嘘と嘘の重ね合い

依空

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表向きの悲劇

目覚

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                 side知成


 ここは、一体…。


 「衆樹さん、気がつきましたか?」


 警察署へ行って、急に具合が悪くなってー。


 あれ、そもそもなんで警察署に居たんだ。


 起きたばかりの頭を使い、思考を巡らせる。


 梨佳。梨佳が誘拐されたんだ。


 梨佳のことについて、考えていた。


 少し経つと、誰かが入ってきた。


 「すみません。警察の者ですが、お話、よろしいでしょうか?」


 って、あれ?
 聞き覚えのある声。
 見たことあるような顔。
 どこかで会ったことがある。
 もしかして…。


 「衆樹、衆樹だよな!」


 「そっちこそ、黒島だな」


 黒島涼太。
 彼は中学校時代の親友だ。


 「なんで黒島がここに?」
 「一応、警察なんで」


 黒島が警察になったんだ。


 「ところで衆樹。梨佳さんの事なんだけど」


 梨佳の誘拐の真実がやっと分かるのかと思うと、少し安堵した。
 しかし、返ってきたのは意外な言葉だった。


 「誘拐にしては、なんかおかしい点があるんだよ」
 「な、なんだよ、それ」


 おかしな点って。
 まさか、もう梨佳はこの世に…。


 「梨佳さんの誘拐と強盗。衆樹と梨佳さんが同棲していた家はとても荒らされていただろ?でも、取られたのが梨佳さんの通帳だけ。そこまでごった返しといて、衆樹の通帳を見つけないのがおかしくないか?」


 「強盗が俺の通帳を見つけている間に梨佳が帰ってきて、その強盗が顔を見られたから慌てて梨佳を連れて行った、とかじゃないのか?し、しかも、俺は通帳を分かりにくい場所にしまっていたから見つけれなかったんじゃ?」


 「まあ、警察もそっち方面で捜査はしてるんだけどな」


 梨佳。どうか無事に生きていてくれ。
 梨佳がいてくれれば、俺の人生に悔いはない。


 「まあ、何か気づいたこととかあったら俺に言えよ、衆樹。あっ、それと、からだ、大丈夫か?」


 「なあ、黒島。俺には、時間が無いんだ。だから、早く梨佳を見つけてくれよ」


 「ああ、分かったよ」


 黒島はこれ以上、質問はしなかった。
 あいつもなんとなく気づいている。


 言うか言わまいか迷ったが、黒島には言っても良かった気がする。


 頼むぞ。
 黒島。




                 side黒島


 『時間が無いんだ』
 衆樹の言葉が頭に染み付いて離れない。


 警察署で倒れた時も、真っ青な顔をしていた。
 きっと、体の何処かが悪いのだろう。
 そして、命のタイムリミットがあるのだろう。


 しかし、知成を深追いしようとは思わなかった。


 知成は梨佳さんのこと精一杯なのだから、自分がいそいそと入るような事でもないと思った。


 急いで仕事場に戻るとするか。
 早足で駐車場へと向かった。


 近隣の人への聞き込みを一通り終えた同期の白岩のところへ向かう。
 「白岩、どうだった?」
 「少し情報もらえたぜ」


 白岩が言うには、衆樹が仕事で家に居ない間、梨佳さんがたまに男を連れて来ていたらしい。
 近所に住む人は、梨佳さんが浮気をしてるんじゃないかと疑っていたらしいけど、梨佳さんは知成ととても上手くいっていたらしいから、ただの梨佳さんの友達かと思っていたという。


 どちらにしろ、その男にも聞いてみないと分からない。
 その男とは、何者なんだ。


 いつも帽子を深く被っていたらしい。
 だから、顔をはっきりと見た人はいない。
 背は梨佳さんよりも高いらしいが、これといった断言できるような情報はない。
 髪の色は黒だったり金髪だったり時には緑だったり。
 だから、ちゃんと断言できる人はいない。
 体型は痩せ型だろうという。いつもダボッとした服ばかりを着ていたらしいので、これもよく分からない。


 ますますこの男が気になってきた。
 気になって、たまらない。


 衆樹のためにも、梨佳さんのためにも、早く事件を解決しなければならない。
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