公園の片隅にあるとある多年草のお話

楪 とは

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公園の1日

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私はいつもココで見ています。
小さな日々の変化、ちょっとした人間あなたたちの成長、移りゆく仲間たちの姿。
ココは小学校と団地の間に設けられている割と大きめの公園。
と渡り鳥さんたちが言っていたわ。
私はそんな公園の本当に片隅、誰にも気づいてもらえない日陰に根を下ろした花。
一応白い花を咲かせているけれど、どこにでもあるありふれた私は他の草花と同化して気づかれない。
そんな私の独り言に良ければお付き合い頂けるかしら?

この公園はいつも賑やかに朝を迎えるの。
いつも20人近くの人間が集まって音の出る小さな機械の指示に合わせて踊るのよ。
みんな同じ動きを同じタイミングでやるのだけど、真面目に綺麗に踊る子も居れば怠けて適当な踊りをする子も居るの。
みんなきちんと踊れば揃った動きでたいそう綺麗に見えるのだろうけれど、残念なことに完成されたその踊りは見たことがないわ。
必ず何人かは腕が伸びてなかったり、ジャンプが低かったりするのだもの。
でも誰も怠けていることを注意したりしないから気にしなくていいのかしら?
もしくはわざと怠けた踊りをするパートなのかしら?
完成を目指さないなんて人間は面白いわね。
そうそうその踊りはいつも一回だけ踊られるのだけれど、踊り終わったらみんな紙に何か押してから帰るのよ。
小さな子たちが毎日「今日は猫ちゃんだった。」とか「うさちゃん!」とか嬉しそうに押して貰ってから笑顔で帰っていくの。
とても微笑ましいわ。
お年を召した方々はそのあと少しお話をしてから帰っていくわね。
「近所の藤宮さんが~」とか「あの政治家はいけないわぁ…」とかお話の内容はよくわからないけど、聴いてると人間って大変そうなのだけはわかったわ。

彼らが帰った後しばらくしたらいろんな色の同じ形の鞄を持った子たちや同じ服を着た子たちが何処かに向かって行くの。
この公園はそこに行くための近道らしくてほぼ毎日子どもたちが通り抜けて行くわ。
同じ服を着た大人も通って行くけど、子どもたちとは目的地が違うようで公園の入り口で逆方向へ行くの。
それにしても毎日同じ鞄、同じ服で人間は飽きないのかしら?
私も言えたことではないけれど、でも一度葉をつけたり花を咲かせたらその姿で固定になってしまうから飽きたと言えないの。
そのかわり毎年毎年違う形に姿を変えるようにしてるのよ。
私のささやかな楽しみね。

同じ格好をした人たちが通り過ぎて暫くすると手押し車を押したり小人を抱いた女の人が集まりだすわ。
その女の人たちは小人をあやしたり、遊ばせたりしながらお話に花を咲かせるの。
まぁ、話の内容は例によってわからないのだけれど。
でもどの人も幸せそうに微笑みながら小人たちを見守っているのよ。
それも慈愛に満ちた女神や聖母のように。
小人たちが彼女たちを「ママ」や「お母さん」と呼んでいたからきっと母親なのね。
ちなみに私たちには親はいないわ。
正確には知らないのだけれど。
私たちは虫たちに運ばれた花粉で子を宿すけれどその子たちは種になったら風に飛ばされていくからどこに行くかわからないし、そばに同じ花が咲いていても自分の子なのか他花の子なのかもはっきりしない。
また飛ばされた子自体も土の中で赤子期を過ごして幼児期の土の上に顔を出すまで自分がどこに来たのかわからないから、親が近くにいるのかそれとも遠くなのかわからない。
だから私たちに守り育ててくれる母という概念は意味をなさない。
本当に母は生母というだけなの。
だから守り育ててくれる人間の母という存在は羨ましいわ。

さてお昼になると朝ビシッと同じ服を着て出て行った男の人たちがお弁当?とかいう物を持ってベンチに座って何か食べるわ。
中身はいつも違うみたい。
私は背が低いから中身を見たことないけど、渡り鳥たちが中を奪取したのは見たことあるけど何かわからなかったし。
そういえば棒を2本使って箱から食べ物を出して口に運んでいるのだけれど、大変じゃないのかしら?
私たちは土の中に伸びた根から栄養を得ているから動く必要がないわ。
根が腐らなければ半永久的に私たちは生きていくことができるのだけれど、人間は老化していくわよね。
それは動きながら栄養を摂っているからなのではないかしら?
栄養を摂っている間にも栄養を使っているだなんて人間は疲れそうね。
だからお弁当を食べた後はベンチで寝っ転がるのね。
ベンチに寝ている人の中には犬みたいに唸りながら寝る人がいるのだけれど、あれはなんでなのかしら?
「ぐが~」とか「ぐご~」とか凄い音なのよ。ベンチを取られたくないからかしら?
寝ながら唸るなんて人間の中には器用な人が多いのね。

さてこれからの時間が公園が一番賑やかになる時間だわ。
同じカバンを持っていた子どもたちが戻って来て公園に遊びに来るのよ。
そして滑り台やジャングルジム砂場なんかで遊び始めるのよ。
子どもたちの笑い声が響いて公園がとても華やぐわ。
あら?あそこで滑り台の取り合いをしているわね。大丈夫かしら?
ジャンケンをしているわ。何とか無事に順番を決めることができたみたいね。良かったわ。
あぁ、あそこでは駆けっこしている…って転んじゃったわ!!
女の子ね。泣かないように顔に力が入っているわ。
怪我とかしていないかしら?
こういう時は駆け寄ってあげられないこの身が悔しく感じるものよ。
だって相手が泣いていてもそばに行けない、涙を拭ってあげることもできないんだもの。
あの子の母親はいないのかしら?
代わりに一緒に駆けっこしていた子たちが寄っていくわ。
あ、水飲み場に行くみたいね。膝を水で流しているわ。
やっぱり怪我をしてしまったみたい。
でもあの女の子、えらいわね。水が傷に染みるでしょうに泣かないで周りの子たちに「大丈夫!」って笑顔で言っているわ。
て、あら?あの女の子の近くにいた男の子がこちらに向かってくる…って痛いわ!!
なんてことをするの!?いきなり私を摘むなんて!!
ちょっと貴方!どこに連れて行こうっていうのよ!?
来た道を戻っているみたいだけど…
あの女の子の前?
「これ、やる!」
「え?いいの?ありがとう!!」
まぁ、この男の子なかなかやるものね。
女の子にお花のプレゼントだなんて。ということは私がプレゼントって事なのね。
仕方ないわね、転んでも泣かなかったこの女の子のためにプレゼントになってあげますよ。
茎から離されてしまったから私の命はあと1週間くらいのものでしょうけど。
こういう散り方も悪くないわ。
公園の隅に気付かれずひっそりと咲いていた私が初めて注目されたのだから。





「ママ~!このお花ね、こうちゃんがくれたの!飾っていい?」
「あら、飾るより栞にしたら?」
「しおりって何?」
「栞はね、読み途中のご本に挟めて次はココから読みますよって印にするものよ。飾ったら枯れちゃうけど、大好きなこうちゃんから貰ったんでしょ?栞にしたら綺麗なままとっておけるよ。」
「ほんと?それならしおりにする!!」
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