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5章 望まれていない勇者

117話 愛に飢えた勇者

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「・・・きて」

 声が聞こえる。

「・・・起きて」

 起床を促す声だ。

「アルディン、起きて」

 僕の偽名を用いて起こそうとしている。この偽名を使うのは恐らく、ケルビムだろう。

 段々と、五感の感覚が元に戻っていく。花の香りがする。葉が風に揺られて擦れる音が聞こえてくる。目蓋越しに光が目を刺してくる。一体僕は何処で寝ているんだ?

「・・・・・・おはよう」

「シーム、アルディン起きた」

「本当ですか!?あ、本当だ!!良かったぁ~~」

 どうやら、僕が寝ていたのは草木生い茂る森の中。周りには、ここいらでは見ない魔物達がいる。恐らくウリム王のコレクションの魔物だろう。

「・・・脱出からどれくらい経った?」

「1日程です。本当に酷い怪我だったんですよ!アスタロト様との訓練の時とは比べ物にならない怪我でした!本当に生きてて良かった・・・」

 今にも零れてしまいそうな涙。自分が思っている以上に危険な状態だったらしい。またもや、彼女に心配をかけてしまった。気を付けるの意味を込めて、優しく頭をなでる。

「アルディン・・・」

「ケルビム・・・ありがとう。あの場を潜り抜けられたのは君のお陰だ。本当に感謝するよ」

「アタシは今、怒ってる。何でか分かる?」

「えっと・・・魔王軍だっていうのを黙ってた事?それとも、勇者を殺す為にアプルにやってきた事?」

「どれも違う。アタシが怒ってるのは嘘の名前を教えた事。本当はアルフォース・ディナスって言うんでしょ?」

「ああ、それは・・・ごめん。もしかしたら、僕の悪名が広まってたかもしれないから」

「・・・そうなんだ。それならいいかな?それに、アルディン・・・アルフォースはアタシを愛してくれる事には変わらないんだし」

「それは変わらないね。君が僕らの敵だったとしても、僕は君を愛するよ」

「それが聞けて良かった・・・もし、アルフォースがアタシを裏切ったら・・・殺すからその時はよろしくね?」

「ウン、キモニメイジテオクヨ」

 強力な仲間が入ったわけだけど、少し取り扱い注意な子かもしれない。まあ、裏切る事はないだろうけど。

「アル!大丈夫なのかな?魔王様があんだけビビってた勇者を魔王軍に入れるだなんて・・・」

「ケルビム、魔王軍は誰も傷つけないでね?」

「アルフォースが言うなら、絶対に傷つけない」

 無表情でピースサインをしてみせるケルビム。多分、これで大丈夫だろう。

「ここにいる魔物達はアスタロト様が引き取ってくれるかな?バール様じゃ少し持て余しちゃうよね?」

「そうですね。ケルビムはどうします?」

「アタシはアルフォースとシームがいる所なら何処でも良いよ・・・」

「バール様、うっきうきになるだろうな・・・ま、それは帰ってから考えようか」

 いつまでもこんな森にとどまっておくわけには行かない。早く、ルシフェル領へと帰ろう。
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