異世界と繋がる不思議な門を警備する仕事に就きしました!

町島航太

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3章 異世界旅行録

エピローグⅠ

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 〈災害〉の中で、ヒスイが刀を振るいながら溶けていくのがわかる。皮膚は3分程でほとんどが溶け、腕に至っては骨が見えている。

 今すぐ走り出して助けに行きたかった。けれども、毒と呪いが体を蝕み、それを許してくれなかった。

 シュエリーヌ王女は呻きながら、涙を流している。理由は分からないが、この娘もヒスイの事が好きだったのだろう。

 ヒスイの留めの一撃が、〈災害〉の穴だらけになった核を一刀両断。

「Guooooooo!!」

 今まで世界に多大なる損害を被って来た人工の魔物の断末魔は意外にも普通で、呆気なかった。

 <災害>はあくまで通称であり、人の手で作られたという点を除けば、自分らと同じ生命。そこらへんにいる魔物と何ら変わらないと気づかされる。

 毒と呪いは未だに大気中に蔓延っているが、時間が経つごとに薄れていく。体内に蓄積していた毒と呪いも吸収量が減るにつれて段々と減っていき、下半身を引きずるように動く程度なら可能となった。

 真っ先に向かったのは、<災害>の体液のど真ん中で仰向けになって意識を失っている翡翠。肉体の損傷は激しく、心臓は弱々しく鼓動している。

 右手には、愛刀紫陽花。左手にはナチュレの宝剣が握られており、心臓の鼓動の弱さに反して、とても強い力で握られている。

 皮膚は全体の7割程溶けてしまっており、かなりグロテスクな姿となっている。

「シャープ様!魔力を!!」

「わ、分かりました・・・!!」

 シャープからの許可を貰い、残り僅かの魔力をもらい受けると、翡翠に向かって治癒魔術を放った。

 しかし、損傷が激しい上に、魔力も少なかった事から完全からは程遠い治癒になってしまった。治せたのは頭部と胸部のみ。まるで魔力が足りなかった。

「魔力を・・・誰か魔力をちょうだい!このままじゃヒスイが死んじゃう!」

「魔力薬!魔力薬をどうか私に!!」

 魔術師隊の魔力は既に尽きている。大量に用意していた魔力薬も安全地帯を維持する為に消費してしまい、僅かに残っていた在庫も、戦いの衝撃で瓶が割れてしまい、中身が零れてしまった。

「なんて・・・勇敢なんだ・・・きみは・・・森山君・・・」

 必死に魔力を求める2人の王女の呼び声は1人の男を呼び寄せた。<災害>によって、仲間を殺され、心を砕かれた男大門寺優斗。

 彼はとりあえずで来た彼だったが、既に<災害>の強さを知っている彼は恐ろしくて何もする事が出来ず、安全地帯で隠れていた。

 その為、この中でも1番健康体なのだ。

「ダイモンジさん・・・」

「俺も・・・森山君のような勇気があれば・・・仲間を死なせずに済んだのだろうか・・・」

 翡翠の勇気ある行動に元気づけられる一方、自分の勇気の無さに情けなさを感じていた。

 そんな戦士失格の自分に何ができるだろうか?

 2人の王女の声を聴いた瞬間、思いついた。

「森山君は・・・死んではいけない人だ。絶対に死なせない」

「だけど、ダイモンジさん。貴方には魔力が────」

「無い。全くもって無い」

 大門寺は生粋の戦士。高校での魔術の成績は5段階中ギリギリの2。実技ではなく、筆記で勝ち取った2だ。

 基本中の基本と言われる四大元素の魔術すら使えない。当然治癒魔術も使えない。魔術が使えない理由は至極簡単。生まれつき、魔力が少なかったからである。

 ポケットには治療薬も魔力薬もない。そんな男が翡翠を治す術を持っているのだろうか?

「だが、俺は生命力に溢れている。後はもう・・・分かるな?」

「ま、待って・・・まさか・・・!!」

譲渡魔術アシンマナで、貴方様の生命力をヒスイ様に譲渡すると?」

「ああ・・・頼む」

 譲渡魔術。物体ではない、魔力や体力などを相手の同意ありきで他人に譲渡する事を可能とする魔術。つまり、大門寺は、翡翠の代わりに死ぬと言っているのと同義である。

「待って!それはダメ!ヒスイが悲しむ!」

「なら言わなければ良い。魔術で治したと言ってくれ・・・」

「で、でも・・・」

「頼む・・・彼を死なせたくない・・・俺に、彼を救うチャンスをくれ・・・」

 目は据わっており、覚悟が決まっている事が2人の王女に伝わる。王女達はお互いの表情を見合いながら、考え、そして、大門寺の手を握った。

「譲渡魔術の発動にはほとんど魔力がかからない。残り僅かの魔力でも十分なはず・・・だ」

 残ったもう片方の手で、筋肉が剥き出しの翡翠の手を握り、合わせるように唱える。

「「『アシンマナ』」」

 さようなら、森山君。君のお陰で俺は正しい判断できた。俺の意思や思想なんか気にしないで自由に生きてくれ。それが、唯一君にお願いしたい事だ。

 でも、君は恐らくこれからも門番という危ない職業を続けていくだろう。君の過去や門番になった動機は分からないけど、自分の死すら恐れずに戦う君は、恐らく門番を続けるだろう。

 だから、君に俺の力を託す。俺は役に立てる事は出来なかったけど、君ならきっと・・・絶対に役に立てる事ができるはずだ。

 20□8年5月1日。門番・大門寺優斗、死亡。カースドラゴンスライム特別討伐隊、全滅。
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