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最終章 探究者と門番

5話 孤児院にて

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「流石シャイ団長!楽勝でしたね!!」

「相性の問題だ。他の種族だったら、苦戦していただろうよ。それよりも、遺体は?」

 人工に毒竜が守っていた鉄の蓋に手をかける。触れた瞬間、魔力を吸われたが、トラップがあるのは想定済み。驚く事なく開ける。

 中に入っていたのは既に白骨化した生贄の亡骸。首から宝石のネックレスを下げており、ボロボロながらもドレスを着ている事から、貴族以上の階級だった事が伺える。確か、80年前くらいに、ヒューマンの王国の王女が何者かに攫われたという話を聞いたが、この人がそうなのかもしれない。

「うわっ!取り出したのにまだ魔力を放出してる!!」

「穴は、ただの入れる場所だったんだろう。細工はその遺体自体にされているらしい」

「という事はつまり────」

「破壊しなければ、止める事は不可能という事だ。嫌か?」

「いえ、呪われそうでちょっと・・・」

「今更呪いを怖がってどうする?つい1ヶ月前に呪いの塊と戦ったばかりじゃないか」

「ハハ、それもそうですね。だけど、それでも」

「良心が痛むか」

 こくりと縦に頷く。遺体の破壊ばかりは、道徳や良心の問題になる。壊したくないという気持ちは大いに理解できる。私もできるなら破壊せずに、元の国に帰してあげたい。だが、それをした場合、2つの世界が混乱に陥る事となる。

「・・・すまない」

 既に返事をしない亡骸に謝罪し、遺体の頭蓋骨をかち割る。割れた頭蓋骨から、青い炎のような物が、上空目掛けて飛んでいく。魂だろうか?だとするなら、無事に天国に行ける事を心の底から願う。

「・・・さて、同盟騎士に連絡しようか」

「その後はどうします?」

「無論、他の生贄の遺体を探す。守り手は弱いが、見つけるのは困難を極める。今回は、たまたま近くにあった上、目撃情報があったから、短時間で破壊できたが、他がこんなにも上手く行くとは思えん。ナチュレ国民の事は兵士達に任せる」

「ハッ!!」

 遺体の数、残り19。世界融合まで、残り119時間。



 シャイ達キャンベル騎士団が最初の遺体の破壊に成功してから数時間後、リオのとある孤児院では、定期的に発生する強い地震に子供達が怯えていた。

 広い屋敷のような孤児院に響く甲高い子供達の鳴き声。職員達は宥めるのに精一杯だった。

「院長はいつ起きるの!?」

「分からない!4時間前に熟睡に入ったからもう少しで起きてくると思うけど・・・」

 子供達を宥めながら、院長の起床をまだかまだかと待っている模様。どうやら、職員達は、孤児院のトップである院長に指示を仰ぎたい模様。

 子供を宥める為だけに何故、院長を指示を求めるのか?職員が未熟だから?新人ばかりだから?素人しかいないから?違う。職員には全くの問題はない。問題は、屋敷の扉を野蛮にひっかく猛獣・・・魔物だ。

「Grrrrrrrrrrrrrrr・・・」

 扉の先で唸っているのは、四肢に炎を宿した虎の魔物ヘルファイガー。獰猛な肉食の魔物だ。もし、扉を破られたら、子供達は呆気なく食べられてしまうだろう。

 ここには、戦力になる者は職員を含めて、院長しか存在しない。しかし、院長は既にご老体かつ、良く眠る人だ。一度寝たら、中々起きない。現在その状態だ。

 子供達が怯えているのもそれが原因。泣けば泣くほど、ヘルファイガーは興奮する。この木の扉の先にご馳走が待っているんだと心を躍らせる。

 扉についに親指が入るぐらいの穴が空く。ついに、ここまで来たか。覚悟を決めるしかないと、職員達は掃除用具を手に取り、子供達を1番奥の部屋へと入れる。

 非戦闘員ながらも、戦う覚悟ができた次の瞬間。ヘルファイガーの唸り声がピタリと止んだ。

「Crrrrrrrr・・・」

 聞こえてきたのは、断末魔。肉を裂く音もおまけでついてくる。間違いない、応援が来た。

 警察官か、自衛隊か分からない。けれども、自分たちを助けてくれる人がやってきた。職員達は緊張が解けてその場にへたりこんでしまう。

 ドンドンドン!人の手が扉を叩いている。ヘルファイガーを倒してくれた人だろう。慌てて職員の1人が立ち上がり、扉を開けると、立っていたのは。

「大丈夫でしたか?皆さん・・・」

 紺色の門番制服を返り血で汚した森山翡翠が疲労困憊の表情で立ち尽くしていた。

「「「「「ヒスイ君!!」」」」」

 彼を幼い頃から知っている職員は、彼の登場に涙し、抱きつく。若い職員は今にも倒れそうな翡翠を担いで、奥の部屋へと案内した。
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