転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

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第1章

第23話 波乱の始まり

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 神歴1012年2月18日――レベランシア帝国、ブレナ邸。

「いや俺誘われてないんだけど?」

「誘われてないの!?」

 アリスは衝撃に両目を震わせた。

 時刻は午後一時三十七分。

 ブレナと二人で少し遅めの昼食を取っていた彼女は、想定していなかった返事の内容にこれ以上はないほど驚愕した。

「絶対ブレナさんもパーティに誘われてると思ってた。てゆーか、一番最初に声かけられてると思ったのに……なんか、ごめん」

「いや謝るな。よけい惨めになるわ。つーか、あの野郎……俺に内緒で俺の部下を勝手に引き抜こうとしやがって……。そんでなんで俺には声かけねえんだよ。少しは俺に対して、申し訳なさそうな感じ見せてたか?」

「ううん、ぜんぜん。断ったら、すんごいガッカリした顔してたけど。でも、しつこくは誘ってこなかった。じゃあ、しょうがないな、みたいな感じ。ブレナさんに対して申し訳なさそうとかは、全然まったくなかった。トレドさんらしいけど」

「らしすぎて腹立つわ……。まっ、どのみちあと少しで奴とも『お別れ』だ。名残惜しくもなんともないが、今までの功績にはちゃんと感謝はしないとな」

「すごい功績だったねー。何年もかかると思ってたことが、トレドさんのおかげで一か月もかからず達成できちゃったんだもん。感謝感激雨あられだよー。神様みたいにすごかった」

「いや俺でも後先考えず奴みたいに振舞えば、一か月もかからず達成できたんだよ。奴のやり方が功を奏したのは、とてつもなく幸運だったからにほかならない。俺のやり方だったら時間はかかったかもしれないが、おまえの両親がゲヘナ盗賊団に拉致られるようなこともなかった。なかったからな!」

「まだ言ってる……」

 やっぱり、トレドの誘いを断って正解だったとアリスは改めてそう思った。一人になったら、なんかもういろんな意味で寂しい状態になること請け合いである。

 アリスは深く嘆息した。

 と。

「そういや、ルナは?」

 訊かれて、アリスは即答した。

「買い物。トレドさんと一緒に。そろそろ、トレドさんの『お別れ会』に必要な物買い揃えないといけないから。二、三時間で帰ってくると思うよ」

「お別れ会!? お別れ会なんてやんの!?」

「やんないつもりだったの!?」

 アリスは再度、驚愕した。

 短い期間とはいえ、一緒に行動した仲間の――しかも、あれだけの功績を残した仲間の『お別れ会』を開かないつもりだったなんて、アリスには衝撃を通り越して驚愕だった。

 彼女はグーに握った両手をバッと頭上に上げて、

「ブレナさんは冷たいーっ! 薄情だーっ! ボス失格だーっ! 人間失格だーっ!」

「いや人間失格そこまで言うか……? つーか、本人の送別会に必要な物を本人と買いに行くってのもどうなんだ?」

「だって、プレゼントとか自分で選んでもらったほうが間違いがなくていい、ってルナが言うから……。あたしはサプライズで渡したかったんだけど……」

「……ああ、まあそこは意見が分かれるところだな。味気ない感じもするが、その方法なら相手が欲しいと望む物を確実に買ってやれる。ルナらしい考え方だ」

「でも、味気ないよーっ、あたしはサプライズで渡したかったぁーっ」 

「ちなみに、どんなの買って渡そうと思ってたんだ?」

「鬼の子クータン人形っ!」

「ルナのやり方で正解だったな」

「なんでー!? クータン人形だよ!? 一個三万ゴーロもするんだよ!?」

「たけぇな!? クソみたいな人形なのに、そんな値段すんのか!?」

「ぐなぁーっ、クソみたいじゃないーっ、可愛いーっ、男の子にだって大人気なんだからーっ!」

、にだろ……。プリティーキャット人形よりも、さらにもらって嬉しくないシロモンだぞ? まあ、どうでもいいが。それよか、俺もこれから出かける予定があるんだけど……おまえはどうする? ここにいるか?」

「うん、ここでみんなの帰り待ってるー。ブレナさんはなんか用事あるの?」

「ああ、ちょっと友達が帝都まで来ててな。会う約束してんだ。そんな遅くはならないと思う。二、三時間で戻るよ」

「ブレナさん、友達いたの!?」

「いるわ! 俺をなんだと思ってんだ!?」

「…………」

 アリスは三度みたび、驚愕した。三度目のこの驚きが、中でも一番の衝撃であったのは言うまでもない。彼女はしばらくのあいだ、開いた口を閉じられずにいた。

 数分後――。

 ようやくと我に返ったアリスが室内を見まわすと、すでにブレナの姿はそこにはなかった。つまりは退屈と戦う数時間が、彼女の元を訪れたということである。
 
 アリスは、バッグの中からプリティーキャットの人形とプリティードッグの人形を取り出した。

 いつも大事に部屋に――ガラス戸の中に飾っていたため、買ったときとほとんど変わらぬ綺麗な状態である。

(……ベルくんのプリティーキャット、傷だらけだったなぁ……。でも、それはそれでなんか味があって良かった)
 
 そのさまを脳裏に浮かべると――必然、その持ち主であるベルの姿も同様に脳裏の端にくっきりと浮かんだ。

(ベルくん、元気かなぁ……。どこに住んでるか訊かなかったから、会いにいけないよ……。失敗したなぁ……。せっかく友達になれたのに……)

 慌てていたとはいえ、とんだ失態である。

 ――今度、ルナに手伝ってもらって、彼の家を探してみよう。

 アリスがそう心に決めたのと、午後二時を知らせる柱時計の音が鳴ったのは奇しくも同じタイミングだった。

 最長で、あと三時間。

 夕方の五時過ぎまで何をして時間をつぶそうか。

 アリスは真剣に頭を悩ませたが――だが、このとき彼女はまだ知らない。

 最長で三時間というその見立てが、そもそも大きく間違っていたということを。

 波乱の数時間が、そうして静かに幕を開ける。
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