聖・黒薔薇学園

能登

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I

XXIII

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なんて、西園寺は言っていたが

「その如月にも最近会わないんだもんなぁ。部屋も分かんないし...。」

夜間授業に出席しているであろう月城の部屋に来て、いないと分かっているにも関わらず再びドアをノックする。

「いない...よな。」

「よぉ、黒須。綾斗に用事?」

「っ...!ど、百目鬼!」

背後から突然声を掛けられ、軽く飛び跳ねた四季を見て百目鬼は笑う。

「綾斗なら夜間授業に出席してるよ。
俺は忘れ物を取りに来たんだけど、何か伝言があるなら伝えようか?」

「あ、いや...大丈夫。
最近顔見れてなくて心配だったから...、体調面とか...。」

苦笑を交えつつ、早くこの場から立ち去ろうと足を前に出した。

ニコリと笑う百目鬼の不穏な表情に、背筋が嫌な汗をかく。


「........黒須って心配性なんだ。」

「別にそう言う訳じゃ...あっ...!」

途端に手首を捕まれ月城の部屋の扉に体を押し付けられた。
力が強くて跳ね除けることが出来ない。

ギラリと光った銀の瞳は、夜間授業の時に見た...血に飢えたヴァンパイアと同じ。


「ど、...めき...?」

「...喋るな。」

子猫をあやすような、小さな掠れた声。
冷たい手から伝わる彼の鼓動は、驚くほどに静かで...まるで動いていないようだった。


「......お前だろ、綾斗に血やってんの...。」

「!」

「ダメだなぁ...。
こんな質の悪い血を吸うあいつも...、あいつを甘やかして血を吸わせちゃうお前も。」

四季の太ももの間に割り込む百目鬼の膝が、逃げ場を無くす。

ひんやりとした空気が頬を撫で、ぶるりと体を震わせると百目鬼の手が四季の前髪を鷲掴んだ。

「痛、っ...!」

「俺の方が顔もいいし、匂いもいいのになぁ...。
こんな人間の何処がいいんだ?体も細いだけで魅力無いし...抱き心地も頭も悪そう。

趣味悪いな、あいつ。」

人間を見下ろす百目鬼の目は肉食獣そのもので、恐怖を前にした四季の体は思うように動かない。
声も喉をつっかえてしまい、か細い吐息と喘ぎにも似たような声が漏れるだけだった。

「黒須はさ、綾斗のことどう思ってる?
憧れの存在?顔がいいから近くで見ていたい?

まさか、好きなんて言わないよな...?」

にこやかな表情を浮かべているにも関わらず目は一切笑っていないのが、余計に四季の恐怖心を煽る。
感じたことのない威圧感と緊張感に心臓が口から飛び出てしまいそうだ。


(この状況...、かなりマズイ...。)


「この学園では平等として見られているが、立場としては純血のヴァンパイアが一番上、そこからかなり間が空いてダンピール。
最下層がお前ら人間。
傷の治りは遅いし、身体能力もない、容姿も特別整っている訳じゃない、しかも寿命が短くて老いるのも早い。
若いのなんてほんの一瞬。

お前みたいな劣等種である人間が、綾斗に釣り合うわけがない!」


四季のこめかみが微かに音を立てた。


「最近、綾斗がお前の前に姿を現さない理由を教えてやろうか。」

「...は...?」

「一人の人間から血を吸いすぎると、そいつの寿命が短くなるって伝えておいたんだ。

どの本にもそんなことは書いてないって焦ってたけど、やっぱり善人の血を吸うことに罪悪感があるみたいだな。
お前に会わないようにして、頭を冷やしてるらしい。

人間なんていくらでも血を生成出来るんだから、少し吸われたぐらいで寿命が縮まるわけないのに。
冷静に物事を考えられないくらい、お前のことを大切にしてるのが尚更ムカつくわ。」


握られていた前髪から手が離れると、パラパラと数本の抜け毛が床へ向かって舞う。

「ま、言いたいことは言ったし...理解したなら自分の小屋に戻りな。
俺らに搾取されて呆気なく死んでいくの黒須 四季くん?」







「...うるせーな...。
人間のお陰で生きれてる分際で何偉そうに語ってんだよ。

食物連鎖では俺ら人間のが上だぞ!」

「あ...?どこがだよ。」

「人間はありえないようなものを食うだろ!
サンショウウオとか、ダイオウグソクムシとか。」

「知らんが。」

「とにかく!
ヴァンパイアは俺ら人間に見付かってないだけなんだよ...。
人間の食へのこだわりは凄いぞ...余すことなく使えるところは全部使う。

ヴァンパイアが美味いと分かったら、絶滅危惧種認定も時間の問題だ!」

「...。」

「あ、傷の治りが早いなら無限にヴァンパイアの肉を生成出来るんじゃね...?
無限に生成出来るということは、お金儲けも出来る...ってこと?

百目鬼、ちょっと試させてよ。」

身震いをした百目鬼は、咄嗟に四季から離れる。

「...あ、悪魔だ。
綾斗に報告しなければ...、こんなサイコパスが身近にいたら命が危ないって...。」

慌てて逃げようとする百目鬼の腕を、今度はこちらがガッチリと掴む。

「月城によろしく伝えて。」

「っ、家畜の分際で俺に触んじゃねェ!
お前、いつか絶対に始末してやっからな…!」
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