情けない男の、たった一つ。

おにいちゃんです

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第一章 第一幕 「傀儡を追うは、少年少女」

第三十一話 「情けない奴」

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【17:13】

ここから、どうすっかな……?
こいつら三人の連携は中々にヤバい。動きを止めてくる虎、秋山のヤバさもそうだが、打ち上げる猫と合わせてやられると防御手段がほぼ失われる。そこにあのライオンが攻撃してくるんだ。
さっき喰らってみてわかった。奴は、攻撃する瞬間にのみ実体を持つんだ。実体を持たない存在は実体を持つ存在に攻撃できない。だが、逆も然りなんだ。
あの能力は、“実体のありなしを自由に切り替えられるライオンを出す”能力と考えればいいわけだ。
どいつも、一人一人ならなんとか勝てる。だが、複数で攻められると無理だ。どうにもならない。
しかし幸いにも、ライオンは今無力化されている。この状況を生かし、一人ずつ潰して……!

「おのれ、軟派者のくせによくやる……! だが次はこうはならないぞ、この浮気者め!」

……ん?こいつら今、俺の事浮気者って言ったか?
そんな、とりとめもない疑問だった。正直、放っておいても良かった事だ。
しかし気に留めないようにしても、妙に“それ”は残留する。そしてさっきから感じていた疑問どもを喰いながら、どんどんと肥大化していった。
なぜ、桐島と優子さんだけを攻撃しないようにしたのか。
奴らが研究所絡みならば、俺だけでなく桐島や優子さんを攻撃しない理由がない。しかし奴らは、徹底的にあの二人への攻撃を避けている。
もしかしたら、あの二人は俺の後ろでビクつきながら見ているだけなので戦えないと思っているのかもしれない。だから、戦える俺を先に止めてからあの二人を安全に始末したい。あるいは、そう考えての行動かもしれない。
だがならば、範囲攻撃でダメージさえ与える事すらしなかったのは何故だ? 別に攻撃したって、何ら問題は無いはずなのに。
……何か、おかしい。ギャグ的すぎやしないか? この戦いは。人間同士で殺し合っているんだぞ?
ギャグ的……いや、まさか。

「おい、お前ら!まさかとは思うが……
俺に嫉妬して殺しに来たって事は、無いよな?」
「馬鹿なことを言うなよ、お前!」

良……くはないな。良くはない。クラスメイトをぶっ潰すというのは、気が乗るものではない。だが、違和感は解消された。これで存分に……

「お前が原因だぞ、俺たちに押し付けようとするな!
桐島さんというものがありながら、相川さんに浮気したのが原因だろうが!」
「……はぁ?」

何言ってんだよこいつら、という話だ。
こんなことを言われる予想なんて、当然ながらしていない。そうだからか知らないが、思わず素っ頓狂な声が出てしまった。
しかし、言っている本人たちはかなりマジそうだ。いかにも自分たちが正義です、浮気者から彼女を救う英雄です、なんて顔をしている。
……雨、きつくなってきたな。こんな所でドンパチやってたら、お互い風邪引くぞ。
とりあえず能力は使えるようになったから、センサーで雨粒を探知しつつ能力でそいつらを互いにぶつけさせよう。
そうすれば、自分だけはそんなに濡れないでいられる。誰だってびしょ濡れで帰りたい訳じゃないからな。
そして多分この話の原因であろう桐島と優子さんの方を見てみると……呑気にお喋りを始める始末だ。しかもあいつら、二人とも折り畳み傘を持っていやがる。
俺は朝っぱらからクソ頑張ったせいで、傘どころかカッパも何も持っちゃいないっていうのに。

「浮気だと⁉︎ 元々誰と付き合っているわけでもない俺に、浮気だなんだと言い張るのか⁉︎」
「うるせー! お前桐島さんと付き合ってんだろー!」

そうだそうだ、と後ろの皆さんから大合唱が来る。何だこいつら、クソみたいな理由で勢揃いしやがって。暇か?暇なのか?

「付き合ってない訳ないだろ、あんなに仲睦まじくしておいて!」
「な……っ! バカかお前ら! 俺たちはいつも口喧嘩してただけなんだぞ⁉︎ 付き合っちゃいない事くらいわかるだろ!」
「付き合ってるようにしか見えねえよ、バーカ!」

……待てよ、待ってくれ。俺は学内で割と虐げられている立ち位置だと自覚していた。同学年と思われる生徒に話しかけてもいい反応を返してくれる奴はいなかったし、学内で話す友人なんていなかった。俺は殆ど一人だった。
それは、俺の能力が弱いからだと。そんな弱さにも関わらず推薦を受けてこの学校に入れたのは、おかしい事だからだと。そう、自分では認識していたつもりだった。
俺は今、馬鹿げた想像をしている。それはまるで、ラブコメディー漫画の主人公にでもなったつもりの想像だ。
決してそれを信じた訳じゃない。だが、さっき似たような事を言われたという事実は知っている。だから俺は、ほんの試しに。それを、聞いてみることにしたんだ。

「そんじゃあよ、俺が邪険に扱われていたのもそのせいなのか⁉︎嫉妬だけで、こんな風に扱われていたのか⁉︎」
「当たり前だろうが! いつもいつも桐島さんとイチャコラしやがって、この野郎!」
「羨ましいぞおい!」

……そうか。そうだよな。
今までの俺は、偏った知識で物を見てきたんだと思う。オタクだったから、能力を題材とした娯楽作品は目が慣れるほど見てきた。
そして、その中で行われる弱者への迫害もだ。
だが現実は違った。確かに似た行為もされたが、よく考えてみれば程度が全然違うじゃないか。
能力が弱いから嫌われるなんて道理はなかったし、あったとしても明確にそれを言葉にされた事なんてなかった。
だが俺は現実を過大解釈し、それと同等のように錯覚していただけなんだ。
つまるところ俺は、空想上に存在する欺瞞と現実を混同していた。だから、こういう誤認が起こったんだ。
ほとほと、俺は情けない男のようだな。

「前田のバカヤロー! 俺たちの純情を返せー!」

ああだめだ、それはそれとして完全に俺はアゥエーだ。こうなった男子というのは面倒な事この上ない。

「俺たちは、桐島さんを守るっ! 桐島さんの、お前への純情をな!」

おうおう、桐島へ飛び火したな! あいつ俺にはその事を知られたくないっぽいから、頑張って隠していたのになぁ!
思わず、口端がつり上がる。いかんいかん、とばかりにすぐさま顔を直したがな。流石に俺自身がにやついている所を見ると、桐島は再起不能になってしまうだろう。それは避けたい。
もう一度二人の方へ目を向けると、桐島がこっちに走ってくるのが見えた。折りたたみ傘が少々不安な動きをしているが、対照的に桐島の動きに迷いはないらしかった。向きは、完全な直線だ。
それはそれとして、優子さんがさっきの俺と違って表情を全く直そうとしないのは笑えるな。
さっきまで仲良くおしゃべりをしていたのに、急に本性を現したのか。“他人ひとの不幸は蜜の味”、てか? 女ってのは恐ろしいな、おい。

「俺たちは桐島さんのファンなんだよ、だから桐島さんの幸せを叶える!例えそれによって、自分たちの恋が失われようともな!」
「ちょっと待って、本当に待って! あんたたち何言ってんの⁉︎」

こいつがここまで焦るというのは、以外と新鮮だ。いい気分だと思うのは、俺が嫌な奴だからだろうか?

「くふっ……!」
「あぁ⁉︎」

おっと、思わず笑い声が漏れてしまった。あまりに滑稽なものなのでついつい笑ってしまっただけなのだが、桐島は俺に掴み掛かってくる。

「ふふ……! くっははははは! 何だよおい、このオチは! まるでギャグ漫画じゃねえかよ!」

もう止めるのは無駄だと悟り、思い切り笑い声を上げた。何かを察したのか、あるいは困惑したのかもしれないが、俺以外の全員が黙りこくる。そのおかげで、辺りには綺麗に俺の声だけが響いた。まるで、早朝に鳴く鳥のように。
……少し恥ずかしさもあるが、まあいいさ。
俺はとりあえず、この騒動を終わらせてやる事にした。
それらしい、笑える方法で。

「おい桐島ぁ! お前こいつらのことどう思う? 格好いいと思うか? 言ってやれよ!」
「おい……おい前田よせ、おい!」
「早まるなぁー! やめろぉー!」

制止する大合唱を尻目に、こいつらによってプライドを傷つけられた桐島が叫んだ。

「あ……あんたらなんか、大っ嫌い!」
『ぐぅあああああああっ!』

桐島からの、渾身の一言。当然彼らに効果がないわけが無く、さっきの奴ら含めた十人近くが同時に後ろへ倒れ込んでいった。
……まるで、ピンボールだな。
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