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序章 風雲
しおりを挟むその日は、運命の日であった。
文字通り、多くの人の命が失われて運命が尽き、それに伴って残された者たちの運命も動き出したからだ。
夜半の宴の賑やかな喧騒が、一瞬にして狂乱の断末魔の声に変わる。
着飾った老若男女は手にした杯を広間の床に落とし、その杯には葡萄酒に代わって鮮血が注ぎ込まれた。
地位と名誉の証である豪奢な衣は切り裂かれ、権力の証である金貨が懐から零れ落ちていく。
ある者は理不尽な出来事に怒鳴り声を上げ、またある者は不意に訪れる死に恐怖の悲鳴を上げる。
絶望の嘆きと涙が血飛沫と共に溢れ、本来ならば晴れがましいはずのこの空間には似つかわしくない負の音声が広がった。
天井画に描かれた美しい女神は、眼下に広がる地獄絵図の有り様をただ黙って見ているだけだった。
しばらくすると人々の苦痛の声は止み、本来の夜の静寂が取り戻された。
いくつかの靴音が広間に響き、転がっている骸の脇を抜けて、ひとつところへと集まる。
「逃がした者はおらんだろうな?」
その場に似合わぬ落ち着いた声が問いかけた。
「はっ、御安心を。
広間から出た者も通路で待ち構えた兵がひとり残らず片付けました」
「奥の控えの間のほうも問題なく」
「そうか、では……」
報告を受けた壮年の男は、広間の奥へと向かう。
その先には床に広がる多量の液体と同じ、深紅の色の布張りの椅子がある。
「良い色だな。まさに玉座に相応しい色だ」
金張りの肘掛けに触れ、ほくそ笑んだ男は、その座に腰掛けて満足げに一呼吸した。
返り血を浴びて鈍く光る鎧と、その下にある武人らしい筋肉が呼吸と共に蠢く。
才知の感じられる怜悧な顔立ち、鍛え抜かれた長身の身体、威厳を具えた佇まいは、確かに豪華な玉座に似合ってはいたが、眼前に広がる無残で異常な光景と相まって、他者の目には酷く違和感を覚える姿に映るだろう。
「私が王となる運命が叶えられた。
今日こそ運命の日だ」
その言葉の後に続いた高らかな笑い声は、宮殿の外に吹く風の音を掻き消さんとするかのように、一夜の惨劇の舞台となった大広間に響き渡った。
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