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3章 異世界旅行録

25話 キッスなんだよね〜

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「ヒ、ヒヒヒヒヒヒヒスイ様との子供を作るぅ~~!?つまりそれは・・・孕むという事ですか?」

「その通り!シュエリ王女は昨日から見て知ったたはずです。俺には大人たる責任感が存在し、人を無碍にするような行為をするような人間ではない事を!」

 お手本のような自画自賛!しかし、過剰な言動から分かるように、演技だ。

 演じている自分でも大根役者だと思うが、混乱しているシュエリ王女には真の言葉に聞こえているらしく、全く怪しいとは思っていない。

 顔を林檎のように赤く染め、しばらく考えると、戦に向かう戦士のような勇ましい顔つきとなって、首を縦に振った。

「分かりましたヒスイ様。少し早いですが、私は貴方の女になります。そして、これからのナチュレを共に支えましょう!」

 うん、すんごく重い思い!さっきの式でも嘔吐していたのに、王位なんて継いだら、ストレスで死んじゃう!!

 酷い話だが、翡翠にシュエリと結婚する気も、王位も継ぐ気もない。全てここから抜け出す口実である。

 シュエリの言っている子作りとは、互いの性器を用いた正しい性行為によるものではなく、親が子供に対して言い逃れする際に語るキスによるもの。

 つまり、妊娠はしない!奪われるのはシュエリよファーストキスだけである。

 何故、翡翠がこんな賭けに出たのか?それは後ほど判明する・・・。

「で、ではいきますね。ヒスイ様・・・いえ、ダンナ様♡」

 身体を翡翠の上に乗せ、両手で翡翠の両頬を撫でるように触り、顔を近づける。

 緊張と羞恥で赤く染まる頬、閉じてゆく目蓋、採れたての果物のように潤っている唇。

 それら全てが急接近。潤った唇は軽く俺の唇に触れ、すぐに離れた。

「はぁ・・・はぁ・・・ど、どうでしょう?赤ちゃんできましたかね?」

「いや、全然。そんなんじゃ、子供はできませんよ、シュエリ王女」

 性知識がない事から察しはついていたが、やはりこの人のキスは一種類しか存在しない。

 親鳥が雛鳥に、エサを与えるようなバードキス。優しく言うなら可愛らしい。厳しく言うなら、お子ちゃま。

 自分なりに頑張ったのだろう。精一杯のキスをダメ出しされて涙目になるシュエリ王女。

 その後、ヤケクソになって何度も俺の唇を重ねてきたが、全てバードキス。中々首を縦に振らない翡翠によって、心に火が付き、何度もキスをするが、全てバードキス。

「全然お腹に命が宿った気がしません・・・ヒスイ様、私本当に赤ちゃんを授かる事ができるのでしょうか?ヒスイ様と私が産むはずの完璧な赤ちゃん・・・玉のように可愛い赤ちゃんを・・・」

「まあ、このままじゃ産めませんね」

「で、ではどうすれば・・・」

「俺がリードします」

「ヒスイ様は知っているのですか!?正しい子作りの仕方を!!」

「勿論です。ですが、この状態では実践できません。この拘束を解いてはいただけないでしょうか?」

「わ、分かりました・・・で、では・・・」

 俺の手首を拘束していた魔術の枷が外れる。

 物に魔術は、所有者の意思によって解除される・・・だけではない。所有者の意識を外的要因で失うと、魔術は解除されてしまう。

 つまりは、部屋から出るためにはシュエリ王女の意識を失わせなければならない。

 今の俺には、シュエリ王女に対抗する武器は有していないと思ったが、持っていた。

 生まれ持った肉体。その中で最も攻撃力が低いと言っても過言ではない箇所・・・。

「では、失礼します」

「あ、ちょっと、待っ──────」

 今度は翡翠がシュエリの上に乗っかり、唇を重ね、その無防備な口内に刺客を送り込んだ。舌である。

「//////っっ~~!!!」

 体験した事のない快感、満たされる幸福感、とろけていく思考。

 冷静さを取り戻す為、翡翠の舌から逃れようとするが、舌は逃してはくれなかった。

 互いに窒息しないように、時々少し唇が離れ、必然的に舌も離れる。

 シュエリの舌は無意識に、離れた翡翠の舌を探すように動き、呼吸を整え、再び翡翠の舌が侵入してくると、今度は迎え入れるように自ら舌を絡ませにいった。

「こづくりさいこ~~。きゅう・・・」

 キスの時間はおよそ4分。性的興奮が最高の域まで達したシュエリは頭から湯気を出しながら気絶。

 対して翡翠は気絶したシュエリをベットに寝かせてから、出れるようになった部屋から退出した。

 森山翡翠。特技、キス。学生時代のあだ名『蛇舌のヒスイ君』
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