転生したら誰もいないどころか何もなかったのでゼロから世界を造ってみた

kisaragi

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第3章

第59話 神都震撼

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 神歴1012年4月7日――ギルティス大陸南東、神都アスカラーム。

 午後3時32分――第一の塔ファースト・タワー1階、会議室。

 重くよどんだ空気が、これでもかとばかりに室内を席巻する。

 エルフレア・ストックホルム――エルは、周囲に集まる面々を見やって、

「もう聞き及んでいるとは思いますが――昨晩、六番隊の隊長シエラザード・シエスクが何者かの手によって殺害されました」

「…………」

 反応はない。

 居並ぶセブンズリード’、その誰からの反応もなかった。

 否――。

、ってことは、まだ犯人は誰だか分かってないのかい?」

 発したのは、五番隊隊長のミカエル。

 彼女はことさら大仰に両手を広げて、

「ナギ様の『神の目』が機能していなかった。つまりはそういうことなのかね?」

「別に取り立てて言うほどのことでもなかろう。ナギ様だって、常に『神の目』を通して大陸全土を監視されているわけではない。このギルティス大陸がどれほど広大か、貴様も理解しているはずだ。見逃すことなど多々ある。そのくらい、常識で考えれば分かるだろう?」

 二番隊隊長のジャックが、そう言ってミカエルの言葉をはねのける。

 エルはだが冷静に、ジャックの『勘違い』を訂正した。

「いえ、ジャック。それは違います。大陸全土となると、さすがに『漏れ』は発生するでしょうが、少なくても神都の中の出来事を見逃すことはありえません」

「つーと、そいつはつまりどういうことなんだ? 『神の目』で監視していたのにも関わらず、誰がシェラを殺ったかは分からねえ。矛盾してねぇか?」

 そう口を挟んだのは、最前列に座るディルス。

 一番隊の隊長である彼は、その熊のような大きな身体をかすかに揺らし、

「それとも、。そういうことなのか?」

「ええ、。犯行が行われた前後数分、そのあいだあの区画だけが監視できなかったとナギ様はおっしゃっています。理由は分かりません」

「分かりません、って……。ンなこと、今までに一度だってあったか?」

「ありません。わたしが知るかぎりは一度も。ですが、ナギ様がそうおっしゃったということはそれが事実。それ以上でもそれ以下でもない。詮索など論外です」

 エルはピシャリと言って、その話題にケリをつけた。

 そのまま、話の向きを本題とも言えるそれへと移行する。

「それよりも問題は、、です。彼女を殺すことができる人間というのは限られている。その最低ラインが、わたしを含めたセブンズリード以上の実力者。つまりはここにいる全員ということになります」

「暴論だけど、一理はあるかな。確かにシェラのあねさんをやれるのはここにいる面子以上の実力者に限られる。まあ、俺っちはあねさんより弱いから、俺っちには無理だけどね」

「そいつはどうだろうなぁ、バルト。おまえは不意を突くのが上手いからなぁ。正面からでなけりゃあ、シェラを殺れる力はある」

「いやいや、兄《にい》さん。姉さんはそうかんたんに不意をつける相手じゃないって」

「そうかぁ? ま、とりあえずはそういうことにしといてやるか」

 納得したような、しなかったような、よく分からない口ぶりでディルスが言う。

 と、彼のその言葉を最後に、再び、シンとした静寂が室内を包み込む。

 時間にして、数十秒。

 その短い静寂を破ったのは、またしてもミカエルのそれだった。

「エル、ちょっといいかい?」

「なんですか、ミカエル」

 エルは即座に反応した。

 受けたミカエルは、愉しそうに両目を細めて、

「さっきからさ、そこのヤンママが無言であたしのことずっと睨んでるんだよね。射殺すくらいの勢いでさ。あー怖い怖い。あたしが殺ったとでも、勘違いしてるのかねー」

「リア、まだミカエルが殺ったと決まったわけではありません。殺気を抑えなさい」

「いやいやエル、その言い方はないんじゃない? 第一候補、みたいに聞こえるんだけど」

「貴様が第一候補なのは間違いあるまい。シェラを快く思っていなかったのは貴様くらいだろう? 貴様と違い、彼女は部下にも慕われていた」

「あたしが部下に慕われてないみたいな言い方はやめてもらいたいね。五番隊の秩序は完璧さ。わずかな綻びさえもない」

あねさん、怖いからねー。恐怖で縛りつければ、そりゃパッと見、統制されてるようには見える――」

「それ、あんたにだけは言われたくないんだけどねー。あたしからすりゃ、あんたが一番怪しく思えるよ。なあ、バルト?」

 …………。

 エルは短く一度、浅い息を吐いた。

 ため息。

 でも、それは直近の醜悪なグダグダに対して落としたそれではなかった。

(……シェラ)

 同じ町の、同じエリアで育った幼なじみ。

 親友であり、同時に可愛い妹分でもあった。

 誰よりも正義感が強く、誰よりもまっすぐで、そうして誰よりも……。

 エルはもう一度、今度は深く長い息を吐くと――両の瞳に青い炎を宿して、胸中に烈火の言葉を吐き落とした。

(……絶対に許さない! 誰であろうと、必ず報いは受けさせる! ズタズタに引き裂いて、神都のド真ん中にさらしてやる!!)

 マグマを孕んだ激動の夜が、爆発はじまり瞬間ときを今かいまかと待っている。


      ◇ ◆ ◇


 同日、午後6時15分――第三の塔サード・タワー十階、リアの部屋。

「外出禁止令?」

 ルナはおうむ返しに訊いた。

 覚悟の瞳でソファを立ち上がったリアが、強く頷き、答える。

「今回の件が片づくまで、夜間の外出は禁止。聖堂騎士団以外の人間は、夕方五時から朝の九時までのあいだ、家の外に出ることはできない」

「……リアさんたちは?」

「あたしたちはシェラさんを殺った犯人を捜索する。犯人の狙いがセブンズリードや聖堂騎士団なら、また同じ犯行を繰り返す可能性が高いから。仲間内にいるかもしれないけど」

 そう言って、リアが視線を鋭く変える。

 彼女はその視線のまま、こちらの顔を見やると、

「あんたにも、手伝ってもらいたい。シェラさんを殺ったヤツの息の根を、確実に止めたいから。手伝ってくれる?」

「もちろんです! わたしも、シェラさんの仇を討ちたいです! お供します!」

 ルナは半瞬の迷いなく、そう答えた。

 部屋で待っていろ、とそう言われると思ったのだ。

 リアが自分を頼ってくれた、それがルナにはたまらなく嬉しかった。

 それに、これでシェラの仇を取れる機会も得た。

 彼女との付き合いは短く、リアやほかのセブンズリードと同じ心境であるとは口が裂けても言えないが――シェラをあんな目に遭わせた(殺すだけじゃなく、あんな惨たらしい仕打ちまでした)犯人を許せない、という気持ちは強くあった。

 ルナは、右の拳をギュッと握った。

 と、近くで一人遊びをしていたトッドに、リアが言う。

「トッド、一人でお留守番できるよね?」

「できるー!」

 元気よく返事して、トッドがリアに抱きつく。

 リアはトッドの頭を軽く撫でると、

「うん、良いコ」

 そう言って、彼の身体を優しく引き離した。

 そのまま、鋭い口調で言う。

「もし見つけたら、出し惜しみなしで最初から全力。電光石火でケリをつけるよ」

「はい、了解です!」

 ルナは、力強い口調で応じた。

 長く激しい夜が、静かにゆっくりと幕を開ける。
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