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最終章 探究者と門番
33話 死んでも止める
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「ルミナ、どうした?もう、降参か?」
突然、力無く地面に落下したルミナ達。まるで、人形のように何も喋らない、魔術を放たない。先程まであんなに生意気な口を聞いていたにも関わらず、だ。
怒りで周りが見えていなかったクティは知らない。翡翠によって、オリジナルは殺され、ルミナコピー達は活動を停止した事に。
「お前が、降伏しても、死んでも、僕の怒りは、収まらない」
戦っていた時間は約15分。その間、ずっと罵倒されていたのだ。しかも、自分の事ではなく、愛する両親の事をずっとだ。
「幸いにも、まだ、魔力はある。お前の、存在、そのものを、この世から、消し去って、やる」
クティの魔力量は凄まじく、異門町を崩壊させたにも関わらず、まだ91%も残っている。
「50%、使ってあげる。だから、死んで」
宙に浮遊し、右腕を空に向かって掲げる。手を広げて、太陽に己の手の平を晒す。
「『フランマ』」
右腕を通して、手の平に魔力が流れる。流れた魔力はクティの手の平の上に小さな炎の球を作り出す。
小さな炎の球は時間経過と共に巨大、高温化。鉄も一瞬で溶けてしまうほどの強力な球が完成する。
例えるなら、人間の手で再現した太陽。シャープ達はすぐさま水の魔術で頭から水を浴びたが、すぐに蒸発が始まってしまった。
「まずくない!?あの火球どう考えてもルミナコピーにとってはオーバーキルだよね!?」
「もう死んでるけどね!!でも、アンタが言いたい事は何となく分かった!確かにあれは落とさせない方が良いみたい!!」
何処まで被害が被るかは不明瞭だが、確実に異門町は人の住める場所ではなくなる。擬似太陽から感じている熱からはっきりと分かる。
「リリック!ヒッキー!あのクティってヤツの魔力吸える!?」
「吸えるけど、間に合わないよ!!」
「それに、もう炎の球は完成しています!!今更魔力を吸った所で意味はありません!」
「じゃあ、あれと同じくらいの水の球を作って対抗するしか────」
「ごめん!もうそんなに魔力残ってないや・・・」
「私もです。賢者ルミナから吸収した魔力は微々たる物でしたし、それも、ヒスイ様を守る為に使い切ってしまいました・・・」
「クソッ!!打つ手無しかよ・・・!!」
「おチビ様、今初めて貴女に謝罪いたします。私の力不足でこんな事になってしまい、申し訳ございません・・・」
「あ?別にお前が悪いわけじゃないじゃん!アタシだって何もできないわけだし、おあいこだろ!」
そう、誰も悪くない。この場にいる者は誰も悪くないのだ。責任は、この事態を招いたルミナにある。
残された方法は、説得による中止なのだが、そんな余裕は互いに無い。本当に打つ手無しの絶望的な状況である。
「仕方ない・・・若者達よ、よく頑張ってくれた。後は、このおいぼれに任せてくれ」
そんな中、立ち上がった男がいた。賢者リャオである。リャオもまた、ルミナとの戦いで魔力がほとんど無い状態だった。
リリックとシュエリはその状態を良く把握している。なので、彼がしようとしている事をすぐに理解した。
「ダメだよ!リャオ!それじゃ、貴方が!!」
「死んでしまいますっ!!」
リャオの秘策。それは、己の命を魔力に変換し、魔術を放つというものだった。
命を犠牲にすることによって、普段使用できる魔力よりも遥かに多い魔力を使用する事ができる。魔術師の奥の手中の奥の手。
魔術師であるリリックとシュエリはその事を理解しているため、彼を必死に止めた。
「この状況、誰かが犠牲にならなければ収まらない事ぐらい分かるだろう?ならば、既に一度死んでいるわしが行くべきじゃ」
「既に死んでる?何を言っているんですか?今、貴方はこうして─────」
「・・・・!!どういう事なのリャオ。貴方から心臓の鼓動がまるで聞こえない・・・」
残った魔力で聴力をわずかに強化したリリックは耳を澄ました。しかし、リャオの心臓の音だけはまるで聞こえなかった。
「ま、まさか貴方は・・・・」
「ゾンビじゃよ。ルミナを止めなければという強い未練を残して再び蘇ったアンデッド。本来なら、この世にいてはいけない者なんだよ」
リャオは、いつも香水をつけていた。それは、体の腐敗による悪臭を誤魔化す為だった。
「皆!大丈夫か?このでっかい火球、まさか賢者クティが?」
カミングアウトと同時に、翡翠が帰ってくる。
「ヒスイ、今からわしは命を賭けてクティの暴走を止める。そしたら、繰り返さないように、クティを止めてくれんか?」
「ど、どういう事です!?何故、貴方が命を賭ける必要が─────」
「それは、仲間に聞いてくれ。それじゃあ、2度目の死を楽しんでくるよ」
リャオは親指を立てると、クティの火球へと近づいていく。
「さあ、ついに冥土の旅の始まりだ!今度はド派手に命を散らさせてもらうぞ!!」
空っぽ同然だったリャオの体内に魔力が急発生する。魔力量は、リリック以上、クティ未満だったが、火球を消し飛ばすには十分の魔力。
その魔力を使用し、リャオは巨大な氷塊を作った。大きさで言うなら、山程の大きさ。火球を打ち消すには、十分な大きさだった。
「さあ!いくぞ!!『グラシエス』ゥゥゥゥゥゥゥ!!」
叫び声と共に放たれた氷塊は宙に浮かぶ火球と激突。建物を吹き飛ばす程度の水蒸気爆発を発生させ、火球を破壊した。
「後は、頼んだ、ぞ・・・」
水蒸気爆発の中、リャオは微笑みを浮かべながら静かにその命を終えたのだった。
突然、力無く地面に落下したルミナ達。まるで、人形のように何も喋らない、魔術を放たない。先程まであんなに生意気な口を聞いていたにも関わらず、だ。
怒りで周りが見えていなかったクティは知らない。翡翠によって、オリジナルは殺され、ルミナコピー達は活動を停止した事に。
「お前が、降伏しても、死んでも、僕の怒りは、収まらない」
戦っていた時間は約15分。その間、ずっと罵倒されていたのだ。しかも、自分の事ではなく、愛する両親の事をずっとだ。
「幸いにも、まだ、魔力はある。お前の、存在、そのものを、この世から、消し去って、やる」
クティの魔力量は凄まじく、異門町を崩壊させたにも関わらず、まだ91%も残っている。
「50%、使ってあげる。だから、死んで」
宙に浮遊し、右腕を空に向かって掲げる。手を広げて、太陽に己の手の平を晒す。
「『フランマ』」
右腕を通して、手の平に魔力が流れる。流れた魔力はクティの手の平の上に小さな炎の球を作り出す。
小さな炎の球は時間経過と共に巨大、高温化。鉄も一瞬で溶けてしまうほどの強力な球が完成する。
例えるなら、人間の手で再現した太陽。シャープ達はすぐさま水の魔術で頭から水を浴びたが、すぐに蒸発が始まってしまった。
「まずくない!?あの火球どう考えてもルミナコピーにとってはオーバーキルだよね!?」
「もう死んでるけどね!!でも、アンタが言いたい事は何となく分かった!確かにあれは落とさせない方が良いみたい!!」
何処まで被害が被るかは不明瞭だが、確実に異門町は人の住める場所ではなくなる。擬似太陽から感じている熱からはっきりと分かる。
「リリック!ヒッキー!あのクティってヤツの魔力吸える!?」
「吸えるけど、間に合わないよ!!」
「それに、もう炎の球は完成しています!!今更魔力を吸った所で意味はありません!」
「じゃあ、あれと同じくらいの水の球を作って対抗するしか────」
「ごめん!もうそんなに魔力残ってないや・・・」
「私もです。賢者ルミナから吸収した魔力は微々たる物でしたし、それも、ヒスイ様を守る為に使い切ってしまいました・・・」
「クソッ!!打つ手無しかよ・・・!!」
「おチビ様、今初めて貴女に謝罪いたします。私の力不足でこんな事になってしまい、申し訳ございません・・・」
「あ?別にお前が悪いわけじゃないじゃん!アタシだって何もできないわけだし、おあいこだろ!」
そう、誰も悪くない。この場にいる者は誰も悪くないのだ。責任は、この事態を招いたルミナにある。
残された方法は、説得による中止なのだが、そんな余裕は互いに無い。本当に打つ手無しの絶望的な状況である。
「仕方ない・・・若者達よ、よく頑張ってくれた。後は、このおいぼれに任せてくれ」
そんな中、立ち上がった男がいた。賢者リャオである。リャオもまた、ルミナとの戦いで魔力がほとんど無い状態だった。
リリックとシュエリはその状態を良く把握している。なので、彼がしようとしている事をすぐに理解した。
「ダメだよ!リャオ!それじゃ、貴方が!!」
「死んでしまいますっ!!」
リャオの秘策。それは、己の命を魔力に変換し、魔術を放つというものだった。
命を犠牲にすることによって、普段使用できる魔力よりも遥かに多い魔力を使用する事ができる。魔術師の奥の手中の奥の手。
魔術師であるリリックとシュエリはその事を理解しているため、彼を必死に止めた。
「この状況、誰かが犠牲にならなければ収まらない事ぐらい分かるだろう?ならば、既に一度死んでいるわしが行くべきじゃ」
「既に死んでる?何を言っているんですか?今、貴方はこうして─────」
「・・・・!!どういう事なのリャオ。貴方から心臓の鼓動がまるで聞こえない・・・」
残った魔力で聴力をわずかに強化したリリックは耳を澄ました。しかし、リャオの心臓の音だけはまるで聞こえなかった。
「ま、まさか貴方は・・・・」
「ゾンビじゃよ。ルミナを止めなければという強い未練を残して再び蘇ったアンデッド。本来なら、この世にいてはいけない者なんだよ」
リャオは、いつも香水をつけていた。それは、体の腐敗による悪臭を誤魔化す為だった。
「皆!大丈夫か?このでっかい火球、まさか賢者クティが?」
カミングアウトと同時に、翡翠が帰ってくる。
「ヒスイ、今からわしは命を賭けてクティの暴走を止める。そしたら、繰り返さないように、クティを止めてくれんか?」
「ど、どういう事です!?何故、貴方が命を賭ける必要が─────」
「それは、仲間に聞いてくれ。それじゃあ、2度目の死を楽しんでくるよ」
リャオは親指を立てると、クティの火球へと近づいていく。
「さあ、ついに冥土の旅の始まりだ!今度はド派手に命を散らさせてもらうぞ!!」
空っぽ同然だったリャオの体内に魔力が急発生する。魔力量は、リリック以上、クティ未満だったが、火球を消し飛ばすには十分の魔力。
その魔力を使用し、リャオは巨大な氷塊を作った。大きさで言うなら、山程の大きさ。火球を打ち消すには、十分な大きさだった。
「さあ!いくぞ!!『グラシエス』ゥゥゥゥゥゥゥ!!」
叫び声と共に放たれた氷塊は宙に浮かぶ火球と激突。建物を吹き飛ばす程度の水蒸気爆発を発生させ、火球を破壊した。
「後は、頼んだ、ぞ・・・」
水蒸気爆発の中、リャオは微笑みを浮かべながら静かにその命を終えたのだった。
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