鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十章

第161話 緊急手術

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「オルフェリア! オルフェリア大丈夫!」
「うぐぅ、うぐぅぅぅ」
「見せて!」

 アルが私たちを庇ってくれたおかげで、火球の直撃は避けることができた。
 だけどオルフェリアは唸り声を上げている。

 どうやら、オルフェリアに溶岩の破片が当たってしまったようだ。
 腹部を手で押えているオルフェリア。
 その手は血だらけだ。

「うぐぅぅぅ」

 破片は拳よりも一回り小さいが、運悪く尖っていたことで、オルフェリアの下腹部に刺さっていた。

「オルフェリア! しっかり! 大丈夫よ! 頑張って!」
「ふうう、ふうう」
「オルフェリア! 息を吸って! 吸って!」
「きゃああああああ!」

 私はすぐに破片を除去した。
 しかし、腹部が焦げて穴が空いている。
 出血もかなりの量だ。

「うううう」
「オルフェリア! 大丈夫よ!」

 オルフェリアの意識はあるようだ。
 だからこそ激痛だろう。

 私は辺りを見渡し、騎士団の救護キットを探した。
 災害などが発生すると、いつでも怪我人の救護ができるよう街中に配置している。
 近くにあった救護キットで応急処置を行う。

「レイ!」

 シドが走ってきた。

「シド! オルフェリアが怪我を!」
「分かった! 見せろ!」

 シドがオルフェリアの傷口を見る。

「レイ、湯を沸かせ!」
「分かったわ!」
「熱湯を使う! それと沸かした湯を体温ほどに冷まして塩を入れろ!」
「はい!」

 救護キットから緊急手術用パックを取り出し、すぐに湯を沸かした。
 オルフェリアの腹部は血で真っ赤になっている。
 だが、オルフェリアの意識がある状態で、ネガティブな発言は絶対にしない。
 心の持ちようで容態は変わる。
 それはシドも分かっているはずだ。

「オルフェリア、君は世界でナンバーワンの解体師だ! だからこそ、毒耐性の高い君に麻酔は効かない! これは誇らしいことだぞ!」
「わ、分かって……ます……フフ」
「そうだ! その調子だ! 今からここで手術をする!」
「はい……ぐうう……。わ、私は……皆と……生きるのです……旅を続……うっ……のです」
「そうだ! いいぞ! その調子だ!」

 シドが必死になってオルフェリアに声をかけている。

「シド! 熱湯と冷ました塩水よ!」

 シドは躊躇なく熱湯に自分の手を入れた。

「クッ!」

 シドの手が真っ赤になった。
 自身の手を煮沸消毒したのだ。

「オルフェリア! 傷口を洗う! 激痛だ! だが生きてる証拠だ! 頑張れ!」
「きゃああああああああああ!」

 シドは傷口に塩水をかけた。
 傷口の洗浄だ。
 数回に分けて傷口に塩水をかける。
 そして傷口を凝視。

「オルフェリア喜べ! 内臓に傷はない! 全く問題ないぞ!」
「あ、ありが……ぐっ……ござ……ます」
「オルフェリア! 今から傷口を縫う! タオルを噛め!」

 シドが私の顔を見る。

「レイ! タオルだ!」
「はい!」

 私はオルフェリアの口にタオルを入れる。
 時間との勝負なのだろう。
 凄まじいスピードで傷口を消毒し、縫合に入った。

「ぐうううううううう!」
「オルフェリア! 頑張れ! レイ! 足を抑えろ!」
「はい!」

 オルフェリアが暴れる。
 想像を絶する激痛が走っているのだろう。

「ぐうううううううううう!」
「頑張れ! もう少しだ!」

 私はオルフェリアの身体を押さえつけながら、シドの縫合を見ていた。
 私も戦場で応急処置はしてきたし、医師の緊急手術に何度も立ち会っている。
 それこそ雨の中や泥の中でも手術を行う。
 シドはその誰よりも速く、最も清潔で、恐ろしく正確に処置していた。
 服飾のほつれを縫うよりも速く縫合していく。
 人間の身体を知り尽くしているのだろう。
 拷問され続けたシドだから……。

「よし! 縫合は終わりだ! オルフェリア! よく頑張ったな! もう大丈夫だ!」
「ぐふううう、ふう、ふう、ふう」

 救護隊の騎士を呼び、オルフェリアを最も近い救護施設のベッドへ運んだ。
 私はその間ずっとオルフェリアの手を握り励ます。

「オルフェリア、あなたは本当に凄いわ。よく頑張ったわね。もう大丈夫よ。安心して」

 オルフェリアは苦痛と涙で顔を歪ませていた。
 それでも私を安心させるつもりで、笑顔を見せようとしている。
 本当に強くて優しい女性だ。

 ベッドに寝かせ、シドが傷口を消毒し包帯を巻く。
 そして、鎮痛、解熱、睡眠効果のある薬草を煎じて飲ませた。
 オルフェリアには効かないと思うが、ないよりはましだろう。
 
 私とシドは廊下に出た。
 オルフェリアに会話を聞かれないためだ。
 もちろん、その間もオルフェリアから視線を外さない。

「オルフェリアの内臓に傷があった。内臓も縫っている」
「見ていたわ」
「何より出血が心配だ。今夜が峠だろう。はっきり言って……助かる見込みは三割程度だ」
「……分かったわ」
「くそっ! 私だったら何も問題なかったのに! 代わってやりたい! くそっ!」

 シドが壁に拳を叩きつける。
 その手から血が流れていた。

「シド! オルフェリアは大丈夫よ。あなたの手術は本当に素晴らしいものだったもの。安心して」

 私はシドの手を取り、頭を胸に抱きかかえた。

「シド、オルフェリアは大丈夫よ。大丈夫。安心して」

 シドの様子が落ち着いたようだ。
 一旦離れると、シドが私の瞳を見つめてきた。

「……ふうう。君の言葉は安心感があるな。すまない。ありがとう。みっともない姿を見せたな」
「いいのよ。愛する人の危機だもの」
「気付いていたか?」
「ええ、まさかあなたがオルフェリアを好きになるとはね」
「ああ、二千年生きてきて最も惹かれた女性だ。何としてもオルフェリアを助けたい」
「できることは全てやりましょう。オルフェリアは私たちの大切な仲間よ」
「ありがとう、レイ」

 シドが少しはにかんだ顔をしている。

「さあ、病室へ戻りましょう」

 病室へ戻ろうとすると、リマが走ってきた。

「レイ! ここにいたのか! アル君が! アル君が!」
「アルが?」

 体力のあるリマの息が切れている。
 全速力で来たのだろう。

「レイ! ここは任せろ! 行ってこい!」
「リマ! 案内して!」

 私はリマと走った。
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