未成年囚人達のソーシャルサービス

SAKAHAKU

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第八十一話(奉仕作業。交通量調査)

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極寒に支配された十二月の冬。
配布されたパイプ椅子に腰かけて、様々な種類の車が往来する安寧な風景を眺めながら『数取器』という道具をカチカチ鳴らすのが今回の俺達の仕事である。
二人ずつのペアを作って二時間ごとに一時間休憩の交代制。
先行に俺と万。後行にテイルとツクネ。このような珍しい組み合わせだ。

(ずっと座っていられるから今回は楽だな……)

ーーとか、軽い気持ちで臨んだ仕事だったのだが、実状はそんなに甘くは無かった。

以前に人気のバイトとか小耳に挟んで期待していたが、始まってみりゃ糠喜び感が半端じゃない。
こんな仕事は春とか秋とか、暑くも寒くも無い過ごしやすい季節にやるべきだ。
真冬のクソ寒い路上でやるような作業じゃない。
それでも、夏じゃないだけまだ恵まれているのかもしれないが……、

「野良犬かな。首輪付けてないね」

律儀に横断歩道を渡り、蹣跚と歩み寄ってきたフレンチブルドッグが、万の膝を贅沢に占領し惰眠を貪っている。
地味な作業を長々と続ける俺達の許には、これまで様々な客人が訪れては去って訪れては去ってを繰り返した。
学校へ登校中の小学生の集団が挙って冷やかしに来たり、老後で暇を持て余した散歩中のジジイの世間話に付き合わされたり。正に入れ替わり立ち替わりにだ。
万は彼等を上手に遇いながらも、数取器を器用に片手で操作していた。
一方、数取器を子供に分捕られた俺はと言うと、包み隠さず打ち明けるが、すでに何台か数え損ねている。恥ずかしながら取り返すのに多少時間が掛かってしまった。

「かもしれないな。あるいは、動物園でライオンの餌として飼われている犬が此処まで逃げ出して来たとか」

小学生の頃に動物園で犬がタダで貰えるという情報を耳にして、喜んで足を運んだあの日が懐かしい。
俺が抱えて帰った余り物の雑種犬は、長い間引き取り手が現れず、近々ライオンの餌になる予定だったらしい。

「飼い犬にしろ野良犬にしても、どっちにしたって俺達囚人には飼える筈もないが……」

白と黒が一緒くたになったような、牛みたいなカラーリングが特徴と言えば特徴か。

「まあ、そうだよね……塀の中でペットでも飼えたら、少しは気持ちも明るくなれそうなものなのに」

「塀の中でペットか。……そりゃまた、金の掛かりそうな趣味だな」

「はは。日影の言う通りだね。僕達みたいな身分じゃ確かにそうだ」

ちっぽけな作業報奨金しか支給されていない俺達には、毎日欠かせないペットフードを買い与えてやることすら困難だろう。
餌を買ってやる金が無いなら、自分達に支給されている微々たる食事を分け与えてやるしか手段がない。
無論、飼える訳がないのだが。

「そいつ膝に乗っけたままじゃ遣り難いだろ。俺が代わってやろうか?」

「ワン!」

「うおっ!?」

「グルルルルッ……」

そんな悪意の欠片もない提言をした瞬間、吠えられてあからさまな敵意を向けられた。
万の膝の上を我が物顔で陣取る犬っころは『男のむさ苦しい胸に抱かれるなど俺様のプライドが許さねぇ……』そんな凶相で俺を睨んでいる。

「こらこら。日影は頑丈な僕とは違ってひ弱な身体してるんだから、噛み付いちゃ駄目だよ」

「クゥーン…………」

万に窘められたワンコロは、耳を垂れさせて分かり易く落ち込んだ。

(ひ弱とは失礼な……)

と思ったが、本当のことなので何も言い返せず。
この犬はおそらく女性限定でお触りを許容する。嫌いな男性相手には徹底して牙を剥き、気に入った女性相手にはとことんへつらうのだ。
動物と会話可能なテイルに聞いてみりゃ、こいつの詳細な気持ちを知れるだろう。

ーー案の定、俺の予測は的中した。

二時間が経過し、やっとこ交代の時間。
テイルとツクネが二人して、食い付くように万が抱える犬を眺めている。

「この犬、なんつうか……太々しい顔してんな。すげぇ生意気そうだし愛想ってもんが僅かにも感じ取れねぇ」

「無愛想な一面に関しては、ツクネも負けず劣らずって感じだけどね。というか、圧倒的に酷い。尊大で傲慢な誰かさんと違って、この子の方がよっぽど可愛げがあるよ」

ツクネは万の辛口なコメントを歯牙にも掛けない様子で肩を竦める。

「ツクネちゃんが犬以下とか冗談だろ?」

それだけ言うと、万から数取機を奪い取ってパイプ椅子に踏ん反り返った。

「あなたのお名前を教えて」

「ワン」

「……へっ?もっかい言って」

「ワワン!」

「『中島・ジョセフィーヌ・ゴンゾウ』ってゆうの?」

テイルの問いかけに対して、クソ犬がつまらない冗談をかました。
というか、ほぼ『ワン』としか発声していないにも関わらず、よくそんなハーフ風で長ったらしい名前が名乗れたな。

「変な名前」

テイルが率直な本音を漏らす。
そのまま怪訝そうな表情で、中島(略)に視線を向けていると、

「ワワン、ワン、ワン」

「『飼い主がふざけて付けた名前』だって」

「なるほど。それじゃ、中島何ちゃらってポンコツな名前はでたらめじゃない訳だ」

「野良犬じゃなくて飼い犬だったんだね。お家は何処にあるのかな?僕達は作業中で送ってあげられないんだけど、一人で帰れる?」

これから俺と万は休憩時間に入らせて貰うが、『片手錠』が桎梏となる以上、勝手な行動は取れない。
万の発言にはそんな意味が含まれている。親切の末に手首が切断されちゃ元も子もない。

「ワン、ワン」

「『家ならすぐそこだから問題ない』って」

「そっか。ならひとまず安心だな。問題も無事解決したし、そろそろ休憩に行くか」

万に声を掛けるも、膝に鎮座している中島(略)が邪魔をして彼女を大いに困らせている。
テイルの情報によれば昼ご飯用の幕の内弁当が用意されているようで、犬同伴で昼飯とか食い辛いし鬱陶しいだけだろう。

「万は休憩に行かなきゃだから、君はテイルと一緒にお留守番しよ」

そう言って中島の体をテイルが抱え上げようとするも、抵抗して万の胸にしがみつき離れようとしない。
中島は何事かを『ワン、ワン』と吠えて訴えかけているが、俺には何を言っているのか解読できない。

「『こんな子供に抱えられる何て最高に屈辱だぜ』って……そんな我儘言われても」

「ワン、ワンワン」

「『このねーちゃんの蠱惑的な体に永遠に抱かれていたい』ってゆってる。テイルみたいな餓鬼はタイプじゃないんだって。そんなことゆってるけど、中島は今何歳なの?」

「ワワン、ワン」

「10歳?それならテイルより歳下。中島の方が餓鬼になっちゃうよ」

「確か、犬の10歳って言ったら還暦間近じゃなかったかな?」

その情報を耳にしたテイルは、きょとん顔で「還暦って何?」と、万へ尋ねる。

「人間でいうところの60歳だよ。つまり、この中島君はお爺ちゃん犬ってことになるね」

「中島ってお爺ちゃんだったの?」

テイルが中島にそう問いかけると「ワン」と一度吠えて、恐らく、肯定の合図。

…………と、思いきや、

質問と返答を巧みに通訳する少女の口からとんでもないフレーズが飛び出した。

「ワシの好みのタイプは年上だ。……えっと、そーせーじ…………?そーせーじって何のこと?お前の様な子供相手には、ピクリとも反応しない……?」

……完全なる下ネタだった。

「『そーせーじ』って、もしかしてこじんまりしたソレのこと?」

数瞬の内にそれが比喩である事実に勘付いたテイルは、中島のある部分を指差して、更に衝撃のセリフを告げる。

「日影の『ロケット』の方が中島より立派だった」

見るからにふざけているのが伝わってくるその一言は、中島に「子供」と揶揄された仕返しだったのだろうが、そこで俺を引き合いに出す意味が理解出来なかった。

「ロケットは言い過ぎじゃないかな。僕の見立てだと大体、ペットボトル500mlくらいの大きさだったと思うよ」

「おい、止めろ。卑猥な話を冷静な顔で語るな。男の股間を物で例えるとか、女の子がすることじゃねぇ」
 
それに俺のはそんなにデカくない。ロケットとか脚色し過ぎだし、測ったこと何て無いから正確な大きさはわからないが、一般かそれ以下なのは確かだ。

「お前等は馬鹿か?日影のアレはそんなデカくねぇだろ。贔屓目に見てもボールペン、いや…………「リップクリーム」が妥当なところだぞ」

満を待して下品な比喩合戦に割り込んできたツクネが「あたしの例えが一番的を射てただろ」と誇らしげな表情で俺を嘲笑する。

「リップクリームとか、格段にレベル下げやがったな………」

「ほら、ツクネちゃんって正直者の典型って感じだろ?お世辞言うとか無理だわ」

内心、殴ってやりたい気持ちで俺の脳内は満たされていたが、こいつの言葉は一寸の狂いもないように感じて、グッと沸き上がる怒りを堪えた。
























































































































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