鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

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第十八章

第289話 クエストへ

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 その日の夜は、王城の自室で夕食を取る。
 メイドのエルザとマリンが用意してくれた。

 エルザはラルシュ王国のメイド長として、王国の全使用人を取り仕切る立場だ。
 地位としても相当高い。
 だが未だに俺たちの食事を作ってくれる。
 マリンは王室メイド部長として、俺やレイに関することを全て行う。
 俺たちが外交へ行く際は、マリンが必ず同行するという要職だ。

「レイ、明日からオルフェリアとクエストに行ってくる」
「シドから聞いたわ。あなたなら問題ないと思うけど、気をつけてね」
「うん。ありがとう」

 レイはその美しさを増し、世界で最も美しい王妃と呼ばれている。
 それと同時に、歴史上最も強い王妃とも呼ばれるが、基本的にレイは噂など一切気にしない。
 レイは王妃という立場ではあるが、もしかしたらラルシュ王国で最も忙しい人物かもしれない。
 俺としてはレイとまた世界を旅したいと思っているのだが、いつになることやら。
 そんなレイの顔を見つめていると、優しく微笑み返してくれた。

「アル。あのね、ちょっと不穏な動きがあるのよ」
「不穏?」
「ええ、犯罪組織がモンスターを狩っているという情報があるわ」
「モンスターを狩る……」
「ねえアル、覚えてる? あなたの初めての討伐を」
「もちろんだよ。霧大蝮ネーベルバイパーだ。そうか、あれも犯罪組織で捕獲した個体が逃げたって報告だったよね」
「ええそうよ。ネーベルバイパーの毒は麻薬になる。近年のモンスター活発化は、犯罪組織にとって都合がいいのよ」
「分かった。注意するよ」

 翌日の早朝、王宮内にある空港に集合。
 今回は俺とオルフェリアの二人だから旅する宮殿ヴェルーユは出さない。
 調査に向かない大きさだし、運行にはそれなりのコストがかかってしまう。
 そのため小型飛空船を使用する。

 竜種ヴェルギウスの素材を全てを使って、トーマス兄弟が俺のためにクエスト専用の小型飛空船を建造してくれた。
 さらに二年前に討伐した竜種ルシウスの素材もふんだんに使用している。
 乗員数は八人乗りの小型船シーノ級。
 旅する宮殿ヴェルーユに比べて遥かに小さいが、狩猟したモンスターの収納は問題なく可能だ。

「オルフェリアおはよう。今回はよろしく」
「はい。久しぶりの陛下とのクエストですから、とても楽しみにしていました」
「アハハ、ありがとう。俺もだよ」

 オルフェリアがラルシュ式の敬礼で出迎えてくれた。
 長く美しい黒髪、透き通るような白い肌、清楚で落ち着いた佇まいは未だに解体師と思えないほどだ。

 早朝にもかかわらず、何人もの仲間たちが見送りに来てくれた。
 シドが代表して前に立つ。

「オルフェリア、陛下の暴走には特に気をつけるんだぞ」
「ちょっとシド! 俺がいつ暴走したんだよ!」
「偵察で竜種を討伐したでしょう?」
「そ、それは……」

 笑っているオルフェリアの肩にレイが手を乗せる。

「二人とも気をつけてね。始祖が二柱いるから問題ないと思うけど」
「ウォン!」
「ヒヒィィン!」

 レイの言葉にエルウッドとヴァルディが応えた。
 俺の目の前ではマルコとアガスが敬礼している。

「陛下、整備は万全です!」
「ああ、ありがとうマルコ、アガス」

 俺が乗船する飛空船は、全てマルコとアガスのトーマス兄弟が整備を行っていた。
 兄マルコは運輸大臣として各国の空港建設まで指揮を執るし、アガスは巨大組織となったラルシュ工業の最高責任者として世界中を飛び回っている。
 それでもこうして俺のためだと整備を惜しまない。
 本当に心優しい仲間だ。

「じゃあ皆行ってくるよ。留守をよろしく」

 飛空船に乗り込み、一階の倉庫にヴァルディとエルウッドが待機。
 俺とオルフェリアは二階の操縦室へ入った。
 俺は飛空船の操作も覚えている。

 飛空船は世界共通の免許制度を取り入れたため、操縦するには訓練所で免許を取得する必要がある。
 俺とオルフェリアはその免許を取得していた。

 舵を握り、レバーを上昇に向ける。
 いよいよ出航だ。

「オルフェリア、部屋にいていいよ?」
「大丈夫です。私は離陸が一番好きなので見ていたいのです」

 船体が地上を離れ上昇していく。
 そして百メデルト程の上空で前進させた。

「さあ、出発だ」

 小型船では夜間飛行ができないので、夕方には停泊する必要がある。
 そのため、あらかじめ宿泊地点を決めていた。
 飛空船は順調に飛行し、日没前に今日のキャンプ地に到着。

「着陸する。オルフェリア、周囲を見てもらえるかな」
「はい」

 特に問題なかったので、俺は草原に船体を停留させた。

「ここでキャンプだ」
「夕食を作りますね。今日は黒森豚バクーシャのスペアリブと、アフラ湖で採れた黒鱗鮭シュラウトのパニーニです」
「やった! あれ好きなんだよ」

 船内には個室があるのでキャンプの準備は不要。
 そのまま飛空船内で宿泊する。
 船内のキッチンでオルフェリアが夕食を作ってくれた。
 キッチンにはテーブルとソファーがあり、そこで食事もできる。

「オルフェリアは久しぶりのクエストでしょ」
「ええ、最近は忙しかったですから。でもやはり楽しいですね。今の私があるのも、アルのクエストに同行したからです。あなたとのクエストが私の原点なんですよ」
「そ、そんなことないよ」

 クエストに出た時は、口調を素に戻すことにしている。
 現在のオルフェリアは、冒険者ギルドの研究機関シグ・セブン局長だ。
 世界的なモンスター学者として名を馳せ、解体師としても人気実力共に世界トップとして君臨している。

 シグ・セブン主宰のオルフェリアによる解体師セミナーは、毎回一瞬でチケットが売り切れ会場は超満員。
 そのため各国の学者たちは、様々な人脈を使ってどうにか席を確保しようとあの手この手で連絡してくる。
 なお、ジョージは大臣を引退して、アフラ湖で釣りをしながら余生を楽しんでいた。
 もちろん、モンスター学の権威であることは変わらない。
 オルフェリアと研究を進めたり、論文執筆を手伝っている。

「そういえばさ、モンスター狩りが行われてるってレイから聞いたよ」
「犯罪組織の話ですよね。研究機関シグ・セブンにも情報が来てます」

 夕食後、オルフェリアが珈琲を淹れてくれた。

「モンスターを生け捕りにしてるという噂です」
「生け捕りか。シドからはモンスターに不審な動きが見られるとしか聞いてないけどなあ」
「恐らくシドは分かってますよね」
「なるほど。それで俺を派遣したのか。犯罪組織の様子を見ておけってことかな。仮に遭遇したとして、俺ならどうとでもなるし」
「フフ、信頼されているんですよ」
「アハハ、そうだといいけどな」

 俺たちは夕食を取り、始祖の二柱にも食事を出してから就寝。
 二段式ベッドの部屋が四つあるので、俺とオルフェリアは別々の部屋だ。
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