鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十六章

第268話 幹部会議

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 翌日、朝から事務所に集合。
 俺、レイ、シド、オルフェリア、ユリア、ローザ、ジョージ、リマ、トーマス兄弟のマルコとアガスだ。
 トーマス兄弟が作った立派な一枚板の円卓を十人で囲む。

 メイドのエルザとマリンが来てくれて、それぞれに珈琲や紅茶を淹れてくれた。
 もうすでにここにいる全員の好みを細かく把握しているとのこと。
 さすがの二人だ。

 落ち着いたところで、シドが立ち上がり全員を見渡す。

「さて、アルとレイが帰還した。これから本格的に建国へ向けて動く。イーセ王国はレイのおかげで承認してもらえる。帝国も私の繋がりで承認の約束を得た。残る一国なのだが、現状は厳しいと言わざるを得ない。私たちの噂が広まり、かなり警戒されているのだ」

 建国は既存の国家のうち、三カ国の承認を得る必要がある。

「あ、その話なんだけど、エマレパ皇国が承認してくれるよ」
「は? な、なんだと!」
「王都の帰りにエマレパ皇国へ寄ったんだ。偶然キルス皇帝と知り合ってね。承認してくれることになったんだ」
「待て待て! 皇帝と知り合う? ど、どういうことだ?」

 珍しくシドが狼狽えている。
 レイ以外の全員も驚いていた。
 俺はファステルとの関係を所々省きながら説明。

「キルス皇帝陛下がご結婚された話は聞いたが、まさかファステル皇后がアルと知り合いだったなんてな」
「知り合いどころじゃないわよ? アルと皇后の関係性は、私とヴィクトリア、シドと帝国皇帝の関係以上よ」
「それは凄いな。では、建国はクリアというわけか。まったく……本当にアルは予想がつかないぞ。ハッハッハ」

 シドは呆れた表情を浮かべながら笑っていた。

「では次の議題だ。マルソル内海に竜種ルシウスが出現した」
「キルスから聞いたよ」
「そうか。こちらで調べたところ、すでに皇国で被害が出ている。このままだと皇国の沿岸部は壊滅するぞ」
「キルスに伝えなきゃ」
「ふむ。だが正直、皇国だけでは討伐は不可能だろう」
「ああ、それもキルスと話したよ。もしかしたら、俺たちに討伐の相談をするかもって」
「ふむ、分かった。恐らく依頼してくるだろう。アルもそのつもりで」
「了解」
「では次は飛空船だ。マルコ頼む」

 シドがトーマス兄弟の兄、マルコに視線を向けた。
 マルコは少し緊張した面持ちで立ち上がる。

「はい。飛空船は予定通りいけば二ヶ月後に完成します。これまでの常識を覆した乗り物で、言うなれば空飛ぶ宮殿です」
「宮殿?」

 俺は思わず声が出てしまった。

「はい、アルさんとレイ様、シドさんとオルフェリアさんの専用部屋はもちろん、個室や特級客室もあります。さらには会議室、食堂やキッチン、運動可能なスペースも備わっております」
「そ、そんなに! 大きさは?」
「はい、全長七十メデルトと史上最も大きな乗り物になります。そして何より、移動時間が驚くほど短縮されます」
「移動時間?」
「はい。動力の説明は省きますが、一度出航したら止まる必要がないので、昼夜問わず飛行可能です。そのため丸一日で二千キデルト以上進みます」
「え! 一日で二千キデルト! 嘘でしょ!」

 二千キデルトもの距離になると、馬で毎日移動しても四十日かかる。
 それをたった一日で移動できるなんて信じられない。

「移動時間が大幅に短縮される上に、移動中の自由度も上がります。移動中に事務、研究、勉強、食事、運動、睡眠など自宅と同じことができます。これは移動における革命です」

 マルコが少し誇らし気な表情となった。

「シドさんと弟アガス、そして工房の職人たち全員の技術の結晶です」

 レイも驚いた表情を浮かべている。

「凄いわね。今まで使っていた寝台荷車キャラバンも革新的だったけど、この飛空船は移動の概念を根本から変えるわ。まさに旅する宮殿ヴェルーユと言っても過言ではないわね」
「はい、レイ様の仰る通りです。」
「ところで、なぜマルコは私だけ敬称が違うの? 皆と同じじゃないの?」
「無理です。レイ様はレイ様です」
「もう!」

 全員が笑うと、レイは頬を膨らませていた。
 シドが手を挙げる。

「補足すると、移動中の懸念点は悪天候と空を飛ぶモンスターの襲撃だ。しかし、これもあまり心配する必要はないだろう。台風や大嵐でもない限り飛行は可能だ。それに、飛空船の素材はほとんどがヴェルギウスのものだし、飛空船全体をヴェルギウスから作った特殊素材でコーティングしている。モンスターは寄って来ないだろう」

 確かに旅の最中、ヴェルギウスの素材で作ったテントを張ると、モンスターは近寄って来なかった。
 マルコとシドの話から想像するに、本当にとんでもない乗り物になっているようだ。

「まあ、完成を楽しみにしていてくれ」

 シドが俺を見ながら不敵な笑みを浮かべていた。

「さあ。どんどん行くぞ。続いて建国の際に主張する領土だ」
「領土か……」

 領土について俺は全く関与しておらず、シドに任せっぱなしだった。

「我々の国家は特殊でな。そもそも国を立ち上げる理由は、軽い空気の採取と航空権利が目的だった。だから他国のように領土を広げ、国を繁栄させる目的はない。そのため国家として主張する土地は、このアフラの地で十分という結論にいたった。死守すべきはアフラ山で採れる軽い空気だ。これだけは何があっても手放さん」
「なるほど。じゃあ、国民を増やす必要もないんだ」
「うむ、そうだな。全く増やさないわけではないが、あまり意味がない。我々には莫大な収益があるため税収もいらんしな。むしろ、国民がいると様々な予算が必要になる」

 とはいえ、トーマス工房の職人を増やす必要はあるし、ある程度の兵力は必要だろう。
 それらは全て新国家の国民となる。
 トーマス工房の求人は、建造中の飛空船が完成したら募集予定だ。
 この飛空船は国家の技術の粋を集めたものになる。
 情報漏洩に細心の注意を払っているため、新規の募集を行っていない。
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