続!素直に同棲したいって言えよ、負けず嫌いめ!ー勉強が苦手な俺がスパダリに溺愛されていますー

美絢

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オメガバース編

その11. “スパダリスイッチ”

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 ーー完全に、ミスった。

 キャラ設定を忘れて、俺は玄関まで大股で駆ける。

「やばっ、マジで遅刻する!!」

 カバンをつかんで、靴を履こうとしたそのとき――

「……お前、何してんの?」

 理人がローファーを拾い上げ、片手で俺の足首をとらえる。

「ちょっと待って、すぐに履かせるから」

「……俺、ケガしてないけど?」

 そう言っても、理人は手際よく靴を押し込み、顔を上げる。

「“僕がいないと、全然ダメ”なんでしょ?」

「は?」

 “僕がいないと全然ダメ”……?

(……まさか、さっきの?)

 カバンを取られ、理人は玄関のドアを開ける。
 “キザ”な彼らしい、優雅な仕草で。

「安心して。スオがダメにならないように、完璧にお世話するから」

 やわらかい微笑みとともに、手を差し出す。

「……やっと“わかってくれた”から。今までの分も、頑張らせて?」

 エスコートされるように歩き出し、

(……待ってくれ)

 エレベーターに乗ると、理人が声を潜める。

「それとね、ヒスってたの……すごく可愛かったよ」

 ふっと笑って、静かな目でこちらを見つめてくる。

「……閉じ込めちゃおうかと思った」

(……“モード”入ってんじゃん)

 いつの間にか、理人の“スパダリスイッチ”を押していたらしい。

 タクシーに乗ってからも、

「夕飯、リクエストある? スオのために頑張って作るね」
「あ、帰ったらシーツ洗っておくよ」
「柔軟剤、切れてたよね? 一緒に買いに行こうか?」

(……お前、“家事苦手”だろ……)

 キャラ設定が、どんどん崩壊していく。

「今日はスオが“おかえり”言う日だね」
「え? 寂しい?……なら、一緒に帰ろうか?」

 理人はずっと楽しそうで、

(……運転手さん、引いてんじゃねぇかよ)

 俺はずっと黙ったまま、学校に着いた。

「……あれ、着いちゃった?」

 盛り上がり続ける理人を横目に、そっとタクシーを降りる。

(……ま、今のところ害はないし。番のこともあるし)

 もしかして、甘えたら……“挿入れさせてくれる”かもしれないし?

 そんな期待を胸に、ぶりっ子の皮を被り、

「りひとぉ……置いてかないでぇ……?」

 少し先を歩く理人に、小走りで駆け寄る。

 理人は振り返り、はっとしたように言った。

「……ごめん、足が長くて……」

(うぜぇ)

 ちらっと時計を見てから、照れたように笑い、

「……急いでるし、おんぶした方がいいよね?」

 そう言って、俺に背を向け、しゃがみ込む。

(……どうすんだよ、これ……)

 “ぶりっ子”設定のままツッコむのも微妙で、戸惑っていると。

「西園寺先輩、しゃがんでない?」
「もしかして、あの人のせいで……?」

 周囲の視線が集まり出す。

(冤罪だろ!?)

「理人? あの俺っ、大丈夫……」

 混乱から抜けようと一歩下がった瞬間――

「……うぉっ!?」

 誰かにぶつかった。

「あ、ごめーー」

 慌てて振り返ると、

「おっと。あれ、桜水センパイ?」

「……“桜水センパイ”?」

 理人の声が急に冷め、顔から感情が消える。
 その目が向いた先には――

「……ふふっ、朝から会えるなんて“運命的”ですね」

「……“運命的”?」

 理人のつぶやきを無視し、オメガが俺の手を握ってきた。

 俺は昨日の言葉を思い出す。

 ーー“あなたのオメガ”です。

 彼は俺の“番”希望者。けれど俺は、理人を“オメガ”にしたい。

 つまり――

(……三角関係!?)

 理人に勘違いされたら、死ぬ!!

 俺はお土下座する勢いで、オメガの手を握り返した。

「ごめんっ、その話はあとで……!」

 彼は小首を傾げ、いたずらっぽく笑う。

「なんでそんなに、慌ててるんですか?」

 ネクタイをゆるめながら、さらに近づいてきた。

「……もしかしてオレたちの“関係”、秘密でした?」

(やめろ……! 俺には、理人が………!)

 視線を重ねるように、俺の瞳を覗き込む。

(……理人、が………)

 髪をかき上げる仕草で、白い“うなじ“が露わになる。

 俺は目を閉じ、しぼり出すように声を発した。

「理人……が……いる、から……」

 お前の、“アルファ”にはなれない。

(……番えなくて、ごめんな)

 今なら、世界を救い損ねたヒーローの気持ちが分かる。

 そっと目を開けると、

「………あぁ、すみません、気づかなくて……!」

 オメガは理人の存在に気づき、申し訳なさそうに距離を取った。

(………めっちゃ健気、じゃん?)

 俺しか見えてなかったってことか。

 ちらっと理人を見る。

(ーー修学旅行の、“待ち合わせ場所”にされた男だぞ?)

 そんなヤツより目立ってる、俺。

(……アルファって、罪深いな……)

 そんなことを思っていると、オメガがふと口を開いた。

「実は昨日、伝え忘れてたことがあって……」

「伝え忘れ?」

 ……昨日、知り合ったばかりなのに?

「今日の昼休み、中庭の清掃あります。センパイは美化委員ですよね?」

 確かに、俺は美化委員。でも。

「マジで? 担任から聞いてないけど」

「伝え忘れたそうです。オレが代わりに伝えるよう言われて」

 ……なんでオメガ経由?

 首をかしげていると、彼がラケットバッグを見せてくる。

「……お前、テニス部なの?」

 コクリと頷く。

 担任は、テニス部の顧問だ。

「出張らしいです」

「………あぁ、そんなこと言ってたっけ。わざわざありがとな」

「とんでもないです!」

 そう言って、彼は玄関の方へ歩いていく。

「桜水センパイ、またね」

 軽く頭を下げ、背中を向けた。

(……あの子……)

 すると、一年でも可愛いと有名な子と合流した瞬間、肩を寄せて笑い合う。

(……付き合ってんのか?)

 手を振り、見送っていると……

「……“桜水センパイ“」

 地鳴りのような声がした。

 振り返ると――

「……帰ったら“話し合い”ね」

 理人の目から、ハイライトが消えていた。
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