転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

文字の大きさ
25 / 112
第1章

第25話 トーマとチロの冒険 ④(この話以降、重大なネタバレが生じます。途中から読むタイプの方はご注意ください)

しおりを挟む
 神歴1010年、7月16日――ミレーニア大陸中央、ヘンフリックの町跡地。

「……なん、だ……これ?」

「……ひど。トーマ、町が死んじゃってるよ……」

 

 チロの言うとおり、この町はすでに死んでいる。

 文字どおり、

「小規模な町だったみたいだけど――でも、それでも死体の数は百や二百じゃきかないよ。何百人も……もしかしたら何千人もかも」

「腐敗はそんなに進んでないから、まだ死んで間もないな。いや、間もない」

「……うん」

 チロが、神妙な顔で頷く。

 そう、この町の住民は病気や事故で死んだのではない。。何者かの手によって。それは死体の様子を見れば一目瞭然だった。

「ほとんど全員、斬撃でやられてるね。魔法で殺されてるヒトは少ない。いないわけじゃないけど」

「刀身で斬りつければ、殺す感覚が手に残るからな。快楽殺人主義者だな。おそらくは殺すことが目的でヒトを殺してる」

「でも、これだけの数の人間を殺せるかな……? 滅茶苦茶強い快楽殺人主義者だったのかな……。まあ、一人とはかぎらないけど」

「イカれた野郎が徒党を組んでるってのか? それはそれでぞっとしない話だな」

「……まだ、分からないことだらけだね。とにかく、あの子を探そう。町の中にまだ、これをやった人間が残ってるかもしれないし」

「……ああ、そうだな」

 俺とチロは手分けして、緑髪の少女を探すことにした。
 
 ドゥーラ山脈のふもとで彼女に追いついてから、俺たちはこの町の入口までずっと彼女を護衛してきた。

 もっとも護衛と言っても、気づかれないような距離感を保って、ただ彼女の後ろをついて歩いてきただけだが。三度も無言で逃げられては、そうするよりほかなかった。

 だが、町の入口に着いたところで、四度よたびの逃走に遭う。

 この町の惨状に言葉を失っていたところ、間抜けにも気づかれ、スタタと逃げられてしまったのである。

 逃げ足の速さだけは超一級。というより、単純に足が滅茶苦茶速かった。とても十歳そこそこの少女とは思えないほど。俊足極まるランナーだった。

「けど、早く見つけてとっ捕まえないと。チロの言うとおり、これをやったイカレ野郎がまだ町の中にいるかも――」

「トーマ、こっち来てー! あのコ見つけたーっ!」

「……いや早いな、アイツ。もう見つけたのかよ。まあ、空飛べるんだから当然と言えば当然かもだけど……」

 いずれにしろ、これで一安心だ。

 俺は急ぎ、チロのもとへと向かった。

 大変だったのはでも、ここから先の数時間だった。


      ◇ ◆ ◇


「……いやなんか喋れって。何時間、黙ってるつもりだ?」

 石畳の地面に腰を下ろした状態で、俺は目の前に座る少女に言った。

 時刻は、午後八時三十分。

 辺りは完全に暗闇に包まれ、たき火を囲んでいなければ二メートル先も見えない状況だった。

「……心、閉ざしちゃってるのかな。まあ、無理もないよね。こんな地獄でひとり生き残っちゃったんだもん。ひとりかどうか、まだ分かんないけど」

 チロが、テキトーなことを言う。

 俺はもう一度、少女に向かって語りかけた。

「なあ、この町で何があったんだよ? これをやった人間は、もうこの町にはいないのか? 大丈夫なのか?」

「…………」

 返事はない。

 少女を保護してから、ちょうど五時間が経つ。この問いかけも、もうこれで十七回目だ。一声聞くだけで(まだ聞けてないが)、まさかこんなにも時間が必要だとは思わなかった。

 俺は奈落の底に巨大なため息を落とすと、数日前に入手した『束の間の飛翔イカロス・フェザー』のボールをサブのダブルにはめ込んだ。

 と。

「あっ、そのボール、レプも持ってる」

「いやこのタイミングで喋んのかよ!? なんでだよ!」

 喋った。

 なんの前触れもなく、突然喋った。俺はワケが分からなかった。

「喋ったんだからいいじゃん。マジックボールに、興味あるの?」

「マジックボールってなに? さっきのボール?」

「ああ、そうだ。今、はめ込んだのは『束の間の飛翔イカロス・フェザー』って言って、超絶レアなボールだ。おまえが持ってるのは、どんなボールだ?」

 なぜ急に喋りだしたのかはまったく分からないが、千載一遇の好機である。俺は彼女の興味に飛びついた。

「レプのボールはこれ。赤くてキレイなボール。レア?」

「……小火スモール・ファイアだ」

 チロが、ぼそりとつぶやく。

 俺も思わず、つぶやいてしまった。

「……ショボ」

「……むぅ」

 少女の顔が、ふくれっ面に変わる。

 俺は慌てて、話題を変えた。

「でも、なんで急に喋る気になったんだ? そんなに、俺のマジックボールが気になったのか?」

 訊くと、少女はブンブンと首を左右に振った。

 その流れのまま、言う。

「レプはずっと警戒してた。お兄ちゃんがアイツの仲間かもってずっと思ってた。でも、違うって分かった。観察の結果。レプは観察超得意」

 観察してたのか。とてもそんなふうには見えなかったが。

 いずれ。

「アイツってのは、この町をこんなふうにしたヤツのことか? まだこの町にいるのか?」

「もういない。どっか行った。突然やってきて、みんな殺して、突然いなくなった。レプのおじいちゃんも殺された。レプは悲しい……」

 そう言って、少女がうつむく。ほんの少し、目に涙が溜まっていた。

 チロが、言う。

「……そっか。オイラ、チロって言うんだ。元気出しなよ。これあげるから」

「……ボール? チロもボール持ってた?」

「うん、それは『火炎波浪ミドル・ファイア』って言うんだ。きみが持ってるボールのパワーアップバージョンだよ」

「おぉ……パワーアップバージョン……」

 受け取った少女の表情が、見る間に晴れる。プレゼント効果は、どうやら抜群だったらしい。

 俺は、その波に乗った。

「名前、なんて言うんだ? レプってのは愛称だろ? それとも、レプが名前?」

「レプはレプ。レプリア・ヴァンセン。でも、みんなレプって呼んでた」

「年は?」

「レプは昨日、九歳になった」

 少し誇らしげに、少女――レプが答える。

 最悪の中で迎えた誕生日だな、と俺は素直に思った。

 が、その最悪を持続させてはならない。

 俺はレプの頭をポンと叩くと、

「俺たちと一緒に来るか? このままここにいたって、最悪がずっと続くだけだ」

「行く。レプはお兄ちゃんとチロについていく。今、決めた。レプの決断は早い」

「そっか。んじゃ、出発しよう。この場所は長くいる場所じゃない」

 そう言って、立ち上がる。

 と、そこで俺は思い出したように、

「そうだ。俺の名前も教えとかないとな」

「あっ、ついに決めたんだ。なんて名前にしたの?」

 若干と驚いた様子でこちらを見たチロが、興味津々に訊く。

 俺はレプに視線を留めたまま、コクリと頷いた。

 決めた。

 そう、決めたのだ。
 
 新たな世界での、新たな名前が今、決まった。

 それは、始まりの号砲。

 俺はわざとらしく、そこで一拍溜めると――。

 それからゆっくりと、を乾いた空気に優雅に流した。

。ブレナ・ブレイクだ。よろしくな、レプ」

 トーマの――ブレナ・ブレイクの、新たな人生が始まる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~

志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」 この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。 父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。 ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。 今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。 その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

インターネットで異世界無双!?

kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。  その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。  これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。

神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。 神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...