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3章 異世界旅行録
1話 翡翠、実家に帰る
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前にも言ったと思うけど、もう一度言っておく。以前まで、職場は8人で回していたが、冬に先輩門番が復職。更に新人門番が4人就任。
これにより、俺達は休みが与えられたのだ。今までできなかった娯楽がいっぱいできる。ゲームや漫画、映画鑑賞などだ。
そして勿論、里帰りもする事が出来る。
俺は今、実家である孤児院のある町へと帰ってきていた。
「あれ?翡翠君じゃん!久しぶりだね!元気してた?」
「うん。何とかね」
「何とか?・・・ああ~~!そういえば門番になったんだっけ!それは曖昧にもなるわ!」
最寄り駅で早速中学の同級生と出会う。特別親しいというわけではないのだが、俺が門番になった事は噂として広まっているらしい。
「里帰りってやつか!」
「そんな感じだね」
「そっか!じゃあ、久しぶりの再会を楽しんでね!」
すぐに会話は終了し、互いに別の道を行く。
孤児院は最寄り駅から徒歩で10分。マンションが並び立つ地帯にポツンと立っている。ぱっと見は中世ヨーロッパの貴族が住んでそうな建物なので、嫌が応でも目に入る。
庭では、幼児達が鬼ごっこや遊具などで遊んでおり、とても賑やかだ。
「あっ!翡翠にいちゃんだ!」
俺の接近に気づいた1人の児童が声を上げると、庭で遊んでいた幼児達が一斉に群がってきた。
「「「「「おかえりなさい!!」」」」」
「うん。ただいま。院長はいるかな?」
「うん!ついてきて!」
子供に手を引っ張られて孤児院内に入る。1年前に出た時とほとんど変わっていないが、額縁に飾られている子供たちの職員の人達の似顔絵が若干変わってるくらいだ。
「あらあら!翡翠君!元気そうで何よりだわ!」
「牛田さんもお元気そうでなによりで」
「怪我とかしていないかい?具合は大丈夫?」
「大丈夫ですよ、島田さん。俺、強いんで」
すれ違っていく孤児院の職員の方々もまるで変っていない。いや、ちょっと太ったかも?
「いんちょー!ひすいお兄ちゃん帰ってきた!」
案内されたのは皆がくつろぐ居間。院長はそこのソファでぐっすり眠っていたが、案内してくれた子供の大声に反応するように飛び起きた。
「えっ!?何処?どこにいるの!?全く見えないわ!」
「いんちょー!アイマスク!アイマスクとらないと!」
子供の指摘で自分がアイマスクしている事を思い出した院長はアイマスクを外し、俺を見る。俺が赤ん坊の頃からそだててくれた母親代わりの女性は、俺を見るなり、ひまわりのような優しい笑みを浮かべ、俺を抱きしめた。
「翡翠!元気そうで良かった~~心配したんですよ?孤児院を出てから一回も顔を出さないんですもの!」
「ごめんなさい。門番の仕事が忙しくてさ。でも、手紙とか仕送りはしてたから無事だっていうのは伝わってたと思うけど・・・」
「それとこれとは別です!子供の安全をこの目で確かめなければ真に安心したとは言えないのです」
俺はまだ、親になった事がないから分からないが、いつかなったら院長の気持ちがわかるのだろうか。
「門番の仕事は人員不足で大変だと新聞で見ましたが、その様子だと解決したみたいですね」
「あれ?その事は新聞に載ってなかったんですか?」
「多分、掲載されていたと思いますが・・・」
「多分されていたと思うのですが、最近は小さい文字を見るのも疲れるようになってしまいまして。おそらく見逃したんだと思います」
院長は今年で62歳。既に定年を超えている。エルフだったらまだしも、院長はヒューマンなので、あらゆる作業にかかる体力が他の職員よりも多いのだ。
俺が来るまで眠っていたのも、激しく消耗する体力を回復させる為だろう。
「帰ってくるなら連絡ぐらいして下さい。そしたら、準備ができたのに」
「今日の朝、ふと帰りたいなと思ってきただけなんで気にしないでください」
嘘である。4日前から帰る計画を立てていた。
「大智、ちょっと院長と2人だけで話したいから皆の所に戻っててくれないかな?」
「うん!わかった!あとであそぼうね!」
「勿論」
ここまで案内してくれた孤児院の少年大智とグータッチして別れる。ここでは、皆が家族であり、子供達は血の繋がらない兄弟なのだ。
居間に2人きりにしたこと。俺の真剣な表情。それらからこれから何かが始まると予感した院長は眠りから完全に覚醒し、俺の方を綺麗な瞳で見つめた。
「それで、一体何があったのですか?」
「単刀直入に聞きますね。俺の両親の事を教えて下さい」
「はぁ・・・またそれですか。前にも言ったでしょう?貴方のお母様との約束で、言えない約束になっているんです。私も貴方に教えたいですが─────」
「それは、俺の母さんがナチュレってエルフの国の王女だったから?」
「・・・ッ!!どうしてそれを」
シャイ団長に言われた時は半信半疑だったが、院長の驚いた表情で確信した。俺は本当にナチュレの王族なのだと。
「偶然が重なりって知りました。少し前にエルフの王が異門町で虐殺を行なって終身刑になったニュースは新聞で読みましたよね?」
「・・・なるほど。それで、知ったのですか」
「はい。王族にしか握れない宝剣が握れた事で発覚しました。そして、何故院長が俺の素性をひた隠しにしたのかも分かりました」
「貴方の母の兄であるロット2世から守る為です。他に王位を継承できる者がいると分かったら、殺しにくるから黙っていてと貴方の母、ニーナ様に頼まれました」
ニーナ、俺の母親の名前。初めて聞いた。
「ですが、もうその必要はないですね。なので、教えましょう。貴方の両親は病死などではありません」
病死というのも、嘘だったのか。思い出してみると、病名を教えてはくれなかったな。
「何を身分も身元も目的も不明の魔術師達はニーナ様を攫い、貴方の父である焼太さんは助ける為にザナへ赴き、罠にハマり、殺されました」
「それが・・・真実ですか?」
院長は首をコクリと縦に振る。
初めて聞かされた亡き両親の話は、油断したら泣いてしまう程に悲しい話だった。
これにより、俺達は休みが与えられたのだ。今までできなかった娯楽がいっぱいできる。ゲームや漫画、映画鑑賞などだ。
そして勿論、里帰りもする事が出来る。
俺は今、実家である孤児院のある町へと帰ってきていた。
「あれ?翡翠君じゃん!久しぶりだね!元気してた?」
「うん。何とかね」
「何とか?・・・ああ~~!そういえば門番になったんだっけ!それは曖昧にもなるわ!」
最寄り駅で早速中学の同級生と出会う。特別親しいというわけではないのだが、俺が門番になった事は噂として広まっているらしい。
「里帰りってやつか!」
「そんな感じだね」
「そっか!じゃあ、久しぶりの再会を楽しんでね!」
すぐに会話は終了し、互いに別の道を行く。
孤児院は最寄り駅から徒歩で10分。マンションが並び立つ地帯にポツンと立っている。ぱっと見は中世ヨーロッパの貴族が住んでそうな建物なので、嫌が応でも目に入る。
庭では、幼児達が鬼ごっこや遊具などで遊んでおり、とても賑やかだ。
「あっ!翡翠にいちゃんだ!」
俺の接近に気づいた1人の児童が声を上げると、庭で遊んでいた幼児達が一斉に群がってきた。
「「「「「おかえりなさい!!」」」」」
「うん。ただいま。院長はいるかな?」
「うん!ついてきて!」
子供に手を引っ張られて孤児院内に入る。1年前に出た時とほとんど変わっていないが、額縁に飾られている子供たちの職員の人達の似顔絵が若干変わってるくらいだ。
「あらあら!翡翠君!元気そうで何よりだわ!」
「牛田さんもお元気そうでなによりで」
「怪我とかしていないかい?具合は大丈夫?」
「大丈夫ですよ、島田さん。俺、強いんで」
すれ違っていく孤児院の職員の方々もまるで変っていない。いや、ちょっと太ったかも?
「いんちょー!ひすいお兄ちゃん帰ってきた!」
案内されたのは皆がくつろぐ居間。院長はそこのソファでぐっすり眠っていたが、案内してくれた子供の大声に反応するように飛び起きた。
「えっ!?何処?どこにいるの!?全く見えないわ!」
「いんちょー!アイマスク!アイマスクとらないと!」
子供の指摘で自分がアイマスクしている事を思い出した院長はアイマスクを外し、俺を見る。俺が赤ん坊の頃からそだててくれた母親代わりの女性は、俺を見るなり、ひまわりのような優しい笑みを浮かべ、俺を抱きしめた。
「翡翠!元気そうで良かった~~心配したんですよ?孤児院を出てから一回も顔を出さないんですもの!」
「ごめんなさい。門番の仕事が忙しくてさ。でも、手紙とか仕送りはしてたから無事だっていうのは伝わってたと思うけど・・・」
「それとこれとは別です!子供の安全をこの目で確かめなければ真に安心したとは言えないのです」
俺はまだ、親になった事がないから分からないが、いつかなったら院長の気持ちがわかるのだろうか。
「門番の仕事は人員不足で大変だと新聞で見ましたが、その様子だと解決したみたいですね」
「あれ?その事は新聞に載ってなかったんですか?」
「多分、掲載されていたと思いますが・・・」
「多分されていたと思うのですが、最近は小さい文字を見るのも疲れるようになってしまいまして。おそらく見逃したんだと思います」
院長は今年で62歳。既に定年を超えている。エルフだったらまだしも、院長はヒューマンなので、あらゆる作業にかかる体力が他の職員よりも多いのだ。
俺が来るまで眠っていたのも、激しく消耗する体力を回復させる為だろう。
「帰ってくるなら連絡ぐらいして下さい。そしたら、準備ができたのに」
「今日の朝、ふと帰りたいなと思ってきただけなんで気にしないでください」
嘘である。4日前から帰る計画を立てていた。
「大智、ちょっと院長と2人だけで話したいから皆の所に戻っててくれないかな?」
「うん!わかった!あとであそぼうね!」
「勿論」
ここまで案内してくれた孤児院の少年大智とグータッチして別れる。ここでは、皆が家族であり、子供達は血の繋がらない兄弟なのだ。
居間に2人きりにしたこと。俺の真剣な表情。それらからこれから何かが始まると予感した院長は眠りから完全に覚醒し、俺の方を綺麗な瞳で見つめた。
「それで、一体何があったのですか?」
「単刀直入に聞きますね。俺の両親の事を教えて下さい」
「はぁ・・・またそれですか。前にも言ったでしょう?貴方のお母様との約束で、言えない約束になっているんです。私も貴方に教えたいですが─────」
「それは、俺の母さんがナチュレってエルフの国の王女だったから?」
「・・・ッ!!どうしてそれを」
シャイ団長に言われた時は半信半疑だったが、院長の驚いた表情で確信した。俺は本当にナチュレの王族なのだと。
「偶然が重なりって知りました。少し前にエルフの王が異門町で虐殺を行なって終身刑になったニュースは新聞で読みましたよね?」
「・・・なるほど。それで、知ったのですか」
「はい。王族にしか握れない宝剣が握れた事で発覚しました。そして、何故院長が俺の素性をひた隠しにしたのかも分かりました」
「貴方の母の兄であるロット2世から守る為です。他に王位を継承できる者がいると分かったら、殺しにくるから黙っていてと貴方の母、ニーナ様に頼まれました」
ニーナ、俺の母親の名前。初めて聞いた。
「ですが、もうその必要はないですね。なので、教えましょう。貴方の両親は病死などではありません」
病死というのも、嘘だったのか。思い出してみると、病名を教えてはくれなかったな。
「何を身分も身元も目的も不明の魔術師達はニーナ様を攫い、貴方の父である焼太さんは助ける為にザナへ赴き、罠にハマり、殺されました」
「それが・・・真実ですか?」
院長は首をコクリと縦に振る。
初めて聞かされた亡き両親の話は、油断したら泣いてしまう程に悲しい話だった。
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