鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第九章

第147話 鉱夫への依頼

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 続いて俺たちはラバウトの鍛冶師、クリス・ワイアの元へ向かった。
 クリスは、開発機関シグ・ナインのウグマ支部長ウォルター・ワイヤの双子の弟だ。

「さっきセレナが言っていたクリスに弟子入りした女の子って、絶対シーラのことだよね」
「ふふふ、変わらず元気そうじゃない」

 クリスの工房には、ウォルターの娘であるシーラが弟子入りしているはずだ。
 ラバウトの高級商業地にあるクリスの店へ入る。

「いらっしゃま……。ア、アル?」
「シーラ! 久しぶり!」

 シーラが店番をしていた。

「ふふふ。シーラ元気だった?」
「レイまで! なに? どうしたの?」
「あなたの父、ウォルターに様子を見て来てって頼まれたのよ」
「親父が!」
「ええ、心配してたわよ?」
「約束通り月に一回手紙書いてるっていうのに。もう」

 そう言いながら、シーラは店の奥へ入る。

「クリスおじさん。じゃない、師匠! アルが来ましたよ!」
「アルだと? どこのアルだ? 俺が知ってるアルは一人しかいないぞ?」

 クリスと目が合った。

「ア、アルじゃないか! どうしたんだ! 久しぶりだな!」
「ああ、ちょっと用事があってラバウトへ寄ったんだ」
「レイ様まで!」
「ふふふ、久しぶりね。クリス」

 レイは騎士団一番隊隊長の頃にクリスと会っている。
 当時のレイは責任者としてもっとキツい印象だったが、今は言葉使いや顔つきも柔らかい。

 俺たちは当時を懐かしんだ。
 そして、クリスに作ってもらった片刃の大剣ファラゴンが使えなくなってしまったことを謝罪。

「その話は兄貴から聞いている。気にするな。しょせん道具だ。むしろ、ネームド二頭相手によく戦ったと褒めてやりたいぞ。ガハハハ」
「戦って分かったけど、片刃の大剣ファラゴンは本当に凄い剣だったよ」
「ありがとうよ。それよりもアル。その剣を見せてくれ」

 俺はクリスに黒爪の剣レリクスを鞘ごと渡した。
 レイも星爪の剣ライックを渡す。

「凄いな。さすが神の金槌シャイオンのローザが打った剣だ」
「これがローザさんの剣! こ、こんなの人間が作れるの?」

 クリスは感嘆の声を上げ、シーラは驚愕の声を上げていた。

「クリスもローザのことは知ってるの?」
「もちろんだ。世界最高の鍛冶師だぞ。神の金槌シャイオンはその時代に一人しかいない。だから、神の金槌シャイオンの称号を授かることは、その時代でナンバーワンの鍛冶師ということになる」
「そうだったんだ。ローザがそんなに凄い鍛冶師だとは。ただの可愛い女の子じゃなかったんだ」
「ガハハハ。そうだ、本当に凄い人だぞ。兄貴の上司でもあるしな。確か冒険者としてもBランクまで上り詰めてるはずだ。鍛冶師の間では有名だぞ」
「こ、今度会ったらお礼しなきゃ。なんか俺の専属鍛治師になってくれるって言ってたし」
「何だって! アルの専属鍛冶師だと? そりゃ凄いな。局長になってから剣を打つことはめっきり減ったらしいが、腕は今も健在だ。ローザ嬢に剣を打ってもらいたい剣士は世界中にいるんだぞ」

 話しながらも黒爪の剣レリクス星爪の剣ライックを見つめるクリス。
 シーラも手にとって眺めている。
 そこでクリスがふと思い出したような表情を浮かべた。

「そうだ、アル。お前いつまで滞在するんだ?」
「えーと、明後日の昼までかな」
「短いな。家には帰るのか?」
「ああ、明日の早朝に出発するよ」
「そうか……。なあ一つ頼まれてくれないか?」
「何を?」
「希少鉱石を採ってきて欲しいんだ」
「希少鉱石を?」
「そうだ。アルが冒険者になってから、フラル山の希少鉱石を採掘できる人間がいなくなった。今はよその街から購入してるが、品質が落ちるんだよ。今ちょうど貴族から剣の注文を受けていてな。可能であれば竜石と緑鉱石を採ってきて欲しい」

 クリスの依頼は受けたいが、スケジュール的に厳しいかもしれない。

「うーん、ラバウト滞在は明後日までだから、明日登って採掘して翌日下山は厳しいかな」
「ねえアル。少しくらい伸ばしても良いんじゃないかしら? シドに説明するわよ?」
「そうか。そうだね。じゃあそうしよう」

 俺は依頼を受けることにした。

「アルやってくれるか!」
「ああ。久しぶりにフラル山で採掘してみたいしね」
「ありがとう! レイ様もありがとうございます!」
「ふふふ、いいのよ。この街にはアルがお世話になったもの。恩返しなきゃね」

 レイが優しい笑顔で笑っている。
 俺はクリスの依頼を受け、剣一本分の竜石と緑鉱石の採掘を受けた。
 報酬は採掘の分量を見て支払ってくれるそうだ。

 話がまとまったので、クリスの店を出て宿へ戻る。
 高級商業地にあるクリスの店と、今回宿泊する宿は近い。
 俺たちは美しく整備された街道を歩く。

「ねえレイ。これは直請けクエストになるのかな?」
「大丈夫よ。冒険者とは関係ない話だもの。もちろんギルドにも採掘のクエストはあるけどね。今度採掘クエストもやってみたら?」
「アハハ、そうだね。落ち着いたら色んなクエストをやってみるよ。でも、やらせてもらえるかな……」

 俺はSランクになったことで、全てのクエストが受注可能だ。
 だが、簡単なクエストは許可してもらえないのだった。

 宿に戻り、シドたちと宿のレストランで夕食を取る。

「シド。俺は明日の早朝から山に登る。あと、採掘の依頼を受けたから丸一日採掘もする。順調に行けば明々後日の昼頃に帰ってくるよ」
「ふむ。分かった。別にもう数日くらい伸びでも構わんぞ。無理せずゆっくりして来るがいい。レイはどうするのだ?」
「私もアルと一緒に行くわ。ご両親へご挨拶もしたいし、今ならアルのペースにもついて行けると思う」
「そうか。……いよいよレイも人外の道へ進むのか」
「ちょっと! 失礼ね!」

 実は俺もシドと同じ事を考えていたが、声に出さなくて良かった。
 話がまとまったところで、オルフェリアがシドの顔を見つめている。

「シド。アルとレイが実家に帰ってる間、部屋を分けるのはもったいないです。私とシドで一緒の部屋にしましょう」
「むっ、私はいいがオルフェリアはいいのか?」
「ええ。高級宿でベッドルームは二つあります。それに寝台荷車キャラバンでいつも一緒ですから、今さら気にしませんよ」
「うむ、そうだな。ではそうしよう」

 オルフェリアの一言で部屋の組み合わせが決定。
 早朝に出発する俺とレイが一緒の部屋だ。

 翌日早朝、俺とレイは宿をチェックアウト。
 エルウッドを含め、この三人で登山を開始した。
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