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最強プレイヤー

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【ようこそoriginal style onlineへ。おめでとうございます。あなたはユニーグジョブ、スペランカー・バーサーカーに当選しました】

 ゲームを開始すると、突然アナウンスが聞こえてきた。
 俺が始めたゲームは昨日配信が始まり、あちこちで話題になっているVR MMO。original style online。
 世界各地にあるダンジョンを攻略し、数多存在するモンスターを討伐して世界を救うゲーム。


 VR MMOは自分がゲームの世界に入って楽しむことができる。それだけでも十二分に楽しめるのだが、話題になるだけあってクオリティも凄まじい。

 まだキャラクター作成画面だが、周りを見てみるとリアルのそれと変わらないクオリティだ。近くにある岩を触ってみても、リアルのそれを触っているのと同じ感触が手に伝わってくる。

「これが本当にゲームとは思えんな……」

 辺りを見回してある程度満足したところで、さっきアナウンスが言っていた言葉を思い出す。
 そういえば、何かに当選したとか言っていた気がする。

「なんかに当選してたって言ってたけど、なんだったんだ?」

【ユニークジョブに当選しました。キャラクター設定の職業選択の際に説明させていただきます。まずは名前を決定してください】

 このゲームのキャラクター作成時に決めることは少ない。
 キャラクターの名前と職業だけだ。


 ゲーム内はリアルの自分と同じ顔、体格でプレイするので変更することは出来ない。
 俺はごく一般的な大学生。普通の20歳の男なので、晒して困るようなものはない。

 重めのコンプレックスがなくてよかったぜ……。

「名前はタックでいいかな。職業は……さっき言ってた職業って何なんだ?」

 このゲームの職業は数百種類ある。数多ある職から自分の好みの色を選び、自分の好みのキャラクターを作ることが出来る。その中から自分の好みの職を選べるのだが、ユニークジョブがあるなんて話は一度も聞いたことがない。


【ユニークジョブはキャラクター作成時に1/100000000の確率で獲得できる職業です。特別な能力を持っていて、普通の職業とは違った楽しみ方を味わえます】


 一億分の一……。す、すげぇ低確率だ。
 このゲームは一度キャラを作成したら別のキャラを作成することが出来ないので。ネットでユニークジョブが話題にならなかったのではなく、単に誰も入手できていなかったからに違いない。

 おそらく俺がユニークジョブを引き当てた第一号だ。
 これはユニークジョブになるしかないんじゃないだろうか。

 普通にVRMMOをやるだけでもかなり楽しめただろうけど、追加してそんな特典がついてくるならこんなに良いことはない。

「ちなみに、スペランカー・バーサーカーはどんな職業なんだ?」

【圧倒的な速度と物理攻撃を武器に戦う職業です。耐久力に難はありますが、火力をもって全て制します】


「そりゃ面白そうだ。俺はユニークジョブのスペランカー・バーサーカーを選択する」

 どんな職業なのかいまいち分からないが、バーサーカーってついてるしおそらく攻撃力の高い職業のはずだ。せっかくVRMMOをやるなら攻めまくりたいし俺の性分にもあってる。

 多少耐久力がなくても、攻撃力で補えるならモーマンタイだな。

【キャラクター作成が完了しました。始まりの街へ転送します】

 職業を選択すると再びアナウンスが流れ、俺の足元に魔法陣が現れる。
 魔法陣は光を発したと思うと、視界が一変する。


 無機質だった場所が、俺の前には活気のある街並みが広がっていた。
 あたりにはかなりの数のプレイヤーがいるようで、街はごったがえしている。

 きょろきょろと周りの様子を伺うプレイヤーや、しっかりと前を見据えたプレイヤーなど色んなプレイヤーが目に入ってくる。

 さて、これからどうしたものか。
 本来ならチュートリアルをやるところだが、せっかくユニークジョブを手に入れたのならお遣いクエストなんてやってないでさっさとモンスターと戦ってみたい。

 俺は活気のある街を抜け出し、街の外にあるバトルマップへと足を運ぶことにした。


【始まりの草原に到着しました】

 始まりの街にある門を抜けると、そこには海のように広がる草原があった。
 適当な感覚でモンスターがうろついており、それをプレイヤーが狩っている様子が遠くからでもわかる。

 遮蔽物のない、狩りには良い環境だ。

 さて、まずは俺の力がどんなものなのか試してみよう。
 どうやらスペランカー・バーサーカーは拳を武器にする職業らしく、手にはグローブがついている。
 身体にも布地の装備がつけられているので、いきなり戦闘に向かっても問題なさそうだ。

 俺は近くにいる猪? らしきモンスターを標的にすることにした。

『ワイルドボア』 Lv5

 近くにいくと、モンスターの情報が表示される。
 イノシシのレベルは今の俺からしたら格上だが、試すには格上の方がちょうど良い。

 まだスキルはないようなので、通常攻撃で殴り込んでやる。

「ブォォォ!!」

 ワイルドボアは接近した俺に気づいたらしく、鳴き声をあげて俺を威嚇している。
 足で地面をひっかきながら、今にも突進しようとしていた。


 初の先頭に少し緊張しながらも、俺は戦いの構えをとる。
 ワイルドボアも準備が整ったのか、一直線に俺に向かってきた。

「真っ向から叩き潰してやる!」

 正面からねじ伏せる。
 ワイルドボアは変な魔法なんて使ってくる気配もないので、俺はその体当たりを真正面から潰すことにした。

 突っ込んでくるワイルドボアに向かって思い切り拳を突き出す。

 ただ、突っ込んでくるワイルドボアが少し怖くて目を瞑ってしまった。戦闘慣れしてないのがこんなところで作用するとはっ。

 しかし、俺の攻撃は命中したらしい。
 手にぶつかった衝撃が伝わってきた。

【レベルが上がりました。ステータスポイントを割り振ってください】

 レベルアップの通知が聞こえてきた。


 つまり、俺は一発でワイルドボアを倒せたらしい。
 さすがは攻撃力があるといわれたユニーグジョブなだけはある。

 しかし、何やら騒がしい。
 衝撃があった直後から、周りからプレイヤーの声が聞こえるようになった。

 バトルマップにそこまでプレイヤーはいなかったはずだが、どうなってるのか。


 恐る恐る目を開くと、俺は始まりの街に立っていた。


 いや、おかしい。
 レベルが上がったということはワイルドボアは倒したんだろうしどうして俺は始まりの街で立ってるんだ。


 何があったのかログを辿ってみる。
 そこにはワイルドボアにダメージを与えて倒したこと。
 わずかに反動ダメージを受けて俺が死んだことが記載されていた。

 反動ダメージはわすが4。
 表示を見てもさっぱり理解できなかった。

「俺は、たった4ダメージで死んだのか?」

 多少脆いとは言われたがいくらなんでも脆すぎだろう。慌ててステータス画面を開き、自分の状態を確認することにした。


 ステータスと念じると自分のステータスが全て表示される。

 名前:『タック』
 種族:人族
 職業 :スペランカー・バーサーカー
 レベル:2
 HP 1/1 《固定》
 MP 100/100
 攻撃力:10 
 防御力:1《固定》
 魔法攻撃力:1《固定》
 魔法防御力:1《固定》
 素早さ:10
 幸運:10

 スキル: 
 残りステータスポイント:100
     残りスキルポイント:1

 いや、さ?
 最低値で固定多すぎだし、これユニークジョブじゃなくてクソ職じゃない?

 ただ、完全にクソというわけでもないらしい。
 レベルが1上がっただけなのに、大量のステータスポイントを獲得していた。

 本来ならレベルが1上がるごとにスターポイントは5獲得出来るので、通常の20倍のステータスポイントを得られるようだ。

 確実に一撃で死ぬけど……。

 あまりに極端な性能すぎて判断がつかない。運営のバランス次第なんだろうけど、下手したらぶっ壊れ職の可能性もある。

 とりあえず、大量にあるステータスポイントを振るとしよう。

 名前:『タック』
 種族:人族
 職業 :スペランカー・バーサーカー
 レベル:2
 HP : 1/1 《固定》
 MP :100/100
 攻撃力:10 +50
 防御力:1《固定》
 魔法攻撃力:1《固定》
 魔法防御力:1《固定》
 素早さ:10+50
 幸運:10

 スキル: 
 残りステータスポイント:0
     残りスキルポイント:1


 MPがどれだけ必要なのか分からないので、振らなかった。幸運はクリティカル率を上げるようだが、今はそんなものはどうでも良い。

 そういうのは基礎ステータスを上げてからの話だ。
 こうして、攻撃と素早さに全てを振り切り、俺のステ振りは終了した。

 攻撃はダメージ数値、素早さは移動速度を上昇させるので攻撃をかわすのに役立つ。

 くらったら終わりなので、全てかわして大ダメージを叩き込む瞬間的な勝負を挑むしか選択肢がないのが悲しいところだ。


 あとはスキルポイントも獲得したのでスキルも一つ獲得できる。


 ただ、スペランカー・バーサーカーは普通の職業とはスキルが違うらしい。

 獲得できるスキルをウィンドウで表示させると、スキルと限定スキルとタグで分かれている。他の職業からは獲得できないスキルを覚えられるようだ。

 これ以外にも一定条件を満たすとスキルが得られるらしいので、楽しみにしておこう。

 現時点で覚えられるスキルは一つしかなかったので、迷いもせずにそれを獲得する。

 《バスターインパクト》
 攻撃力の5倍のダメージを与える。
 攻撃に成功すると相手の行動を一秒停止させる。


 これから先の俺の戦闘スタイルには必須になりそうなスキルだ。相手の動きを止めて攻撃を叩き込む。戦略の柱として使わせてもらおう。


 ステータスも振り終わったことだし、早速戦いに出かけよう。自分のステータスを理解したので、さっきと同じようにはしない。


 攻撃をかわして一撃を叩き込むだけだ。


 俺は気持ちを新たに、再びバトルマップである始まりの草原に足を運んだ。


 ◆


「今度は負けないからな」

 さっきはビビったのもあって攻撃を受けてしまったが今回はそうはいかない。

「ブルゥゥゥウ」

 目の前で鼻息を荒くしているワイルドボアを前に、意識を集中させる。

「いくぞ!!」

 今度はこちらから仕掛ける。
 相手のタイミングに合わせて後手に回れるほどまだ俺は先頭を巧みにこなせない。


 サイドステップを踏んでみると、リアルよりも早い速度で移動することが出来た。

 これならワイルドボアの攻撃を処理できる。
 真っ直ぐ突っ込んできたワイルドボアの攻撃をサイドステップでかわし、バスターインパクトを打ち込む。

 スキルの説明通り動きが止まるかと思ったけど、攻撃を受けたワイルドボアはそのまま消滅してしまった。


 レベル1の通常攻撃ですら一撃で死んでいたのだから無理もない。

 やはり、スペランカー・バーサーカーはかなりの強さだ。
 最初はHP1でどうなることかと思ったけど、これならなんとかなる。

 そうと分かればやる気も出てくる。
 防具をつけても大した恩恵は得られないので、俺が真っ先に獲得すべきは武器だ。

 とにかく最上級の武器を手にする必要がある。

「そういえば良い素材が採れるダンジョンがあるって話だったな……」

 ゲーム序盤での最強装備は階層ダンジョンの最上階のボスを討伐することで獲得できるって話を掲示板で見た。
 現時点でそれ以上の情報はないし、ダンジョンに向かうのが最善策だ。
 まだ最終階層を攻略もされていないような序盤では難度の高いダンジョンだが、なんとかなるはずだ。

 場所は今の草原から見えている。
 少し北に塔があるので、そこにめがけて進めば良いだけだ。

 多少難易度は高いようだが、どんな難易度だろうが俺は攻撃を1回くらったら即死するので関係ない。
 早速乗り込むとしよう。

 ◇

「近くで見ると結構でかいんだなぁ」

 塔の入り口まで来たところで、俺は上を見上げている。
 離れた位置から塔を見ているときはさほど感じなかったが、こうして目の前でみるとかなりサイズを感じる。
 外観から察するに中は3階層に分かれているようだ。

 扉を開くと、中ではモンスターと死闘を繰り広げているプレイヤーが何人かいる。
 邪魔しないように近くに移動しながら様子を見る。

 ついでにモンスター情報を見ると、ここにいるモンスターのレベルが10であることが分かった。
 ちょっと難易度上げすぎたか? とも思ったが死んでも失うものがないのだ。突っ込んでも問題なかろう。

 完全な初心者装備でここに来た俺のことを不思議そうに見ているプレイヤーの視線を無視し、とりあえず俺は近くのモンスターと対峙する。

『アックスデーモン』Lv12

 翼の生えた赤い悪魔だ。
 手には巨大な斧を持っており、かなり一撃の攻撃が重そうに見える。
 俺の戦闘スタイルに一番相性の良さそうなモンスターだ。

 こいつを倒してレベルを上げながら素材確保を目指していくことにしよう。

「GRUUU」

 悪魔らしい低いうなり声をあげ、俺のことをじっと見つめる。
 低く姿勢を構え、いつでも攻撃できるといった感じだ。

「どこまで通用するか、試させてもらうぞ」

「GRUAAA!!」

 アックスデーモンが斧を大きく振りかぶり、叩きつけてきたので軽くかわす。
 半身ずらしただけで攻撃をかわせたので、そのままバスターインパクトを打ち込む。

 アックスデーモンがひるんだ隙に、数発の殴打を叩き込む。
 どれだけHPを削れるのか心配だったが、俺の攻撃力は思っていた以上に強いらしい。

 アックスデーモンのHPが俺の殴り、蹴り1発ごとに20%近く減っていく。


 ひるみが解除されて動き出したときにはすでに手遅れで、アックスデーモンはそのまま消滅した。

 同時にレベルアップの通知が聞こえる。
 かなり格上のモンスターを倒したことでレベルが2つも上がったらしい。

「えぇ……。あいつ初期装備で倒したけどなんなんだ?」

「装備なしにして遊んでるけど強いプレイヤーなんじゃね? たまにそういう訳のわからん事するやついるじゃん」

 さっきから俺のことをじっと見ていたプレイヤー達から声が聞こえてきた。
 俺は本当に初心者なんだ……。

 レベル2の初期装備でこんなに強い初心者は他にいないだろうけどな……。

 他の冒険者の声は無視して、新たに得られたステータスポイントとスキルポイントを割り振る。


 名前:『タック』
 種族:人族
 職業 :スペランカー・バーサーカー
 レベル:4
 HP :1/1 《固定》
 MP :100/100
 攻撃力:60+200
 防御力:1《固定》
 魔法攻撃力:1《固定》
 魔法防御力:1《固定》
 素早さ:60
 幸運:10

 スキル:《バスターインパクト》《グランドエレプション》《ツインアバター》

 残りステータスポイント:0
     残りスキルポイント:0

 速さも結構増したので、今回は攻撃極振りにしてみた。
 これだけ火力を底上げしてしまえば高ランクのモンスターにも大ダメージは与えられるはずだ。
 速度に関しては現時点でそれなりにあるので、すぐにあげる必要はなさそうだった。

 そして、新たに獲得したスキルは2つ。《グランドエレプション》は自分の周囲に巨大な手を出現させ、殴り倒す攻撃。攻撃力も高く、巨大なモンスターにも大ダメージを与えられるスキルだ。


 《ツインアバター》は短時間ではあるものの、自分の分身を召喚することが出来る。自動操作にはなるが、自分の同じステータス、スキルを持った分身なのでかなり戦闘に期待できる。まぁ、一発くらうと死ぬから囮としてはかなり使いにくいが……。


 どれもスペランカー・バーサーカーの限定スキルだ。
 かなり強力なスキルが用意されている。これから先、さらに強力なスキルが出てくることを考えると楽しみで仕方ない。


 第一階層は問題なく倒せそうなので、上の階層へと上がる。


 上がってみるとモンスターのレベルもかなり高いらしく、階層にいるプレイヤー達も下の層にいるのとは装備しているものの質が明らかに違っていた。

「すげぇ。めっちゃ派手なスキル打つじゃん」

 派手な装備に、辺りを巻き込む強力なスキル。
 さすが前線で戦ってるプレイヤーだ。

 あたりのモンスターはレベル15程度で、第一階層とは違って群れて動いているので対処も大変そうだ。

 このレベルの上がり方を考えると、最終階層にいるボスはレベル20というところか。

 さすがに今のレベルでボスに挑む気にはなれないし、この階層で少しレベルを上げてからボスに挑むとしよう。


 ◆


「こんなもんかな? 今のステータスならなんとかなりそうだな」


 三十分ぐらい狩をすると、だいぶレベルも上がった。今のレベルは12まで来ているので、相当面倒なボスじゃない限りなんとかなるはずだ。

 名前:『タック』
 種族:人族
 職業 :スペランカー・バーサーカー
 レベル:12
 HP :1/1 《固定》
 MP :100/100⇨600/600
 攻撃力:260+300
 防御力:1《固定》
 魔法攻撃力:1《固定》
 魔法防御力:1《固定》
 素早さ:60+350
 幸運:10

 スキル:《バスターインパクト》《グランドエレプション》《ツインアバター》《流拳群》 《攻撃上昇》《素早さ上昇》

 残りステータスポイント:
     残りスキルポイント:5

 新たにスキルも獲得した。この先、スキルを2ポイント消費することで得られるスキルが出てくるようなのでスキルポイントは温存した。


 準備は整ったし、早速ボスのところに向かおうじゃないか。

 予め第二階層を動き回って最終階層への階段を見つけてある。

「いかつい階段だよなぁ」


 第二階層に上がったときとは明らかに違う、凄みのある階段。俺は気持ちを引き締めててから、階段をゆっくりとあがる。

 上の階層も多少モブモンスターと戦うことになるかと思ったが、そんなことはらないらしい。

 階段をのぼりきると、そこには巨大な扉が待ち構えているだけだ。

 この扉の先にボスがいるに違いない。


 重々しい雰囲気を放つ扉を開くと、そこは広間になっていた。真っ黒なドラゴンが部屋の中央に立っており、俺のことを鋭い目付きで睨み付けてくる。


 確かに強そうなボスだ。
 大きさも10メートル近くあるし、これでもかというぐらい威圧感がある。


「こりゃワクワクするなぁ」

 見た目がカッコいいドラゴンなのだ。
 そこから作られる装備も強いに違いない。

 こいつをぶっ倒して俺は最強装備を手に入れるぞ。


 ドラゴンに近づくと、情報が開示される。

『ブラックドラゴン』BOSS Lv22

 やはりレベル20を超えてきたか。

「Grrrrrrrrr」

 様子を見ていると、ドラゴンは口に炎を溜め込む。
 やばい、炎での攻撃はかなりよろしくない。

 持続的な攻撃には俺は滅法弱いので、かすった瞬間終わりだ。


 ドラゴンがブレスを放ってくる。
 かなりの速さで俺に向かってくるが、今の俺には通用しない速さだ。

 軽く攻撃をかわし、ツインアバターを使用して分身を作り出す。分身もスキルを発動させれば、実質攻撃力2倍だ

 分身もスキルを発動させられるのでドラゴンの動きをバスターインパクトによって連続で麻痺させることができる。

「Grrr!?」

 身動き取れずに殴られるのが衝撃だったらしい。
 ドラゴンは目を見開き驚愕の表情を浮かべた。

 しかし、攻撃を緩めることはない。
 俺は分身に目配せすると、現時点での最強スキル《流拳群》を発動させる。

 炎を纏った大量の拳が空から降り注ぎ、ドラゴンの身体を撃ち抜く。二人で同時に発動させたことで全域に逃げる隙間なく埋め尽くされた拳をくらう。

 ダメージも相当なもので、すでにドラゴンの体力は半分以下だ。

 これだけ攻撃力を上げたのに耐えられたのはショックだが、あいつに炎系の範囲攻撃を放たれたら俺は負けだ。


 ドラゴンが、体勢を立て直す前に攻めきるしかない。
 いまだ地面に伏せているドラゴンに二人で攻撃をたたみかける。

 グランドエプレッションも発動させて攻撃すると、ドラゴンは消滅した。

 -タック様がブラックドラゴンの討伐に成功しました-

 ダンジョンボス倒したことでアナウンスが流れる。
 今まで誰も倒したことがなかったボスを最速でやってやった。きっとみんな驚いてることだろう。

「あっぶねぇ」

 それと同時に分身も消滅する。
 なんとか押し込めて良かった。分身が切れていたらどうなっていたか分からない。

「これがドロップ品か?」

 ドラゴンが消滅したところには、巨大な黒い鱗が落ちている。あれが素材のドロップアイテムだ。

 回収してアイテムがどんなものか確認する。

『黒龍の鱗』☆5
 ブラックドラゴンの鱗。加工することで強力な装備にすることが出来る。

 ドロップ自体は一つしかしていないが、かなり大きめのサイズなので一つでも武器を作るぐらいは出来るだろう。

 このダンジョンでの目標は達成したので、俺は始まりの街へと帰還することにした。


 ◆

 ガヤガヤ

「おい、あいつって……」

「間違いねぇ。ブラックドラゴン討伐したやつだ。でも初期装備じゃねーか?」

 始まりの街に戻ったのは良いものの、やたらと視線を向けられている。周りから声も聞こえてきているが、ブラックドラゴン討伐がかなり効いているらしい。

 俺が初期装備なのも相まって、みんな不思議そうだ。

 ただ、そんな観衆にはなんの用事もない。
 俺はこの黒龍の鱗を武器に変えてくれる鍛冶師を探さないといけないのだ。

 しかし、あたりを見てもそれっぽいプレイヤーはいない。
 上級プレイヤーはまだ狩に篭ってるから始まりの街に戻ってきてないか? 


 そんな風に思って諦めかけている時だった。

「にいちゃん。もうブラックドラゴンの装備は作ったのかい?」

 声をかけられたので後ろを振り向くと、そこにいかにも鍛冶師やってます! って感じの無精髭の似合うおっちゃんが立っていた。

 装備品を見ても、ハンマーなどを腰に刺しているし、このタイミングで話しかけてきたということは……思わず期待してしまう。

「まだだが、どうしたんだ?」

「俺はガラクって言って鍛冶師をしている。もしよければドラゴンの装備を作らせてもらいたいと思ってな」


「まじかよ……。ガラクさんから声かけてるぞ」

「俺もあの人に装備作ってもらいたいんだよなぁ」


 周りから声が聞こえてくる。

 ベータテストの時に何かやってるのかもしれない。このおっさんは有名な鍛冶師のようだ。

 人によって装備品の完成度が変わること自体知らなかったが、それなら腕の良い鍛冶師にやってもらうほかない。

「失敗はNGだが、いけるのか?」

 そのまま渡すと俺の立場が下になりそうなので、一度クッションを挟むとガラクはニヤリと笑った。

 よほど自信があるらしい。

「俺よりも鍛冶の腕が良いやつはこのゲームではいねぇ。失敗はない」

「俺としてはありがたいよ。ただ、わざわざ話しかけてきてまでなんでその装備を作りたいんだ?」

「箔をつけたいってのもあるが、何より強い装備作るのって楽しいんだわ」

 屈託のない笑みでそう言われた。
 純粋に楽しんでいる感じが伝わってくる。

 ここまで言われたらもう懸念は一つもない。
 俺はガラクに黒龍の鱗を渡し、武器を作ってもらうことにした。


 ガラクは黒龍の鱗を受け取ると、早速武器の作成に取り掛かる。スキルを発動させ、鱗をハンマーで打ちながら形状を変えていく。

 スキルをでパッと出来るものだと思っていただけにガチガチの鍛冶行いはじめたので驚いた。

 周りのプレイヤーは単純にガラクが武器を作っているのに興味があるようで、ガラクと俺を囲むようにギャラリーが出来ている。

 そうしてしばらくすると、ガラクの手には黒龍の鱗で形成されたグローブが二つ出来上がっていた。

「かっこいい」

「すげぇ……。ドラゴンの装備ってあんなにかっこいいのか」

 ギャラリーの評価も高い。
 これこそカッコイイ装備だ、と言わんばかりにいかつく、そして洗練されている。
 ドラゴンの顔がモチーフになっているようだ。


「受け取ってくれ。最高の出来だ」

「ありがとう。作るのも見させてもらって二度楽しませてもらったよ」

 ガラクから黒龍のグローブを受け取る。


『黒龍拳-滅-』《最高品質》
 攻撃力+382 品質ボーナス+114
 素早さ+110     品質ボーナス+33

 特殊スキル 《滅殺黒龍拳》《黒龍化》


 つ、つえぇ……。
 品質のボーナスがなくても強いのに、さらに上乗せされてることで訳のわからんことになってる。

「これを作れたのは運もあった。何度も成功出来るものじゃないし、大切にしてくれよ」

「あぁ、かなり長いことこの装備にはお世話になりそうだ」

 こんな化け物武器しばらく手を離すことはないだろう。特殊スキルまでついてるし、使うのが楽しみで仕方ない。

 武器を受け取った俺は、ガラクとフレンド登録を済ませた後すぐに狩りに出かけることにした。


 こんな装備をもらって、今日は休んで明日試してみようなんて思えない。すぐにこのぶっ壊れた装備の強さを見させてもらおうじゃないか。

 スペランカー・バーサーカーなんて変な職だと思ったが、こんな美味しい思いができるならこれから先の冒険もたのしめそうだ。


「黒龍化!」

 スキルを発動させると、俺の体を黒龍の鱗が包み、背中からは翼が生える。本当に俺が黒龍になれるのか。

 かっけぇ。かっけぇぞ!!

 なんとなしに翼を羽ばたかせてみると、空を移動することが出来た。ステータスを見ても、今までよりさらに向上している、

「こりゃ、今までより一方的な戦いになりそうだ」

 狩りの楽しみを胸に、俺は始まりの街を後にする。


 最強職、スペランカー・バーサーカーの名はさらにこの世界に響き渡るだろう。
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