろう。

「えっと・・・ヒスイ!」

「ん?どうしたの?」

 少し恥ずかしそうに顔を赤らめると、覚悟を決めたように向日葵のような満面の笑みを浮かべて言葉を発する。

「これからよろしくね!!」

「そうだね。よろしく」

 ちょっと面倒だと思う自分もいれば、共同生活を心の何処かで楽しみにしている自分がいる。実家にいた頃を思い出しているのだろうか。
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