異世界と繋がる不思議な門を警備する仕事に就きしました!

町島航太

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2章 亡命者は魔王の娘!?

エピローグⅡ

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 新年度になり、後輩としてリリックを迎えてから数週間後、珍しいザナからの客が門を通してやってきた。

「お久しぶりです。ヒスイさん」

「あ、シャイさん!本当にお久しぶりです!元気でしたか?」

「ええ、体調を崩さないように頑張っています」

 キャンベル騎士団のシャイ・マスカッツさんだ。今日は以前とは違い、鎧は着ておらず、剣のみを携帯している。

 その服装からして騎士団の仕事ではないようだが、荷物の少なさから、観光というわけでもなさそうだ。

「リック君。悪いんだけど、入国審査代わってくれないかな?」

「うっす」

 リザードマンの後輩リック君に入国審査の仕事を代わってもらい、俺はシャイ団長と共に事務室へと向かった。

 緑茶をテーブルに出し、パイプ椅子に座ってもらい、自身も対面するように座る。

「それで、要件はなんでしょうか?」

「私が旅行客だとは思わないのですか?」

「旅行客は剣と雑嚢だけで入国してきませんよ。それに入国ビザも発行してないじゃないですか」

 それに、他にも違和感を感じる。何処か距離があるような・・・前会った時の態度と言動とはかなり違うような気がする。

 前は厳格かつ格上ながらも、俺の事を対等に見てくれていた。しかし、今では上の者に接するような態度に変化している。

 突然の訪問と何か関係あるのか?

「成る程・・・では、今日来た用事をお話します。あの戦いの日を覚えていますか?ロット2世との戦いを」

「あれ以来デッカい騒動はないですからね。イヤでも記憶に残ってますよ」

「そうですよね、失礼しました。では、貴方がロット2世に殺されかけ、ロット2世に気絶の一撃を喰らわせた武器は覚えていますか?」

 それもしっかり覚えている。美しい銀の宝剣だった。最も、剣としてではなく、打撃武器として使用したが。

「あの宝剣は、ナチュレの初代国王が職人に造らせた由緒正しき宝剣。王族とごく一部の家臣にしか存在が伝えられていない秘密の武器です」

「そんな凄い剣をあんな戦いにぶら下げて行ってたのか。相当気合い入ってたんですね。ロット2世」

「はい。そして、ここからが本題なのですが、実はあの宝剣にはとある魔術がかけられていたんです。持つ者を制限する魔術が」

 勇者しか扱う事ができない伝説の剣に近い武器だったのか。やはり魔術というのは科学にも負けず劣らずの万能性があるな・・・。

「その条件ってどんなのなんです?一定の魔力が無いと握れないとか?」

「いえ、そんな単純な制限ではありません。それなら、私などの武闘派のエルフでも握る事ができるでしょう」

 エルフの平均魔力量はとても高い。確かに俺の言った条件だと、大体のエルフはあの宝剣を扱う事が出来るだろう。

「あの宝剣を握れる条件は王族を血を引いているか否かです。正しくいえば、初代国王の血を引いている者が資格者となります」

「おぉ~それっぽい・・・ん?」

 ってなると俺が握れたのはおかしいことじゃないか?

 そうか、宝剣は初代国王の頃から在ったから、かけられてた魔術が消えていたんだ。どうりで俺も握れるわけだ。

「面白い話ありがとうございます。それじゃあ、本題は?」

「いえ、今のが本題です」

「え?今のが本題?魔術効果が切れた宝剣の件が?」

「はい。それと、王族しか受け付けない魔術効果は未だに続いています。確認として、リオに来る前に一度握るのを試してみましたが、ものの見事に弾かれました。これまでに300人以上の戦士達が試していますが、結果は同じです」

 ようやく話が見えてきた。いや、最初から見えていたのかもしれない。それを頭が理解するのを拒否していたのだろう。

「昔、ロット2世には妹がいました。彼と同じくらいの才能を持ち、優しい心を持った美しい女性です。国民から慕われていました。しかし、約20数年前に突如として行方不明になってしまいました。今となっては理由は明らかですがね」

 自分と同じ才能を持ち、国民から慕われる妹。ロット2世が疎ましく思うのも納得がいく。

「その女性と俺に何の関係が?」

「とぼけないでください。もうとっくに理解できているでしょう?」

 ああ、理解できてるとも。だから、答え合わせをしようじゃないか。

「その女性は」

「この俺、森山翡翠の」

「母親なのです」

 薄々勘付いてはいたが、断言されると衝撃が全身に走る。シャイ団長は続けて喋る。

「初めて会った時から似てるとは思っていましたが、他人の空似なのだろうと思っていました。しかし、宝剣の件で確信に至りました。どのような経緯で貴方が生まれたのかは分かりません。ですが、私が使えるナチュレイズ家の人間なのです」

 母親代わりである孤児院の院長は頑なに俺の両親の話をしてくれなかった。何度も聞いたけれども、教えてくれなかったので、諦めて現在に至る。

 それでも、興味はあった為、いつか分かったら良いなとは思っていた。

 まさかこんな形で知るとは思わなかった。

 俺が王族であると伝えると、シャイ団長はパイプ椅子から立ち、俺に向かって跪き始めた。

「ヒスイさん・・・いえ、ヒスイ王子。どうか我々に力を貸していただけないでしょうか?」

「い、一体何を手伝えば良いんです?」

「それは、ナチュレに来てから説明します」

 成る程ね。ん?それってつまり─────

「ザナに来いってこと?」

 シャイ団長はコクリと首を縦に振った。
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