鉱夫剣を持つ 〜ツルハシ振ってたら人類最強の肉体を手に入れていた〜

犬斗

文字の大きさ
365 / 414
最終章

第352話 捨て身の攻撃

しおりを挟む
 一旦旅する宮殿ヴェルーユを離れた鉤爪鷲竜アトルス
 上空で身体を反転させ大きく旋回。
 急降下で船体の横へ突進した。

「きゃっ!」
「グッ!」

 衝撃で揺れる旅する宮殿ヴェルーユ
 ローザとオルフェリアは足を滑らせ転倒。
 もし命綱がなければ、地上へ落下していただろう。

 ロープをつたい、手すりに捕まるオルフェリア。

「ローザ、知ってますか?」

 焦りと恐怖心を隠すかのように、ローザへ話しかけた。

「何をだ?」
「あの鉤爪鷲竜アトルスを投石で撃ち落とした冒険者がいるんです」
「な!」

 驚くローザ。
 こんな緊急時に冗談を言うオルフェリアではないし、そもそもオルフェリアが嘘をつくわけがない。
 そして、そんな非現実的なことをやってのける冒険者に心当たりがあった。

「そうだな。そんなことができる冒険者は一人しかいないだろう?」
「そうです。我らがアル陛下です。そして撃ち落としたアトルスの首を、一撃で斬り落としたのがレイ陛下です」
「ククク、我が君主は化け物だな」
「はい。その臣下である私たちも、負けてはいられません」
「そうだな」

 オルフェリアの表情が一層引き締まる。
 決意と覚悟を持った面持ちだ。

「ローザ、捨て身の攻撃で迎え撃ちます」
「分かった。アトルスが避けられないギリギリの距離まで引きつけよう」

 旅する宮殿ヴェルーユの周囲を旋回するアトルス。
 後部ハッチに向かって急降下を開始。

 二人は立ち上がり弓を構える。

「左目です!」
「右目だ!」

 猛スピードで迫るアトルスを限界まで引きつけ、矢を放つ二人。
 打ったあとのことは考えていない。
 まさに捨て身の攻撃だ。

 アトルスの猛烈な突進が二人を直撃。
 腰にくくりつけたロープが切れ、船内に大きく弾き飛ぶ。
 オルフェリアは壁に打ちつけられ、ローザは床に投げ出された。

「かはっ!」
「グホッ!」

 あまりの衝撃で吐血する二人。

 アトルスは突進の勢い余って、船内倉庫に乗り上げていた。
 その両目には一本ずつ矢が刺さっている。

「ギィィイイィィィィ!」

 光を失ったアトルスが咆哮を上げた。
 怒りなのか、痛みなのか分からない。
 船内で倒れた状態で巨大な翼を激しく羽ばたかせ、必死に立ち上がろうとしている。

「ロ、ローザ! 首を! 首を落としてください!」
「グッ! わ、分かった!」

 ローザは腰の長剣ロングソードを抜き、アトルスの首に振り下ろす。

「ギィィイイィィ!」

 白狂戦士ハイ・バーサーカーとはいえ、両目が見えない状態では逃げることもできない。
 ローザは一撃で首を落とせなかったものの、三撃目で胴体と頭部を切断した。

「レイのようには……いかないか。クッ! グホッ!」

 ローザは剣をその場に落とし、脇腹を抑えながら吐血。
 負傷した状態でもアトルスの首を落とせたのは、ローザ自身が打った剣を使用したからだ。
 世界最高の鍛冶師であるローザが、貴重なモンスター素材で打った剣。
 その切れ味を自ら証明した。

「で、でも、さすがです。白狂戦士ハイ・バーサーカーの首を……落とせるのですから」
「アルが採った素材で……作ったからな」

 激しい痛みに襲われながらも、討伐した安堵から笑顔を見せ、倉庫の床に座り込む二人。

「ローザさん! オルフェリアさん! 大丈夫ですか!」

 そこへ血相を変えたアガスが走ってきた。
 アトルスの襲撃が収まったことで、操縦をマルコに任せている。

「兄さん! ハッチを閉めて!」

 伝声管でマルコに指示を出す。
 すぐさまローザの元へ駆けつけ片膝をつく。

「ローザさん!」
「大きな声を出すな。ウグッ。だ、大丈夫だ」
「で、でも! 血が!」
「ゴホッ!」

 再度吐血するローザ。

「私が診ます」

 解体師だったオルフェリアは、人体の診察も可能だ。
 ローザの正面で膝をたたみ床に座る。

「肋骨が……ぐっ……五本折れています。ひとまず包帯を巻いて固定します。ベッドで安静にしてください。な、内臓も損傷していますので、帝都に帰還したら手術しましょう」

 診察したオルフェリアの顔も真っ青だ。

「お前だって……肋骨が折れてるだろう?」

 ローザに言われ、オルフェリアは自身の身体を触診した。

「私は……肋骨四本……ローザより軽症です。フフ」

 そんな二人を心配そうに見つめるアガス。

「ふ、二人とも重傷です! 部屋に運びますから、安静にしてください!」

 まずは怪我が重いローザを抱き上げる。

「グッ!」
「すみません。ローザさん。我慢してください! オルフェリアさん! すぐに戻ってきます!」

 ローザを抱きかかえたまま部屋へ向かうアガス。
 ローザに衝撃が伝わらないように、優しく慎重に、それでいて急いで歩く。

「フフ、アガスは意外と力があるのですね」

 その様子を見ながら、脇腹を抑えるオルフェリア。

「後でローザに麻酔を打たなきゃ。うっ!」

 全身を貫く痛みに耐えながら、ローザの心配をするオルフェリア。
 オルフェリアは解体師として、毒耐性を極限まで上げており、麻酔が効かない身体だった。
 だがそれは解体師として名誉なことだと考えている。

「ちょっと……今の状況では解体できそうに……ありませんね」

 痛みで呼吸も辛い状況の中、仕留めたアトルスに視線を向けた。

「でも……思わぬお土産が……できました。この白狂戦士ハイバーサーカーのアトルスは……研究に使えるかもしれません」

 脇腹を押さえたまま、床に倒れ込むオルフェリア。

「かはっ」

 吐血するオルフェリア。
 ローザには伝えなかったが、オルフェリアも内蔵を損傷している。

「実際にモンスターを討伐すると……アルとレイの凄さが……本当に分かりますね。フフ……」

 君主であり、親友であり、今や家族だと思っている二人のことを考えながら意識を失った。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

【収納∞】スキルがゴミだと追放された俺、実は次元収納に加えて“経験値貯蓄”も可能でした~追放先で出会ったもふもふスライムと伝説の竜を育成〜

あーる
ファンタジー
「役立たずの荷物持ちはもういらない」 貢献してきた勇者パーティーから、スキル【収納∞】を「大した量も入らないゴミスキル」だと誤解されたまま追放されたレント。 しかし、彼のスキルは文字通り『無限』の容量を持つ次元収納に加え、得た経験値を貯蓄し、仲間へ『分配』できる超チート能力だった! 失意の中、追放先の森で出会ったのは、もふもふで可愛いスライムの「プル」と、古代の祭壇で孵化した伝説の竜の幼体「リンド」。レントは隠していたスキルを解放し、唯一無二の仲間たちを最強へと育成することを決意する! 辺境の村を拠点に、薬草採取から魔物討伐まで、スキルを駆使して依頼をこなし、着実に経験値と信頼を稼いでいくレントたち。プルは多彩なスキルを覚え、リンドは驚異的な速度で成長を遂げる。 これは、ゴミスキルだと蔑まれた少年が、最強の仲間たちと共にどん底から成り上がり、やがて自分を捨てたパーティーや国に「もう遅い」と告げることになる、追放から始まる育成&ざまぁファンタジー!

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

追放された最強ヒーラーは、美少女令嬢たちとハーレム生活を送る ~公爵令嬢も義妹も幼馴染も俺のことを大好きらしいので一緒の風呂に入ります~

軽井広@北欧美少女 書籍化!
ファンタジー
白魔道師のクリスは、宮廷魔導師団の副団長として、王国の戦争での勝利に貢献してきた。だが、国王の非道な行いに批判的なクリスは、反逆の疑いをかけられ宮廷を追放されてしまう。 そんなクリスに与えられた国からの新たな命令は、逃亡した美少女公爵令嬢を捕らえ、処刑することだった。彼女は敵国との内通を疑われ、王太子との婚約を破棄されていた。だが、無実を訴える公爵令嬢のことを信じ、彼女を助けることに決めるクリス。 クリスは国のためではなく、自分のため、そして自分を頼る少女のために、自らの力を使うことにした。やがて、同じような境遇の少女たちを助け、クリスは彼女たちと暮らすことになる。 一方、クリスのいなくなった王国軍は、隣国との戦争に負けはじめた……。

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

処理中です...