memories

ckocko

文字の大きさ
2 / 7

出会い

しおりを挟む
どこだ……ここ。
目の前に広がる闇。目を開けている訳ではない。かといって、閉じているという感覚もない。意識の中で思考だけが動いてるという感じ。食欲も無い、睡魔も襲ってこない……限りなく「無」なのだ。時間の感覚がないので、今が一体何時なのかさえわからない。こんな状況で冷静沈着な俺すげぇ、とさえ思ってしまうほど。そのくらい果てしない「無」が広がっているのだ。
ふと、頭の奥で音が聞こえてくる。正確には、脳味噌の奥で音楽が鳴っている。身体を包み込むような。どこかで聴いたことある音楽。あれはいつだったか。いつ聴いた音楽なのか……。
しかし、それが突然、ハッキリとした「声」に変わる。

「おーい!起きろー!……あれ?」
「にゃー、つまんない。……ね、先輩。こいつ死んでんじゃない?」
「んな訳ないわ。絶対生きてるわ」
「あなたは黙っていて!私、先輩に聞いてるんだもん。ね!先輩!」
「はいはい、そうだなー。死んでる死んでる」
「はぁ……。呆れるわ」
「私は好きですよ~。先輩とにゃんちゃんとのコント」
「にゃふん!?コント!?……コントじゃないわ!」
「じゃあ、何なんだ?」
「にゃ、先輩……。先輩もコントだと……?」
「え……?違ったのか?!」
「むぅー。ひっどい、みんな」
「……?せんぱ、この人生きてますよ~」
「生きてるっちゃあ、生きてるだろ」
「え、だって、せんぱ!この人意識が戻ってませんか~?」
「おお!気がついたか!少年!少年!!聞こえるかー?」
(聞こえてるよ。うるせぇな。)
「おーい」
(なんだよ、この野郎。黙れよ。)
「にゃはー、半目だぁー。初めてみた……キモっ」
(初対面の奴にひでぇな。あと、さっきから、にゃんにゃんうるさいなお前。)
「やっぱり死んでるわ、これ。おーい、死体くん?」
(死んでねぇ。てか、声出てなくねぇか?あー。あー!!……出ないし。)
「え!いやぁ~。さっき動いた気がしますよぉ~?」
(あー!!声出ろぉ……!!未だに真っ暗闇だし。こいつらどこで話してんだよぉ……。)
「気がするんだな」
「気が……しただけ……ですぅ、はいぃ~」
「そんな不確かなこと言うなよ」
「はいぃ~」

ここまで来たあたりで、すぅっ、と意識が掠れていく。暗闇が真ん中から青白く光って、消えていくみたいに。遠のいていく。
(ええー?結局あいつら何だったんだよー)
抗っても無駄そうなので、そのまま流されてみる。時間に乗っかって。身体の感覚のない、空中浮遊のような時間。ふわふわと揺蕩う身体。こんな状況でも、脳味噌って動こうとするんだな。頭だけが活動する不思議な感覚。一体、目が開いているのか閉じているのかさえわからない。
(あー。もう一生このままなんじゃね)
諦めかけた次の瞬間。「せーのっ」と誰かの掛け声。ドンっという鈍い音。プッシャァァアア!、と噴き出す液体。少しだけくらっ、と眩暈が襲う。え……?これ、殺られてるの完全に俺じゃね。そう思考が判断した頃、条件反射的に身体が起き上がる。
「うわぁぁぁぁああ!!!」
痛った!……くない。痛くない?痛くない!どうして!死んでないぞ。俺は生きている!生きているって素晴らしい!なんという事だ!
一人でガッツポーズをする。恥ずかしげもなく。ああ、生きているって素晴らしいことなんだな。
殺られたのはどこだ?!手当り次第にまさぐってみるが、傷口が見当たらない。ただ、ベチャッと服が濡れている音だけ。血の赤で染められてはいない。汗でもかいたのか?ほっとしたのも束の間。床に置いた左手の傍に巨石。
まさか、これで俺を……。この巨石が自分の頭部を抉っている様子が想像される。考えただけで恐ろしい。ゾッとする。
ふと、見上げると人影が四つ。
「あ、起きた」
「起きたにゃ」
「起きたわね」
「起きましたねぇ」
目の前に、女の子が四人。え、ちょっと待って。みんな口を揃えて反応薄くない?俺、多分だけどお前らに殺されかけたよね。奇跡の生還だよ?
俺は多分こいつらに殺されかけた。それは、俺の左手の傍にある石(岩?)とこいつらの服に付いた血が物語っている。口調から察するに、俺が夢?の中で聴いた声はこいつらと取るのが妥当だ。
「お前ら何すんだよ!!」
赤い髪の女が前に出てきて、俺の前にしゃがみこむ。そして、溜息を一つついて、呆れたように俺の質問に応える。
「お前を起こそうとしただけだがな」
「起こそうとして、殺しかけてるよ!!」
「いやいや、殺意はない」
「殺意は無くてもダメだろ!」
「ダメなのか!?」
出たでた、素っ頓狂な返し。そう来ると思ったよ。こいつら頭イカれてやがる。女の後ろでは、さっきからにゃんにゃん五月蝿かった女が「そうだそうだ!」と騒ぎ立てている。なんか「にゃんちゃん」って呼ばれてたっけな、この猫女。
「当たり前だろ。殺人だぞ?それと……。お前に付いてる血って、全部俺のだよな」
「ああ、これか。さっきトマトジュースを飲もうとしてこぼしてしまったんだ購買で一つしか残ってなかったのに……!」
「紛らわしいわ!!」
「今日はもう飲めないんだぞ!!最悪の日だ!」
「はあ……。……じゃあ、あの音はなんだ?」
意識を失っていた時に聞いた音。明らかに、俺から発せられていた音だと思ったのだが。
「殴ったは殴った。しかし、この世界だと血は無色透明になる」
「はあ?何言ってんだ、こいつ」
「お前が思っていること、全部口からダダ漏れだぞ。疑うなら、試してみるか?」
そう言って俺の傍らにある岩を指差す。
「いいです!遠慮させていただきます!!」
「無色透明っていうか、水みたいな感じかにゃー?」
「そうだな」
「にゃは!そうですね、先輩!」
さっきのこいつらじゃないが……コントだな。これ。しかも、茶番。同じことがリピート再生されているみたいだ。もう付き合ってられない。
「水みたいになるって、痛くないのか?」
「ああ。傷口は出来るが、血は出ない。血は出ないが、水が流れるって感じだな」
「なんじゃそりゃ」
「私もこの世界に来た時は、全く同じ感想をもった。全年齢対象で行こうぜ!って事なんじゃないか?」
「はあ……どうして?」
「さぁ、どうしてだろうな」
こいつらの言うことを信じていいのか疑問に思い始めた。でも、待て。そうなった場合、4対1……。明らかに不利じゃあないか。
「さっきから「この世界」って……。ここは俺の住んでいる町じゃないのか……?」
「少なくとも、そうではないと思う」
辺りを見ると……学校?のような建物が立っている。俺を中心にして、囲むように。ここは、中庭だろうか。でも、俺が通っているはずの学校ではない。俺が通っている学校……?それは……何という名前の学校だったか……。思い出せない……。思い出そうとすれば、自然と浮かび上がるであろう記憶すら、ない。何もない。
戸惑っていると、赤い髪の女が問う。
「大丈夫か?」
「いや、大丈夫じゃない。あの……何も思い出せないんだが」
「おお!すまんな。お前の記憶は、人質として私が預かっている」
「はぁ?!何でそんな大事なこと忘れんだよ!!てか、預かるってどうやって?」
「まぁ、出来るんだよこの世界では」
「それを受け入れろってのかよ!」
「そうだ。過去の記憶が無ければ、お前は私に従うしかなくなる。つまり……」
女は不気味に、ニヤリと無機質な笑顔を浮かべる。そして、俺の襟を強く引っ掴む。深く息を吸い込み、まるで領主が奴隷に告げるように冷酷に言葉を続ける。
「お前は私の思うがまま、なんだ」
先程と打って変わって、真面目な表情を見せる。その表情に少し戸惑う。しかし、脳は今は冷静に考えた方が良さそうだという判断に達した。
「なんだよそれ……」
時間が流れるのがとても遅く感じる。そう言われればそうだ。血が流れないことも、記憶がないことも可笑しい。「この世界」は何かが違う。俺が元住んでいた町とは、何かが。でも、その「元住んでいた町」すらわからない今、俺はどうしたらいいのか。本当にこいつに従ってもいいのか。
「ふっ。ここの学園長に楯突くのか?坊主」
「学園長!?」
オウマイガー。……突然のカミングアウトにもう脳がついて行けない。もう止めてくれ。俺の脳味噌は容量2ギガバイトくらいだから、追いつけねーんだよ。少し整理させてくれよ。
「ん?そうだが、何か?」
「いやいや、「何か?」じゃねーよ!普通有り得ないだろ!?」
「それが、有り得たみたいだな」
「ふざけてんだろ……」
マジありえねー。これが感想だった。でも、記憶のためにはこいつに従った方が良さそうだ。一刻も早く記憶を取り戻して、俺の「元居た世界」に帰る。完璧な計画だ。よし、これでいこう。
「んで?何すればいいんだ?従えばいいんだろ?アンタに」
「飲み込みが早いな、お前。じゃあ、お前には……ギター要員足りてないから、そこに入ってもらう」
「ギター?!……そんなんどうやって」
「え!?いや、どうやってって。お前ギターやってたんじゃん」
「は!?……そうなのか?」
こんなにも早く、過去の自分のヒントを教えてくれるのか……。
「……てへっ。記憶のこと、言っちゃいけないんだった!」
「……アンタそんなキャラじゃないだろ」
「そうだ。すまん」
へぇ、俺ギター出来るんだ。……こいつの様子を見てると、思ったより簡単に帰れそうだな。話せば話すほどボロが出る。
「って、ギターで何すんだよ」
「バンドに入ってもらう」
「はぁ?」
「聞こえなかったか?バンドだ」
「俺が……?」
「もちろん」
「えええええ!?」
「さっきいた奴らもメンバーだから、宜しくな」
女は後ろを指差すが、もう既に校舎に入ってしまったようで、影がない。
「自己紹介忘れてたな。私は、サクラ。宜しく、新人」
「宜しく……」
「お前の名前は?」
「俺の名前……。う……ウチダ……」
「ウチダ?そうか。宜しくな、ウチダ」
「おう……」
女――サクラは、すたすたとその場を立ち去ってしまう。あまりに唐突な出来事で、正直整理が出来ていない。でも、これだけは確実に分かった……気がする。「サクラに従う」。ただ、それだけ。何かが変わる気がする。少なくとも、現在よりは。
「行かないのか?」
「待って!すぐ行く」
2人で校舎へと足を踏み入れる。バンドのメンバーとなる予定のあいつらが待っている校舎へと。

だが、この時の俺は全く予想していない。長く厳しい戦いが、俺を、俺たちを待ち構えていることを。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...