異世界と繋がる不思議な門を警備する仕事に就きしました!

町島航太

文字の大きさ
167 / 191
最終章 探究者と門番

12話 妖怪退治

しおりを挟む
「死に晒せぇ!!」

 斧を大きく振りかぶりながら、襲いかかる。当たったら確実に死ぬと言っても過言ではない一撃だが、鵺の体は俊敏な虎でできている。大振りの一撃は難なく避けられてしまう。

「まだまだぁ!!」

 大振りの一撃が避けられるのは日常茶飯事。寧ろ、避けられてからが本番。その後、間髪入れずに斧を振るっていき、相手に攻撃の隙を与えない。

「おらおらおらおらおらおらおらおらぁ!!」

 それが、鳩山季楽里の戦法である。シンプルだが、どんな相手にも有効に働く戦い方は、同じパワータイプの戦士であるモネに共通したものを感じる。

 ただ、弱点は勿論存在する。避けられ続ければ、体力の続く限り続けられる戦い方だが、何処かで止められれば、一気に崩れていく。

「Kisyaa!!」

 動物としての本能だけでなく、戦闘の中で考えて、作戦として実行する脳も持っているようで、続いていた鳩山の斧攻撃ラッシュは、一撃終わりの手を弾かれることによって、止まってしまった。

「マズった・・・!!うぐっ・・・!!」

 隙だらけになった鳩山の腹に重い一撃が入る。胃の中の物を全て吐き出してしまいそうな酷い一撃だったが、腹に力を込めて耐え、武器を手放してしまうのも回避。

 四つん這いになり、背後を鵺に曝け出す。鵺も隙と見て、すかさず鋭い爪を出し、首根っこ切り取ろうと試みるが、鳩山もそこまでは許さない。

 腹パンを耐えて手から落とさなかった左手の斧で、爪を防いでみせた。

「Kisisisisisi!!」

「そこまで私もバカじゃないよっと!!」

 手を背中側に回した状態でも爪を押し切り、鵺を後退させる。鳩山も立ち上がり、落とした右手の斧をもう一度手に取ると、再び鵺と向き合った。

「へぇ・・・アンタバカみたいな見た目してるわりにも意外とやるじゃん。ちょっと感心しちゃった」

「Kisiiiiii・・・」

「まあ、でも私の方が強いけどね」

「Kisi!?」

「あっ、言葉も通じるんだやるじゃん」

「Kisisisisisisi・・・」

「まあ、私の方が頭良いけどねっ」

「Kisyaa!!」

 イラつかせて、動きを単純化させる作戦だろうか?いいえ、違います。ただのストレス発散です。自分が、獣畜生に苦戦しているという事実へのストレスを発散させる為にやっているのだ。

 つまりは、ただのクズである。何の擁護のしようもないクズ行為なのだ。

「穿つ・・・!!」

 2人が話している間に放たれる里見の大弓の一矢。風を切って飛んでいったそれは、鵺を直前まで気づかせなかったが、矢より先に飛んでいった矢の影が、矢の存在を気づかせてしまい、紙一重で避けられてしまった。

「ヘッタクソ!もうちょっとちゃんと狙いなさい!!」

「やかましいわっ!ちゃんと狙ってるよ!!今の一撃もね!」

 里見は、片手を空け、指をパチンッ!と鳴らす。すると、鵺の真横の地面に刺さった矢は赤く発光。破裂音と共に小爆発を起こした。

「狙いは悪いけど、抜かりはないのは相変わらずね」

「やかましい」

 里見が放った矢には、事前に爆発魔術が込められていた。今の爆発は、魔術が発動しただけである。

「Kikiki・・・」

「隙ありまくりぃ!!」

 鳩山の容赦ない一撃が、鵺の右前足を切り落とす。肉を斬り落とすことに特化した斧は、頑丈な筋肉と骨を斬っても刃毀れはしていなかった。

「Kisyaaaaa・・・」

 体を支える4本の内1本を失った鵺。何処か悲しげな表情で地面に転がる自分の足をしばらく眺めると、背中の筋肉を動かし始めた。

 動かす・・・というよりも、変化に近い。まるで、粘土のように動き出したと思ったら、肉を切り裂いて先端の尖った骨を飛び出させた。

 治癒魔術の応用だろうか。背中の骨に筋肉が付き、皮膚が付き、最後には純白の羽が生えてきた。

 天使を彷彿とさせる純白の翼。醜い合成獣から生えたはずなのに、相乗効果で、鵺本体にも美しさと神々しさが付け加えられたような気がする。

「生やした!?」

「というよりも隠していたの方が正しいかもな。なんたって相手は様々な生き物を組み合わせたキメラ。なんでもありなのさ」

「白い羽って事は、白い鳩でも混ぜたの?さっきまでブサイクな獣だったくせに急に神々しくなっててなんかムカつく」

 生えているのだから、勿論使える。翼を羽ばたかせると、フラフラとよろけながらも、2人に背を向けて逃げ始めた。

「なんだよ。警官も何人も倒したって聞いたから聞いてたけど、何て情けない。期待はずれにも程があるわ」

「俺からしたら楽に済んで助かるんだけどな」

「戦いを1つの手段だと思ってるアンタからしたらそうでしょうね。ていうか、早く撃ち落としなさい。アンタの十八番でしょ?」

「その通り・・・行けぇ!!」

 振り絞った渾身の一矢が、真っ直ぐな線を描いて逃げる鵺に向かって飛んでいく。

 飛び慣れていないのだろう鵺は、プロ野球の投手もびっくりの速度で飛んでくる矢を避けられるわけがなく、腹と翼を貫かれて、特に何処かに逃げられるわけではなく墜落。

 砂煙を立たせながら、地面に墜落してきた鵺だが、心臓を貫かれたわけではないので、まだ辛うじて息がある模様。

 鳩山は、墜落と共に急接近し、生きている事を確認すると、斧を振り下ろし、首を刎ねた。

「打ち取ったり!!」

「半分は俺のおかげだけどね。さて、本題といきましょうか」

「あっ、そっか!忘れてた!!」

 鵺との戦いに夢中で、鳩山はすっかり忘れていたが、2人が福岡に来た理由は、鵺なんかを倒すためではない。生贄の遺体の破壊だ。

 鵺が座っていた場所を見ると、やはり鉄の蓋があって、退かすと、穴の中に人間の死体が入っていた。

 まだ少し肉が残った遺体の中でも、匂いが最悪の状態の遺体。思わず鼻を摘んでしまう。

 生贄の中でも最近、死んでしまったのだろう。

「・・・燃やすか」

「骨壷は用意してあるよ」

 世界融合を引き起こしている原因とも言える存在だが、生贄自体に悪意はなく、罪もない。しかし、破壊しなければならない。

 ならば、せめて灰になった後だけでも弔いたいそんな気持ち現れである。

 改造合成獣鵺撃破。敗北理由、鵺の打たれ弱さ。

 遺体の数、残り14体。世界融合まで、残り94時間。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!

ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...