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大阪駿馬が俺の後ろにあるドアを指差した。
「入っていい?」
「…………」
大阪駿馬はサングラスで目が見えなくても、帽子を目深に被っていても、紛れもなく大阪駿馬だった。さっきテレビで見ていた黒尽くめの姿そのままで、そこに立っていた。
後退りつつ事務所のドアを開け、中に入ると、大阪も付いてきた。
ソファで暇そうにテレビを見ていた北海道さんが俺に気が付いて眉根を寄せたが、後ろにいる大阪を見た途端、見たこともないほど顔をしかめてからすぐに満面の笑顔になった。
「大阪くん!」
「北海道さん!」
二人はがっつりと抱き合った。
「…………」
「寂しかったよ、急に辞めちゃったから」
「うん。ごめんね」
背の高い大阪が胸に北海道さんを抱きしめながら頭を撫でた。
……随分仲が良さそうだ。
北海道さんが大阪に自分の向かいのソファに座るようにすすめたため、俺は北海道さんの隣に座った。
「それで今日は何しに来たの?」
大阪は事務所の中をキョロキョロ見回しつつ、ソファに座り、サングラスを外した。
「依頼をしに来たんだ」
「依頼?」
「最近探偵もどきが警備員のふりをして俺の近くに紛れ込んだりしてるから捕まえてもらおうと思って」
「…………」
固まってしまった北海道さんをサングラスをかけ直した大阪が笑った。
「冗談だよ」
大阪駿馬という人間は、見た目はアイドルのままでも、性格はそのままというわけにはいかなさそうだった。
「実は最近俺に薬物の噂を流している人間がいて、そいつを捕まえて欲しくて来たんだ」
北海道さんが首を傾げた。
「薬物?」
「あんたは何度か俺といて俺が薬をやっていないのを知っているだろう?」
「まぁ」
北海道さんは言葉を濁した。いつになく慎重な北海道さんだ。
「このままだと俺はありもしないスキャンダルで今の仕事ができなくなる。それだけは困るんだ」
「事務所はなんて?」
「事務所の人間は噂の方を信じている。まぁ、俺は信用ないからな」
「…………」
北海道さんが困った顔で俺を見た。いつもなら飛び付きそうな依頼なのに、やりたくなさそうだ。
「これ」
そう言って大阪は、上着の中から分厚い封筒を出してテーブルに置いた。
「前金」
「…………」
思わず笑みが出てしまった。大阪は北海道さんのことをよく知らないようだ。北海道さんは金では動かない。面白そうな依頼かどうかが全てなんだ。
「犯人の目星は付いてるんですか?」
俺がそう聞くと、大阪はようやく俺を見た。
「あんた誰?」
「助手です」
「……ふーん」
大阪はソファの背もたれに腕を乗せて足を組みながら、俺の全身を眺めてから言った。
「元マネージャー。事務所の人間はみんな俺よりこいつのことを信じてるんだ」
「居場所は?」
「分からない。でも俺の近くにいると思う。捕まえてくれたら倍払う。どうする?」
大阪はもう一度北海道さんを見たが、北海道さんは大阪に見られないように顰めっ面で俺を見た。
「まさか金に目が眩んだわけじゃないよね?」
「違いますよ」
一応見送りに出たが、大阪駿馬は迎えの車が呼ぶこともなく、夜に溶けるように一人で歩いて帰って行った。
「あいつは北海道さんの怪我を見ても何も反応しなかったんですよ? おかしいと思いません?」
「たしかにね」
「それに今度こそあいつが薬物を使用している証拠が掴めるかもしれませんし」
「君はあいつの性格を知らないからそんなこと言えるんだよ」
北海道さんが怪我をしていない右手で顔を覆った。
「あいつは電車とプラレールと酒しか信じない面倒くさい奴なんだよ……」
「それにしては仲良さそうでしたね」
「仕事だからね! 僕だってたまには嫌な仕事もするって言っただろ?」
「大丈夫ですよ。俺と千葉でやりますから、北海道さんはメリーちゃんの散歩に行ってくださいね」
そう言って北海道さんの頭を撫でると、睨まれてしまった。
「…………」
頭を撫でたついでに顔を近付けると、北海道さんに顎を引かれてしまった。
「……君の頭にはそれしかないの?」
「ないです」
「…………」
北海道さんを目の前にして目を見てしまったらそれしかなくなってしまった。我慢なんてできるわけない。もうそんな段階はとっくに過ぎている。
「キスしてもいいですか?」
「…………」
顔を近付けると、北海道さんは今度は逃げなかった。
「僕は君を好きにはならないよ?」
「…………」
キスをしながら抱き締め、舌を入れても、北海道さんは抵抗しなかった。
「入っていい?」
「…………」
大阪駿馬はサングラスで目が見えなくても、帽子を目深に被っていても、紛れもなく大阪駿馬だった。さっきテレビで見ていた黒尽くめの姿そのままで、そこに立っていた。
後退りつつ事務所のドアを開け、中に入ると、大阪も付いてきた。
ソファで暇そうにテレビを見ていた北海道さんが俺に気が付いて眉根を寄せたが、後ろにいる大阪を見た途端、見たこともないほど顔をしかめてからすぐに満面の笑顔になった。
「大阪くん!」
「北海道さん!」
二人はがっつりと抱き合った。
「…………」
「寂しかったよ、急に辞めちゃったから」
「うん。ごめんね」
背の高い大阪が胸に北海道さんを抱きしめながら頭を撫でた。
……随分仲が良さそうだ。
北海道さんが大阪に自分の向かいのソファに座るようにすすめたため、俺は北海道さんの隣に座った。
「それで今日は何しに来たの?」
大阪は事務所の中をキョロキョロ見回しつつ、ソファに座り、サングラスを外した。
「依頼をしに来たんだ」
「依頼?」
「最近探偵もどきが警備員のふりをして俺の近くに紛れ込んだりしてるから捕まえてもらおうと思って」
「…………」
固まってしまった北海道さんをサングラスをかけ直した大阪が笑った。
「冗談だよ」
大阪駿馬という人間は、見た目はアイドルのままでも、性格はそのままというわけにはいかなさそうだった。
「実は最近俺に薬物の噂を流している人間がいて、そいつを捕まえて欲しくて来たんだ」
北海道さんが首を傾げた。
「薬物?」
「あんたは何度か俺といて俺が薬をやっていないのを知っているだろう?」
「まぁ」
北海道さんは言葉を濁した。いつになく慎重な北海道さんだ。
「このままだと俺はありもしないスキャンダルで今の仕事ができなくなる。それだけは困るんだ」
「事務所はなんて?」
「事務所の人間は噂の方を信じている。まぁ、俺は信用ないからな」
「…………」
北海道さんが困った顔で俺を見た。いつもなら飛び付きそうな依頼なのに、やりたくなさそうだ。
「これ」
そう言って大阪は、上着の中から分厚い封筒を出してテーブルに置いた。
「前金」
「…………」
思わず笑みが出てしまった。大阪は北海道さんのことをよく知らないようだ。北海道さんは金では動かない。面白そうな依頼かどうかが全てなんだ。
「犯人の目星は付いてるんですか?」
俺がそう聞くと、大阪はようやく俺を見た。
「あんた誰?」
「助手です」
「……ふーん」
大阪はソファの背もたれに腕を乗せて足を組みながら、俺の全身を眺めてから言った。
「元マネージャー。事務所の人間はみんな俺よりこいつのことを信じてるんだ」
「居場所は?」
「分からない。でも俺の近くにいると思う。捕まえてくれたら倍払う。どうする?」
大阪はもう一度北海道さんを見たが、北海道さんは大阪に見られないように顰めっ面で俺を見た。
「まさか金に目が眩んだわけじゃないよね?」
「違いますよ」
一応見送りに出たが、大阪駿馬は迎えの車が呼ぶこともなく、夜に溶けるように一人で歩いて帰って行った。
「あいつは北海道さんの怪我を見ても何も反応しなかったんですよ? おかしいと思いません?」
「たしかにね」
「それに今度こそあいつが薬物を使用している証拠が掴めるかもしれませんし」
「君はあいつの性格を知らないからそんなこと言えるんだよ」
北海道さんが怪我をしていない右手で顔を覆った。
「あいつは電車とプラレールと酒しか信じない面倒くさい奴なんだよ……」
「それにしては仲良さそうでしたね」
「仕事だからね! 僕だってたまには嫌な仕事もするって言っただろ?」
「大丈夫ですよ。俺と千葉でやりますから、北海道さんはメリーちゃんの散歩に行ってくださいね」
そう言って北海道さんの頭を撫でると、睨まれてしまった。
「…………」
頭を撫でたついでに顔を近付けると、北海道さんに顎を引かれてしまった。
「……君の頭にはそれしかないの?」
「ないです」
「…………」
北海道さんを目の前にして目を見てしまったらそれしかなくなってしまった。我慢なんてできるわけない。もうそんな段階はとっくに過ぎている。
「キスしてもいいですか?」
「…………」
顔を近付けると、北海道さんは今度は逃げなかった。
「僕は君を好きにはならないよ?」
「…………」
キスをしながら抱き締め、舌を入れても、北海道さんは抵抗しなかった。
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