105 / 112
最終章
第103話 悪鬼羅刹
しおりを挟む
神歴1012年、6月10日――ミレーニア大陸中部、ラドン村。
午前9時9分――ラドン村北西部、森林地帯。
「……ハ、イン? な、んで……?」
ノエルの、かすれたような声が弱々しく響く。
ルナは何もできずにただ、その『光景』を茫然と見つめることしかできなかった。
「なんで? 理由は今、説明したと思うが。言い回しが分かりづらかったか? ならシンプルに言い直そう。用済みになったから。それだけさ」
言葉の終わりに、ノエルの左胸からスッと『剣』が抜かれる。
彼女はそのまま、力なく土の地面にくずおれた。
もう二度と、そうして立ち上がることはなかった。
「まったく。オレが授けた能力も使わずに、何をちんたら遊んでたんだか。この段になって一人も削れてないなんて、そりゃオレがいかに温厚だろうと、こういう結果になってしかるべきだろうよ。まっ、ナミ様と合流されてたらもっと面倒くさいことになってたから、結果オーライではあったがな」
男が、言う。
動かなくなったノエルの身体を冷めたまなこで見下ろしながら、男が言う。
何もない空間から突如として現れた、フード付き黒マントを頭からかぶった男が言う。
ルナは、ぞっと背筋を凍らせた。
「……あんた、何者!? もしかして、ブレナが言ってた……」
隣のセーナが、警戒度を最大限に上げたような語調で発する。
受けた男は、下卑た笑みをニヤリとやって、
「ああ、そうだ――って、即答したいとこだが、これで違ってたら恥ずいよなぁ。まあでも、たぶんそうだと思うぜ? ルドン森林で会ったイケボの男ってんなら、間違いなくオレのことだ。なんて言ってた?」
「不気味な糞マント野郎って言ってたね」
吐き捨てるように、リア。
フードの男は、クックと笑った。
「おいおい、ひでぇなぁー。そいつはさすがに傷つくぜ。オレはこう見えてナイーブなんだ。繊細って言い換えてもいい。んで、そんなナイーブなオレから、おたくらにひとつ提案があるんだが……」
「…………」
提案。
男はそう言って、たんたんと――本当にたんたんとした口調で、その先を続けた。
「『降参』しちゃくれねぇか? 月並みな言い方で申し訳ないんだが、降参するなら命だけは助けてやれる。ああそういう言い方すると、また勘違いされちまうな。命は助けるけど、ダルマにするよ?とかそんな外道なことはもちろん言わない。二、三日眠ってもらう程度のダメージで済ますよ。だから安心して、降参してくれ」
「そんなこと言われて、『じゃあ、降参します』なんて言うと思う? あ、これも月並みな返しか」
と、セーナ。
彼女はそのまま、流れるようにダブルを構えた。
ルナも慌てて、それに倣う。リアはとっくに、戦闘態勢を取っていた。
「おいおい、マジかい? こんだけ言っても、戦うつもりなのか。そいつはまともな判断じゃないぜ」
「うっさい。さっさと構えろ。構えなくても、こっちは容赦しないけどね」
「……やれやれ。ちっさい身体で、威勢のいい嬢ちゃんだなぁ。ひょっとしてだが、コイツを見たあとでもその威勢ってのは維持されんのか? だとしたら、オレは心底おたくを尊敬するぜ」
そう言うと。
若干秒の間を置いて。
男は。
男はマントの中から『何か』を取り出し、それをこちら側へとポトリと投げた。
ディルス・ロンドの、生首だった。
◇ ◆ ◇
同日、午前9時15分――ラドン村北西部、森林地帯。
「…………え」
緩やかに吹いていた風が、その瞬間にパタリと止む。
周囲の空気がまたたくうちに凍りついていくのを、ルナはまざまざと感じた。
「……ディ、ル……? え……嘘、でしょ……?」
セーナが、茫然自失の体でつぶやく。
リアはルナ同様、言葉を発することさえできないようだった。
「……ちょっと、なにつまんない冗談かましてんのよ? そんなの笑えないって。ねえ、ディル……」
ヨロヨロとした足取りで、セーナが『首だけ』となったディルスのもとへと歩み寄る。
彼女の顔は蒼白だった。
幽霊でも――否、絶対にそこに存在するはずのないもの、それを目の当たりにしたかのような表情。
しばらくのあいだ、彼女はそんな表情で呆けていたが――やがて、だが散っていた感情の全てが唐突に戻ってきたかのように、両目をカッと見開き、
「あんたが、こんな奴に負けるわけないじゃない! セブンズリード最強のあんたがこんなキショイマント野郎になんて、負けるはずないじゃない!! あんたは誰にも負けない!! 負けて、こんな姿になんてぜったいならない!!」
「ああ、確かに強かったよ。オレが今まで戦った中で、間違いなく最強。倒すまでに二分近くもかかったうえ、二度も身体を傷つけられちまった。三度だったかな?」
フードの男が、そう言ってわざとらしく小首を傾げる。
刹那、ルナの背筋はゾッと震えた。
「……ざけんな」
抑えた、抑えに抑えた、限界まで抑えた不気味なほどに静かな声音。
背筋を凍らすセーナの気配は、その直後に爆発した。
「ざっけんなッ、テメェェェーーーーーーーッ!!」
「――――っ!」
爆発。
文字通りの爆発。
限界まで抑えていた『怒』の感情を一気に爆発させると、セーナは真一文字に男へと迫った。
限界を超えたスピード。
身体の負担などいっさい無視した、それは狂気のスピードだった。
が。
グシャ。
「……か、はッ」
めり込むような拳の一撃が、セーナの腹部に突き刺さる。
完璧なタイミングで放たれた、カウンターの左ストレート。
喰らったセーナの身体は、一瞬間で、ピンポン玉のようにはるか後方へと弾け飛んだ。
その間、わずかゼロコンマ数秒。
ルナは茫然自失となるほかなかった。
「……いや、遅すぎだろ? ディルスはその倍速かったぜ。同じセブンズリードでもここまで差があるもんなんだな。ガッカリだ」
「セーナ姉っ!」
男の言葉と、リアの叫びが重なる。
リアはそのまま、脱兎の勢いで飛ばされたセーナのもとへと駆け寄った。
ハッと我に返ったルナも、慌てて彼女のあとを追う。
と、一足先にセーナのかたわらへとたどり着いたリアは、そっと彼女の身体を抱き起こし――だが。
「セーナ……姉……?」
「リア、さん……?」
リアの反応に、知らず鼓動が高鳴る。
ルナは恐る恐る、リアの後ろからセーナの様子を覗き見た。
と。
「――――っ!?」
瞬間、ルナの身体に電流が走った。
瀕死。
一見で分かる。
薄目を開けたまま、セーナの身体はピクリとも動いていない。
半開きになった口と左の鼻孔から流れ出る血液が、危険な状態であることを如実に物語っていた。
「ん、なんだその反応? まさか死んじゃいないよな? 軽く小突いただけだぞ?」
離れた位置から、男が言う。
彼はジトリと細めた両目で、こちらの様子を見やると、
「……おいおい、いくらなんでも紙装甲すぎるだろ? まいったね、こりゃ。もしかして本当に殺っちまったのか? まあでも、まだ二人残ってるし、最悪どっちか一人でも生かしておけば――」
「……ルナ」
男の言葉を遮るように、リアがボソリと言う。
ルナはごくりと唾を飲み込んだ。
鬼気迫る表情。
その表情のまま。
リアは覚悟のまなこで立ち上がると、そのまま有無を言わさぬ口調で言った。
「……あんたが逃げる時間は、あたしが命に代えても稼ぐ。だから……だからあんただけは絶対に生き延びて」
「…………」
ルナは、でも何もできなかった。
リアと一緒に戦うことも、リアを見捨てて逃げることもできなかった。
その場に立ち尽くしたまま、ただの一歩も動けなかった。
本能で、彼女は理解していたのだ。
どちらの選択もまったく無意味であると。
どす黒い闇が、ルナの心を絶望的なまでに覆い尽くす。
ただひたすらに。
ただひたすらに、怖かった。
◇ ◆ ◇
同日、午前9時20分――ラドン村、宿屋前の広場。
ブレナは、感嘆の息を吐いた。
ナギとナミ。
二人の高次元の戦いに、ただただ感心する。
思っていた以上に、二人とも強い。
もしも二人同時にかかってこられたら、ねじ伏せられる確信は持てなかった。
(……ま、そんな状況に陥るってのは万にひとつもなさそうだが)
二人はどこまで行っても敵同士なのだと、今さらながら理解する。
千年前の二人にはもう、戻れないのだと――。
(とまれ、戦闘力はほぼ互角。それでもナギのほうが優勢に進めているのは、経験の差だろうな。ナギのほうが圧倒的に経験値で勝る)
おそらくは相当な修羅場を潜ってきたのだろう。
どういった経緯からそのような境遇となったのか?
戦いが趣味となるような、そんな野蛮な子ではなかったはずなのだが。
いずれ。
(……このままいけば、間違いなくナギが勝つ。長い戦いになるかもしれないが、二人が二人だけで戦い続けるかぎり、その結果は揺るがない)
二人が、二人だけで戦い続けるかぎり――。
(……でも、なんだ? なぜかそうはならないような気がする。この感覚は、この正体不明の『胸騒ぎ』と何か関係があるのか?)
分からない。
分からないが、刻一刻とその感覚は強くなってきている。
ブレナはその不安を振り払うように、大きく一度、首を左右に振った。
と、そのときだった。
「――――っ!?」
ナギの猛攻に、ナミがほんの一瞬バランスを崩す。
その一瞬のよろめきを見逃すほど、ナギは未熟ではなかった。
「氷の豪雨」
言葉と共に。
即座に魔法モードに切り替えられたナギのダブル――『ビアンコ』の柄の先から、氷の豪雨が降り注ぐ。
ナミはバランスを崩しながらもなんとかその攻撃をかわしたが、ナギの追撃は無論のこと雷電だった。
疾風怒濤の連撃。
体幹を乱したままのナミに、復旧のいとまを与えない。
あっという間に防戦一方となったナミは、堪えきれずに、やがて地面に無様に尻餅をついた。
ナギの瞳に、勝機が宿る。
彼はいっさいの躊躇なく、一心不乱にナミの身体を目指すと、刀身モードのダブルを振り上げ――そうして。
ザクッ。
飛び散った鮮血と共に、土の地面にガクリと両膝をついた。
「おっと、コイツは思わぬ幸運だ。隙だらけの背中に一刺し入れられるなんて、偉大なナギ様相手にこんな幸運は二度とは訪れないだろうぜ」
胸騒ぎの正体が、憚ることなく視線の先に現出する。
午前9時9分――ラドン村北西部、森林地帯。
「……ハ、イン? な、んで……?」
ノエルの、かすれたような声が弱々しく響く。
ルナは何もできずにただ、その『光景』を茫然と見つめることしかできなかった。
「なんで? 理由は今、説明したと思うが。言い回しが分かりづらかったか? ならシンプルに言い直そう。用済みになったから。それだけさ」
言葉の終わりに、ノエルの左胸からスッと『剣』が抜かれる。
彼女はそのまま、力なく土の地面にくずおれた。
もう二度と、そうして立ち上がることはなかった。
「まったく。オレが授けた能力も使わずに、何をちんたら遊んでたんだか。この段になって一人も削れてないなんて、そりゃオレがいかに温厚だろうと、こういう結果になってしかるべきだろうよ。まっ、ナミ様と合流されてたらもっと面倒くさいことになってたから、結果オーライではあったがな」
男が、言う。
動かなくなったノエルの身体を冷めたまなこで見下ろしながら、男が言う。
何もない空間から突如として現れた、フード付き黒マントを頭からかぶった男が言う。
ルナは、ぞっと背筋を凍らせた。
「……あんた、何者!? もしかして、ブレナが言ってた……」
隣のセーナが、警戒度を最大限に上げたような語調で発する。
受けた男は、下卑た笑みをニヤリとやって、
「ああ、そうだ――って、即答したいとこだが、これで違ってたら恥ずいよなぁ。まあでも、たぶんそうだと思うぜ? ルドン森林で会ったイケボの男ってんなら、間違いなくオレのことだ。なんて言ってた?」
「不気味な糞マント野郎って言ってたね」
吐き捨てるように、リア。
フードの男は、クックと笑った。
「おいおい、ひでぇなぁー。そいつはさすがに傷つくぜ。オレはこう見えてナイーブなんだ。繊細って言い換えてもいい。んで、そんなナイーブなオレから、おたくらにひとつ提案があるんだが……」
「…………」
提案。
男はそう言って、たんたんと――本当にたんたんとした口調で、その先を続けた。
「『降参』しちゃくれねぇか? 月並みな言い方で申し訳ないんだが、降参するなら命だけは助けてやれる。ああそういう言い方すると、また勘違いされちまうな。命は助けるけど、ダルマにするよ?とかそんな外道なことはもちろん言わない。二、三日眠ってもらう程度のダメージで済ますよ。だから安心して、降参してくれ」
「そんなこと言われて、『じゃあ、降参します』なんて言うと思う? あ、これも月並みな返しか」
と、セーナ。
彼女はそのまま、流れるようにダブルを構えた。
ルナも慌てて、それに倣う。リアはとっくに、戦闘態勢を取っていた。
「おいおい、マジかい? こんだけ言っても、戦うつもりなのか。そいつはまともな判断じゃないぜ」
「うっさい。さっさと構えろ。構えなくても、こっちは容赦しないけどね」
「……やれやれ。ちっさい身体で、威勢のいい嬢ちゃんだなぁ。ひょっとしてだが、コイツを見たあとでもその威勢ってのは維持されんのか? だとしたら、オレは心底おたくを尊敬するぜ」
そう言うと。
若干秒の間を置いて。
男は。
男はマントの中から『何か』を取り出し、それをこちら側へとポトリと投げた。
ディルス・ロンドの、生首だった。
◇ ◆ ◇
同日、午前9時15分――ラドン村北西部、森林地帯。
「…………え」
緩やかに吹いていた風が、その瞬間にパタリと止む。
周囲の空気がまたたくうちに凍りついていくのを、ルナはまざまざと感じた。
「……ディ、ル……? え……嘘、でしょ……?」
セーナが、茫然自失の体でつぶやく。
リアはルナ同様、言葉を発することさえできないようだった。
「……ちょっと、なにつまんない冗談かましてんのよ? そんなの笑えないって。ねえ、ディル……」
ヨロヨロとした足取りで、セーナが『首だけ』となったディルスのもとへと歩み寄る。
彼女の顔は蒼白だった。
幽霊でも――否、絶対にそこに存在するはずのないもの、それを目の当たりにしたかのような表情。
しばらくのあいだ、彼女はそんな表情で呆けていたが――やがて、だが散っていた感情の全てが唐突に戻ってきたかのように、両目をカッと見開き、
「あんたが、こんな奴に負けるわけないじゃない! セブンズリード最強のあんたがこんなキショイマント野郎になんて、負けるはずないじゃない!! あんたは誰にも負けない!! 負けて、こんな姿になんてぜったいならない!!」
「ああ、確かに強かったよ。オレが今まで戦った中で、間違いなく最強。倒すまでに二分近くもかかったうえ、二度も身体を傷つけられちまった。三度だったかな?」
フードの男が、そう言ってわざとらしく小首を傾げる。
刹那、ルナの背筋はゾッと震えた。
「……ざけんな」
抑えた、抑えに抑えた、限界まで抑えた不気味なほどに静かな声音。
背筋を凍らすセーナの気配は、その直後に爆発した。
「ざっけんなッ、テメェェェーーーーーーーッ!!」
「――――っ!」
爆発。
文字通りの爆発。
限界まで抑えていた『怒』の感情を一気に爆発させると、セーナは真一文字に男へと迫った。
限界を超えたスピード。
身体の負担などいっさい無視した、それは狂気のスピードだった。
が。
グシャ。
「……か、はッ」
めり込むような拳の一撃が、セーナの腹部に突き刺さる。
完璧なタイミングで放たれた、カウンターの左ストレート。
喰らったセーナの身体は、一瞬間で、ピンポン玉のようにはるか後方へと弾け飛んだ。
その間、わずかゼロコンマ数秒。
ルナは茫然自失となるほかなかった。
「……いや、遅すぎだろ? ディルスはその倍速かったぜ。同じセブンズリードでもここまで差があるもんなんだな。ガッカリだ」
「セーナ姉っ!」
男の言葉と、リアの叫びが重なる。
リアはそのまま、脱兎の勢いで飛ばされたセーナのもとへと駆け寄った。
ハッと我に返ったルナも、慌てて彼女のあとを追う。
と、一足先にセーナのかたわらへとたどり着いたリアは、そっと彼女の身体を抱き起こし――だが。
「セーナ……姉……?」
「リア、さん……?」
リアの反応に、知らず鼓動が高鳴る。
ルナは恐る恐る、リアの後ろからセーナの様子を覗き見た。
と。
「――――っ!?」
瞬間、ルナの身体に電流が走った。
瀕死。
一見で分かる。
薄目を開けたまま、セーナの身体はピクリとも動いていない。
半開きになった口と左の鼻孔から流れ出る血液が、危険な状態であることを如実に物語っていた。
「ん、なんだその反応? まさか死んじゃいないよな? 軽く小突いただけだぞ?」
離れた位置から、男が言う。
彼はジトリと細めた両目で、こちらの様子を見やると、
「……おいおい、いくらなんでも紙装甲すぎるだろ? まいったね、こりゃ。もしかして本当に殺っちまったのか? まあでも、まだ二人残ってるし、最悪どっちか一人でも生かしておけば――」
「……ルナ」
男の言葉を遮るように、リアがボソリと言う。
ルナはごくりと唾を飲み込んだ。
鬼気迫る表情。
その表情のまま。
リアは覚悟のまなこで立ち上がると、そのまま有無を言わさぬ口調で言った。
「……あんたが逃げる時間は、あたしが命に代えても稼ぐ。だから……だからあんただけは絶対に生き延びて」
「…………」
ルナは、でも何もできなかった。
リアと一緒に戦うことも、リアを見捨てて逃げることもできなかった。
その場に立ち尽くしたまま、ただの一歩も動けなかった。
本能で、彼女は理解していたのだ。
どちらの選択もまったく無意味であると。
どす黒い闇が、ルナの心を絶望的なまでに覆い尽くす。
ただひたすらに。
ただひたすらに、怖かった。
◇ ◆ ◇
同日、午前9時20分――ラドン村、宿屋前の広場。
ブレナは、感嘆の息を吐いた。
ナギとナミ。
二人の高次元の戦いに、ただただ感心する。
思っていた以上に、二人とも強い。
もしも二人同時にかかってこられたら、ねじ伏せられる確信は持てなかった。
(……ま、そんな状況に陥るってのは万にひとつもなさそうだが)
二人はどこまで行っても敵同士なのだと、今さらながら理解する。
千年前の二人にはもう、戻れないのだと――。
(とまれ、戦闘力はほぼ互角。それでもナギのほうが優勢に進めているのは、経験の差だろうな。ナギのほうが圧倒的に経験値で勝る)
おそらくは相当な修羅場を潜ってきたのだろう。
どういった経緯からそのような境遇となったのか?
戦いが趣味となるような、そんな野蛮な子ではなかったはずなのだが。
いずれ。
(……このままいけば、間違いなくナギが勝つ。長い戦いになるかもしれないが、二人が二人だけで戦い続けるかぎり、その結果は揺るがない)
二人が、二人だけで戦い続けるかぎり――。
(……でも、なんだ? なぜかそうはならないような気がする。この感覚は、この正体不明の『胸騒ぎ』と何か関係があるのか?)
分からない。
分からないが、刻一刻とその感覚は強くなってきている。
ブレナはその不安を振り払うように、大きく一度、首を左右に振った。
と、そのときだった。
「――――っ!?」
ナギの猛攻に、ナミがほんの一瞬バランスを崩す。
その一瞬のよろめきを見逃すほど、ナギは未熟ではなかった。
「氷の豪雨」
言葉と共に。
即座に魔法モードに切り替えられたナギのダブル――『ビアンコ』の柄の先から、氷の豪雨が降り注ぐ。
ナミはバランスを崩しながらもなんとかその攻撃をかわしたが、ナギの追撃は無論のこと雷電だった。
疾風怒濤の連撃。
体幹を乱したままのナミに、復旧のいとまを与えない。
あっという間に防戦一方となったナミは、堪えきれずに、やがて地面に無様に尻餅をついた。
ナギの瞳に、勝機が宿る。
彼はいっさいの躊躇なく、一心不乱にナミの身体を目指すと、刀身モードのダブルを振り上げ――そうして。
ザクッ。
飛び散った鮮血と共に、土の地面にガクリと両膝をついた。
「おっと、コイツは思わぬ幸運だ。隙だらけの背中に一刺し入れられるなんて、偉大なナギ様相手にこんな幸運は二度とは訪れないだろうぜ」
胸騒ぎの正体が、憚ることなく視線の先に現出する。
0
あなたにおすすめの小説
お前には才能が無いと言われて公爵家から追放された俺は、前世が最強職【奪盗術師】だったことを思い出す ~今さら謝られても、もう遅い~
志鷹 志紀
ファンタジー
「お前には才能がない」
この俺アルカは、父にそう言われて、公爵家から追放された。
父からは無能と蔑まれ、兄からは酷いいじめを受ける日々。
ようやくそんな日々と別れられ、少しばかり嬉しいが……これからどうしようか。
今後の不安に悩んでいると、突如として俺の脳内に記憶が流れた。
その時、前世が最強の【奪盗術師】だったことを思い出したのだ。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。
久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。
事故は、予想外に起こる。
そして、異世界転移? 転生も。
気がつけば、見たことのない森。
「おーい」
と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。
その時どう行動するのか。
また、その先は……。
初期は、サバイバル。
その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。
有名になって、王都へ。
日本人の常識で突き進む。
そんな感じで、進みます。
ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。
異世界側では、少し非常識かもしれない。
面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由
瀬乃一空
ファンタジー
普通の闇バイトだと思って気軽に応募したところ俺は某国の傭兵部隊に入れられた。しかし、ちょっとした俺のミスから呆気なく仲間7人とともに爆死。気が付くと目の前に神様が……。
神様は俺を異世界転生させる代わりに「罪業の柩」なるものを探すよう命じる。鑑定スキルや修復スキル、イケメン、その他を与えられることを条件に取りあえず承諾したものの、どうしたらよいか分からず、転生した途端、途方にくれるエルン。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる