運命を刻む者たち

ペルシャ猫

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それぞれの意志を受け継ぐ者たち3

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「おじいちゃん! 」
「儂はもうだめじゃ……ラージよ、お前に一つ頼みごとをしても良いかの? 」
「うん、何でもするよ。何かな? 」
「儂の道場を継いで世界一の武道家になってはくれんかの。それが儂の子供の頃からの夢だったのじゃ」
 ラージの祖父は最後にそういうと命を引き取った。
 ラージが6歳の頃だった。
 ラージはそれから立派な武道家になるため雨の日も風の日も、毎日鍛錬に身を費やした。祖父の目指した世界一の武道家になるために。
 その成果あってかラージが20歳の時、武道家世界選手権で優勝することができた。
しかしその日、人生最大の不幸がラージを襲う。
 試合の後、道場に戻ると「お前の教え子は預かった。返して欲しければ試合会場に1番近いビルの地下へ来い」という手紙と共に中が荒らされていたのだった。
 教え子という言葉にラージは体の中で何かが切れるような感覚に襲われた。
「待ってろよ、お前たち……」
 ラージは早足でその場を後にした。

 ラージが指定のビルの地下へ行くとそこには不快な臭いが漂っていた。
「なんだ……この臭いは……」
 ラージはその不快な臭いを嗅いで理性が飛びそうになったが、それを押さえつけながらラージは進んだ。その臭いは血の臭いに似ていた。
 そこから少し歩くとぴちゃり、という音が足元からした。ラージはそこへゆっくりと視線を移した。紅い水溜り……いや、血溜まりだ。その血溜まりは少し先の車の上まで伸びており、その上に布に包まれた何かが置かれていた。
  ラージはその何かに向かってゆっくりと進む。いや、何かというのはその物がどんなものかわからない時に使う言葉だ。ラージはそれがどんなものかもう分かっていた。というより、血溜まりを見た時から、言うなれば駐車場に入った時から分かっていた。死体だ。そして、かつて教え子だった物だ。
 ラージがその物を認識して、絶望していると後ろから野太い声が響いた。
「よう、にいちゃん。俺からのプレゼントは気に入ってもらえたか。残りのプレゼントは俺の家にあるからうちに来いよ」
 ラージが振り返ると、そこには巨漢の男が立っていた。その男に見覚えがあった。名はドロウン・グリード。武道家前大会王者だ。ラージの祖父が決勝で後一歩のところで負けた相手で今大会のラージの血書戦の相手。ラージの火事場の馬鹿力と言えるような投げ技でやっとことで勝った実力者だ。ドロウンを投げたのはラージが初めてらしい。
「ほんと、よくお前は俺に勝ったよ。ジェイソン、と呼ばれるこの俺によぉ」
 そのジェイソンという言葉にラージは身がすくんだ。
「そうだよ。その調子だ、ラージ。自分に自信を持て。そして、我々と一緒にこの世界の頂点に立つのだ!ついて来い!」
 ラージはその言葉を聞いた瞬間、身体が操られたかのように警戒の動きを止め、ドロウンについていった。
 ドロウンの後ろにはドレスを着た女の影が動いていた。
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