嘘と嘘の重ね合い

依空

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分からなくなった背景

極致

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                  side黒島


 衆樹のところへ行って、佐狐について聞いてみるか。
 そうして衆樹の元へ向かった。


 数ヶ月前に事件があった、懐かしいマンション。
 衆樹は、梨佳さんの帰りを待ち続けているため、まだ一人でこの家に住んでいる。


 ピンポーン…。


 インターホンを鳴らしても応答がない。
 仕方なく、ドアに手を掛けた。


 カチャリといってドアノブが回る。
 鍵をしていないのだろうか。
 少しの緊張が走る。


 思い切ってドアを開けた。


 「も、もろ、き…?」


 衆樹は腹を抑えながら壁にもたれかかっていた。


 「衆樹、大丈夫か?救急車、呼んだ方がいい?」


 「いや、大丈夫。このくらいの痛み、すぐに引くから。てか、なんでお前が居るんだよ」


 「悪い。インターホンを鳴らしても応答がなくて、心配だったから」


 「だ、大丈夫だよ。黒島には心配なんてかけねぇーよ」


 途切れ途切れに声を出す。


 「うっ…、くっ…」


 痛みを必死に堪えている。
 そんな衆樹の背中をさすることしかできない。


 数分たって、衆樹の痛みが治まったようだった。


 改めて、衆樹に聞いた。
 「なあ、衆樹。佐狐直哉って知ってるか?」
 「誰?その人?」


 衆樹はこいつのことを知らないのか。


 謎はますます深まってくる。


 「梨佳さんは、この人の元にいるかもしれないんだ。実際、梨佳さんがこの佐狐っていうやつが初恋の人だって言ってたらしいから」


 衆樹は複雑な面持ちになった。





                  side知成


 佐狐直哉ー。
 聞いたことも無い名前だ。


 一体誰だって言うんだ。
 梨佳は浮気でもしていたのだろうか。


 いや、梨佳に限って浮気なんてするはずがない。
 きっと、学生時代の友達だろう。


 梨佳…。


 梨佳は俺をおいて行ったのだろうか…。


 俺には未来が無いのを知っていたのだろうか。
 それにしてもタイミングが悪すぎる。


 父親も母親も、俺らの結婚式を楽しみにしていたというのに。


 そして、命の期限も俺に襲いかかる。
 さっきは黒島が居てくれて助かった。
 背中をさすってくれるだけでも、少し楽にはなる。


 でも、その手が、梨佳だったら…。


 そう思うと再び身体に痛みが走った。


 「衆樹、大丈夫か?」


 そう言って、黒島がまた背中をさすってくれる。
 「ごめん、ありがとう。黒島が居てくれて良かった」


 「いきなりなんて事を言うんだよ。もうすぐ居なくなるみたいな感じで話すなよ…」


 「黒島、俺が居なくなっても、梨佳の事を俺の代わりに探してくれよ。学生時代の親友だもんな」


 「衆樹、お前はまだ生きないといけないんだよ…。梨佳さんと、楽しい生活を送るために。素晴らしい結婚式を挙げるために。結婚式の時は俺も呼んでくれよ。衆樹の学生の頃の話、沢山してやるよ。だから、前だけを見ろよ…」


 心做しか、黒島の声は少しずつ小さくなっていった。
 黒島も俺の命の期限をだいたい分かっているんだな。
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