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3章 異世界旅行録
16話 親に似なかった娘
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「リオからザナへの旅はさぞ大変だったでしょう。皆さんの分の泊まる場所は既に確保してあります」
実を言うと、徒歩による移動に加え、ゾンビ達との戦闘もあった為、疲れが溜まっていた。
加えて、沈もうとしている夕日が目蓋を重くしているのが分かる。正直言って眠りたい。晩御飯とかどうでも良いからとにかく寝たい。
「したい話が山程ありますが、今日はお疲れのようですね。シャイ団長。ヒスイ様とヒスイ様のお友達を6階の特別客室にご案内してください」
「かしこまりました。では、着いてきてください」
シャイ団長に連れられて謁見の間を出る。一方的かつとても短い会話だった。
俺達を気遣っての短さだったのか?王族への謁見なんて初めての事だったから今のが正しいのか、間違っているのかすら分からない。
考えようとするが、疲れて何も考えられない。城に入るまではある程度体力が残っていたような気がするのだが・・・目的地に着き、緊張が解けた事で今まで感じていなかった疲れがどっと湧いてきたのだろうか?
階段を登り、もう1階上に登る。6階は他の階とは違い、細かく部屋として区切られており、その中でも特に美しい彩飾が施された扉の前に連れてこられた。
「こちらが皆さんが泊まる部屋です。どうぞごゆっくり」
シャイ団長は扉を開けると、まず目に入ったのは自宅のベッドよりもフカフカしてそうなベッド。淡く光る照明用の宝石に、備え付けられた手触りの良い家具達。
確かに特別な部屋だ。掃除も行き渡っているし、居心地は最高かもしれない。
刀をテーブルに立てかけ、リュックを床に置き、靴を脱ぐ。
開放的な姿になった俺は、雲にダイブするようにベッドに飛び込む。低反発だったようで、ゆっくりと体が白いベッドの中へと沈んでいく。
体が侵略されていく不思議な感覚だが、なぜか抵抗する気が起きない。三大欲求を刺激する道具はやはり、人々から争う気力を奪うようだ。
「あぁぁぁ~蕩ける~~」
「蕩けすぎでしょ。どんだけ疲れてたわけ?」
「まあ、初めてのザナだから僕達よりも体力使ってたんじゃないかナ?」
「わたしも初めてリオに来た時は何日か睡眠時間とんでもなかったしね!」
初めて訪れた土地は何故かいつもより体力の消耗が凄い。何か理屈などはあるのだろうか。
「満足していただけて何よりです。それでは私はこの辺で」
「うん~ありがとう~シャイ団長~」
自分がいては真に心身を休める事はできない。そう考えたシャイ団長は俺達を気遣って部屋を出ていってくれた。
そして、残されたのは4人。ナチュレの忠実なる戦士ではなく、リオの門番。話を切り出したのは、今にも寝てしまいそうな翡翠だった。
「なんかさ~謁見の時間短くなかった~?もしかしてあれが普通?」
「ううん、かなり短かったね。シュエリーヌ王女が翡翠を顔色の悪さに気づいて早めに切り上げてくれたんだと思う」
「なんだか話し足りなさそうな顔もしてたしね」
「エルフの癖に気が効く王女だったわ。本当に今まで幽閉されてたのか疑問に思うくらいには」
王女が気を使う程に俺の顔色は悪いのだろうか?スマホを手に取り、カメラ機能を用いて自分の顔面を見てみると、確かに酷かった。
肌は土色、目の下には薄らと隈、唇も若干青くなっているような気がする。
こんな酷い顔で謁見していたのか俺は・・・。
「できた王女だったわ、ホント・・・・・エルフの癖に!」
「でも、ちょっと抜けてるというか距離の取り方がおかしかったような・・・」
「例えバ?」
「必要のない情報を自己紹介の時に言ってた所かな?年齢なんて言う必要はないのに」
「それ気になってた~・・・エルフって年齢言うのが普通なのかな~ってスルーしたけど・・・」
「そんな文化はないよエルフには。幽閉されててほとんど他人と交流できなかったから、距離を取り方が上手くないのかもネ」
シャープが考えた理由は納得のいくものだった。交流の上手い下手は経験数に依存する。幽閉されて、他者との交流をほとんど断たれた為、経験が積めなかったというのも納得がいった。
しかし、未だすっきりしない。体内に異物が入り込んだような違和感が拭いきれていない。
謁見の時、もう少し集中していれば、気づけていたかもしれない。彼女から感じ取った他の人とは違う違和感に。
王女だから、他の人とは違うとかの問題ではなく、何かが違かったのだ。その何かが分からなくて気持ちが悪い。
何だったんだ・・・あれは何だったんだ。
分からない・・・ワカラナイ・・・わからない・・・。
シュエリーヌから距離感の詰め方のおかしさ以外の違和感の正体を見つけ出そうとしたが、次第に目蓋だけでなく、思考も重くなっていき、翡翠はベッドに仰向けになったまま、眠りについてしまった。
★
翡翠が疲れによって眠りに付いた同時刻、シャイ・マスカッツは自宅に帰還・・・はせず、もう一度謁見の間へと向かう。
謁見の間には、まだ自室に帰らず玉座に座っているシュエリーヌ王女が座っていた。
「ただいまヒスイ王子を特別客室に案内してきました」
「そう・・・ご苦労様です。ヒスイ様は大丈夫でしたか?」
「はい。ここまでの経路で毒や病や呪いにかかったわけではないので、恐らく初めてのザナの旅で疲れてしまったのかと」
「そう、それは良かったです・・・・ね」
「はい、何よりです」
「「・・・・・・」」
2人の間に静寂が佇む。シュエリーヌはその静寂を、愛おしそうに楽しむと、艶やかな唇を開き、言葉を発した。
「アレの準備は出来ましたか?」
「・・・はい。ヒスイ王子にはバレないようにこっそりと仕掛けさせてもらいました」
「そう・・・明日が楽しみです・・・ね?」
「そう、ですね・・・」
「あら?どうしたのです?シャイ団長。何だか納得がいかないような顔をしていますが・・・」
「少し不安がありまして・・・もし、リリック魔王女とヒスイ王子が友情以上の絆で結ばれていたらと思うと・・・冷や汗が止まらなくて・・・」
「その時はその時です。ですが、ご安心を。戦争のパターンは避けるようにしますので・・・ね?」
ロット2世にも似た美しい容姿を持つ王女は緑髪を靡かせ、ほくそ笑む。順調な計画の進行を喜ぶように。
実を言うと、徒歩による移動に加え、ゾンビ達との戦闘もあった為、疲れが溜まっていた。
加えて、沈もうとしている夕日が目蓋を重くしているのが分かる。正直言って眠りたい。晩御飯とかどうでも良いからとにかく寝たい。
「したい話が山程ありますが、今日はお疲れのようですね。シャイ団長。ヒスイ様とヒスイ様のお友達を6階の特別客室にご案内してください」
「かしこまりました。では、着いてきてください」
シャイ団長に連れられて謁見の間を出る。一方的かつとても短い会話だった。
俺達を気遣っての短さだったのか?王族への謁見なんて初めての事だったから今のが正しいのか、間違っているのかすら分からない。
考えようとするが、疲れて何も考えられない。城に入るまではある程度体力が残っていたような気がするのだが・・・目的地に着き、緊張が解けた事で今まで感じていなかった疲れがどっと湧いてきたのだろうか?
階段を登り、もう1階上に登る。6階は他の階とは違い、細かく部屋として区切られており、その中でも特に美しい彩飾が施された扉の前に連れてこられた。
「こちらが皆さんが泊まる部屋です。どうぞごゆっくり」
シャイ団長は扉を開けると、まず目に入ったのは自宅のベッドよりもフカフカしてそうなベッド。淡く光る照明用の宝石に、備え付けられた手触りの良い家具達。
確かに特別な部屋だ。掃除も行き渡っているし、居心地は最高かもしれない。
刀をテーブルに立てかけ、リュックを床に置き、靴を脱ぐ。
開放的な姿になった俺は、雲にダイブするようにベッドに飛び込む。低反発だったようで、ゆっくりと体が白いベッドの中へと沈んでいく。
体が侵略されていく不思議な感覚だが、なぜか抵抗する気が起きない。三大欲求を刺激する道具はやはり、人々から争う気力を奪うようだ。
「あぁぁぁ~蕩ける~~」
「蕩けすぎでしょ。どんだけ疲れてたわけ?」
「まあ、初めてのザナだから僕達よりも体力使ってたんじゃないかナ?」
「わたしも初めてリオに来た時は何日か睡眠時間とんでもなかったしね!」
初めて訪れた土地は何故かいつもより体力の消耗が凄い。何か理屈などはあるのだろうか。
「満足していただけて何よりです。それでは私はこの辺で」
「うん~ありがとう~シャイ団長~」
自分がいては真に心身を休める事はできない。そう考えたシャイ団長は俺達を気遣って部屋を出ていってくれた。
そして、残されたのは4人。ナチュレの忠実なる戦士ではなく、リオの門番。話を切り出したのは、今にも寝てしまいそうな翡翠だった。
「なんかさ~謁見の時間短くなかった~?もしかしてあれが普通?」
「ううん、かなり短かったね。シュエリーヌ王女が翡翠を顔色の悪さに気づいて早めに切り上げてくれたんだと思う」
「なんだか話し足りなさそうな顔もしてたしね」
「エルフの癖に気が効く王女だったわ。本当に今まで幽閉されてたのか疑問に思うくらいには」
王女が気を使う程に俺の顔色は悪いのだろうか?スマホを手に取り、カメラ機能を用いて自分の顔面を見てみると、確かに酷かった。
肌は土色、目の下には薄らと隈、唇も若干青くなっているような気がする。
こんな酷い顔で謁見していたのか俺は・・・。
「できた王女だったわ、ホント・・・・・エルフの癖に!」
「でも、ちょっと抜けてるというか距離の取り方がおかしかったような・・・」
「例えバ?」
「必要のない情報を自己紹介の時に言ってた所かな?年齢なんて言う必要はないのに」
「それ気になってた~・・・エルフって年齢言うのが普通なのかな~ってスルーしたけど・・・」
「そんな文化はないよエルフには。幽閉されててほとんど他人と交流できなかったから、距離を取り方が上手くないのかもネ」
シャープが考えた理由は納得のいくものだった。交流の上手い下手は経験数に依存する。幽閉されて、他者との交流をほとんど断たれた為、経験が積めなかったというのも納得がいった。
しかし、未だすっきりしない。体内に異物が入り込んだような違和感が拭いきれていない。
謁見の時、もう少し集中していれば、気づけていたかもしれない。彼女から感じ取った他の人とは違う違和感に。
王女だから、他の人とは違うとかの問題ではなく、何かが違かったのだ。その何かが分からなくて気持ちが悪い。
何だったんだ・・・あれは何だったんだ。
分からない・・・ワカラナイ・・・わからない・・・。
シュエリーヌから距離感の詰め方のおかしさ以外の違和感の正体を見つけ出そうとしたが、次第に目蓋だけでなく、思考も重くなっていき、翡翠はベッドに仰向けになったまま、眠りについてしまった。
★
翡翠が疲れによって眠りに付いた同時刻、シャイ・マスカッツは自宅に帰還・・・はせず、もう一度謁見の間へと向かう。
謁見の間には、まだ自室に帰らず玉座に座っているシュエリーヌ王女が座っていた。
「ただいまヒスイ王子を特別客室に案内してきました」
「そう・・・ご苦労様です。ヒスイ様は大丈夫でしたか?」
「はい。ここまでの経路で毒や病や呪いにかかったわけではないので、恐らく初めてのザナの旅で疲れてしまったのかと」
「そう、それは良かったです・・・・ね」
「はい、何よりです」
「「・・・・・・」」
2人の間に静寂が佇む。シュエリーヌはその静寂を、愛おしそうに楽しむと、艶やかな唇を開き、言葉を発した。
「アレの準備は出来ましたか?」
「・・・はい。ヒスイ王子にはバレないようにこっそりと仕掛けさせてもらいました」
「そう・・・明日が楽しみです・・・ね?」
「そう、ですね・・・」
「あら?どうしたのです?シャイ団長。何だか納得がいかないような顔をしていますが・・・」
「少し不安がありまして・・・もし、リリック魔王女とヒスイ王子が友情以上の絆で結ばれていたらと思うと・・・冷や汗が止まらなくて・・・」
「その時はその時です。ですが、ご安心を。戦争のパターンは避けるようにしますので・・・ね?」
ロット2世にも似た美しい容姿を持つ王女は緑髪を靡かせ、ほくそ笑む。順調な計画の進行を喜ぶように。
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