怪獣はヒーローが嫌い!

SAKAHAKU

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第十六話(ギガノの為にできること)

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「有明、起きてる?」
「……どうした、ギガノ。眠れないのか?」
ある日の夜中、ギガノに声をかけられて眠りから目を覚ました。
午前二時か。この時間までずっと眠れなかったのだろうか?
「怖い夢見たの。また眠ったら同じ夢見ちゃうかもって……そう思ったら全然眠れなくて。有明、一緒に眠っても良い?」
「良いよ。こっちおいで」
「うん!有明大好き!」
「怖い夢って、どんな内容だったんだ?」
眠れないというギガノを可哀想に思い、自分が先に夢の世界へ向かうのはよそうとそんなことを聞いてみる。
「えっとね……怒らないで聞いてくれる?」
「怒らないよ。遠慮なく言ってみ」
「あのね……有明が、死んじゃう夢」
「……え?」
「ギガノがファイターゾフに追われてて、途中有明が助けに来てくれるだけど、最後は目の前で殺されちゃった。現実の有明は死なないよね?正夢にならない、よね?」
不安そうに見つめて来るギガノを何とか安心させたい。
こんなことで怯える気持ちを静められるかはわからなかったが、体を軽く抱きしめて優しい言葉をかけていた。
「約束したろ。俺がお前のこと助けてやるって。だから安心しろ。それまでは絶対に死なないよ」
「本当?」
「そんなことで嘘何かつかないよ。夢の中の俺は負けたのかも知れないけど、現実世界の俺は必ず勝ってみせる。だから安心してお休み」
最後に安心して眠れるよう二~三回頭を撫でる。
「有明に頭撫でて貰うの好き~」
「そうか。俺も好きだぞ。俺のこと心配してくれるギガノのこと」
「嬉しいな。初めて有明に好きって言って貰え、た……」
やっと眠ったみたいだな。良かった、良かった。
……しかし、俺が死んじゃう夢か。
ギガノに悪気が無いとはいえ、良い気分じゃないよな。
夢の中の俺はファイターゾフに敗北したらしい。現実の俺が奴に勝てるとか約束は出来ないが、命を落とすような事態になったら道連れにしてでも奴だけは必ず倒そう。
この子が二度とヒーローに命を狙われないようにする為にも。

「さて、出来たぞ。これはギガノも喜ぶだろうな」
俺は少し前から料理の勉強を始めて、レトルトやインスタント、カップ麺の食生活から完全に抜け出した。
そして、ようやく練習の成果が出たのか早起きして作ったオムライスは自画自賛する程の出来で味見してみたが普通に美味い。
……それにしても、今日のギガノはお寝坊さんだなぁ。朝ご飯も用意したし、眠り足りないところ可哀想だが、そろそろ起こしに行ってみるか。
「ギガノ~。朝だぞ。ご飯だぞ。そろそろ起きてくれ」
「…………」
声をかけても中々起きる気配が無い。可愛い頬をつんつんしてみるもそれでも起きる様子は無い。
可笑しいな。いつもは声かけるくらいですぐに起きるのになぁ。
「おーい。朝ご飯だぞ~」
……何か、まるで死んでいるように反応が無いのだが、大丈夫か?
肩を軽く叩いてみても、体を揺すってみても、何をしても起きない。
少しばかり異常に感じた俺は怪獣少女を医者に診せられる訳もなく、仕方なしにギガノ大好きなあの男に連絡を入れてみることにした。

「ギガノちゃんが中々目覚めない?ご飯だって言っても?」
「ああ。あの食いしん坊なギガノがだぞ。信じられるか?」
「何をしても、全く起きる気配が無いんだね?」
「そうだ。まるで死体みたいにな」
「了解。とりあえず今から君達のところへ向かってみることにするよ」
「宜しく頼む」
社長がやって来たのは通話を切ってからすぐ後だった。テレポートして来たのか、玄関から入って来た様子も無く、背後から突然に軽薄な声が聞こえた。
「やあ。光大君、待った~?」
「うわっ!?あんたどっから現れやがった?」
「僕にはテレポーテーションが使えるって知ってる筈だろ。今更驚くことじゃないでしょ」
それはそうだが、いきなり後ろから声をかけられたら誰だって驚くだろ。
「で、本当に何をしても起きないんだね?」
「何回も確認すんな。そんなくだらない嘘何かつくかよ」
釣れない台詞を吐くと、隣でギガノの顔を覗き込んでいた社長が大きな声で叫んだ。
「ギガノちゃーん!大好きな社長が来ましたよー!起きてくださーい!」
気持ちの悪い台詞でギガノを目覚めさせようとするも、やはり反応は無い。
ギガノがこいつのことを大好きかどうかは不明だが。
「……う~む。起きないねぇ……。あっ!」
「どうした?」
何か良策を思いついたような声をあげた社長に、反射的にそう尋ねた。
「僕の口付けで起きるかもしれないよ」
「止めておけ。このロリコン野郎」
「ま、冗談はこの辺にして……、これはちょっとマズイことになったね」
冗談には見えなかったけどなぁ。
鼻息も荒く興奮している姿はいつもの様に本気の感情を抱いているように思えたが。
「光大君。取り乱すことなく落ち込まずに聞いてくれるね」
「何だよ……、いきなり深刻そうな面しやがって」
「これから僕の話す内容は冗談でも嘘でもない。全てが実際に起きていることだ。ギガノちゃんが眠りから覚めなくなった原因はファイターゾフにある。それは間違いないよ」
社長はファイターゾフについて、俺の知らない驚愕な所有能力について語り出した。
どうやら奴の能力は実体を消す能力だけじゃないらしい。
もう一つ、厄介過ぎてこちらが手出し不能な能力を持っていたんだ。
「……それが、他人の夢へ侵入する能力だって言うのか?」
「これは彼の無敵とも呼べる能力……、対象を内側から仕留める能力だね。夢の中の世界で彼に殺されれば本体から魂が抜き取られる。つまり現実世界でも同じ様に死んじゃうんだよ」
「何か方法は?夢の中に入ったゾフを止めることは不可能なのか?」
「夢の中に入った彼を止められる者は存在しないよ。人間は愚か、ヒーローにだって無理だ」
「何だよそれ……、あんたは俺にギガノを諦めろって言うのか?社長はそれでも良いのかよ!ギガノのこと大好きじゃなかったのかっ!」
「大好きだよ!滅茶苦茶大好きさ!でもどうしようも無いんだよ!彼の能力に対処法は存在しない!ギガノちゃんを助けたくても何も手が無いんだよ~っ!!」
急に号泣し叫び出した社長からはいつも以上のギガノ愛が確かに感じ取れた。
まるで眠り姫のように目覚めない少女の前に、しゃがみ込んで泣きじゃくる社長のところへ一通の着信が入った。
「……出ないのか?ケータイ鳴ってるぞ」
「あい……、もじもじ……」
社長は黙って電話相手の話をじっと聞いていた。泣いていて上手く喋れないのかもしれない。
通話が終わると社長は涙を上着の袖で拭う。
その後、俺の方に視線を向けてこう伝える。
「スカイちゃんからだった。ジャッチと二人で街に現れたタロットとエースの二名と戦闘中らしい。僕にも力を貸して欲しいんだってさ。苦戦してるみたいだ。ちょっと行って来るね」
「助けが必要何だろ。俺も行くよ」
「認めたくは無いけど、その子が一番好きなのは僕じゃない。間違いなく君だった。だから君は来ないで良い。此処に残ってギガノちゃんの傍にいてあげてくれ。最後は好きな相手の近くで死なせてあげたいからね」
「そんな諦めたような弱音吐くんじゃねぇよ。まだ助からないと決まった訳じゃないだろ」
社長からは何も返答は無い。
眠っているギガノから寂しげな視線を逸らすと、テレポーテーションを使ってスカイ達の救援に向かった。





















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